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<概要>
 ロシア連邦は世界第1位の国土面積を誇り、83の共和国や州などで構成する連邦共和制国家である。1960−1980年代には、米国と制覇を競う共産党一党独裁の社会主義国家(ソ連邦)であったが、1980年代後半は経済・社会が停滞し、1991年の「ソ連」解体を迎えた。
 1992年からの市場経済に向けた急進的な経済改革は、インフレや生産率の低下などを招き、ロシア経済に大打撃を与えた。しかし、1999年には国際石油価格の高騰や、ルーブルの切り下げ効果による輸入代替産業が復調したことから、経済は成長に転じ、2000年には10%と近年にない高い経済成長率を記録、現在は政治的な安定を追求しつつ、持続的な経済発展、国民生活の向上を図っている。
 ロシアは鉱物、森林、水産など豊富な天然資源を有する国家で、特に石油と天然ガスの生産・輸出に関しては世界トップレベルのエネルギー大国である。ロシアはこれらのエネルギー資源を背景にエネルギー輸出大国に成長、エネルギー産業はロシア総輸出額の6割以上、連邦予算歳入の4割以上を占める同国最大の産業である。しかし、国際経済市況に左右されるなど不安定要素も多く、エネルギー資源輸出依存から脱却する経済姿勢が問われている。
<更新年月>
2016年01月   

<本文>
1. ロシアの国情
 ロシア連邦(Russian Federation)は、人口:約1億4,306万人(2012年1月時点)、面積:1,707万km2(日本の約45倍、米国の約2倍)で、国土面積は世界第1位を誇り、東西約9,000km、南北最大幅約4,000kmに渡り、北は北極海、南は中国、モンゴルなどアジアの国に隣接する。連邦共和制をとり、83の共和国や州などで構成され、民族はロシア人が81%を占めるが、160以上の民族からなる多民族国家である。
 4世紀頃から東スラブ族が当地に入ったが、9世紀にノルマン人の首長リューリックが「ルーシの国」を建て、モンゴルの侵入後、ロシア帝国として独立。シベリアへの進出後、1922年にソビエト社会主義共和国連邦(ソ連)が成立した。ソ連は、共産党の一党支配を基盤とする社会主義国家として1960−1980年代には米国と制覇を競うまでになったが、経済・社会は停滞した。ついに1991年には「ソ連」解体を迎え、大統領制を敷き、市場経済体制へ移行した。
 市場経済体制への移行による急進的な経済改革は、当初インフレ、生産率の低下などを招き、ロシア経済に大打撃を与えた。1997年に至り回復の兆しが見られたものの、1998年8月には金融危機が発生し、ロシア経済は逼迫した。しかし、1999年には国際石油価格の高騰や、ルーブル切り下げ効果により輸入代替産業が復調して経済は成長に転じた。2000年に入りプーチン氏の大統領就任後、ロシアは政治的な安定を追求しつつ、持続的な経済発展、国民生活の向上を図っている。なお、ロシアは鉱物、森林、水産など豊富な天然資源を有する国家で、特に石油と天然ガスの生産・輸出に関しては世界トップレベルのエネルギー大国である。ロシアのエネルギー産業は総輸出額の6割以上、連邦予算歳入の4割以上を占める同国最大の産業であり、原油価格の推移及び欧州各国の経済状況がロシア経済の景気に連動している。表1にロシアの経済指標を示す。
2. ロシアのエネルギー資源
2.1 ロシアの資源戦略
 ロシアは石油・天然ガスを中心とした豊富なエネルギー資源や鉱物資源を有し、エネルギー産業のロシア経済に果たす役割は大きい(表2参照)。しかしながら、エネルギー資源に過度に依存する経済は国際市況に左右され易く、不安定である。従って、エネルギー資源への依存度が強いロシア経済構造の是正は最重要課題の1つとなっている。
 2003年に公表された「2020年までを期間とするエネルギー戦略」では、(1)石油、天然ガス、石炭、電力の増産、(2)2010年以降の西部シベリア地域から東部シベリア・極東地域への石油・天然ガス主要産地の移転、(3)石油・天然ガス資源の輸出の拡大、(4)アジア向けの輸出の増大が特徴となった。同戦略では、石油は1億2,600万〜1億9,600万トン(9〜14億バレル)、天然ガスは960〜1,460億m3、石炭も電力もかなり大幅な増産を想定し、一次エネルギー全体では石油換算2億7,400万〜4億2,800万トンの増産を見込んだ。ロシアは十分な資金確保がされた場合、西側の先進技術を採用することで、追加埋蔵量の確保や、回収率の向上が期待でき、ロシアのエネルギー市場としては、米国や日本はもとより需要の激増が見込まれる中国などのアジア諸国の開拓を目指した。「2020年までのエネルギー戦略」は、予想外の石油価格の上昇と、欧州諸国の市場の開発により、想定値を超えるGDP成長率や電力・エネルギー需要を達成し、ロシアの国内経済は好転した。
