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<概要>
 カナダは世界第1位のウラン生産国で、2008年には世界全体の約20.5%にあたる9,000tUを生産した。2009年12月末現在、カナダのウラン生産会社Cameco社により世界最大級のマッカーサーリバー/キーレイク鉱山が操業されているほか、マックリーンレイク鉱山およびラビットレイク鉱山の3つの鉱山が操業中、また、2つの鉱山が計画中で、これらはすべてサスカチワン州アサバスカ堆積盆地に存在している。生産したウランの約80%が米国、日本、欧州、韓国など長期契約を結んだ国に輸出され、残りの20%がカナダで開発された重水炉(CANDU)の燃料製造用となる。ウラン濃縮プラントはない。カナダは豊富なウラン資源を有することから、経済性を重視して使用済燃料再処理をしないワンス・スルー路線を採用している。2002年11月の核燃料廃棄物法の制定に伴い、使用済燃料管理と地層処分事業の実施主体である核燃料廃棄物管理機関(NWMO)が設立され、使用済燃料は当面(60年間)、サイト貯蔵、集中貯蔵され、最終的に回収可能な地層処分へ移行する「適応性のある段階的管理」が2007年6月に承認されている。
<更新年月>
2010年01月   

<本文>
1.カナダのウラン産業
 カナダは世界第1位のウラン生産国で、2008年には世界全体の約20.5%にあたる9,000tUを生産した。2009年12月末現在、3つの鉱山が操業中、2つが計画中であるが、これらはすべてサスカチュワン州に存在している(図1参照)。2007年1月現在、確認資源量は423,000tU(US$130/kgU以下、OECD/NEA&IAEA:URANIUM2007)で、オーストラリア、カザフスタン、ロシア、南アフリカに次ぐ規模である。また、カナダのウラン生産者Cameco(カメコ)社は世界のウラン生産量の約15%を占め、フランスの原子力産業Areva(アレバ、旧Cogema)、英国・オーストラリアのRio Tinto(リオ・ティント)とともに世界を代表するウラン供給企業である。生産量の約80%は米国、日本、韓国、欧州など長期契約を結んだ国に輸出している。
2.ウラン資源の探鉱およびその生産
 カナダのウラン探鉱は軍事目的のため、1942年に政府主導の下に開始された。活動は北西準州のグレイトベアレイク地域(Great Bear Lake)から始まり、サスカチワン州北部のビーバーロッジ地域(Beaverlodge)やオンタリオ州のブラインドリバー/エリオットレイク地域(Blind River/Elliot Lake)へ、1960年代にはサスカチワン州のアサバスカ堆積盆地(Athabasca Basin)へと探鉱の重点が移った。現在、探鉱は不整合関連型と呼ばれる高品位のウラン鉱床が多数発見されたサスカチワン州アサバスカ堆積盆地(Athabasca Basin)で集中的に行われ、ヌナブト準州と北西準州にまたがるThelon堆積盆地やHornby Bay堆積盆地でも実施されている。近年のウラン価格の高騰に伴い2004年以降資源探査は急増し、2008年にカナダ国内に投下したウラン探鉱費(採鉱試験を含む)は1.954億ドルで、その大部分は地下での探鉱、鉱床評価活動等に割当てられている。現行の探鉱活動はカナダ、フランス、日本など40社余りが参加している。
 ウラン資源の生産は、マッカーサーリバー/キーレイク鉱山が世界最大級のウラン鉱山としてCameco社により操業しているほか、マックリーンレイク鉱山がAreva社により、ラビットレイク鉱山がCameco社により操業している。2008年には9,000tUを生産したが、その71%がマッカーサーリバー鉱山によるものであった。現在操業中のキーレイクとラビットレイク鉱山は枯渇が予想されるが、2011年にはシガーレイク鉱山が生産を開始する予定である。表1にカナダのウラン鉱山の概要を示す。
■ マッカーサーリバー(McArthur River)鉱山(操業中)
 Saskatoonから北方650kmに位置し、鉱石品位は世界平均の約100倍の20.6%U3O8 で世界最高。鉱石は全て鉱山から南西80kmに位置するキーレイク(Key Lake)製錬所にて処理される。マッカーサーリバー鉱山とキーレイク製錬所の操業規模は世界最大で、2008年には世界全体のウラン生産量の18%を占めた。鉱山と製錬所の生産並びに処理量を現行の1870から2200万ポンドU3O8へ拡張する計画がある。
