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<概要>
 フランスでは、従来、高レベル・長寿命放射性廃棄物深地層処分する方針であったが、1991年に「放射性廃棄物管理の研究に関する法律」が制定され、深地層処分に加えて、長寿命放射性核種の分離・核変換、地上での長期貯蔵についても研究を行うことを決めた。また、同法では、深地層処分場に先立って建設される地下研究所の立地・建設・操業、ならびに地下研究所設置に必要な諸手続きも規定された。さらに、放射性廃棄物管理機関として既存の放射性廃棄物管理庁ANDRA)の責任を明確化するとともに、その業務の性格を「工業・商業的性格の公的機関」と変更した。
 深地層処分については、同法に従い、地下研究所は粘土層と花崗岩層の2箇所が建設されることになり、現在、選定作業が進められている。粘土層サイトはムーズ県東部のビュールに決定し、建設が順調に進んでいるが、花崗岩層サイトの選定作業は候補地の反対のため中断している。同法では、2006年までに、上述の分離・核変換、長期貯蔵の研究を実施し、議会で処分方法を決定することになっている。また、バタイユ国会議員は、2001年5月、議会科学技術評価局(OPECST)から報告書を発表し、上述の研究に加えて、現在、再処理待ちの形で貯蔵されている一部の使用済み燃料について、長期貯蔵および直接処分の可能性を検討することを提案している。
<更新年月>
2001年11月   

