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<概要>
 カナダの原子力開発は、国産のカナダ型重水炉(CANDU炉)開発と豊富なウラン資源の開発の2つを柱として行われてきた。前者は国策会社のカナダ原子力公社(AECL:Atomic Energy of Canada Ltd.)が中心的な役割を演じており、後者は現在、民間会社であるカメコ社とアレヴァ社(フランス)が中核となっている。
 また、これらの原子力開発活動を規制する組織として、カナダ原子力安全委員会CNSC)が設置されている。CNSCは連邦政府の独立組織で、原子力施設に対する許認可手続きを担当している。CNSCは原子力安全管理全般に関する規制のほか、放射線防護に関する規制、原子力施設に関する規制、ウラン鉱山・製錬に関する規制、核物質ならびに放射線機器に関する規制、核物質の梱包ならびに輸送に関する規制、原子力保安に関する規制などの個別の規則文章を発行して、具体的な手続きを定めている。
<更新年月>
2013年01月   

<本文>
 カナダの原子力開発は、国産のカナダ型重水炉(CANDU炉:Canada Deuterium Uranium Reactor)開発と豊富なウラン資源の開発の2つを柱として行われてきた。また、これらの原子力開発活動を規制する組織として、カナダ原子力安全委員会(CNSC:Canadian Nuclear Safety Commission)が設置されている。カナダの原子力行政組織を 図1 に、CNSCの組織図を 図2 に示す。
1.CANDU炉の開発
 現在カナダには22基の運転中(休止中含む)の原子力発電所があるが、炉型はすべてCANDU炉と呼ばれるカナダ型重水炉である。CANDU炉は燃料に天然ウラン減速材および冷却材に重水を使用するカナダ独自の原子炉である。国内に豊富に産出する天然ウランを濃縮せずに燃料として使用できるため、濃縮施設等を建設する必要がない。また、原子炉を停止しないで、運転中のままで燃料交換が可能な構造を採用しており、設備の稼働率を高めることができる。
 カナダの原子力産業は、国によって設立されたカナダ原子力公社(AECL:Atomic Energy of Canada Ltd.)によって推進されたCANDU炉の開発とともに歩んできた。
 カナダは第二次世界大戦中に米英と共同で原爆開発計画(マンハッタン計画)に参加していたが、やがてこれを離脱し、原子力の平和利用を目指した。1942年には原子炉研究のために、カナダ国家研究評議会(National Research Council of Canada)のもとに、AECLの前身となる英国とカナダの共同研究所がケベック州モントリオールに設置された。終戦を迎えた1945年にオンタリオ州のチョークリバーにパイロットスケールの重水試験炉ZEEP(Zero Energy Experimental Pile)が完成したことにより、モントリオール研究所は翌1946年に閉鎖され、原子力研究はチョークリバー研究所に引き継がれた。1947年には、チョークリバー研究所で天然ウラン燃料のフルスケール重水研究炉NRX(National Research eXperimental)が運転を開始した。
 1952年、カナダ連邦政府は原子力の平和利用に関する研究開発の中心的役割を果たす機関として、連邦政府の100%出資による国策会社であるAECLを設立した。AECLはチョークリバー研究所を引き継いでCANDU炉開発を本格化させ、1962年にはオンタリオ州ロルフトンに2万kWのCANDU実証炉NPD(Nuclear Power Demonstration)を完成。1971年には商業用CANDU炉の第1号となるピッカリングA発電所1号機(54.2万kW)が営業運転を開始した。
 放射性廃棄物の処分に関する研究開発は、1963年にAECLの2カ所めの研究所としてマニトバ州ピナワに開設されたホワイトシェル研究所で重点的に行われた。ホワイトシェル研究所には、1978年に使用済み燃料の地層処分に関する基礎研究のための地下研究施設URL(Underground Research Laboratory)が併設されて、原位置試験が開始された(カナダでは使用済み燃料は再処理せず、直接処分する方針がとられている)。
