<大項目> 海外情勢
<中項目> 旧ソ連・東欧各国
<小項目> リトアニア
<タイトル>
リトアニアの原子力発電開発と原子力政策 (14-06-05-02)

<概要>
 世界最大出力のイグナリナ原子力発電所RBMK型炉)を保有するリトアニアは、1991年の独立達成後、運転面での責任をロシアから引き継いだため、原子力に関する十分な法的基盤もなく、規制や検査の経験も不十分なまま出発せざるをえなかった。とはいえ、原子力はリトアニアの全発電量の4分3ほどを占めており、同国の近隣諸国向けの電力の輸出を支えていたことから、リトアニア議会は1996年に原子エネルギーに関する法律を作成。原子力発電所の安全を保証し、原子力関連法令を西欧並にするべく準備に入った。しかし、欧州復興銀行及びEUのイグナリナ原子力発電所の安全性に対する懸念は強く、リトアニア議会はイグナリナ1号機、2号機の閉鎖を決定。1号機は2004年12月31日、2号機は2009年12月31日に閉鎖に向けて、運転が停止された。代替電源の手当が不十分のままイグナリナ原子力発電所を閉鎖したリトアニアは一気に電力不足に陥り、ラトビア、エストニア両政府と協議を重ね、2006年にリトアニアでの新たな原子炉を建設するという共同声明を発表。2009年にはリトアニア議会がイグナリナ原子力発電所に隣接するヴィサギナスでの建設を認める法案を採択した。同発電所は2018〜2020年の運転開始が目指されている。
<更新年月>
2011年03月   

<本文>
1.独立後の経緯
 リトアニアでは、ラトビア及びベラルーシとの国境に近いイグナリナ原子力発電所と呼ばれる150万kWの黒鉛減速軽水冷却チャネル型炉(RBMK-1500)2基が稼働していたが、1986年に事故を起こしたチェルノブイル原子力発電所と基本的に同型の炉であることから、安全性について懸念されていた。1985年には3号機の建設も着工したが、当時のソ連政府が1988年に作業の中断を指示し、1993年にはリトアニア政府が正式に建設中止を決定している。RBMK-1500型炉の主要諸元を表1に、イグナリナ原子力発電所の所在地を図1、その全景を図2、原子炉建屋垂直断面図を図3、燃料交換機を図4、タービン発電機を図5、運転中央制御室を図6に示した。
 リトアニア議会は、1996年に原子エネルギーに関する法律を作成した。この法律の主要目的は、原子力発電所の安全を保証すること、不法な放射性物質の取引による核兵器が拡散するのを防止することであり、放射性廃棄物管理に関する新規法案及びその他の法律を西欧諸国並にするべく準備していた。
 イグナリナ原子力発電所の安全向上に係る国際協力を表2-1及び表2-2にまとめた。イグナリナ発電所では、安全改善プログラムの実施と並行して、欧州復興開発銀行(EBRD)の依頼を受けた国際的委員会により1995年から安全解析が行われ、1997年3月に報告書が公表された。同報告書はリトアニア原子力安全検査局(VATESI)に対し、安全問題への取り組み方を改め、発電所運転に関する許認可手続きや監督強化など規制体制を整備するよう勧告。VATESIは、安全評価の結果に基づき、イグナリナ1号機の1998年以降の運転認可発給を判断するとしていた。一方、リトアニア政府は、今回の勧告に従った新しいプログラムの概要をEBRDに提示した。イグナリナ原子力発電所は、リトアニアにとって電力輸出など重要な役割を果たしているので、燃料交換時期(1号機2005年、2号機2010年)まで安全改善プログラムを進めながら運転を継続したい意向であった。
2.イグナリナ発電所の閉鎖
 イグナリナ発電所の2009年における発電量は100億kWh、前年比で約10%増であった。また、リトアニアの全発電量に占める原子力のシェアは76.2%(前年72.9%)にまで拡大し、フランス(75.1%)を抜いて1位になった。しかし、リトアニアの独立後、イグナリナ発電所の安全性に対する懸念を拭えなかった欧州連合(EU)は、リトアニアの2004年のEU加盟と引き替えに同発電所の閉鎖を求めた。それに対してリトアニア議会は2000年5月、イグナリナ原子力発電所1号機を2005年に閉鎖する法案を正式に承認し、2号機についても閉鎖時期に関する議論を2004年以降に開始することを決定。リトアニア政府は、2002年6月に2号機の閉鎖を承認し、2004年12月31日には1号機、2009年12月31日には2号機が閉鎖に向けて、運転が停止された。
 リトアニアはこれまで自国の電力供給の4分の3を原子力に依存しており、ラトビア、エストニア、ベラルーシなど、周辺諸国に電力を輸出していた。ところが、代替電源の手当が不十分のままイグナリナ原子力発電所を閉鎖したため、リトアニアは貴重な外貨獲得の手段を失ったばかりか、一気に電力不足に陥った。西ヨーロッパの送電網とつながっていないリトアニアでは、原子力発電所が閉鎖されたことにより、同国の化石燃料の輸入が増大、とくにロシアからの天然ガス輸入量がさらに増え(リトアニアは天然ガスの国内需要の100%、エネルギー全体では30%をロシアからの輸入に依存している)、電気料金が大幅に値上げされた。
3.代替炉建設計画
 リトアニア政府は2006年、ラトビア及びエストニア政府と協議を重ね、2号機に代わる電源として、イグナリナ原子力発電所内に新たな原子炉を建設するという共同声明を発表した。新規炉建設の共同プロジェクトには、リトアニアの隣国であるポーランドも参加を表明。2007年7月には、上記4ヵ国が新たに原子力発電を共同で建設する方針を確認した。共同建設プロジェクトの総工費は約64億ユーロ。出資比率は立地国であるリトアニアが34%、エストニア、ラトビア、ポーランドが各22%とし、各国が出資比率に応じて電力供給を受けるとした。
 これについてはポーランドとバルト3国との調整がつかなかったものの、リトアニア議会は2009年3月に、イグナリナ原子力発電所に代わる新たな原子力発電所(イグナリナ原子力発電所サイト隣接区域に建設予定のヴィサギナス原子力発電所)の建設を認める法案を採択した。同年4月にはリトアニア政府所有のプロジェクト会社であるヴィサギナス原子力発電会社の提出した環境影響声明報告書を同国環境省が承認。2018〜2020年頃の運転開始を目指すこととなった。
 リトアニア政府は、バルト地域で今後10年間に電力の供給不足が拡大し、2014年以降は新規設備容量が必要と予測されている点を挙げた。国際連系線によって電力価格が欧州と同レベルになれば、計画の経済性は飛躍的に向上する見込みであるという。国内供給チェーンは欧州市場等より安価であり、産業界にはすでに豊富な人材資源が存在する点も強調した。
 立地については、ヴィサギナス市の東6kmに位置する2つの候補区画がイグナリナ発電所の隣接区域にあるため、すでに関係インフラが整備済みであること、湖に面しているため冷却水へのアクセスもあること、放射性廃棄物の管理・貯蔵施設もあること等の利点がある。まったくの新規サイトではないので許認可の取得も比較的容易であり、環境影響評価も完了し、環境省の承認も取得した。
4.新規原子力発電所の計画概要
 リトアニア政府は2009年12月、プロジェクトへの投資者を募集するため、設計・建設・運転及び閉鎖に関する諸条件を記載した入札を開示した。同計画を共同で進めるのに必要な原子炉の運転及び発電能力の向上に関する経験と専門知識を豊富に有する投資家を募るとし、地域パートナーとなる予定のエストニア、ラトビアの企業とともに、新発電所の運営企業の株式と合わせて、100%までの保有を認めるとしている。
 具体的にはフランス電力(EDF)、ドイツのE.on、イタリア電力公社エネル、スウェーデンのヴァッテンフォール、スペインのイベルドローラなど、欧州の大手企業を念頭に置いており、1基当たり30億〜50億ユーロの予算を検討している。
 同計画は国際連系線によってリトアニアを含めたバルト地域全体の電力供給力増強に資すると期待されており、バルト3国の電力会社も小口の出資者として参加する可能性がある。また、EUの目指すグリーン・エネルギー政策にも合致しているため、同計画の推進に関しては、欧州委員会(EC)エネルギー委員のG・エッティンガー氏も、同プロジェクトは欧州全体にとっても有意義との見解を表明した。
 この関連で、バルト3国の電力市場は2014〜2015年までに欧州電力市場と統合することが計画されている。バルト3国及びポーランドの関係閣僚らは2010年5月末、エッティンガー委員の同席の元で、「バルト地域エネルギー市場相互接続計画の枠組みの中で原子力発電に関する高官タスクフォースを設立する」との共同コミュニケに調印。ヴィサギナス建設計画の成功に向けて、関係国が緊密に連携し、政府支援を強化することで合意した。
<図/表>
表1 RBMK-1500型炉の主要諸元一覧
表2-1 イグナリナ原子力発電所の安全向上にかかわる国際協力(1/2)
表2-2 イグナリナ原子力発電所の安全向上にかかわる国際協力(2/2)
図1 イグナリナ原子力発電所の所在地図
図2 イグナリナ原子力発電所全景
図3 イグナリナ原子力発電所の原子炉建屋垂直断面図
図4 燃料交換機
図5 タービン発電機
図6 運転中央制御室

