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<概要>
 台湾はアメリカと1955年に原子力協力協定を調印し、1957年に国際原子力機関(IAEA)にも加盟、核拡散防止条約(NPT)にも調印していたが、1971年国連が北京政府を中国を代表する政府と認めたため国連を脱退し、NPT条約調印国でもIAEA加盟国でもなくなった。また、1978年にアメリカが北京政府と国交を樹立すると、アメリカとも国交を断った。しかし、アメリカは台湾関係法という特別立法を行い、原子力協力協定の効力を存続させ、アメリカ−IAEA−台湾で結ばれた保障措置協定も存続させており、これにより、アメリカからの原子力機器の輸出と核物質監視の道が残されている。2001年、オーストラリアは、同国で生産されたウランをアメリカで濃縮して台湾に提供した。また、北米事務協調委員会とアメリカ在台協会は民間原子力協力に関する運営委員会を設立、このチャンネルで安全性等の協力が行われている。
<更新年月>
2006年03月   

<本文>
1.台湾の保障措置
 台湾は、1955年7月にアメリカと原子力協力協定に調印、1957年9月にIAEA(国際原子力機関)に加盟し、NPT条約には1970年5月発効と同時に中華人民共和国(以下、中国という)を代表する政権として加盟した。しかし1971年10月、国連が北京政権を中国を代表とする政権として認めたため、台湾は国連を脱退し、同時にNPT加盟国でも無くなった。
 また、台湾は1971年12月にIAEAも脱退し、1978年アメリカが中国と国交を樹立するとアメリカとも国交を断った。しかし、アメリカは1979年台湾関係法という特別立法を行い、原子力協定の効力は残っている。これにより、アメリカは原子力発電所核燃料を提供するばかりでなく、1971年にアメリカ−IAEA−台湾の間に結ばれた保障措置協定(Safeguards Agreement)によって、核物質の監視も行っている。また、台湾は窓口機関としてアメリカに北米事務協調委員会(CCNAA)を設立、アメリカも台湾にアメリカ在台協会(AIT)を設立、ビザの発行をはじめ非公式外交チャンネルの役割を果たしている。
 台湾の保障措置は、原子力委員会の下にある原子力協議会の業務の一つで、原子力保障措置課が台湾における保障措置業務の責任をもっている。台湾電力(TPC:Taiwan Power Company)、核能研究所(INER:Institute of Nuclear Energy Research)、清華大学(NTHU:National Tsing Hua University)および3つの主要原子力施設運転者が、合計19の原子力施設を所有している。IAEAの査察官は、3か月毎に台湾に来て原子力施設を査察しており、台湾での査察のために年間85〜100人のマンパワーを投入している。原子力協議会は、原子力の物質計量管理のため、在庫変動報告(ICR)、物質収支報告(MBR)、実在庫表(PIL)を定期的にIAEAに送っている。1995年以降、核能研究所はオーストリアにある台北経済文化事務所(Taipei Economic and Cultural Office)に専門家を常駐させ、IAEAとの協力を強化している。
 IAEA理事会は、1997年5月15日に保障措置協定に関する追加議定書を承認し、そのあとでIAEAは他の加盟諸国と交渉した。台湾は1998年8月10日、追加議定書により規定した方法で査察を実施することに同意した。IAEAは、過去30年以上、台湾における核物質の使用および管理について、IAEAの要求が満たされていることを確認している。
 IAEAが発表した「年報1999年」の保障措置(Safeguards)の項によると、IAEAは、台湾および中国にある原子力施設に対して二つの協定により保障措置を適用している。1971年12月9日に開催したIAEA理事会の決定によると、IAEAでは中華人民共和国政府は中国を代表する権利をもつ唯一の政府で、IAEAは台湾当局を非政府組織とみている。IAEAは、台湾と米国の間に結ばれた保障措置移管に関する協定(1995年7月)および、台湾、米国およびIAEA三者間の協定(1971年12月、INFCIRC/158)に基づいて、保障措置を実施している。
 台湾は、1971年12月にIAEAから脱退したことにより、多くの協定は消滅したが、保障措置関係は非政府ベースで現在も存続している。1998年に台湾は、上記の三者協定に加えて、モデル・プロトコル(INFCIRC/540)による保障措置を実施する旨の書簡をIAEAと交換した。
2.台湾の国際協力
2.1 台湾原子力委員会関連
 図1に台湾原子力委員会の組織図を示す。
(1)1984年にCCNAAとAITの間で民間原子力協力に関する運営委員会が設立され、その下で次のような協力が行われている。
確率論的リスク評価に対する米原子力規制委員会(NRC)主導の国際計画への参加(COOPRA)。
・NRCの行う苛酷事象(シビアアクシデント)研究計画への台湾原子力委員会の参加(CSARP)。
・アメリカが供給した原子力発電所が緊急事態となった際の、NRCの台湾原子力委員会への援助。
・NRCの台湾の検査官訓練生の受け入れ。
・NRCが英国、フランス、スイス、スウェーデン、スペインおよびカナダと共に開始した国際配管健全性研究計画への台湾原子力委員会、台湾電力、台湾原子力研究所の参加。
・NRC主導の熱水力コードの適用保守計画への参加(CAMP)。
(2)台湾原子力委員会は、フランスの原子力庁と原子力安全、規制、放射線防護研究、緊急時情報交換等について協定を締結。
(3)台湾原子力委員会の放射性物質管理局(FCMA)とスイス国家放射性廃棄物処分協同組合(NAGRA)は放射性廃棄物分野での協力協定を締結。
(4)台湾原子力委員会、放射線モニタリングセンターと日本分析センターの間に環境放射能分析の協定(1987年)。
(5)台湾原子力委員会はOECD/NEAに専門家を常駐させ、非常時対応、放射線防護、廃棄物管理、デコミッショニング等の分野における協力と情報交換を推進。現在、CPD(デコミッショニングに関する協力計画)とCOMPSIS(安全にとって重要なコンピュータシステムの運転経験蓄積計画)に参加している。
(6)台湾は2002年1月からWTOのメンバーであり、台湾原子力委員会は原子力に関して、WTO/TBT(Technical Barriers to Trade)小委員会の活動に参加している。
(7)原子力安全技術に関する経験と情報交換のために、台湾原子力委員会は以下の組織と交流している:太平洋原子力会議(Pacific Nuclear Council)、国際原子力学会会議(International Nuclear Societies Council)、日本原子力産業会議(現日本原子力産業協会)、米国原子力学会(American Nuclear Society)、欧州原子力学会(European Nuclear Society)、米国保健物理学会(US Health Physics Society)、WIN (Wemen in Nuclear)Global。
2.2 台湾電力等の組織関連
(1)台湾電力と中国電力の間に姉妹会社約定書と相互視察の協定(1966年、1967年)。
(2)台湾電力と中国電力の間に幹部の技術交流の協定(1982年)。
(3)台湾原子力学会と関西原子力懇談会の間に日華原子力連絡会についての協定(1984年)。
(4)台湾電力と日本の電力中央研究所の間に電気事業研究協力(1988年)。
(5)台湾原子力学会と日本原子力産業会議(現日本原子力産業協会)の間に原子力施設の安全についての協定(1989年)。
3.海外との契約
3.1 ウラン鉱石の購入
 台湾電力は、ウランを主に長期契約で調達しており、残りは中期契約とスポット市場からの購入に頼っている。現行の長期契約は、英国のリオ・チント・ジンク・サービシーズ社(RTZ)とナミビアとのものだが、米国や南アフリカ、カナダなどのウラン生産国との間に新たな長期供給契約が進められている。
3.2 燃料の成形加工
 燃料の成形加工については、台湾電力は、現在、米コンバーダイン社、カナダのCAMECO社、そして仏COMURHEX社の3社と燃料加工契約を取り交わしている。
 また、米ゼネラル・エレクトリック社(GE)、米シーメンス・パワー社(SPC、独シーメンス社の米法人)およびウェスチングハウス社(WH)と台湾電力の間で燃料加工契約が結ばれており、GEとSPCが金山原子力発電所と国聖原子力発電所のBWR燃料、WHが馬鞍山原子力発電所のPWR燃料を供給している。
3.3 濃縮ウラン
 濃縮ウランについては、現在、台湾電力は、米濃縮公社(USEC)、仏核燃料公社(COGEMA)と濃縮契約を締結しており、USECが70%、COGEMAが30%を供給している。1998年7月に、台湾電力はCOGEMAとの濃縮契約を更新し、2007年まで濃縮ウランを供給することになった。
 2001年8月、オーストラリア政府は、保障措置協定のもとに台湾にウランを輸出することを発表した。この発表によると、オーストラリアは台湾を国家として認めていないため、台湾と交渉することが出来ない。しかし、台湾市場に予定されているオーストラリア産ウランは、オーストラリアと米国の間で締結されている保障協定協定と、台湾とIAEAの間に締結されている保障措置協定によりカバーされるので、平和目的に限り、オーストラリア産のウランを米国に提供して同国で濃縮し、これを台湾に移転することが出来る。
3.4 工業協力プログラム
 GEは、龍門原子力発電所のプロジェクトと並行して、台湾の技術・工業力向上を目的とした「工業協力プログラム」(ICP)を台湾経済部(通産省)工業開発局の調整・監督の下で実施することになっており、これと関連して、国内への燃料加工施設(年間加工能力:約180トン)の建設に向けたフィージビリティ・スタディを検討している。
<図/表>
図1 台湾原子力委員会(行政院原子能委員会)の組織図
図1  台湾原子力委員会(行政院原子能委員会)の組織図

