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<概要>
 ルーマニアは、石油及び天然ガス、ウラン資源などの地下資源に恵まれている。この豊富なウラン資源を背景に、1960年代半ばから原子力発電の導入が検討された。ルーマニアは旧ソ連の技術だけでなく、西側技術も検討し、国内ウラン資源の有効活用を考慮した結果、カナダ型重水炉(CANDU-6)を選んだ。チェルナボーダ1号機は1982年7月に建設を開始、1996年12月に営業運転を開始した。2号機は1983年に建設を開始したが、資金難から完成は遅れ、2007年10月に運転を開始した。3〜5号機は1980年代に順次建設を開始したが、同じく資金難から1990年に建設を中断している。なお、3、4号機に関して2009年4月に合弁会社Energo Nuclearを設立し、建設再開、完成に向けた計画の技術的、商業的実施の可能性について評価を進め、2019年に営業運転の開始を目指している。
<更新年月>
2012年11月   

<本文>
1.ウラン資源
 ルーマニアのウラン探鉱は、ルーマニアと旧ソ連政府との二国間協定(合弁事業「SOVROM-CUARTIT」)が結ばれた1950年に開始され、1952年には幾つかのウラン鉱をアプセニ山脈地区で発見した。1950年から二国間協定の終了する1961年までの間、全てのウラン精鉱に係る生産活動はSOVROM-CUARTITによって実施され、生産物は旧ソ連へ供給された。1978年からルーマニア中央部のブラソフ(Brasov)の北21kmに位置するフェルディオラ(Feldiora)で湿式製錬所が操業を開始し、ウラン精鉱の生産を再開した。1985年にはフェルディオラ精錬所が拡張され、二酸化ウラン(UO2)を製造できる精錬部門を増設した。年生産300トンUのウランが同国の原子力発電所の燃料に用いられている。図1にルーマニアの原子力関連施設の位置を、図2核燃料サイクル全体図を示す。
 なお、OECD・NEA/IAEAのUranium2011によると、ルーマニアのウラン資源量は、260ドル/kgU以下の発見資源が6,700トンU、260ドル/kgU以下の未発見資源が予測資源で3,000トンU、期待資源で3,000トンUとなっている(表1参照)。
2.原子力導入の動き
 ルーマニアではウラン資源を有していたが、石炭、石油及び天然ガスなどの化石資源に恵まれたため、原子力発電の導入について具体的な検討が進められたのは1960年代半ばからである。1970年には、オルト川沿いのピテスチに、旧ソ連との間でVVER型炉(VVER−440)を建設する協定が結ばれたが、1975年には立ち消えとなった。その後も1982年に、旧ソ連との間で「モルドバ」原子力発電所の建設に関する協定が結ばれたが、これも建設には至らなかった。
3.カナダからCANDU炉導入を決定
 ルーマニア原子力国家委員会「ロムエネルゴ」は1978年に旧ソ連の技術だけでなく、西側技術の導入を検討した結果、カナダ原子力公社(AECL:Atomic Energy of Canada)と契約を結び、70.6万kWのカナダ型重水炉(CANDU-6)1〜5号機の導入を決定して1978年10月に発注。黒海に近いドナウ川下流沿いのチェルナボーダ(Cernavoda)で1982年7月より建設を開始した(表2参照)。
 CANDU-6が採用された理由は、1)天然ウランを燃料として利用できるため、外国から濃縮ウランを入手出来ない場合には、国内のウラン資源を利用できること、2)他の炉型に比べて建設費が比較的安いこと、3)設備稼働率が平均80%と高いこと、などである。実際に1号機の1997年〜2007年までの10年間における設備利用率は平均87.6%であり、2号機が増設されて以降の平均設備利用率は2007年に80.8%、2008年に90.5%であった。図3にルーマニアの原子力開発の流れを示す。
4.チェルナボーダ原子力発電所の建設の経過
 ルーマニア当局は、1990年までにCANDU-6(電気出力70.6万kW)を6基導入し、原子力発電所の総電気出力を423.6万kWにする意向であった。カナダ政府及びこの建設事業に参入したイタリア及びアメリカ政府により、公的な融資への道も認められたが、チェルナボーダ原子力発電所の建設は、政治的、財政的、技術的な問題に直面した。要因には、1989年12月、チャウシェスク大統領夫妻の処刑という形で共産党一党独裁を廃止し、民主化・市場経済化を強力に推し進めた革命が勃発したことなどがある。その当時、チェルナボーダ1号機の建設は45%程度進んでいた。
 1990年10月、国際原子力機関(IAEA)の調査団がチェルナボーダ原子力発電所の再評価を行った結果(OSART)、同原子力発電所は最新の西側技術を導入するものであり、安全基準も満足していると結論したが、資金不足、資材の不足のため1990年に建設工事を中断した。
4.1 チェルナボーダ1・2号機の現状
 建設が中断したチェルナボーダ1号機は、1991年春にはイタリアの原子力産業であるANSALDO社の参加が決まり、さらに1991年8月にカナダ・イタリアのコンソーシアムであるACCとの間で、チェルナボーダ合同プロジェクト管理本部を設置する契約が結ばれ、カナダ政府は秋に2億8,400万ドル相当の融資を、イタリア政府も公的融資を適用した。これによりチェルナボーダ1号機にAECLの原子炉、ANSALDO社の発電施設、アメリカゼネラルエレクトリック社(GE)のタービン発電機が供給された。発電設備はACCがルーマニア電力庁(RENEL, 現、SNN SA:Societatea Nationala Nuclearelectrica S.A.)より受注し、建設工事を再開、1996年12月に営業運転を開始した。なお、電力輸入国であったルーマニアは輸入依存度が低下し、1999年以降は一貫して電力輸出超過国に転じている。
