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<概要>
 台湾は日本と同様に島国で、工業立国をしている。両国とも資源小国で、1973年のオイルショックでは、経済的に多大の影響を受けた。日本と同様に原子力の平和利用を推進している台湾の環境問題の現状は、1970年代の日本の公害問題に酷似していると言われている。エネルギー問題は、台湾にとって国家存続のための死活問題と捉えられている。
 原子力に対する広報活動(PA)活動は、経済貿易部能源委員会の指導のもとに、国営企業である台湾電力公司が実施している。台湾電力公司でPA活動は、公衆服務処(Department of Public Relations)が担当している。台湾電力公司は、台湾北部展示館、竜門展示館、台湾南部展示館で原子力発電関係の模型やパネルで原子力の理解を深めようとしている。また、発電所の見学者を受け入れている。その数は41万人にも達している(2004年)。
<更新年月>
2006年02月   

<本文>
1.台湾の環境問題
 台湾は日本と同様に島国で、工業立国をしている。両国とも資源小国で、1973年のオイルショックでは、経済的に多大の影響を受けた。日本と同様に原子力の平和利用を推進している台湾の環境問題の現状は、1970年代の日本の公害問題に酷似していると言われている。政府当局は現在、日本の環境行政を参考にして環境体系の整備を行っているほか、大衆の環境に対する意識向上を目指した環境教育政策を実施している。
2.原子力発電所の建設
 2006年3月現在、台湾には3か所に原子力発電所があり、合計6基の原子炉を運転している(図1参照)。台湾北部には第1原子力発電所(金山原子力発電所(Chinshan)、BWR、63.6万kW×2基)があり、1号機が1978年12月に、2号機が1979年7月に営業運転を開始した。第2原子力発電所(国聖原子力発電所(Kousheng)、BWR、98.5万kW×2基)は、1号機1981年12月に、2号機が1983年3月に運転を開始した。また台湾最南部には第3発電所(馬鞍山原子力発電所(Maanshan)、PWR、95.1万kW×2基)があり1号機が1984年7月に、2号機が1985年5月に営業運転を開始した。
 現在運転している金山(第1原子力発電所)、国聖(第2原子力発電所)、馬鞍山(第3原子力発電所)原子力発電所は、蒋経国氏により1987年に戒厳令が解除される以前に建設されたので、当時地域住民は建設に反対することは出来ない状態にあった。その後、経済不況で電力の需要が減少したため、予定されていた第4原子力発電所(龍門原子力発電所(Lungmen)、ABWR、135万kW×2基)の建設予算が1982年に凍結された。しかし、情勢の変化に伴い、1992年には建設予算の凍結が解除されている。
 台北市では、1996年3月23日、第4原子力発電所に対する住民投票を実施し、最終的に賛成が44.50%、反対が51.54%、回答なしが3.96%となり、反対派が賛成を若干上回る結果となった。中華民国憲法では住民投票を認めていないため、この住民投票はあくまで試験的なものであった。第4原子力発電所が建設された場合、台北市はこの発電所で発電された電力の大部分を消費する立場にあるので、電力消費地の人間が第4原子力発電所についてどのように考えているかを公にする意味からも、この投票は注目された。これを契機として、台湾では第4原子力発電所の建設を巡って全島を巻き込んだ社会問題となった。
 第4原子力発電所は、戒厳令が解除されてから初めて建設される原子力発電所である。1999年から着工したが、2000年には政治問題から建設を一時中断した。しかし、2001年1月の大法官会議(憲法裁判所)により、建設中止を命じた行政院(内閣)と建設続行を求める立法院(国会)が協議の上2001年3月に建設を再開した。表1にこの一時中断以降再開までの経緯を示す。また、2001年1月16日に台湾のケーブルテレビTVBSが実施した世論調査の結果を図2に示す。
3.台湾のエネルギー教育とPA活動
 台湾は資源小国であるため、エネルギーセキュリティの観点から原子力の平和利用を推進しており、2006年3月現在、3か所6基の商業用原子力発電所を運転しており、2004年現在、総発電電力量の約18%を原子力発電で賄っている。総発電量は380億kWh(2004年:前年比1.5%増)であった。
3.1 エネルギー教育
