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<概要>
 電源開発株式会社(J-POWER)は日本で唯一、発電所と電力ネットワーク上重要な送変電設備を全国に保有している。1952年(昭和27年)9月、電気の卸売り会社として「電源開発促進法」(昭和27年法律第283号)に基づき設立された。以来、一般電気事業者(10電力会社)に低廉かつ安定した電力を供給している。2003年10月「電源開発促進法」の廃止が施行され、2004年10月には完全民営化され、従来の卸電力供給事業に加え、電力自由化、地球環境問題などに対応した事業を新たに展開している。
 2006年3月、J-POWERグループによる国内卸電気事業は全国77か所に発電設備を有し、水力発電59か所約855万kW、火力発電(含地熱)11か所約820万kW、風力発電7か所約14万kWの設備により、2005年度は640億kWhの電力供給を行った。なお、原子力に関しては青森県大間において、2012年3月の運転開始を目指して原子力発電所(フルMOX−ABWR、138万3,000kW)の建設を進めている。
<更新年月>
2007年07月   

<本文>
 電源開発株式会社(J-POWER)は日本で唯一発電所と電力ネットワーク上重要な送変電設備を全国に保有している。2006年3月現在には、全国77か所に発電設備を有し、水力発電59か所(合計出力855万kW)、火力発電(地熱を含む)8か所(合計出力782万kW)、託送総亘長2,408km、風力発電7か所(合計出力14万kW)、IPPによる一般電気事業者向け電力卸供給事業1か所(合計出力14万kW)、IPP向け電力卸供給事業2か所(合計出力22万kW)、総計640億kWhの卸売り供給を全国の電力会社に行った(表1参照)。
 J-POWERの子会社・関連会社による電力周辺関連事業は、電力設備の設計・施工・保守、発電用燃料の供給におよび、J-POWERの関連会社による多角事業は海外における発電投資事業、国内での廃棄物発電など新たな電力事業を行っている。
1.設立の経緯と経過
 電源開発株式会社は国内での電力需要の増加に対応して制定された電源開発促進法により1952年(昭和27年)9月16日に国の特殊会社として、資本構成は66.69%を財務大臣、残りを9電力会社が保有して設立した。当時は太平洋戦争敗戦後で、過度経済力集中排除法(昭和22年法律第207号)の指定により日本発送電株式会社が解体され、地域電力会社に分割されていた。しかし、分割されたばかりの地域電力会社は資本的にも非常に貧弱で、復興のために必要となる電力を満足に供給できず、発電所新設の投資もままならない状態であった。日本発送電株式会社(日発)は東京電燈・日本電力など全国の電力会社の現物出資や合併によって設立された半官半民のトラスト会社で、1938年1月(昭和13年) 電力管理法・日本発送電株式会社法(公布は同年4月6日)の成立により、1939年4月1日に設立した。戦後1942年4月、国家総動員法と配電統制令により9配電会社設立して、日発・9配電会社体制が成立した。1950年11月24日電気事業再編成令・公益事業令が公布。1951年5月、東京電力など新たに9電力会社に発送電施設が現物出資され、1952年9月には電源開発株式会社が設立した。
 なお、1997年(平成9年)に特殊法人合理化の中で民営化することで閣議決定され、2003年には電源開発促進法が廃止した。電源開発株式会社は2004年10月6日東京証券取引所の第1部に上場し、電力会社および政府出資の民営化ファンドの保有株式の全てを売却したことで、完全に民営化された。
2.組織と構成
 図1に電源開発株式会社の組織図を示す。J-POWERは、監査役制度を採用し、取締役13名、監査役5名(うち社外監査役3名)で構成され、コーポレート・ガバナンス体制および内部統制体制によりグループ全体の健全性と信頼性を確保している。
 また、J-POWERの主なグループ会社として、JPハイテックは水力発電、送変電設備の保守業務全般等を、ジェイペックは火力発電設備の保守業務全般等を、開発電子技術株式会社は電子応用設備、通信設備の施工、保守等を、株式会社開発設計コンサルタントは土木工事、一般建築、発電設備の設計、施工監理等を、JPリソーシズ(旧EPDC海外炭株式会社))は石炭の調査、探鉱、開発およびこれに対する投資等を、ジェイパワー・エンテック株式会社は乾式脱硫・脱硝技術に係る環境エンジニアリング等をそれぞれ委託している。
