<大項目> 海外情勢
<中項目> アジア各国
<小項目> フィリピン
<タイトル>
フィリピンの国情と原子力開発 (14-02-05-01)

<概要>
 フィリピンは地熱や水力、石炭、天然ガスなどの国内資源が豊富で、エネルギー自給率は2005年時点で57.1%である。しかし、今後10年間でエネルギー消費量は2倍近くなると予測されており、国産エネルギーだけは対処できない。そのため、国産の石油や石炭、天然ガスの生産量拡大が重要となってくる。
 一方、原子力開発は1986年に発足したアキノ政権以降中止されたが、急速なエネルギー需要が国産エネルギーの開発や輸入エネルギーの増加でも賄えない場合に備え、1995年から原子力発電の導入について再度検討が始まった。
<更新年月>
2006年11月   

<本文>
1.エネルギー政策
 フィリピンのエネルギー政策の基本方針は、(1)合理的な価格での安定供給、(2)国内資源の有効利用とその推進、(3)環境への配慮―などをであり、エネルギー省(Department of Energy:DOE)がその任務にあたっている。フィリピンにおけるエネルギー政策の動向は、DOEが毎年発表する「フィリピン・エネルギー・プラン」(Philippine Energy Plan:PEP)に示され、政府と民間、および公共部門のニーズの変化を反映するよう、年々見直しが行われている。現アロヨ政権は、2004年8月6日に「エネルギー自給・改革プログラム」を発表しており、それを詳細化した「中期フィリピン開発計画:2004−2010」(MDPDP)で、自給化の促進と電力市場改革の実施という二つの目標を掲げている。2005年2月に発表されたエネルギー計画PEP2005(2005年〜2014年)では、二つの目標はもちろん、それらを達成するために、(1)国産石油および天然ガスの確保、(2)積極的な再生可能エネルギー資源の開発、(3)代替可能な燃料の使用を助長、(4)他の諸国との戦略的な連帯、(5)エネルギーの効率的利用とその確保、の5つのプログラムが打ち出されている。計画の背景には、戦争、テロ、為替相場の変動によるリスクを受けやすいフィリピンのエネルギー状況があるが、アロヨ大統領の任期終了となる2010年までに、消費エネルギーの6割を国内で自給することを目標としている(表1参照)。
 現行のPEPのエネルギー・ミックスに原子力発電は含まれていない。フィリピンでは、1976年にバターン半島に初の原子力発電所着工、1985年には総工費21億ドルをかけ工事がほぼ終了したものの、1986年に発足したアキノ政権は同発電所の安全性および経済性を疑問視したため、運転認可が見送られた経緯がある。しかし、エネルギー需要が国産エネルギーの開発や輸入エネルギーの増加でも賄えない場合に備え、政府は、エネルギー政策における選択肢の一つとして、再度、原子力発電の導入を検討するため、1995年5月、大統領令第243号に基づき、DOE長官を委員長とした原子力発電運営委員会(NPSC)を設置した。現在は、MDPDPに沿う形でエネルギー政策を推し進めつつ、エネルギーをめぐる状況や環境の変化に応じて、国民が原子力発電というオプションを受け入れられる方策を模索している状況である。
2.電力事情
2.1 電気事業体制
 フィリピンの電力事業は、2001年6月に成立した「電力改革法(Republic Act 9136、Electric Power Industry Reform Act of 2001/the“Power Reform Law”)」に基づき、変革が行われている。この電力改革法は、(1)フィリピン電力公社(NPC)の民営化(発電部門の分割民営化)、(2)送変電会社の設立、(3)電力市場の自由競争化で、民営化と自由競争原理に基づく効果で国民への電力の安定供給と電力料金の低下を図ることを目的としている。フィリピン共和国における電力関係の行政機関としては、エネルギー省(DOE)とエネルギー規制委員会(ERC)があり、その監督下には国家電化庁(NEA)、電力公社(NPC)、フィリピン石油公社(PNOC)が置かれている。
 電気事業体制は、NPCが全国の発電・送電設備を保有すると共に、独立系発電事業者(IPP)から独占的に購入し、NPCが発電した電力と合わせて、マニラ電力会社(MERALCO)を初めとする民営電力会社や地方自治体が経営する地方電化組合(REC)に対して卸売りしている。フィリピンでは、1980年後半から続く電力不足とNPCの資金難に対処するため、アジア地域で最も早く1993年から発電部門へ民間資金を運用するIPPの導入が進められた。NPCの民営化では電力部門資産・負債管理会社(PSALM)の設立、発電資産の売却、国家送電会社の設立および民営化により、卸売電力市場の完全な市場価格競争を実施することであるが、改革はPSALMや送電会社TRANSCOへの資産・負債の移管のみで、発電資産の売却、TRANSCOの事業権売却、卸売電力スポット市場WESMの導入は遅れている。改革後の電力セクターの概念図を図1に示す。
2.2 発電設備
 フィリピンの発電設備容量は2005年末時点で1,061万9,100kWで、その内の29.3%(457万7,800万kW)をNPCが、51.4%(803万3,800kW)をNPC+IPP双方が、19.3%(300万7,600kW)をIPPがそれぞれ所有している。年々IPPの割合が大きくなる傾向にある。
 また、地域別の発電設備容量をみると、ルソン地域が1,212万7,600kW(全体の77.6%)、ヴィザヤス地域が179万3,200kW(同11.5%)、ミンダナオ地域が169万8,300kW(同10.9%)となっている。ルソン地域では、天然ガス発電設備が、ヴィザヤス地域では地熱発電設備が増加傾向にある(表2参照)。
2.3 電力需給バランス
 2005年度におけるNPCの総発電電力量(IPPも含む)は565億6,774kWhで、電源構成は石油火力10.9%、水力14.8%、地熱17.5%、石炭火力27.0%となっている。販売電力量は所内用や送電ロスなどを差し引いた451億5,900万kWhで、1990年の212億1,300万kWと比較するとこの15年間で需要の伸びは2倍以上になっている(表3参照)。
2.4 電源開発計画
 温室効果ガス抑制のため、開発の主体は従来通り天然ガス火力と水力、再生可能エネルギーで、化石燃料を使用する石油火力や石炭火力は新規電源開発には含まれていない。なお、フィリピンでは、1972年から政策的な取組みがある地熱エネルギーを除き、1990年代以降に政策化された太陽光、風力、水力、海洋、バイオマスなどのエネルギーは「再生可能エネルギー」と称され、2001年電力産業改革法で定められた。しかし、最近では地熱エネルギーも含む総称として「新再生可能エネルギー」(New and Renewable energy)とする傾向にある。フィリピンは群島で構成されているため、無灯火地域への太陽光発電事業を推進している(1999年〜2008年:バランガイ計画)。また、風力発電に関してはフィリピンがモンスーンベルト周辺部に位置することから開発可能性が高い。地熱発電はアメリカに次ぐ世界第2位の設備容量を持ち、政府は事業主に対し、積極的に資金援助を通じた支援を行っている。
3.原子力発電開発
 フィリピンは1976年にバターン半島に初の原子力発電所(PNPP−1、PWR、62万kW)の建設に着工した(図2)。1985年に総工費21億ドルをかけて98%まで完成したが、1986年に発足したアキノ政権が同発電所の安全性および経済性に問題があるとして運転認可の発給を見送った経緯がある。フィリピン政府は1988年、製造元の米ウェスチングハウス(WH)社を相手取って、同発電所建設時に違法契約で受けた20億ドルの損害賠償請求訴訟を起こしたが、1993年に証拠不十分でWH社の無罪判決で結審した。フィリピン政府とWH社は和解し、バターン発電所を天然ガス・コンバインドサイクル発電所へ転換することが計画されたが、経済的な理由から計画は頓挫した。
 こうした中、フィリピン政府は、今後のエネルギー政策において選択肢の1つとして、再度、原子力発電の導入を検討するため、1995年5月の大統領令第243号に基づき、エネルギー省長官を委員長とした原子力発電運営委員会(NPSC)を設置した。NPSCは現在、原子力発電オプションを国民が受け入れられるよう模索している。
3.1 原子力開発体制
 フィリピンの原子力開発は1955年に米国と原子力協定を締結、1958年に国際原子力機関(IAEA)へ加盟、同年の原子力委員会(PAEC)の設立でスタートした。1963年8月には、米国のゼネラル・アトミック(GA)社寄贈のPRR−1研究炉(スイミングプール型炉、1,000kW)が運転を開始し、ラジオアイソトープ製造や放射化分析の研究を中心に、農業・医学・原子力工学・保健物理などの広い分野で利用された。その後、PRR−1は3,000kWのTRIGA−II型へ改修され、1988年3月に臨界達成。その後冷却水漏れなどのトラブルが発生したのに加え、アキノ政権下で大幅に予算を削減されたことから、1988年に停止した。政府では現在、新しい研究センター設立の構想があり、2010年までに2万kWの研究炉建設計画が含まれる。
 なお、PAECは1987年にアキノ政権による政府機関の体制変革のため、科学技術省(DOST)の監督下に置かれ、フィリピン原子力研究所(PNRI)へと改組された。原子力発電計画が中止となったこともあり、PNRIは研究員の人員や予算も縮小されたが、フィリピン唯一の原子力関連機関であり、放射性物質の利用規制、許認可、RI研究、教育などを実施している。図3にPNRIの組織構成を示す。
(前回更新:2002年1月)
<図/表>
表1 フィリピンの自給率の現状と予測
表2 フィリピンにおける地域別発電設備容量
表3 フィリピンにおける販売電力量の推移
図1 フィリピンにおける電力セクター改革の概要
図2 PNPP−1原子力発電所所在地
図3 フィリピン原子力研究所(PNRI)組織図