 エネルギー問題は、台湾にとって国家存続のための死活問題と捉えられている。エネルギー教育は、将来のエネルギーセキュリティへの対応、そして国家の永続的発展をにらんだ国家政策として、長期政策により実施している。このエネルギー教育は「現実認識」に重点が置かれており、将来、社会の中枢を担う人材である若年層に対してエネルギー観念を持ったうえで、客観的に冷静な判断が出来るよう教育を実施している。
 台湾でのエネルギー教育は独立しており、損害と利益の両面が教科書にしっかり記述されている。原子力を含めた将来のエネルギー源の決定を、次代を担う若年層に委ねているところに、台湾のエネルギー教育の特徴がある。
3.2 PA活動
 原子力に対する広報活動(PA)活動は、経済貿易部の指導のもとに、国営企業である台湾電力公司が実施している。台湾電力公司のPA活動は、公衆服務処(Department of Public Relations)が担当し、PA活動のために各種のパンフレット類を作成している。日本のパンフレットを翻訳しているものも多数ある。また、台湾電力公司の活動はホームページでも紹介されている(図3参照)。
 行政院原子能委員会(Atomic Energy Council)は、原子力に関する技術問題を重点において研究活動を行ってきた。原子能委員会でも1996年頃になってようやくPAの重要性を認識し、委員会内に担当の部署を設置し、PA活動を行っている。
3.3 展示館
 第2発電所と第3原子力発電所に展示館が設置され、原子力関連のモデルを備えて原子力発電の仕組みを理解できるようになっている。また、建設中の第4原子力発電所にも展示館があり、第2原子力発電所の展示館と同じ内容のものを展示している。
 台湾電力公司は発電所建設事業と環境保持についての理解を促進するために、発電所施設への訪問を受け入れている。2004年には41万人の訪問者があった。
(1) 台湾北部展示館
 この展示館は第2原子力発電所内に設置されており、日本の原子力発電所に設置されているPR館を参考にしている。
 原子力発電所の紹介、台湾電力公司の概要、台湾電力公司の営業概要、台湾電力公司のトピックス、送電網、発電所、原子力の歴史、原子炉の模型、原子力発電所の概要、世界の原子力発電所、ウラン核分裂核燃料サイクル、原子力発電所の構造、原子力発電所の安全性、放射性廃棄物処理、発電所の冷却水放出などが解説されている。また、環境モニタリング測定器、放射能、アルファ線、ベータ線ガンマ線の特性、放射能の単位、生活環境にある放射線、放射線の平和利用、将来の発電方法なども解説されている。
(2) 龍門展示館
 この展示館は第4原子力発電所の建設地点に設置されており、改良型BWR(ABWR)を中心に展示されている。
<図/表>
表1 第4原子力発電所の建設再開の経緯
表1  第4原子力発電所の建設再開の経緯
図1 台湾の原子力発電所の位置図
図1  台湾の原子力発電所の位置図
図2 2001年1月に行われた世論調査の結果
図2  2001年1月に行われた世論調査の結果
図3 台湾電力公司ホームページの例
図3  台湾電力公司ホームページの例

<関連タイトル>
台湾のエネルギー資源、エネルギー需給、エネルギー政策 (14-02-04-01)
台湾の電力事情、発電計画、原子力発電 (14-02-04-02)
台湾の原子力研究開発体制、原子力安全規制体制および原子力産業 (14-02-04-03)
台湾の原子力国際協力、保障措置 (14-02-04-05)

<参考文献>
(1) 萩原 豪:台湾におけるエネルギー環境教育政策の現状に関する一報告、学習院大学大学院政治学研究科 政治学論集 第10号、p.4−6, 21−22, 24(1997年)
(2) 藤井 晴雄・森島淳好(編):詳細原子力発電プラントデータブック1994年、日本原子力情報センター、p.116
(3) 台湾電力公司ホームページ
(4)(社)日本原子力産業会議:原子力年鑑2006年版、(2005年10月)p.151−155
(5)河合裕一:台湾の第四原子力発電所問題(2001年2月)、IEEJ国際動向、http://eneken.ieej.or.jp/data/old/pdf/taiwan2.pdf
(6)行政院原子能委員会ホームページ、http://www.aec.gov.tw/www/index.php
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