■ マックリーンレイク(McClean Lake)鉱山(操業中)
 Saskatoonの北方700kmに位置している。1979年にマックリーンレイク(McClean Lake)鉱体が発見されて以来、1982年にJEB鉱体、1985〜1990年にはSue A、B、C 鉱体が相次いで発見された。1995年にJEBで露天掘方式の採掘が開始されて以来、JEB及びSue Cと続き、現在は Sue Eのみ採掘している。ウラン品位は1.3%、脈幅30cm程度の露天掘りピットを地下120mまで掘下げて終掘する。2010年までSue B、カリブー地区の採掘を行う。
■ ラビットレイク(Rabbit Lake)鉱山(操業中)
 Saskatoonの北方800kmに位置し、サスカチワン州のウラン稼動鉱山としては最も古く、生産開始は1975年に遡る。ラビットレイク(Rabbit Lake)鉱床の露天掘ピットは既に枯渇しており、現在はEagle Point鉱床(坑内掘)で採掘中。2006年に実施された探鉱活動により、Eagle Point 鉱床の埋蔵量は1750万ポンドU3O8へと増加し、2013年までの生産が予想されている。
■ シガーレイク(Cigar Lake)鉱山(建設中)
 Saskatoonの北方660kmに位置する世界第2位の高品位ウラン鉱山である。坑内出水事故の復旧作業等で生産開始は当初計画より遅れ、2011年を予定している。生産開始直後の鉱石処理はAreva社のMcClean製錬所で行うが、フル稼動後はCameco社のRabbit Lake製錬所と折半して行う。鉱床は地下400m以深に位置し、坑内作業従事者の放射線防護(品位20.67%)と鉱体周辺の砂岩層の固定のため、人工凍結によるジェット・ボーリング採鉱法(予め凍結した鉱体に高圧水を噴射して鉱石を回収する方法)を採用する計画である。
■ ミッドウエスト(Midwest)鉱山(建設準備中)
 Saskatoonの北方750kmに位置し、1978年にミッドウエスト(Midwest)鉱体が発見されて以来、開発計画の中止や変更を経て、露天掘の計画が進められている。2005年冬期には鉱床北方3kmのMae Zoneにおいて高品位ウラン(品位20%以上)が発見され、追加埋蔵量が期待されている。
 日本のウラン探鉱に関しては、核燃料サイクル開発機構(現、日本原子力研究開発機構)が動力炉・核燃料開発事業団時代も含め、カナダ、オーストラリアの世界の最有望地域を中心に、約30年にわたり実施してきた。当時、約4万tUに及ぶ鉱量の確保はCameco、Cogemaに次ぐ探鉱権益の保有であった。2000年9月、探鉱権益の民間移転に伴い、国内企業4社(伊藤忠商事株式会社、海外ウラン資源開発株式会社、三菱商事株式会社、三菱マテリアル株式会社)が設立する合弁企業(コンソーシアム)へ継承されている(表2参照)。
 なお、カナダでは鉱山開発の進展と同時に1990年代から鉱山の多数が操業停止になり、鉱山跡措置計画が進んでいる。硫化物を含む捨石は酸性水発生防止対策が実施され、鉱宰のほとんどが圧密処理や覆土、植栽の措置が鉱山ごとに規制当局と話し合いで実施されている。
2.精錬
■ マックリーンレイク(JEB)製錬所
 Saskatoonの北方700kmに位置し、1999年から運転開始された世界最新鋭の精錬施設を持つ。当初、Sue A、B、C、McClean Northの鉱石を対象としていたが、2006年に拡張し、2011年からシガーレイクのスラリー状鉱石を、2012年からミッドウエストの鉱石を受け入れ開始する計画である。なお、2010年の年間処理能力は1600万ポンドU3O8へと拡張される予定である。
■ Rabbit Lake製錬所
 Saskatoonの北方800kmに位置し、1975年に操業開始。カナダで最も長く操業している製錬所であり、ウラン処理能力は世界第2位。シガーレイク鉱山のフル稼動に向けて(2012年頃)必要な改造が行われる見込みである。
3.転換(表3および図2参照)
 ウラン鉱山で生産されたU3O8はCameco社のBlind River(オンタリオ州)でUO3に精製された後、Port Hope(オンタリオ州)に運ばれ、80%はUF6に転換され、20%はUO2に精製される。UF6は国外で濃縮された後、軽水炉で使用される。UO2はオンタリオ州の2ヶ所の燃料加工工場で、主に国内のCANDU炉用燃料に加工される。
4.成型加工(表3および図2参照)
