<大項目> 海外情勢
<中項目> ヨーロッパ各国
<小項目> スイス
<タイトル>
スイスの原子力発電開発と開発体制 (14-05-09-02)

<概要>
 スイスの原子炉の研究開発は、1959年の原子力法に基づいて1962年に着工した加圧管実験炉(GCHWR)からスタートした。研究開発の主体は、パウル・シェラー研究所(PSI)で材料科学、固体物理学、素粒子物理学、放射化学、天体、放射線医療、環境科学などの研究を行っている。但し、放射性廃棄物に関する処理・処分研究は1972年に設立されたスイス放射性廃棄物管理共同組合(NAGRA)がPSIと連携して、グリムゼル試験サイトとモン・テリ岩盤研究所で処分場と同様の条件下での実証試験や岩盤特性研究などを行っている。
 2009年1月末現在、5基・337万2000kWの原子力発電所が稼働している。原子力発電所を所有、運転している電力会社はNOK、BKW、KKG、KKLの4社で、発電所の主契約者はWH、GE、BBC、KWUである。原子力は総発電電力量の約40%を供給し、水力(56%)に次ぐ主要な電源となっている。
 スイスでは1990年の国民投票の結果、原子力発電所の新規建設が10年間凍結された。しかし、原子力発電所が寿命をむかえる2020年以降の電力需給の逼迫が現実味を帯びたことから、2005年2月に改正原子力法が発効され、原子力設備の建替えに向けた動きが活発化している。
<更新年月>
2009年12月   

<本文>
1.原子力発電の開発状況
 連邦政府は、他の経済活動と同様、原子力の開発導入を市場原理主義で進め、安全審査と許認可だけに関与してきた。1950年代末から1960年代にかけて水力発電開発が頭打ちとなり、大型火力も燃料輸送や環境問題から建設が難しくなったため、原子力導入の検討が始まった。電力各社は国内研究炉の成果や外国での研究開発を参考に、軽水炉、重水炉およびガス冷却炉の実現可能性を検討するフィージビリティ・スタディを行った結果、軽水炉の導入に踏み切った。
 国内最大の電力会社である北東スイス電力会社(NOK)は1965年、ウェスチングハウス(WH)社にベツナウ1号機(PWR、38万kW)を発注した。翌年の1966年にはベルン電力会社(BKW)がゼネラル・エレクトリック(GE)社にミューレベルク原子力発電所(BWR、37万2000kW)を、さらに1967年にNOKがWH社にベツナウ2号機(PWR、38万kW)を発注した。1973年には、ゲスゲン・デニケン共同原子力発電会社(KKG)がゲスゲン発電所(PWR、102万kW)をシーメンスKWU社に、またライプシュタット共同原子力発電会社(KKL)がライプシュタット発電所(BWR、120万kW)をGE社へ発注している。原子力発電所の契約は、ターンキー(完成品引渡し)方式とした。表1に原子力発電所の概要を、図1にその所在地を示す。
 2009年末現在、4サイトで5基337万2000kWの原子力発電所が稼動中で、ベツナウ1、2号機とゲスゲンではMOX燃料が装荷されている(図2参照)。2008年の原子力発電による電力供給は総発電電力量(670億kWh)の約40%(263億kWh)を占め、水力(56%)についでスイスの重要な電力源となっている。ベツナウ発電所はレフナ地域暖房システムに、ゲスゲン発電所はニーダーゲスゲンの製紙工場に熱を供給している。なお、水力の冬期渇水期の電力不足分を補うため、フランス電力会社(EDF)のビュジェイ発電所やカットノン発電所から合計75万kWの電力供給を受けるなど、フランスとは2017年までの長期電力輸入契約を結んでいる。
 スイスでは、1970年後半から1980年代前半にかけて準国産エネルギーである原子力は、国民の大半の支持を得ていた。しかし、TMI事故(1979年)やチェルノブイリ事故(1986年)などの国外原子力事故を契機に原子力反対運動が激しくなった。これにより、カイザーアウクスト(BWR、92万kW)とグラーベン(BWR、114万kW)発電所の新規建設は許可されたものの、強い反対をうけて計画は頓挫している。スイスの原子力政策は1990年の国民投票の結果、新規の原子力発電所建設を10年間凍結することが採択された。しかし、原子力発電所が設計寿命を迎える2020年以降、深刻な電力不足が予測されることから、2003年3月に改正原子力法案が承認され、1990年以来凍結されていた新規の原子力発電所建設は、計画の是非を別途、国民投票に委ねることとなった(詳しくはATOMICAタイトル<14-05-09-07>スイスの国民投票を参照)。国民投票で反原子力イニシャティブが否決されたことで、連邦政府は原子力開発を再開する改正原子力法を2005年2月に発効した。さらに2007年2月には「2035年までのエネルギー見通し」を発表し、2020年以降の長期的な電力需要を満たすため、スイスのベース電源を担う原子力設備の建て替えとガス・コンバインドサイクル発電設備の建設が必要とした。
 原子力発電所の新規建設に向けた動きは、現在既に具体化している。スイス電気事業者ATEL(2009年2月EOS社と合併して公共事業企業アルピック(Alpiq)社へ、仏EDFが株式の25%を保有)は2008年6月、ゲスゲンに隣接するニーダーアトムに原子炉の新規建設を政府へ提出している。また、ベツナウおよびミューレベルク発電所を所有するAXPO社とBKW社も2008年12月に3基の建て替えと、2基を新規建設する包括申請を連邦政府へ提出している。出力160万kW程度の軽水炉が想定されている。
 なお、新規建設プロジェクトは地元、近隣州政府および近隣諸国、連邦政府、議会からの審査承認の後、Alpiq社は2010年〜11年、AXPO社とBKW社は2012年〜13年頃、国民投票の実施を予定している。国民の同意が得られた場合、炉型、製造メーカーなどを決定、許認可手続きを踏み、建設へと移行する。2020年〜2023年の運転開始を目指す。
2.研究開発体制
 スイスでは1959年に原子力法を制定したが、原子力の研究開発への政府出資は、他の先進工業国と比べて小額であった。原子力工業利用推進会社(NGA)は1962年にはスイス初の加圧管実験炉リュサン(Lucens:GCHWR、8.3MWe)に着工、1968年に完成して研究活動が行われた。しかし翌1969年、冷却材喪失から炉心溶融、放射線の環境への放出を起こして閉鎖された。1988年以降の連邦政府の研究開発は、連邦原子炉研究所(EIR:Federal Institute for Reactor Research、1960年設立)と原子力研究所(SIN:Swiss Institute for Nuclear Physics、1968年設立)の活動を引き継いだパウル・シェラー研究所(PSI:Paul Scherrer Institute)に集中している。現在、PSIは、1,250人の職員と100ヵ国以上1,400人の外部研究者が働く最大、かつ原子力分野では唯一の国立研究所である。材料科学、固体物理学、素粒子物理学、放射化学、天体、放射線医療、環境科学など、所掌範囲は多様である(図3参照)。原子力関連施設としては、医療、産業およびPSI等の研究施設から発生する放射性廃棄物の収集、処理、貯蔵および連邦中間貯蔵施設(BZL)、PROTEUS(ゼロ出力研究炉)、PIOTRON(医療用照射施設)、72MeVサイクロトロン、パイロット焼却設備等がある。
 なお、放射性廃棄物の処理・処分・貯蔵管理に関する研究はPSIと連携してスイス放射性廃棄物管理共同組合(Nagra:Nationale Genossenschaft fur die Lagerung Radioaktiver Abfalle)が行っている。1978年初頭、既存の原子力発電所を所有するあるいは建設を計画している電力会社は、連邦政府より、操業の許認可の継続および新規申請を受理するための条件として、スイス国内における放射性廃棄物の安全な処分の実現性を1985年までに明示することが要求された。廃棄物管理に要する費用は発生者負担であるが、研究開発および処分サイト選定までを行う機関として、電力および連邦政府によって、NAGRAは 1972年に設立した。NAGRAは地下研究施設として、結晶質岩を対象としたグリムゼル試験サイト(1984年〜)と堆積岩のオパリナス粘土を対象としたモン・テリ岩盤研究所(1996年〜)を設置して、処分場と同様の条件下での実証試験や岩盤特性研究などを行っている(図4参照)。そのほか、加速器を用いて素粒子物理や原子核物理学研究を行う欧州共同原子核研究所(CERN:European Organization for Particle Physics)がジュネーヴ郊外に、プラズマ物理研究所(CRPP:Plasma Physics Research Center of Switzerland)がローザンヌにある。
<図/表>
表1 スイスの原子力発電所一覧
図1 スイスの主な原子力関連施設配置図
図2 スイスのMOX燃料利用の状況
図3 パウル・シェラー研究所(PSI)組織図
図4 スイスにおける地下研究施設

