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<概要>
 ルーマニアは、社会主義体制としてチャウシェスク独裁政権を経験し、かつ、1989年に東欧の民主化にとってドラスティックな口火を切った。経済面から見れば、石炭・石油・天然ガスをはじめ、鉄鉱石・非鉄鉱石等に恵まれている。1980年代以降、資金不足のため十分な開発投資が行われなかったことと、旧政権時代のエネルギー超過生産による既設油田・ガス田の枯渇、経済情勢の悪化による石炭需要の不振などもあり、エネルギー資源生産量は急激に落ち込んでいる。
 なお、ルーマニアは中東欧諸国では比較的早くからEU加盟へのプロセスが始まった。2007年1月にはEUに加盟し、2007年7月から電力市場の完全自由化が始まっている。バルカン半島地域においては先進的電力市場を持つ国となっている。
 また、ルーマニアのエネルギー戦略には、二酸化炭素排出量の削減に向け、発電設備の約30%を占める老朽化した石炭火力設備の改修と閉鎖計画を進め、再生可能エネルギー(風力・バイオマス・太陽光)の利用の促進、揚水発電の開発及びチェルナボーダ原子力発電所3・4号の新規建設が含まれる。
<更新年月>
2013年01月   

<本文>
1.国情
 ルーマニアはバルカン半島の北側(北緯44度〜48度)に位置し、中東欧諸国ではポーランドに次ぐ面積を有する。国境東側をモルドバ・黒海、南側をブルガリア、西側をハンガリー、北側をウクライナに接しており、ブルガリアとの国境に沿って欧州最大のドナウ川が流れている。国土の中央にはカルパチア山脈が湾曲して存在し、山脈に囲まれた北西側のトランシルバニア地方は海抜400〜600mの台地である。カルパチア山脈とドナウ川の間のルーマニア平野は肥沃な穀倉地帯である。
 また、中欧に特有な四季のある大陸性気候をもち、西部は大西洋海洋性、南西部は地中海性、北東部は大陸性気候と様々な気候帯を有する。山間地の気候は厳しく、降雨・降雪が多いが、逆に平野部では旱魃が多い。冬の平均気温は−3℃、夏は23℃前後、年間降水量は平野部で500mm程度、山間部で1,000mm程度と、日本と比較するとやや乾燥している。
1.1 面積と人口
 ルーマニアは中東欧唯一のラテン系民族国家で、面積は、23.8km2(日本の本州とほぼ同じ)、人口は約1,194万人(2011年)、首都ブカレストの人口は194万人である。伝統的農業国(農業人口は36%)であるが、天然資源にも比較的恵まれている。2004年3月にNATOへ加盟、2007年1月にEUへ加盟した。国民の89.5%がルーマニア人で、公用語はルーマニア語である。
1.2 政治
 ルーマニアは第二次世界大戦後、ルーマニア人民共和国として王制を廃止し、領土の一部をソ連に割譲して共産化した。1965年にはルーマニア社会主義共和国に改称。半世紀にわたりニコラエ・チャウシェスク独裁政権の元、共産主義体制が続いた。しかし、次第にソ連とは一線を画す一国共産主義を唱え始め、西側との交流を深めた。1989年12月、ルーマニア革命により共産党一党独裁を廃止し国名をルーマニアに改称した。国民から直接選挙で選ばれる大統領を国家元首とする共和制国家であり、議会から選出される首相が行政を行う半大統領制を採用している。現在、中道右派政権で親米派であるバセスク大統領(2004年就任、2009年再任、任期5年)、2012年5月から中道左派政党(社民党及び国民自由党)のポンタ内閣が発足している。
1.3 経済
 第二次世界大戦以前は農業国であったルーマニアは、戦後一連の5か年計画によって工業国への転換を図ったが、重工業への偏重により、慢性的な品不足、環境汚染が深刻化した。1989年12月のチャウシェスク政権崩壊後、経済は実質的に解体し、輸出が激減した。1990年から始まった市場経済への移行をめざす経済改革は、国営企業の民営化、農地私有化を行ったが、混乱等で経済成長もマイナス成長となった。2000年以降は回復基調となり年平均5〜6%の経済成長を続け、2008年には7%を記録した。その後、サブプライムローン問題に端を発した世界的経済不況の影響を受け、2009年には経済成長率が−7%にまで落ち込んだものの、2011年には経済成長率2.5%、GDP成長率2.5%(INS)と確実な経済回復を示している(表1参照)。ルーマニアは2015年にユーロ導入を目指している(1ユーロ=4.4127レイ(2013年1月))。
2.エネルギー
2.1 エネルギー資源
 ルーマニアは石炭・石油・天然ガスをはじめ、鉄鉱石・非鉄鉱石等の資源に恵まれている。しかし、1980年代以降、資金不足のため十分な開発投資が行われなかったことと、旧政権時代のエネルギー超過生産による既設油田・ガス田の枯渇、経済情勢の悪化による石炭需要の不振などもあり、エネルギー資源生産量は急激に落ち込んでいる。
 ウラン生産に関しては、割高な採掘コストによる価格の高騰(国際スポット価格の数倍)により、1990年には210トンあった生産量が1998年には132トン、2011年には77トンにまで減少している。かつて資源輸出国であったルーマニアは、現在、エネルギー供給量の25%を輸入に頼っている。図1にルーマニアの化石資源生産量の推移を示す。
 なお、2009年の燃料別一次エネルギーの供給比率は天然ガスが30.6%と最も多く、石油23.8%、石炭21.4%が続いており、この比率は近年ほぼ変動していないが、一次エネルギーの全体供給量は減少傾向にある(図2参照)。
(1)石油
 黒海に面したルーマニアは、海底及び陸地の石油資源に恵まれ、2011年の確認埋蔵量は6億バレル、中東欧諸国の中で最大の石油産出国である。しかし、既存油田の枯渇化と設備投資不足から、過去20年以上にわたり、石油生産量は年々減少している。現在の生産量はピーク時1976年の3分の1以下であり、不足分をロシアから輸入している。
(2)天然ガス
 2011年現在、ルーマニアの天然ガス埋蔵量は1,090億m3で、石油同様に生産量は年々減少。1980年代前半と比較して3分の1に近い落ち込みである。不足分はロシアから輸入している。
(3)石炭
 石炭資源はかなり豊富で、可採埋蔵量褐炭2億9,100万トン、無煙炭1,000万トンである。2010年の国内生産量は3,113万トン、大部分を占める褐炭の90%以上は、火力発電及び熱併給に使用される。無煙炭はカラパチア山脈に位置し、地理的に採掘が困難なため、ほとんどが未開発である。
