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<概要>
 電気事業法は従来、電気事業に関する基本法として、原子力基本法、「核原料物質核燃料物質及び原子炉の規制に関する法律」(原子炉等規制法)とともに、原子力発電所の立地、建設から運転保守に至るまでの安全上必要な監督・規制を行うための諸手続を定めていた。
 また、原子力発電所の工事計画、使用前検査、定期検査などの具体的手続は、電気事業法施行規則に、さらに、その実施に係る技術基準などの細目は、経済産業省令や経済産業省告示に定められていた。
 東北地方太平洋沖地震(2011年3月11日)に伴う福島第一原発事故を契機に、原子力安全規制の体制が抜本的に改革された。新たな規制行政組織として原子力規制委員会が2012年9月19日に発足し、原子力発電所の立地手続きにおける地点選定から建設・運転保守までの一連の安全規制が原子炉等規制法に一元化され(ATOMICAデータ「商業用原子力発電炉に係る新規制基準(平成25年7月決定)<11-02-01-03>」を参照)、電気事業法も改正された。本データは、2012年(平成24年)改正前の電気事業法(原子力安全規制関係)について解説したものである。
<更新年月>
2016年09月   (本データは原則として更新対象外とします。)

<本文>
1. はじめに
 電気事業法は、電気事業の創設から廃止に至るまでの安全上必要な監督・規制を規定する基本法である。従来、原子力発電所に係る規制はこの電気事業法のほか、原子力基本法、「核原料物質、核燃料物質及び原子炉の規制に関する法律」(以下「原子炉等規制法」という。)など原子力特有の法律に基づいていた。
 電気工作物としての原子力発電所の工事計画、建設中の使用前検査等の諸検査、運転中の定期検査などの具体的手続き(原子力安全規制に係る規定)は、原子炉等規制法で電気事業法に委ねられており、その詳細は、電気事業法施行規則に定められていた。また、これらの実施に係る技術基準など細目については、発電用原子力設備に関する技術基準を定める省令などの経済産業省令や省令に基づく経済産業省告示に定められていた。福島第一原発事故を契機に、新たな規制行政組織として原子力規制委員会が2012年9月19日に発足し、従来、電気事業法に委ねていた原子力安全規制に係る規定に相当する規定は原子炉等規制法に一元化され(原子炉等規制法の改正(2012年(平成24年)6月)、電気事業法も改正された(ATOMICAデータ「商業用原子力発電炉に係る新規制基準(平成25年7月決定)<11-02-01-03>」を参照)。その結果、原子力安全に係る設備は原子炉等規制法、公害防止設備は引き続き電気事業法の規制対象となった。
 ここでは、改正前の電気事業法に基づきとられていた、原子力発電所の地点の選定、工事の実施、運転開始及び運転保守の各段階における諸手続について以下に述べる(図1「原子力発電所の地点選定から運転までの手続等」及び図2「原子力発電所の立地から運転までの法律上の手続」を参照)。なお、参考までに原子炉等規制法改正後の発電所建設までの環境アセスメント制度を図3、実用発電用原子炉に対する規制の流れを図4に示す。
2. 電源立地手続
 電気事業法は、選定された新増設地点について、当該年度を含む2年の間に国の電源開発基本計画に組み入れられる予定の地点を、毎年、経済産業大臣に届け出ることを求めている(電気事業法第29条:供給計画)。
 選定地点の事前調査を完了し、地元の合意が得られると、総合資源エネルギー調査会電源開発分科会の議を経て国の電源開発基本計画として、当該発電所計画が電源立地点として公的に承認されたことになり、この後は発電所の着工に向けた具体的な作業が進められることになる。電気事業法は、この作業に対して次の諸手続を求めていた。
(1)電気工作物変更許可申請(電気事業法第9条)