 カナダでは原子力発電とならび、研究炉やCANDU炉を利用した放射性同位元素(RI)生産も進められた。1957年にチョークリバー研究所で運転を開始した研究炉NRU(National Research Universal)では、高中性子フラックスを利用してモリブデン99(世界の60%を供給)をはじめとした様々な医療用RIが生産されている。また、ガンマ線源として利用されるコバルト60は、医療用がNRUで、産業用が一部の発電用CANDU炉で生産されてお カナダの原子力開発は、国産のカナダ型重水炉(CANDU炉:Canada Deuterium Uranium Reactor)開発と豊富なウラン資源の開発の2つを柱として行われてきた。カナダ憲法では、エネルギー政策の策定に関する権限は連邦政府と州政府の間で区分されている。天然資源の所有権は州政府にあり、州内のエネルギー部門における資源開発や規制の権限は基本的に州政府にある。他方、連邦政府は国家レベルでのエネルギー政策の策定、ウラン及び原子力発電、フロンティア地域の資源管理・開発、州債及び国際取引を規制管轄としている。連邦政府でエネルギー政策の策定を担当しているのは天然資源省(NRCan:Natural Resources Canada)であり、州政府との政策調整は、毎年、エネルギー大臣評議会(Council of Energy Ministers)が開催する年次大会のほか、非公式の契約や協議によっても行われる。同国のエネルギー貿易・投資は1989年の米加自由貿易協定及び同協定を継承した1994年の北米自由貿易協定(NAFTA)により規定され、エネルギー政策の策定にも影響する。電気事業規制を主として州の管轄としているため、電気事業(発電・送電・配電)は州単位で運営されている。また、2000年5月に施行された原子力安全管理法(NSCA:Nuclear Safety Control Act)のもとで、原子力発電を含む原子力利用に係わる全ての事項について、カナダ原子力安全委員会(CNSC:Canadian Nuclear Safety Commission、前進はAECB)が規制を行っている。カナダの原子力行政組織を図1に示す。
1.法律とその経緯
 原子力発電を含む原子力利用に係わる全ての事項については、国家全体の利益という観点から、1946年に制定された原子力管理法(AECA)により連邦政府に権限が与えられた。原子力管理法のもと原子力管理局(AECB:Atomic Energy Control Board)が設置され、原子力規制を担当した。AECBは原子力エネルギーの開発・利用について、申請者に対する許認可権限を行使するとともに、原子力に係わる健康、安全、防護、環境などの面を規制し、連邦政府でエネルギー政策を担当する天然資源大臣を通じて連邦議会に報告する義務を負った。AECBは指定放射性物質として、ウラン、トリウム、重水、放射性同位元素(RI)を取り上げ、それらを取り扱う施設として原子力発電所、研究用原子炉、ウラン鉱山と製錬所、燃料形成加工施設、重水製造施設、放射性廃棄物管理施設、粒子加速器施設などを規制対象として、規制内容を満たしていることを審査の上、設置と運転に対する許認可を発給した。また、AECBは、核不拡散に関する国際条約に従い、原子力関連機器・物質と技術の輸出についての規制も担当した。
 原子力管理法と並ぶもう一つの原子力規制の法的な枠組に原子力責任法がある。原子力責任法は1976年に施行された法律で、原子力施設で事象・事故がおこった際に、被害を受けた第三者に対する金銭的な補償を提供するための基金の設置・運営ならびに施設の運転者に対する厳格な責任と義務を負わせることと、運転者の責任範囲を限定し、別の組織に責任を移行する制度を整え、原子力開発を促進するような原子力責任体制を確立することを目的とした。また、その他の関連法としては、「原子力賠償法」(1997年)、「環境アセスメント法」(1995年)、「緊急事態準備法」(1988年)等がある。
