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<概要>
 アルメニアは旧ソ連邦から独立したCIS諸国の一員であり、旧ソビエトの中では最も国土の面積が小さい。独立後、アルメニアは市場経済への道を突き進んだが、隣国アゼルバイジャンとのナゴルノ・カラバフ紛争や、1988年12月の大地震による影響で、きわめて困難な道を歩んでいる。中でも、経済の基盤となるエネルギー問題は深刻である。アルメニアでは国内で化石燃料を全く産出せず、全面的に輸入に頼っているが、紛争の影響で化石燃料の輸入が一次的に途絶え、経済は壊滅的な打撃を受けた。地震によって旧ソ連型PWRアルメニア(またはメタモール)原子力発電所は1989年に一旦閉鎖されていたが、このような事情で2号機のみ1995年11月に再開を余儀なくされている。この1基でアルメニアの電力需要の約40%を供給している。アルメニアはメタモール2号機をバックフィットを重ねながら運転を継続していく予定で、2013年までには新規原子力発電所の建設計画を最終決定する見通しである。
 また、ロシアへの核燃料代金未払いの問題から、2003年に5年契約でロシアのRAO EESがアルメニア発電所の財務管理を行うことになった。2008年以降は子会社のInter RAOEESが行う。
<更新年月>
2008年12月   

<本文>
1.原子力発電事情
 アルメニアには、アルメニア(またはメタモール)原子力発電所と呼ばれる40.8万kWの旧ソ連型PWR(VVER−440/V−270)2基が立地している(図1参照)。同発電所は、首都エレバンから約30km離れたメツァモール(メタモ−ル:Metsamor)に設置されている。1号機が1977月10月、2号機が1980年5月にそれぞれ営業運転開始、同国の電力供給上重要な役割を果たしていた(表1参照)。
 1988年12月のアルメニア(スピタク)大地震を契機に住民の反対運動と閉鎖論が高まり、1989年2月と3月に両号機とも一旦運転を停止した。発電所にはこの地震による直接被害がなかったものの、当時のソ連邦閣僚会議の政治的判断で運転を停止した。
 一方、1986年のチェルノブイリ事故以降、原子力発電所の運転の安全性と信頼性の確保を西側諸国だけでなく、旧ソ連や東欧諸国も含めた世界レベルで相互に協力し合って追求していかなければならないという動きが活発化していた。アルメニア原子力発電所の炉型は旧ソ連で1970年代に開発した第一世代型PWR(VVER−440モデルV−230プラント)の改良型である。1990年9月、国際原子力機関IAEAは、このモデルV−230について安全性評価プログラムを実施した。1991年8月には炉心設計、系統解析、機器の健全性、計装制御、電気系統、事故解析の6分野に分けて取りまとめ、評価を行った。その結果、V−230型は当時のソ連で最初に標準化されたPWRであるが、設計がEUの安全基準に適合していないと判断し、早期閉鎖を求めることとなった。
(1)V−230の設計上の特徴
 V−230は常に、原子炉2基を収納する原子炉建屋、およびその他のプラント機器を収納する共通機械ホールと補助建屋という構成で建設され、原子炉蒸気供給設備は、原子炉圧力容器および6基の横置型蒸気発生器から構成されている。格納容器がなく、事故時の核分裂生成物を含んだ放出蒸気を密封された隔離室でホウ酸水を噴射させて蒸気を凝縮する「事故時ローカリゼーション」のみを持つ。緊急炉心冷却設備(ECCS)がなく、安全関連設備の共通モード故障に対する防護という面も重要視されていない。耐震設計も脆弱である。VVER−440/モデルV−230のプラント構成を図2に示す。
2.廃止措置の撤回
 アルメニアは、隣国アゼルバイジャンとの民族紛争を発端にエネルギー不足が深刻化したことから、同発電所の運転再開、場合によっては新規発電所の建設に向けての西側諸国の資金援助と技術支援を要請した。1992年末には当時の欧州共同体(EC)の対旧ソ連技術支援プログラム(TACIS)の一環として、フランスのフラマトム社が運転再開の可能性調査を行っている。この報告を受けてアルメニア政府は1993年4月に正式にアルメニア発電所2号機の運転再開の方針を決定。米国ベクテル社、仏フラマトム社、ロシアエネルゴアトム社等による技術支援を得て、1995年11月運転を再開した。
3.原子力政策および計画
 欧州連合(EU)とアルメニアとの1999年末の合意では、EUから資金援助を受ける条件として2004年までに閉鎖することになっていた。しかし、2004年3月、アルメニア側は(1)代替電源なしに2号機の閉鎖はできない、(2)2号機は運転再開以来多数のバックフィットが実施されており、安全性は確立されているとして、代替電源が利用可能になるまでメタモール2号機が運転できるように改定されている。
 2007年4月、アルメニア政府は今後の原子力開発計画として、メタモール1号機の運転再開計画はないが、メタモール2号機の運転を継続し、新規原子力発電所の建設を2012〜2013年までに最終的に決定するとしている。
 また、ロシアとアルメニアの間では、ロシアから輸出された核燃料の代金が未払いとなっていたことから、2003年7月、燃料の供給を条件にアルメニア発電所の財務管理を5年間ロシア統一電力システム(RAO UES)が行うことになった。原子力発電所の所有、運転は引き続き電力会社「アルムアトムエネルゴ」が行う。この合意に対しアルメニアは、国内の電力供給を安定させるだけではなく、余剰電力をアゼルバイジャンやトルコなど近隣諸国へ輸出し、外貨を獲得する手段であると期待している。アルメニアの電力系統は旧ソ連の単一電力系統の一部であるザカフカス統合電力に属し、隣接国と国際連系線を有している(図3参照)。なお、この協定はRAO UESの海外市場担当の子会社であるInter RAOUESによって更に5年間延長される。現在、アルメニアとロシアの原子力分野での関係が良好である。新規発電所の建設へ積極的に関与しているほか、2007年4月にはアルメニアでのウラン鉱山開発に関し3つの協力文書に調印、共同でウラン開発を実施する計画である。アルメニアのウラン推定埋蔵量は約3万トンである。
 2007年末には、アルメニア唯一運転中原子力発電所、メタモール2号機は、前年比6.3%増の25億5,000万kWhを発電、総発電電力量に占める原子力発電のシェアは前年より1%上昇して43%、稼働率は77.7%であった。
(1)電気事業体制
アルメニアは1991年独立以降、発送配電システムを一貫して国営「アルムエネルゴ」により独占的に運営してきたが、1992〜1995年の深刻なエネルギー危機を経験し、効率的なエネルギーシステムの構築が必要となり、1995年12月エネルギー部門の再編が決定した。1997年7月にはエネルギー法が発効、全ての発電所が個別の国有企業として分割された。原子力を除く発電部門と配電部門は民営化されたが、送電・系統システム部門(アルムエネルゴ社)と原子力発電部門(アルメニア原子力発電所)は国有形態のままである。電力を含むエネルギー供給を全般的に管理するのはエネルギー省であり、傘下の国有企業を運営している。図4にアルメニアの電気事業体制を示す。
(前回更新1995年3月)
<図/表>
表1 アルメニアの電源別発電電力量と発電設備容量の推移
表1  アルメニアの電源別発電電力量と発電設備容量の推移
図1 アルメニアの原子力施設配置図
図1  アルメニアの原子力施設配置図
図2 VVERプラント断面図(VVER−440/モデルV−230)
図2  VVERプラント断面図(VVER−440/モデルV−230)
図3 アルメニアの送電線網
図3  アルメニアの送電線網
図4 アルメニアの電気事業体制
図4  アルメニアの電気事業体制