3.事業内容
3.1 水力発電
 電源開発株式会社は1952年設立後、全国的な電力不足を克服するため、佐久間発電所(静岡県天竜川水系)に代表される大規模水力発電所の開発をはじめた。佐久間発電所(重力式コンクリートダム、堤高155.5m、出力35万kW)は米国からブルドーザーなどの大型機械を導入したことで建設期間を大幅短縮し、1956年4月から運転を開始した。1970年代に入ってベース電源として石油火力のウェイトが高まり、原子力の開発が進んでいたが、電源開発株式会社は夏の電力ピーク対策として、出力調整能力に優れた大規模揚水発電の開発と大容量送電線の建設が進め、1964年9月には池原発電所(奈良県、アーチ式ダム、出力35万kW)の運転を開始した。1999年3月から沖縄やんばる海水揚水発電所の実証試験運転を開始している。図2にJ-POWERにおける水力・総変電地図を示す。
 水力発電は、発電過程でCO2を発生しない純国産の再生可能なエネルギーとして現在注目されている。2006年3月現在、全国59か所、総出力855万kWの設備をもち、日本の全水力発電設備シェアの19%を占める。
3.2 火力発電
 電源開発株式会社の石炭火力電源の開発は、1960年代後半に国内石炭産業支援を目的とした国内炭火力発電所の建設・運営からスタートした。1974年、1978年のオイルショック以降、エネルギー源の多様化が求められ、国内初となる海外炭を燃料とする大規模石炭火力発電所の建設に取組み、1981年1月には松島火力発電所(長崎県、2基計100万kW)の運転を開始した。現在では全国7か所に総出力781万kWの設備を保有して、日本の石炭火力発電設備の21%と、国内最大のシェアを占めている。図3に火力(含地熱)・原子力地図を示す。
3.3 地熱発電
 発電規模は小さいものの、CO2を排出しない純国産の再生可能エネルギーとして、1975年3月から鬼首地熱発電所(宮城県、出力1万2,500kW)の運転を行っている。
3.4 風力発電
 2000年12月に国内大規模ウィンドファームの先駆けとなる苫前ウィンビラ発電所(北海道)の営業運転を開始、2005年12月には瀬棚臨海風力発電所(北海道)の営業運転を開始して、国内7か所、出力は約14万kWとなった。図4に風力・RDF(Refuse Derived Fuel、一般ごみを圧縮成型した固形化燃料)・PFI(Private Finance Initiative、ごみ焼却施設等のリサイクルプラント系)発電設備地図を示す。
3.5 バイオマス発電
 バイオマス発電として松浦石炭火力発電所1、2号機(長崎県、100万kW×2基)により、2003年および2004年5月からバイオソリッド燃料による混焼実機試験を行っている。バイオソリッド燃料(油温減圧式乾燥法)は、下水処理場から排出される下水汚泥を減圧下で廃食用油と混合し100℃程度に加熱することで、熱量21,000〜25,000kJ/kg (5,000〜6,000kcal/kg)、水分5%程度、顆粒状の石炭に類似した燃料にしたもので、石炭火力発電所のCO2排出量削減に有効であるとしている。
3.6 原子力発電
 青森県大間において原子力発電所(フルMOX-ABWR、138万3,000kW)の建設を進めている。2006年9月19日付けで原子力安全委員会により「発電用原子炉施設に関する耐震設計審査指針」が改訂されたことに伴い、原子炉設置許可申請書の補正書が活断層による耐震設計評価、地質構造などを追記して2006年10月に経済産業省に提出された。2012年3月の運転開始を目指している。(注:原子力安全委員会は原子力安全・保安院とともに2012年9月18日に廃止され、原子力安全規制に係る行政を一元的に担う新たな組織として原子力規制委員会が2012年9月19日に発足した。)
3.7 送変電
 総亘長2,400kmにおよぶ送電線と、計8か所の変電所等を保有して、日本の電力系統全体を総合的に運用している。
3.8 その他の電力供給事業
 電力自由化を背景に、日本卸電力取引所(JEPX)での取引が開始され、子会社、関連会社を通じてのIPP(独立系発電事業者)による一般電気事業者向け電力卸供給、電力小売ビジネスへの新規参入者であるPPS(特定規模電気事業者)向けの電力卸供給を行っている。IPPではジェネックス水江発電所など3か所(合計出力52万kW)、PPS向けでは3か所(合計出力32万kW)の発電所が営業運転中である。