 次に公表された2009年11月の「2030年までを期間とするエネルギー戦略」では、資源輸出型からイノベーション型への移行という方針を打ち出し、エネルギー部門に対して経済のイノベーション型発展を支え得る技術革新に基づいた効率的な事業運営を求めた。エネルギー資源及びエネルギー部門の潜在力を最も効率的に利用することで、経済の持続可能な発展や国民生活の質的向上、対外経済関係における地位向上などの課題の実現を支援することが政策の目標とされた。エネルギー輸出では、原油・天然ガスなどの原料に代え、付加価値の高いエネルギー製品・関連技術の比重を高める構造変化を求め、LNGや原子力技術は重要な輸出商品と位置付けられた。エネルギー資源の確保・増産はもとより、輸出先についても、欧州からアジア太平洋地域への移行を目指した。表3及び表4に「2030年までのエネルギー資源開発戦略」の概要を示す。
2.2 ロシアの資源動向
2.2.1 ロシアの石油生産の動向
 ロシアの石油生産量は、ソ連時代の1960〜1970年代に急速に増加し、1987年にはピークである年産569.5百万トン(1,154.9万バレル/日)に達した(図1参照)。その後、ソ連終焉からロシア発足にかけての混乱期に、石油生産量は急速に減少し、ほぼ1990年代を通じて、ピーク時の5〜6割の水準で低迷し続けていた。しかし、在来油田開発の外国掘削技術の導入、国際石油価格の上昇に伴う投資の拡大などにより、2000年から急速な回復を見せ、石油生産量は2000年には前年比の6%、2001年には前年比8%とさらに順調な生産量の増加を継続。パイプラインの新設により、輸出余力の拡大をもたらしたが、2006年ごろから年平均増加率が低下し、2008年には前年度比0.6%の減産、在来油田の増産余力の低下、新油田開発の遅れが顕著となっている。なお、2014年のロシアの年間石油生産量は534.07百万トン(1,083.8万バレル/日)で、これは世界全体の約12.6%に相当する。
 現在のロシアの主要な産油地域は、西シベリア、ヴォルガ・ウラル、チマン・ペチョラ、サハリンが挙げられ、なかでも最大の産油地域となっているのが西シベリアである(図2参照)。西シベリアにおける油田の開発・生産は、1980年代から本格的に行われ、石油生産全体に占めるシェアも急速に増大した。西シベリアの中では、ハントゥイ・マンシ自治管区やヤマロ・ネネツ自治管区を含むチュメニ州の生産量が圧倒的に大きく、同州の石油生産量だけで、ロシア全体の約3分の2を占める(表4参照)。一方、ヴォルガ・ウラル地域は、1970年代においてはロシア最大の産油地域であったが、油田の枯渇や老朽化が進んだ結果、石油生産量は減少傾向にある。
 なお、ロシアの石油輸出量は生産量の動向にほぼ近い形で推移し、2013年時点で石油生産量に占める輸出量の割合は約7割に達した。原油輸出先相手国は、旧ソ連時代には大半がCIS諸国向けであったが、1992年ソ連崩壊以降、CIS諸国の経済低迷に由来するエネルギー需要の減少、資金難、相互間市場の崩壊などから、輸出相手国はドイツ、イタリア、ポーランド等の欧州諸国向けへ変化していった。欧州諸国はOPEC(石油輸出国機構)産原油への過度の依存を嫌い、原油輸入国の多様化を図ったもので、ロシアの石油生産の増大は歓迎すべきものとなった。近年、ロシアは原油生産において主要な地位にあり、世界の石油取引の12%を供給し、その45%以上は欧州に輸出され、欧州市場おけるロシアのシェアは30%近くに上っている。また、ロシア石油製品も主に欧州諸国へ輸出されている。
 また、ロシアの原油輸出パイプラインは、CIS諸国向けパイプライン以外に、バレンツ海、バルト海、東欧、黒海の4方面に向けて敷設されている。ロシアは原油輸出先の多様化を視野に入れ、アジア太平洋圏へのシフトを図っている(図3参照)。2010年に東シベリア・太平洋(ESPO)パイプラインが稼働を開始し、これに繋ぎ込む東シベリア堆積盆地(タラカン(Talakan)油田(Surgutneftegaz操業、日量8万バレル)、ベルフネチョン(Verkhnechon)油田(TNK-BP、Rosneft操業、日量5万バレル))と西シベリア堆積盆地北東部(バンコール(Vankor)油田(Rosneft操業、日量24万バレル))の北極圏の2地域での油田開発とパイプライン建設が進んだほか、2011年1月から中国の大慶(Daqing)までの支線が稼働している。原油輸出の大部分は、国営企業のトランスネフチ(Transneft)がほぼ独占的に保有・管理・運営する幹線パイプラインを通じて行われている。