 しかし、原子力管理法が制定からすでに50年以上経過し、規制体系として要求に十分に応えられなくなったことから、1997年3月20日に新原子力安全管理法(NSCA)が議会で可決された。新法は既存の法的・経済的・技術的基準との調和をはかる一方で、近年の健康や安全、環境保護に対する要求の高まりを反映したものとなっており、終戦直後にAECBが設立されて以来、初めての原子力規制体制の抜本的見直しとなった。
2.組織体制
2.1 原子力開発組織
 1952年に発足したカナダ原子力公社(AECL:Atomic Energy of Canada Limited)が中心となって、カナダ型重水炉(CANDU)の開発・設計をはじめ、原子力の基礎・応用研究を行い、チョークリバー研究所とホワイトシェル研究所を持つ。なお、AECLの原子炉開発部門は2011年10月にカナダの大手エンジニアリング企業のSNC-Lavalinの子会社Candu Energy Inc.に売却された。
(1)チョークリバー研究所
 1962年にオンタリオ州ロルフトンに2万kWのCANDU実証炉NPDを完成して以降、CANDU炉研究開発の中心的役割を担う(図2参照)。1957年から運転を開始した研究炉NRUでは、研究炉やCANDU炉を利用した放射性同位元素生産が進められた。なお、放射性同位元素・関連機器の生産・販売部門は1988年に民営化され、MDSノルディオン(MDS Nordion)社となった。
(2)ホワイトシェル研究所
 1963年マニトバ州ピナワに開設され、放射性廃棄物の処分に関する研究開発を行う。カナダの使用済燃料は直接地層処分する方針で、1978年に基礎研究のための地下研究施設 URL(Underground Research Laboratory)が併設された。研究所は1998年に廃止され、研究炉や施設の廃止措置が進められているが、放射性廃棄物処分の研究・開発を進める地下研究施設は継続利用されている。
2.2 ウラン資源の開発
 OECD/NEA・IAEAのレッドブック「ウラニウム2011」によると、2010年のカナダのウラン生産量は世界全体の約18%、9,775トンUで世界第2位を占める。ウラン探鉱・開発は1947年から民間に解禁され、現在はサスカチュワン州が中心である。カメコ社(カナダ)とアレヴァ社(フランス)がウラン鉱床の採掘所有権のほとんどを分かち合う。カメコ社は、世界第3位のウラン開発・生産業者で、世界最大のウラン鉱山McArthur Riverを所有するほか、米国のネブラスカ州やワイオミング州、カザフスタンでもウランの鉱山開発を進めている(詳細はATOMICAタイトル「カナダの核燃料サイクル」<14-04-02-05>参照)。
2.3 原子力安全規制組織
 原子力の安全規制組織であるカナダ原子力安全委員会(CNSC)は委員長ほか6名の委員と約400名の職員からなる独立行政委員会である。委員長は委員会を主宰するとともに委員会に付置された部局による規制の実施を統括する(図3参照)。CNSCはカナダ国内のすべての原子力活動に対して、安全、健康、放射線防護、環境影響、原子力平和利用に関する国際条約と義務の履行、等の面から規制を行い、連邦議会に対して天然資源大臣を通じて報告を行う。CNSCの主な業務は新原子力安全管理法(NSCA)により以下の様に規定されている。
(1)カナダ国内における原子力エネルギーの開発、生産、利用の規制
(2)核物質の生産、所有、利用ならびに規定された装置や情報の規制
(3)核不拡散ならびに原子力エネルギー及び放射性物質の利用に関する国際規格に準拠した基準の適用、及び上記CNSCの諸業務に関する様々な情報の提供
 具体的な規制対象は前体制のAECB(原子力管理局)時代と同様で、原子力発電所や原子力研究施設をはじめ、RIや放射線を利用した診断装置やがん治療装置、ウラン鉱山の操業、様々な産業におけるRI利用など、幅広い分野に及んでいる(図4及び図5参照)。
 新原子力安全管理法(NSCA)による規制体系は、(1)国際放射線防護委員会(ICRP)の最新の勧告を基準としたより低い線量限度の導入、(2)検査官の権限の明確化、(3)原子炉施設に対する防護要件の強化、(4)核物質輸送・防護に対する新規制の導入、(5)改善命令を行使する権限、(6)違反行為に対する制裁の強化、(7)施設閉鎖や廃棄物処理への財政的保証を要求できる能力、(8)原子力従事者、非破壊検査技師、核物質輸送作業者への放射線防護の強化、(9)病院に対する、放射線治療中患者への放射線防護情報提供の義務化、等で構成されている。