<本文>
1.「放射性廃棄物管理の研究に関する法律」成立までの経緯
 フランスは、従来、高レベル・長寿命廃棄物は深地層処分する方針で、その処分場地点選定のため、放射性廃棄物管理庁(ANDRA)は、1983年に28の候補地点を選定し、さらに1987年には、この中から4カ所に絞って、地下研究所建設のための準備作業に着手した。しかし候補地点では、地元住民や環境保護団体などによる反対運動が高まり、このため、1990年、政府は選定作業を凍結するとともに、議会の諮問・検討を経て、高レベル・長寿命廃棄物に関する法律を制定することを決定し、1992年12月に、「放射性廃棄物管理の研究に関する法律(以下、「廃棄物管理研究法」と呼ぶ)」として制定した。この法律は、社会党バタイユ国会議員が中心となって制定したため、バタイユ法とも呼ばれている。
 また、同法では、深地層処分場に先立って建設される地下研究所の立地・建設・操業、ならびに地下研究所設置に必要な諸手続き(環境影響調査、地元意見調査、交付金の運用を行う公益団体の設置、情報公開のための地元情報監視委員会の設置など)も規定された。また、放射性廃棄物管理機関として、既存の「放射性廃棄物管理庁」(ANDRA)の責任を明確化するとともに、その業務の性格を「工業・商業的性格の公的機関」と変更した(そのため、以下では、「放射性廃棄物管理公社」と呼ぶ)。
2.「廃棄物管理研究法」で規定された高レベル・長寿命廃棄物対策
 「廃棄物管理研究法」は全部で15条から構成している。内容は、(1)高レベル・長寿命放射性廃棄物の管理に関する基本的考え方・思想(第1条〜第3条)、(2)廃棄物管理の研究の進捗状況と総括評価の報告書提出(第4条)、(3)深地層研究のための地下研究所の設置(第5条〜第12条)、(4)ANDRAの組織改革(第13条)、(5)地元情報監視委員会の設置(第14条)、(6)施行令の制定(第15条)というように6つに分類できる。主な内容は以下のとおり。
(1)廃棄物管理の基本的考え方
・高レベル・長寿命の放射性廃棄物管理は、将来世代の権利を考慮して実施する。
・期間を定めない廃棄物の貯蔵(深地層処分)の許可は、別途、法律を定めて実施する。
・外国からの放射性廃棄物は、仮にその廃棄物が再処理委託によって発生した場合でも、再処理上、技術的に必要とされる期間を越えて貯蔵してはならない。
(2)廃棄物管理研究の報告
・長寿命放射性廃棄物核種の分離・核変換、地下研究所による深地層処分の実現可能性、廃棄物の処理等と長期貯蔵の3通りの研究について、毎年1回、政府はその進捗状況を議会に報告する。
・15年以内に、これらの研究を総括評価した報告書を、政府は議会に提出し、議会は法律の制定によって、処分場の建設を行うかどうかを決める。
・報告書は全て公開される。また、報告書の評価は、議会と政府が関係各界の推薦に基づいて指名した国家評価委員会(CNE)が行う。
(3)深地層処分研究のための地下研究所の設置
・地下研究所設置計画は、予備調査開始に先立ち地元の議員および住民に諮る。
・地下研究所の許可発給に先立ち、環境影響調査を行うとともに、当該市町村・県・地域圏の議会の答申を受ける。
・地元住民からの意見聴取を、「地元意見調査」(公益性を持つ設備の建設などに際して行われる公益事業認定手続きの一環として実施。町役場に設置された意見台帳への住民による意見記入、公聴会開催などが特徴)により行う。
・地下研究所ではホット試験はできるが、実廃棄物の試験はできない。
・地下研究所の設置を促進するための交付金運用のため、地元市町村・県・地域圏が参加する公益団体を設ける。
(4)ANDRAの組織改革
・廃棄物管理に関する3種類の研究を実施する。
・地下研究所の立地、建設および操業を行う。
・将来の処分場の設計、建設、操業および閉鎖を行う。
(5)地元情報監視委員会の設置
・当面の地下研究所立地に関して、そして将来は処分場立地に関して、政府の代表、上下両院の議員(2名ずつ)、関係市町村・県・地域圏の議員、環境保護団体のメンバー、農業その他の職業団体の代表、サイト周辺住民の代表、およびANDRAから成る地元情報監視委員会を設ける(議長は地元の県知事。委員の半数以上は地元の議員による)。
・同委員会は年2回以上開催され、地下研究所(および将来は処分場)の立地に関係する情報は全て同委員会に提供され、地下研究所(および将来の処分場)立地による環境影響を中心としたあらゆる問題が討議される。
3.最近の動向
 深地層処分については、同法に従い、地下研究所は粘土層と花崗岩層の2箇所が建設されることになり、2001年現在、選定作業が進められている。しかし、粘土層サイトはムーズ県東部のビュールに決定し、建設が順調に進んでいるが、花崗岩層サイトの選定作業は候補地の反対のため、フランス政府は、2000年5月に地元住民との対話をしない方針を固め、花崗岩層サイトの選定は行き詰まっている。 図1 にムーズ県東部に建設を予定しているビュール地下研究所の位置を示す。
 同法では、2006年までに、上述の3つの研究を実施し、議会で処分方法を決定することになっている。
 このように、同法に基づいての研究が行われる中、同法の制定の中心となったバタイユ議員(社会党)は、2001年5月、議会科学技術評価局(OPECST)から報告書を発表した。同議員は、この中で、これらの研究に加えて、再処理待ちとなっている一部の使用済み燃料について、長期貯蔵と直接処分の可能性を検討すべきであると提案している。現在、1年間に1,050トン発生する使用済み燃料は、850トンが再処理され、残りは再処理を待って貯蔵されている。
<図/表>
図1 ムーズ県東部のビュール地下研究所の位置
図1  ムーズ県東部のビュール地下研究所の位置

<関連タイトル>
フランスの原子力政策および計画 (14-05-02-01)
フランスの原子力発電開発の状況 (14-05-02-02)

<参考文献>
(1) LoiNO.91−1381 du 30 decembre 1991 relative aux recherches sur la gestion des dechets radioactifs,Legislation et reglementation,Surete nucleaire en France,1999
(2) 海外電力調査会:「海外電力」1992年4月号、p.17?21
(3) 海外電力調査会:「海外電力」2000年8月号、p.89?90
(4) 海外電力調査会:「海外電力」2001年8月号、p.61?63
(5) 原子力環境整備促進・資金管理センターのホームページ(http://www.rwmc.or.jp)、諸外国の高レベル放射性廃棄物処分の現状(スイス、フランス、英国)、処分の進歩
(6) フランス放射性廃棄物管理庁(ANDRA)のホームページ(http://www.andra.fr
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