<関連タイトル>
ロシア型加圧水型原子炉(VVER) (02-01-01-03)
旧ソ連型VVER-440/V-230に対するIAEA安全評価 (14-06-01-12)
旧ソ連型原子炉に対するWANOの見解 (14-06-01-13)
アルメニアの国情およびエネルギー事情 (14-06-04-01)
アルメニア大地震とアルメニア原子力発電所の閉鎖 (14-06-04-03)

<参考文献>
(1)(社)日本原子力産業協会:世界の原子力発電開発の動向 2007/2008年次報告(2008年4月)、p.76−77
(2)(社)ロシア東欧貿易会(ロシア東欧経済研究所):旧ソ連原子力情報収集事業報告書 第3部 アルメニアの原子力発電の現状(1997年3月)、p.118−121
(3)通商産業省資源エネルギー庁原子力広報推進室(編):見直される旧ソ連の原子力発電、(社)ロシア東欧貿易会・ロシア東欧経済研究所(1998年3月)
(4)海外電力調査会:海外諸国の電気事業 第2編 2005年版(2005年3月)、p.264−269
(5)International Nuclear Safety Center(INSC):Soviet Plant Source Book、
,p.251−259,

(6)(社)日本原子力産業協会:原子力年鑑 2008年度版(2008年11月)、p.423
(7)Nuclear Threat Initiative(NTI):Armenian Nuclear Facilities,

(8)米国エネルギー省:An Energy Overview of the Republic of Armenia
http://www.geni.org/globalenergy/library/national_energy_grid/armenia/EnergyOverviewofArmenia.shtml
(9)米国エネルギー情報局(EIA):

(10)日本原子力研究開発機構:海外原子力施設事故・トラブル情報、

(11)IAEA:Energy and Economic Database; Country Information,
http://www-pub.iaea.org/MTCD/publications/PDF/cnpp2003/CNPP_Webpage/countryprofiles/Armenia/Armenia2003.htm
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