 チェルナボーダ2号機は2000年、AECL-ANSALDO社、SNN SAのもと建設を再開した。追加建設資金3億8,250万ユーロのうち、2億1,800万ユーロはカナダ政府が融資し、2003年時点で工事進捗率は54.1%であったが、2004年にEU委員会が2億2,350万ユーロのEuratom融資を供与して2007年10月に完成した。
 2012年9月現在、チェルナボーダ原子力発電所ではCANDU-6(電気出力70.6万kW)が2基稼動している。発電所の所有者はSNN SAで、2011年の原子力による発電量は117億4,720kWh、総電力量に占める割合は18.98%であった。このうち、1号機の発電電力量(送電端)は56.3億kWh、設備利用率は99.67%、2号機の発電電力量(送電端)は51.8億kWh、設備利用率は91.07%であった。表3にルーマニアの発電電力量と発電設備容量の推移を示す。チェルナボーダ原子力発電所は電力だけでなく、チェルナボーダ市に地域暖房として熱も供給している。保守検査のための計画停止は24ヶ月に1回である。
4.2 チェルナボーダ3〜5号機の現状及びその後の計画
 2009年4月、チェルナボーダ原子力発電所は建設を中断していた3・4号機(CANDU-6、各70.6万KW)を国際プロジェクトとして建設するため、合弁会社Energo Nuclearを設立した。同社に対する出資比率は、SNN SAが51%、イタリアEnel、チェコCEZ、フランスのGDF Suez(実際の契約は傘下のスウェーデンElectrabel)、ドイツRWE Powerが各9.15%、スペインIberdrolaとルーマニアのArcelorMittal Galatiが各6.2%である。2010年2月、Energo Nuclearは発電所の建設再開、完成にむけた計画の技術的、商業的実施の可能性の評価に関する契約(F/S契約)をAECLと締結した。2010年12月に欧州委員会はこのプロジェクトを承認したが、欧州経済危機の影響で2010年9月にはチェコCEZが撤退を表明。2011年1月までにフランスGDF Suez、ドイツRWE Power及びスペインIberdrolaが撤退を表明した。一方、2011年8月には中国原子力エンジニアリング(CNPEC)や韓国のコンソーシアムがチェルナボーダ3・4号機への投資に関心を示している。SNN SAは2019年までに3・4号機、2020年までに5号機を完成するほか、チェルナボーダ以外のサイトでのCANDU炉やVVER-1000の原子力発電所の建設を行いたい意向である。
5.核燃料サイクル
 2007年にEU加盟を果たしたルーマニアは、多くの中東欧諸国と同様、エネルギー産業の再編並びにエネルギー市場自由化への対応、EU法制への適合化作業を進めた。1998年7月、ルーマニア電力庁(RENEL)の原子力部門は、3社(CNE PROD、CNE INVEST、FCN-Pitesti)で構成する国営の電力会社SNN SAに継承された。CNE PRODはチェルナボーダ発電所1・2号機の運転を、CNE INVESTは3〜5号機の原子力部門の開発を、FCN-Pitesti(FCN:Fabrica de Combustibil Nuclear、所在地:ピテスチ)は核燃料の生産をそれぞれ担当する。他の技術面では、Drobeta-Turnu Severin(ドロベタ=トゥルヌ・セヴェリン)近郊で国営企業RAAN(Romanian Nuclear Activities Authority)が重水生産施設を操業している。
 また、照射試験や放射性廃棄物の乾式貯蔵研究を行うピテスチ原子核研究所(ICN-Pitesti, Institute for nuclear research Pitesti)や放射性廃棄物全般の研究や地層処分研究を行うホリア・フルベイ原子物理工学研究所(IFIN-HH, “Horia Hulubei Hulubei” National R&D Institute for Physics and Nuclear Engineering)がある。なお、チェルナボーダ1・2号機の使用済燃料は使用済燃料プールで6年間冷却した後、サイト施設内の乾式貯蔵施設で50年間貯蔵管理し、地層処分する方針である。乾式貯蔵施設はMACSTOREタイプのカナダAECL設計で2003年から操業している。また、チェルナボーダ以外の工業、医療、研究等で発生する低・中レベル放射性廃棄物はホリア・フルベイ原子力物理工学研究所が所有するバイタ・ビホル低・中レベル放射性廃棄物処分場(Baita Bihor repository)で1985年から20年〜35年間管理される(図4参照)。
(前回更新:2005年1月)
<図/表>
表1 ルーマニアのウラン資源
表1  ルーマニアのウラン資源
表2 ルーマニアの原子力発電所
表2  ルーマニアの原子力発電所
表3 ルーマニアの発電電力量と発電設備容量の推移
表3  ルーマニアの発電電力量と発電設備容量の推移
図1 ルーマニアの原子力関連施設の位置図
図1  ルーマニアの原子力関連施設の位置図
図2 ルーマニアの核燃料サイクル全体図
図2  ルーマニアの核燃料サイクル全体図
図3 ルーマニアの原子力開発の流れ
図3  ルーマニアの原子力開発の流れ
図4 バイタ・ビホル低・中レベル放射性廃棄物処分場
図4  バイタ・ビホル低・中レベル放射性廃棄物処分場