2.2.2 ロシアの天然ガス生産の動向
 ロシアの天然ガス生産量は、ソ連時代の1991年にピークである5,900億m3に達した後、ソ連崩壊とともに漸減傾向が続き、1990年代後半以降は概ね5,100〜5,400億m3で推移した(図4参照)。しかし、天然ガスの生産減退の度合いは石油に比べて穏やかで、2002年から増産に転じ、2006年には生産のピークを更新した。2014年のロシアの天然ガス生産量は5,787億m3で、世界天然ガス生産量の16.7%に相当する。また、ロシアの天然ガスの確認埋蔵量は32.6兆m3で、全世界の17.4パーセントを占める。これはイラン(18パーセント)についで第2位で、3位のカタール(13パーセント)を大きく引き離している。
 なお、ロシアの天然ガス生産は半国営独占企業ガスプロム(Gasprom)が全体の約75%を生産する(第2位は独立系天然ガス生産・販売会社ノヴァテク(Novatek))。ガスプロム社は1989年9月のロシア省庁改変時に発足した石油ガス工業省からコンツェルン”ガスプロム”として分離・独立したもので、その後も石油部門のように分割を受けることなく一体化を維持してきた。これまで、ロシアの天然ガス生産の8割は西シベリア北部(チュメニ州のヤマロ・ネネツ自治管区)に集中し、なかでもガスプロム社所有のメドヴェージェ(Medvede)、ウレンゴイ(Uremgoy)、ヤンブルグ(Yamburug)の3大ガス田が大きな比重を占めていたが、これらは急激に減退しつつある。今後、新規ガス田としてヤマル半島やバレンツ海など北極圏や東シベリアに分布するガス田が有望視されている。しかし、永久凍土地帯という極めて厳しい自然環境下にあり、掘削作業やパイプライン等のインフラの整備には多くの技術的・資金的な困難が予想される。加えて米国のシェールガス革命、アジア太平洋諸国のLNG生産の進展などが、ロシアの天然ガス生産バランスに影響を及ぼすものと考えられる。
 なお、産出された天然ガスは、2014年時点で52.8%がロシア国内で消費され、残りの36.2%が欧州向けに、10.9%が旧ソ連諸国向けに輸出された。天然ガスの輸出量の動向は生産量とほぼ近い形で推移し、天然ガスの輸出はおもに長期契約に基づいていることから、輸出先のシフトは極めて緩やかである。なお、ロシアは日本向けに、サハリン2プロジェクトからのLNG輸出として、2011年実績で19,534,192MMBtu(参考:1MMBtu=1,054MJ≒天然ガス25m3)を、2014年実績で49,164,207mmBTUを輸出した。エネルギー輸出用のインフラ整備も進んでおり、天然ガスパイプラインでは、バルト海経由でロシアとドイツを結ぶノルドストリームと、黒海経由のサウスストリームがプロジェクトとして進められている(図5参照)。
2.2.3 ロシアの石炭生産の動向
 世界エネルギー会議(WEC)によるエネルギー資源量調査の評価では、ロシアの石炭の埋蔵量は2014年時点で確認埋蔵量が1,570億トン(ハードコール(無煙炭及び瀝青炭)が490億トン、ブラウンコール(褐炭)が1,079億トン)で、世界全体石炭確認埋蔵量の17.6%に相当する。石炭の生産は1999年から増産に転じており、2009年には一時前年比8.3%の減産であったが、その後は増産を維持している。2014年の石炭の生産量は、前年比1.2%増の3億5759万トンであった。なお、2012年1月1日時点のロシア連邦天然資源・環境省のデータによれば、探査済ロシアの確認石炭埋蔵量は、1,937億トン(世界埋蔵量の19%)、評価済埋蔵量は795億トンに達し、推定資源量は、3兆9,227億トン(世界資源量の32%)と評価している。ロシアの評価済石炭ポテンシャルは高いと推定されるものの、探査済み確認埋蔵量の割合はロシア全体の約5%に過ぎず、信頼性は低い。
