<大項目> 海外情勢
<中項目> アジア各国
<小項目> ベトナム
<タイトル>
ベトナムにおける放射線利用の動向 (14-02-07-02)

<概要>
 ベトナムの放射線利用は、アジア地域では遅れて出発したが、1999年にベトナム原子力委員会(VAEC)傘下のホーチミン照射センターが設置され、大型のコバルト−60照射施設による実用化が急速に進展している。主要な照射品目は食品照射であり、冷凍魚介類を殺菌処理して欧米に輸出している。次いで多いのが、胡椒などのスパイスや漢方薬、使い捨て医療器具の滅菌等である。また、海藻に含まれる多糖類(カラギーナン)や蟹や海老などの甲殻類の殻から得られる多糖類(キトサン)の放射線加工により、植物の生長促進剤や果物の腐敗を防ぐ抗菌作用を活用して、それらの実用化を推進している。2003年には民間企業が大型の電子加速器を導入し、食品照射や医療器具の滅菌を実施している。
<更新年月>
2005年05月   

<本文>
 ベトナムの原子力利用は、ダラト研究所における研究炉とコバルト60ガンマ線照射施設を起点に1980年に開始された。アイソトープ製造と放射線利用に重点をおいて研究開発が進められ、実用化を図っている。1991年にハノイの研究所にコバルト照射施設が完成し、本格的な利用研究が推進された。その後大型のコバルト照射施設が1999年ホーチミンに設置されて、実用化が開始されている。放射線利用の研究機関の組織を図1に示す。
(1)研究開発
 研究開発は原子力委員会(VAEC)に所属するハノイ研究所(INST)、ダラト研究所、ホーチミン照射センターで実施されている。それぞれ20〜30名の研究者を擁して、コバルト60の利用研究を推進している。ハノイ研究所は主に医療器具の滅菌や食品照射の研究開発を担当している。食品照射についてはベトナム独自の規定(表1)が制定され、食品照射の実用化を達成している。ダラト研究所とホーチミン照射センターではベトナムの資源を有効利用する研究開発が行われている。その代表的なものが海藻から抽出した多糖類のカラギーナンと甲殻類の殻から抽出したキトサンで、これを放射線分解して機能性を有する物質が製造されている。カラギーナンを適度に放射線分解すると、その水溶液は野菜などの成長促進効果を発現させることが見出された。これを数千倍の水で希釈して散布すると、人参、キャベツ、玉ねぎ、落花生、緑黄野菜の生育が促進されること、また、作物の種類によっては、糖分の増加が認められることが確かめられている。この効果は放射線分解したカラギーナンが植物の成長ホルモンのような作用をもつためと考えられている。また、キトサンの分解生成物は抗菌作用が発現され、その水溶液を果物の表面に塗布すると、腐敗が抑制される。ホーチミン照射センターでは、カラギーナンやキトサンを大量に(数トン)照射し、利用者に配布して普及を図っている。キトサンの抗菌作用が放射線照射によって増進することを利用した製品は「Olicide」または「Stop」という商標で市場に提供されている。これらはメロンやドラゴンフルーツなどの果物の抗菌剤に応用される。ホーチミン照射センターで農家などの利用者に配布している量は年間10トン程度である。
 また、キャサバから得られるデンプンを原料として、これに添加剤を加えて放射線架橋したハイドロゲルの開発が進められている。ハイドロゲルは多量の水を吸収するので、保水剤として乾燥地の土壌改良への応用が考えられている。放射線架橋後のハイドロゲルを乾燥、粉砕化して利用者に供給している。この粉末1グラムは水を数百グラム吸収する。これは作物植付時の給水剤に応用できるほか、肥料効果もあり、実用化への見通しが得られている。
 ハイドロゲルのもう一つの応用は、火傷などに対する創傷被覆材であり、臨床試験が進められている。
 原子力科学技術研究所(INST)のガンマ線源は小さいので、同研究所は線量測定や照射技術などの基盤的技術の開発を担当しているが、小線量で処理できるタマネギの発芽防止などを実施している。
(2)放射線利用の実用化
 商業照射はホーチミン照射センターで実施している。主要照射物は冷凍エビで、冷凍の状態で放射線殺菌を施して、欧米に輸出している。次いで多いのはスパイスと漢方薬の滅菌、使い捨て医療器具の滅菌である。多段式のコンベアー方式で、年に約5千トンを処理し、年間の照射時間が7,800-7,900時間という高稼働率を達成している。これはメンテナンスの時間を除き、休日なしの運転である。2003年には民間会社(Son Son Company)が大出力の電子加速器(150kW)を稼働させ、電子線と変換X線を利用して、食品照射と医療器具の滅菌を行っている。2004年の稼働実績は4,000時間、照射物量は約1万トンと推定されている。
(3)研究開発における協力
 ベトナムにおける放射線利用技術の研究開発は、応用する側と協力して進められている。農業分野への応用では農業研究所や大学と、また医療分野では医科大学や病院との連携が図られている。自国のニーズを踏まえ、研究環境を考慮したテーマが選択されている。ベトナムにおいて放射線利用分野に携わっている研究者の相当数が日本原子力研究所高崎研究所(現日本原子力研究開発機構高崎量子応用研究所)に滞在し、研究開発・技術を学んでいる。
<図/表>
表1 ベトナムの食品照射に関する規定
図1 ベトナムの原子力研究開発組織

・図表を一括してダウンロードする場合は ここをクリックして下さい。


<参考文献>
(1)瀬口忠男:ベトナムの放射線利用、原子力eye Vol.51、No.4、78-79(2005)
RIST RISTトップページへ ATOMICA ATOMICAトップページへ