・図表を一括してダウンロードする場合は ここをクリックして下さい。


<関連タイトル>
世界の原子力発電の動向・アジア(2005年) (01-07-05-02)

<参考文献>
(1)(社)日本原子力産業会議:原子力年鑑 2001/2002年版(2001年11月)、p.290−291
(2)(社)海外電力調査会:海外諸国の電気事業 第2編 2004年(2004年3月)、p.521−547
(3)(社)日本原子力産業会議:アジア諸国原子力情報ハンドブック(2001年3月)、p.177、p.180
(4)NEDA:Medium−Term Philippine Development Plan 2001−2004(November 2000)
(5)NPC:National Power Corporation Annual Report 2000(March 2001)
(6)フィリピン原子力研究所(PNRI):Organizational Chart、http://www.pnri.dost.gov.ph/about_orgchart.html
(7)フィリピンエネルギー省:フィリピンエネルギープランPEP2005update、http://www.doe.gov.ph/PEP/PEP_2005_2014.pdf
(8)フィリピンエネルギー省:PHILIPPINE POWER STATISTICS 2005、http://www.doe.gov.ph/power/Power%20Stat%202005%20update042406.htm
(9)(独)日本貿易保険 営業第二部第二グループ 山崎厳:フィリピン電力セクター改革の現状と課題、http://nexi.go.jp/service/sv_m−tokusyu/sv_m_tokusyu_0402−2.html
(10)フィリピン電力公社(NPC):2004 Grid Map、http://www.napocor.gov.ph/npc5.asp、http://www.napocor.gov.ph/2004Annual/2004_Grid_Map.pdf
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