 Canadian General Electric Co. がCANDU炉用燃料集合体の組立および燃料ペレットの製造をしている。また、ZPI(Zircatec Precision Industies Inc.)が燃料被覆管、燃料設計、燃料集合体の加工等を行なっている。
5.重水(表3および図2参照)
 カナダでは2010年1月現在、22基の原子力発電所のうち、18基が稼動中。天然ウランを利用するカナダで開発されたCANDU炉を採用している。CANDU炉は中性子減速材に重水を使用するため、重水生産施設を持つ。
6.濃縮・再処理
 カナダは、原子力開発の当初から重水炉路線をとっているため濃縮施設はなく、ワンス・スルー路線を採用しているため、再処理施設もない。
7.放射性廃棄物の貯蔵
 カナダでは2002年11月の核燃料廃棄物法の制定に伴い、使用済燃料管理と地層処分事業の実施主体である核燃料廃棄物管理機関(NWMO)が設立され、使用済燃料は当面(60年間)サイト貯蔵、集中貯蔵され、最終的に回収可能な地層処分へ移行する「適応性のある段階的管理」が2007年6月に承認されている。また、低中レベル放射性廃棄物はブルース発電所が立地するオンタリオ州キンガーデンの廃棄物集中管理施設で貯蔵されている。隣接エリアには長期貯蔵のための深地層処分場の建設を計画している。詳しくはATOMICAタイトル「カナダの放射性廃棄物管理とPA対策<14-04-02-07>」参照のこと。
(前回更新:2001年2月)
<図/表>
表1 カナダのウラン鉱山の規模・内容
表1  カナダのウラン鉱山の規模・内容
表2 核燃料サイクル開発機構における海外鉱業権益表
表2  核燃料サイクル開発機構における海外鉱業権益表
表3 カナダの主な核燃料サイクル施設
表3  カナダの主な核燃料サイクル施設
図1 カナダのウラン鉱山における年間産出量
図1  カナダのウラン鉱山における年間産出量
図2 カナダの原子力関連施設配置図
図2  カナダの原子力関連施設配置図

<関連タイトル>
カナダ型重水炉(CANDU炉) (02-01-01-05)
重水冷却圧力管型炉(CANDU)の開発 (03-02-05-03)
カナダのウラン鉱業政策と資源量(レッドブック2003) (04-02-01-09)
カナダのウラン鉱山 (04-03-01-05)
外国における高レベル放射性廃棄物の処分(2)−ベルギー、スイス、カナダ編− (05-01-03-08)
カナダの原子力政策・計画 (14-04-02-01)
カナダの原子力発電開発 (14-04-02-02)
カナダの原子力開発体制 (14-04-02-03)
カナダの電気事業および原子力産業 (14-04-02-06)
カナダの放射性廃棄物管理 (14-04-02-07)

<参考文献>
(1)OECD/NEA:URANIUM-RESOURCES, PRODUCTION AND DEMAND−2005 OECD(2006)
(2)(社)海外電力調査会:海外諸国の電気事業 第1編 2008年版、2008年10月、p.20-23
(3)(社)日本原子力産業協会:世界の原子力発電開発の動向 2009年版、2009年4月
(4)(独)日本原子力研究開発機構:核燃料サイクル開発機構の海外ウラン探鉱に係る権益等の取扱いについて、http://www.aec.go.jp/jicst/NC/iinkai/teirei/siryo2000/siryo37/siryo11.htmおよび最近のウラン探鉱・開発動向(パート1;カナダ)Rep 06-9、2006年11月、http://www.jaea.go.jp/03/senryaku/report/rep06-9.pdf
(5)(独)日本原子力研究開発機構:方面捨石たい積場について(核燃料サイクル開発機構 人形峠環境技術センター)、2001年1月
(6)世界原子力協会(WNA:World Nuclear Association)、Uranium in Canada, http://www.world-nuclear.org/info/inf49.htmlおよびWorld Uranium Mining, http://www.world-nuclear.org/info/inf23.html
(7)カナダ天然資源省
(8)Saskatchewan Mining Association:Uranium in Saskatchewan 2008 Fact Sheets,
(9)国際原子力機関(IAEA):原子燃料サイクル情報システム(NFCIS)
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