3.9 国際事業
 J-POWERはタイ、フィリピン、べトナムなど61か国で電源開発および送・変電設備の調査・設計・施行管理、その他技術協力に関するコンサルティング事業を行っている。1990年代以降は拡大し続ける電力需要をにらみながら、エネルギー効率の向上や環境問題に取組むとともに、国際化の時代に対応した幅広い活動を国内外で開始している。
4.事業の成果と課題
 2006年3月末現在、日本全国の電気事業用発電設備出力の約9割は、J-POWERと10電力会社が保有している。そのうち、J-POWERは全国67か所、出力規模約1,638万kWで、電力11社中、第6位(全国シェア約7%)に位置している(図5参照)。J-POWERは自社で保有する水力、火力などの発電所により、一般電気事業者(電力会社)10社他に対し電気の供給を行なっているほか、送・変電設備により、沖縄電力(株)を除く一般電気事業者9社に対する電力託送(送電サービス)を行っている。2006年3月期のJ-POWERグループの連結売上高は6,219億円、そのうち電気事業営業収益は92.2%の5,732億円である。卸電気事業の内訳は火力が3,683億円(59.2%)、水力が1,268億円(20.4%)、送・変電(託送)が583億円(9.4%)となっている。表2にJ-POWERにおける事業実績として電力設備、発電電力量、販売電力量の推移を示す。
 なお、今後10年間(2007年3月期〜2016年3月期)の電力供給計画では、2006年3月末の発電出力1,638万kWに対して2016年3月末には約1.1倍の1,854万kWに増大する。主な発電所として、2009年7月に磯子火力発電所新2号機(60万kW)が、2012年3月に大間原子力発電所(138.3万kW)が運転を開始する予定である。
 さらにJ-POWERグループは、エネルギー利用効率の維持・向上、CO2排出の少ない電源の開発、技術の開発・移転・普及等により、販売電力量あたりのCO2排出量を継続的に低減させ、さらに、化石燃料の燃焼によって発生するCO2を回収・固定することでCO2のゼロエミッションを目標としている。石炭火力は、化石燃料の中で最も経済的かつ安定した供給が可能であるが、LNGなど他の化石燃料と比較して、発電量当たりのCO2排出量が多い特徴がある。J-POWERは、一般電気事業者および卸電気事業者12社による「電気事業における環境行動計画」に基づき、地球温暖化問題取組んでいる。表3にJ-POWERにおける事業実績として燃料消費量、温室効果ガス排出量の推移を示す。
<図/表>
表1 主要電気事業者などの発電設備および発電電力量
表1  主要電気事業者などの発電設備および発電電力量
表2 J-POWERにおける事業実績(電力設備、発電電力量、販売電力量)
表2  J-POWERにおける事業実績(電力設備、発電電力量、販売電力量)
表3 J-POWERにおける事業実績(燃料消費量、温室効果ガス排出量)
表3  J-POWERにおける事業実績(燃料消費量、温室効果ガス排出量)
図1 電源開発株式会社組織図
図1  電源開発株式会社組織図
図2 J-POWERにおける水力・送変電地図
図2  J-POWERにおける水力・送変電地図
図3 J-POWERにおける火力(含地熱)・原子力地図
図3  J-POWERにおける火力(含地熱)・原子力地図
図4 J-POWERにおける風力・RDF・PFI発電設備地図
図4  J-POWERにおける風力・RDF・PFI発電設備地図
図5 J-POWERと10電力会社の設備出力
図5  J-POWERと10電力会社の設備出力

<関連タイトル>
水力発電 (01-03-05-01)
火力発電 (01-03-07-01)

<参考文献>
(1)電源開発株式会社ホームページ:http://www.jpower.co.jp/
(2)電源開発株式会社:2006 J-POWERグループ環境経営レポート
(3)電源開発株式会社:FACT BOOK 2006、http://www.jpower.co.jp/annual_rep/irlibrary/fact06/pg.html
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