3.許認可手続き
 原子力施設に対する許認可手続きについては、CNSCがNSCAを基にして、原子力安全管理全般に関する規制のほか、放射線防護に関する規制、原子力施設に関する規制、ウラン鉱山・製錬に関する規制、核物質ならびに放射線機器に関する規制、核物質の梱包ならびに輸送に関する規制、原子力保安に関する規制などの個別の規則文章を発行して、具体的な手続きを定めている。
 原子力発電所の場合、許認可手続きはサイト認可、建設認可、運転認可、廃止措置認可と事業廃止認可の5段階に分けられている(表1参照)。いずれの許認可も、環境アセスメント法で設置が定められているパネルによる審査、ならびに公衆からの意見聴取手続き(意見公募と公開ヒアリングの開催)を経て発給されることが定められている。これにより、一般公衆は、商業機密及び核物質防護に関するものを除く、許認可に関するすべての情報を閲覧し、必要があれば意見を述べる機会が与えられている。
4.検査体制
 CNSCはオンタリオ州オタワにある本部に加えて、5か所の地域事務所と6か所の現地事務所を設置して原子力施設の検査を行っている。運転中の原子力発電所には検査官が常駐する現地事務所が設置されている。また、年に1回、施設に常駐する検査官と本部の上級スタッフにより、原子炉施設の性能評価が実施される。
(前回更新:2003年1月)
<図/表>
表1 カナダの原子力施設に係わる許認可手続き
表1  カナダの原子力施設に係わる許認可手続き
図1 カナダの原子力行政組織図
図1  カナダの原子力行政組織図
図2 カナダ原子力公社(AECL)の原子力開発の流れ
図2  カナダ原子力公社(AECL)の原子力開発の流れ
図3 カナダ原子力安全委員会(CNSC)の組織図
図3  カナダ原子力安全委員会(CNSC)の組織図
図4 CNSC許認可の対象となる原子力施設(1)
図4  CNSC許認可の対象となる原子力施設(1)
図5 CNSC許認可の対象となる原子力施設(2)
図5  CNSC許認可の対象となる原子力施設(2)

<関連タイトル>
カナダ型重水炉(CANDU炉) (02-01-01-05)
カナダの研究・開発に関する主な機関 (13-01-03-03)
カナダの原子力政策・計画 (14-04-02-01)
カナダの原子力発電開発 (14-04-02-02)
カナダの核燃料サイクル (14-04-02-05)
カナダの電気事業および原子力産業 (14-04-02-06)
カナダの放射性廃棄物管理 (14-04-02-07)

<参考文献>
(1)(社)海外電力調査会:海外諸国の電気事業 第1編(1998年3月)及び(2008年3月)、カナダ
(2)(一社)日本原子力産業協会:世界の原子力発電開発の動向 2012年版(2012年5月)
(3)(一社)日本原子力産業協会:原子力年鑑2013年版(2012年11月)、カナダ
(4)(社)日本電気協会 新聞部:原子力ポケットブック2012年版(2012年8月)、p.571-572
(5)オタワ低レベル放射性廃棄物管理局:カナダの放射性廃棄物目録(2012年)、
http://www.radiationsafety.ca/wp-content/uploads/2012/07/Inventory-Report-2012_EN.pdf
(6)OECD・NEA/IAEA:Uranium 2011:Resources, Production and Demand(2012年)
(7)(独)石油天然ガス・金属鉱物資源機構:カナダ連邦政府の環境許認可プロセス効率化への取り組みと各界の反応(2012年23号)、
http://mric.jogmec.go.jp/public/current/12_23.html
(8)カナダ原子力安全委員会(CNSC):組織図

(9)(社)日本原子力産業会議:原産マンスリー2000年7月号、(2000年7月)
(10) IAEA廃止措置技術ミーティング AECL:AECL's Decommissioning Activities(2007年11月)
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