(4)ウラン資源
 ウラン資源はカラパチア山脈東部に1万トン以上の埋蔵量を持つ。これらのウランはルーマニア国内に稼動しているチェルナボーダ原子力発電所(Cernavoda:CANDO-6型、70.6万kW×2基)の燃料として使用される。年間のウラン生産量は77トン、国産のウラン採掘コストが割高で競争力が弱く、生産量は減少する傾向にある。
(5)その他
 ルーマニアはドナウ川下流の豊富な水系を背景に水力資源にも恵まれ、1,400万kW相当の水力資源があるとされている。既開発資源が約600万kW相当で、5,000近くの小水力に適したサイトが未開発である。また、黒海の沖合や山岳地帯、丘陵地帯等では合計250万kWにおよぶ風力発電が期待されている。
3.電力需給
 2010年のルーマニアの消費電力量は483.9億kWh。最も電力消費量が多かった1989年の約751億kWhと比べ、工業・農業部門での需要が減少したことから、65%近くまで減少している。2011年の発電電力量は617.5億kWhで前年を1.6%上回ったが、長期的には減少傾向にある(参考までに2009年までの電源別発電電力量の推移を図3に示す)。
なお、発電電力量が消費電力量を上回ったのは1993年であるが、チェルナボーダ原子力発電所1号機が1996年に営業運転を開始した後、ルーマニアは電力輸出国に転じている。輸出相手国はハンガリー、ブルガリア、ウクライナ、モルドバ、セルビア・モンテネグロである。2010年の発電電力量の電源別構成比は、水力34.5%、火力が45.6%、原子力が19.1%、再生可能エネルギーが0.73%であり、1990年に82%を占めていた火力がかなり減少した(表2参照)。
3.1発電設備
 2010年末の総発電設備容量は2,085万kWで、その内訳は水力638.2万kW(30.6%)、火力1,302万kW(62.4%)、原子力130万kW(6.2%)、再生可能エネルギー5.5万kW(0.26%)である。水力発電所は347箇所、全設備容量のうち約7万kWが揚水発電である。水力発電所の最大は、ドナウ川を利用したPortile de Fier(鉄門)発電所で128.4万kWの設備容量を持つ。
 一方、火力発電設備の30%は40年以上の老朽化した設備が多く、設備の改修と閉鎖計画を進めている。2004〜2015年には、火力発電施設(2,825MW相当)の改修と、水力発電施設(529MW)及び火力発電施設(1,945MW)の新規導入が計画されている。原子力分野でもチェルナボーダ3、4号機の運用を計画している。再生可能エネルギーに関しては、若干ではあるが、バイオマス、風力、ゴミ焼却発電設備が運転されている。
3.2 電力事業形態
 社会主義の計画経済下にあったルーマニアの電気事業は、ルーマニア電力公社(RENEL)が電気事業を一括運営していたが、1998年には原子力発電以外の発送配電設備を取り扱うルーマニア国有電力(CONEL)と原子力発電設備を取り扱うNuclearelectrica S.A.(SNN)が設立した。続いて、電気事業の監督・規制・運営及び電気料金システムの承認や10MW以上の発電事業・送配電事業・熱供給事業に対する許認可手続きも行う独立機関として国家エネルギー規制庁(ANRE)が発足。電力事業の戦略・方針・立法は経済貿易ビジネス環境省(Ministry of Economy, Trade and the Business Environment:MECMA)とANREによって運営されている。
 2007年1月にEUに加盟したルーマニアでは、2007年7月から電力市場が完全に自由化され、バルカン半島地域においては先進的電力市場を持つ国となった。電力市場を運営するのはOPCOM社で、前日市場、先物市場、二酸化炭素排出権市場、グリーン認証市場の管理を行う。需要供給調整市場は送電網運営者であるTranselectrica社が担当する。Transelectrica社は国営企業で、高架送電網線総延長8,800km、変電所数76箇所、配電線総延長310,127km、配電用変電所1,296箇所を有し、国内の送電網をほぼ網羅する(図4参照)。現在の電力部門の構造は以下の7形態に分類することができる。(1)送電網及びシステム運営者(Transelectrica S.A.、OPCOM(Transelectrica S.A.の子会社)、(2)配電企業8社(Muntenia Nord、Oltenia(CEZ)、Muntenia(Enel)、Moldova(E.ON)、Transilvania Sud、Transilvania Nord、Banat(Enel)、Dobrogea(Enel))、(3)水力発電事業者(Hidroelectrica S.A.)、(4)火力発電事業者6社、(5)コジェネレーション施設事業者約20社、(6)原子力発電事業者(Nuclearelectrica S.A.)、(7)170社以上の独立電力供給事業者である。
3.3 ルーマニアのエネルギー戦略
 ルーマニアの2007年〜2020年までの国家エネルギー戦略が2007年11月にガイドライン1069/2007号として発行され、全ての議会政党から合意を得ている(表3参照)。この戦略は2007年1月のEU政策文書に従ったもので、二酸化炭素排出量の削減戦略として、再生可能エネルギー及び原子力発電開発の促進が含まれている。戦略の具体的数値目標は、経済状況と資金調達状況で見直されるものの基本的な方針に変化はない。
(前回更新:2005年10月)
<図/表>
表1 ルーマニアの主要経済指標
表1  ルーマニアの主要経済指標
表2 ルーマニアの電力需給バランス
表2  ルーマニアの電力需給バランス
表3 ルーマニアの2020年までの国家エネルギー戦略
表3  ルーマニアの2020年までの国家エネルギー戦略
図1 ルーマニアの化石資源生産量の推移
図1  ルーマニアの化石資源生産量の推移
図2 ルーマニアにおける一次エネルギー供給量の推移
図2  ルーマニアにおける一次エネルギー供給量の推移
図3 ルーマニアにおける電源別発電電力量の推移
図3  ルーマニアにおける電源別発電電力量の推移
図4 ルーマニアの送電系統図
図4  ルーマニアの送電系統図