<関連タイトル>
世界の原子力発電の動向・東欧州(2011年) (01-07-05-21)
ルーマニアの国情およびエネルギー事情 (14-06-11-02)

<参考文献>
(1)(社)日本原子力産業会議:原子力年鑑’98/’99年版(1998年12月)
(2)(社)日本原子力産業協会:原子力年鑑 2012年版(2011年10月)
(3)(一社)日本原子力産業協会:世界の原子力発電開発の動向 2012年版(2012年5月)
(4)(社)海外電力調査会:海外諸国の電気事業、第2編、2010年版(2010年3月)
(5)OECD・NEA/IAEA:Uranium 2001 Resources, Production and Demand(2002)
(6)OECD・NEA/IAEA:Uranium 2011 Resources, Production and Demand(2012)、

(7)世界原子力協会(WNA):Uranium production figures 2001-2011、
http://www.world-nuclear.org/info/uprod.html
(8)Romania Nuclear Power Sector Reverse Trade Mission(2010年9月、

(9)FORATOM:TOWARDS SUSTAINABLE NUCLEAR ENERGY SISTEMS(2012年8月)、

(10)United Nations Statistics Division、
http://data.un.org/Search.aspx?q=electricity+datamart%5bEDATA%5d
(11)国営電力ニュークリアエレクトリカ(SNN):General Overview of the Romanian Nuclear Utility NUCLEARELECTRICA(2010年9月)、

(12)IAEA PRIS発電炉情報システム、

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