 ロシアの主要炭田・鉱床分布に関しては、確認埋蔵量の3分の2がシベリアのクズネツク(ケメロボ州)とカンスク・アチンスク(クラスノヤルスク地方)の両炭田に集中している(図6参照)。クズネツク炭田はロシア第1の生産量を誇り、最も良好な状態にある高品質のハードコールが中心で、探査済の埋蔵量は520億トンとされている。カンスク・アチンスク炭田は褐炭中心で、生産量はクズネツク炭田に及ばないものの、確認埋蔵量は793億トンとされている。そのほかにシベリア・イルクーツク州のイルクーツク炭田(確認埋蔵量76億トン)や極東サハリン共和国のユジノ・ヤクート炭田(確認埋蔵量46億トン)、コミ共和国のペチョーラ炭田(確認埋蔵量71億トン)などが操業している。
<図/表>
表1 ロシアの主要経済指標の推移
表1  ロシアの主要経済指標の推移
表2 ロシアの一次エネルギー需給バランス
表2  ロシアの一次エネルギー需給バランス
表3 2030年までのロシアのエネルギーバランス計画
表3  2030年までのロシアのエネルギーバランス計画
表4 ロシアの2030年までのエネルギー資源生産計画
表4  ロシアの2030年までのエネルギー資源生産計画
図1 主要産油国の石油産出量の推移
図1  主要産油国の石油産出量の推移
図2 ロシアにおける石油埋蔵量と天然ガス埋蔵量
図2  ロシアにおける石油埋蔵量と天然ガス埋蔵量
図3 ESPOパイプラインと近年の北東アジアにおける原油輸出の実態
図3  ESPOパイプラインと近年の北東アジアにおける原油輸出の実態
図4 主要産ガス国の天然ガス生産量の推移
図4  主要産ガス国の天然ガス生産量の推移
図5 ロシアの天然ガスパイプラインと増設計画
図5  ロシアの天然ガスパイプラインと増設計画
図6 ロシアの主要炭田・鉱床分布
図6  ロシアの主要炭田・鉱床分布

<関連タイトル>
IEAによるロシアのエネルギー事情のレビュー(2002年) (01-07-06-12)
ロシアの原子力政策 (14-06-01-01)
ロシアの原子力発電開発 (14-06-01-02)
ロシアの原子力開発体制 (14-06-01-03)

<参考文献>
(1)(社)海外電力調査会:海外諸国の電気事業、第1編2014年版(2014年1月)、上巻、ロシア
(2)国際エネルギー機関(IEA):Russian Federation:Balances for 1993〜2013
(3)外務省:各国・地域情勢、欧州、ロシア連邦、http://www.mofa.go.jp/mofaj/area/russia/index.html
(4)ガスプロム(GAZPROM):Gas and oil reserves、http://www.gazprom.com/about/production/reserves/及びTransmission、Unified Gas Supply System of Russia、http://www.gazprom.com/about/production/transportation/
(5)日本国際問題研究所 本村眞澄:ロシアにおける石油・天然ガス開発の現状と展望、http://www2.jiia.or.jp/pdf/resarch/H23_Russia/05_Motomura.pdf
(6)国際公共政策研究センター石野務:ロシア関連メモ106、2030年までのロシアのエネルギー政策、2013年8月、http://www.cipps.org/group/russia_memo/106_140827.pdf
(7)BP:Statistical Review of World Energy 2015、http://www.bp.com/en/global/corporate/energy-economics/statistical-review-of-world-energy.html
(8)JCOAL資源量評価調査チーム:ロシア連邦国石炭資源量評価報告書、2012年11月、http://www.jcoal.or.jp/coaldb/country/%E3%83%AD%E3%82%B7%E3%82%A2%E9%80%A3%E9%82%A6%E5%9B%BD%E7%9F%B3%E7%82%AD%E8%B3%87%E6%BA%90%E9%87%8F%E8%A9%95%E4%BE%A1%E5%A0%B1%E5%91%8A%E6%9B%B8.pdf
(9)IMF:World Economic Outlook Database October 2015、https://www.imf.org/external/pubs/ft/weo/2015/02/weodata/index.aspx
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