・図表を一括してダウンロードする場合は ここをクリックして下さい。


<関連タイトル>
黒鉛減速沸騰軽水圧力管型原子炉(RBMK) (02-01-01-04)
リトアニアの国情およびエネルギー事情 (14-06-05-01)
旧ソ連のRBMK型原子炉開発の歴史 (16-03-02-04)

<参考文献>
(1)(社)海外電力調査会(編):「リトアニアの電気事業」、「海外電力」、1992年6月号
(2)(社)ロシア東欧貿易会(ロシア東欧経済研究所):旧ソ連原子力情報収集事業報告書、第4部 リトアニアの原子力発電の現状(1997年3月)、p.133〜134
(3)通商産業省資源エネルギー庁原子力広報推進室(編):見直される旧ソ連の原子力発電、(社)ロシア東欧貿易会・ロシア東欧経済研究所(1998年3月)
(4)原子力安全研究協会(編):旧ソ連、中・東欧諸国原子力ハンドブック、1997年3月
(5)(社)海外電力調査会(編):海外諸国の電気事業第2編2010年版「リトアニア共和国」p.185
(6)原子力eye、2001年2月号、WORLD NEWSリトアニア、p.36
(7)(社)日本原子力産業会議(編):原産マンスリー 2000年12月、リトアニア、p.9(8)日本原子力学会誌、2001年1月:リトアニア、p.12
(9)日本原子力学会誌、2000年12月:リトアニア共和国イグナリナ発電所1号機の閉鎖をめぐって、武田充福、p.32〜40
(10)Ignalina Nuclear Power Plant写真ホームページ(http://www.iae.lt/iae/album.html(2001年3月時点))
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