<関連タイトル>
台湾のエネルギー資源、エネルギー需給、エネルギー政策 (14-02-04-01)
台湾の電力事情、発電計画、原子力発電 (14-02-04-02)
台湾の原子力研究開発体制、原子力安全規制体制および原子力産業 (14-02-04-03)
台湾のPA動向 (14-02-04-04)

<参考文献>
(1)日本原子力産業会議:アジア原子力情報ハンドブック(2002年3月)、p.209−221
(2)台湾原子力委員会:The Atomic Energy Council of the Republic of China 1992
(3)日本原子力産業会議(編):台湾のエネルギー事情と原子力発電開発、原産マンスリーNo.22(8)、24−29(1997)
(4)IAEA ANNUAL REPORT 1999:p.89、p.90、p.121、p.125、p.128
(5)IAEA Board Reviews Record of Safeguards Implementation:
(6)Safeguards Arrangements for Uranium Exports to Taiwan:
(7)Atomenergie in Taiwan:http://www.anti-atom.de/akwtaiw.htm
(8)Safeguards in Taiwan(台湾原子力委員会からの電子メールによる回答、2001年11月13日付)
(9)台湾原子力委員会:http://www.aec.gov.tw/english/international/
(10)日弁連台湾調査報告:
(11)台湾電力:
(12)台湾国家科学会議(NSC)台北経済文化代表米国事務所:
(13)IAEA(保障措置関連文書):http://www.iaea.org/Publications/Documents/Infrics/
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