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<関連タイトル>
ガス冷却重水炉(HWGCR) (02-01-01-08)
スイスのエネルギー政策と原子力政策・計画 (14-05-09-01)
スイスの原子力安全規制体制 (14-05-09-03)
スイスの核燃料サイクル (14-05-09-04)
スイスの電気事業および原子力産業 (14-05-09-05)
スイスの国民投票 (14-05-09-07)

<参考文献>
(1)(社)海外電力調査会:海外諸国の電気事業 第2編 2000年(2000年3月)、p.53-61
(2)(社)日本原子力産業協会:世界の原子力発電開発の動向 2009次報告(2009年4月)、p. 63、108−109
(3)(社)日本原子力産業協会:原子力年鑑 平成2010年版(2009年10月)、p.242-246
(4)経済産業省資源エネルギー庁:諸外国における高レベル放射性廃棄物の処分について(2009年2月)、http://www2.rwmc.or.jp/overseas/pub/For_web/whole_web.pdf、p.134-146、178-183
(5)パウル・シェラー研究所(PSI)、http://www.psi.ch/index_e.shtml
(6)(財)日本原子力文化振興財団:原子力2009、2009年9月、p.132
(7)電気事業連合会:原子力2009 [コンセンサス]、
http://www.fepc.or.jp/about_us/pr/sonota/__icsFiles/afieldfile/2009/01/15/
2009_Consensus0114_2.pdf、 p.18
(8)(財)原子力環境整備促進・資金管理センター:スイスの地層処分状況(2008年11月)、http://www2.rwmc.or.jp/overseas/pub/For_web/swi.pdfおよび海外における高レベル放射性廃棄物処分の現状(2009年3月)、http://www.meti.go.jp/committee/materials2/downloadfiles/g90331b02j.pdf
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