<関連タイトル>
世界の原子力発電の動向・東欧州(2011年) (01-07-05-21)
ルーマニアの原子力発電開発 (14-06-11-01)

<参考文献>
(1)外務省:各国・地域情勢、ルーマニア、
(http://www.mofa.go.jp/mofaj/area/romania/data.html)
(2)(社)海外電力調査会:海外諸国の電気事業2010年版(2010年3月)、ルーマニア
(3)British Petroleum(BP)統計:Historical data、

(4)米国エネルギー情報局(EIA): International Energy Statistics、

など
(5)CN Transelectrica SA:System status in real time:

(6)国際エネルギー機関(IEA):ルーマニア、Total energy supply、

Share of total primary energy supply in 2009、
及び
Electricity generation by fuel、

(7)(社)日本産業機械工業会:南東欧の再生可能エネルギーの現状(ルーマニア編)、
(http://www.jsim.or.jp/kaigai/1110/003.pdf)
(8)国際通貨基金(IMF):World Economic Outlook Database October 2012 、
(http://www.imf.org/external/pubs/ft/weo/2012/02/weodata/index.aspx)
(9)国連統計局:UNSD Annual Totals Trade (ATT) 2000-2010 (as of 31 Oct 2011).xls (fifth edition)、
(http://unstats.un.org/unsd/trade/imts/UNSD%20Annual%20Totals%20Table%20(ATT)%202000-2010%20(as%20of%2031%20Oct%202011).xls)
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