 電気事業者は、電気事業法に基づき「事業許可」を受けているが、発電所を新・増設する場合にはこの事業許可内容の変更が必要になる。
(2)工事計画認可申請(電気事業法第47条)
 電気工作物変更許可及び原子炉等規制法に基づく原子炉設置許可が得られれば、機器の製作・据付などの本格的な建設工事を開始するために「工事計画認可申請」を行い、原子力発電所の詳細設計内容について審査を受ける。原子炉等規制法にも、原子炉施設の詳細設計内容について同種の申請を行う旨の規定があるが、電気事業の用に供するものは電気事業法に委ねられ、原子炉等規制法では対象外としていた。
3. 発電所の工事に関する手続
 建設工事着工のための諸手続が終了し、原子炉建屋基礎掘削工事が開始された時点が、原子力発電所の「着工」である。
(1)使用前検査申請(電気事業法第49条)
 工事計画の認可を受けて実施している工事については、経済産業省令で定める工事の工程毎に、経済産業大臣または所轄経済産業局長宛に「検査申請書」を提出し、検査を受ける必要がある。主な検査時期の事例を以下に示す。
・原子炉本体、原子炉冷却系統設備、計測制御系統設備、燃料設備、放射線管理設備、廃棄設備または原子炉格納施設については、構造、強度または漏えいに係る試験ができる状態になった時。
・原子炉に燃料を装入することができる状態になった時。
・原子炉が臨界に達する時。
・認可を受けた工事計画に係る全ての工事が完了した時。この使用前検査を、一般に完成検査と称し、合格した場合には合格書が交付され、営業運転を開始することになる。
(2)溶接安全管理検査(電気事業法第52条)
 原子力発電所において、高温・高圧の蒸気等を包蔵するか、高濃度の放射性物質を包蔵する機械又は器具を溶接によって製作・設置する場合には、その溶接が、経済産業大臣の指定安全管理審査機関が行う溶接安全管理審査(自主検査の実施体制について審査を受けること)に合格しなければ使用できないと定められている。具体的な審査項目としては、溶接される材料、溶接開先形状・寸法、溶接後の熱処理の確認、放射線透過法等による溶接部の非破壊試験、耐圧試験などがある。
(3)燃料体検査(電気事業法第51条)
 発電用原子炉に燃料として使用する核燃料物質(以下「燃料体」という)は、その加工について経済産業省令で定める加工の工程ごとに経済産業大臣の検査を受け、これに合格した後でなければ使用してはならないと定められている。
 また、この検査基準として、次の2項目を定めている。
・その加工があらかじめ経済産業大臣の認可を受けた設計に従って行われていること。
・経済産業省令で定める技術基準に適合すること。
 燃料体の設計について経済産業大臣の認可を受けるには、その燃料体の原子炉内での使用時における耐熱性、耐放射線性、耐食性などの性能についての説明書、燃料体の強度計算書、燃料体の構造図及び加工のフローシートを添付した設計認可申請書を提出しなければならない。
 燃料体検査は、燃料体設計認可を受けた後に、燃料体検査申請、燃料体検査要領書提出、検査の実施、燃料体検査報告書提出のステップで進められ、全ての検査に合格した後に、燃料体検査合格証が交付される。
4. 発電所の運転中における手続
 原子力発電所は建設段階を経て、使用前検査完了をもって営業運転に入るが、その間にも試運転期間があって原子炉の運転は徐々に開始されることになる。したがって、運転計画をはじめ運転開始後の安全を確保するために保安規定及び原子炉主任技術者の選任について、運転開始前に申請や届出が必要になる。運転開始後には、さらに施設の定期検査について申請が必要になる。運転開始後の諸手続には、電気事業法と原子炉等規制法の二つの流れがあり、両者相まって原子力発電所における安全な運転の確保に必要な規制を行うようにしていた。
(1)施設の定期検査(電気事業法第54条)
 定期検査の目的を図5、検査制度を図6、定期検査制度の概要を図7に示す。定期検査の間隔(電気事業法施行規則第91条)は、科学的・合理的根拠に基づく間隔として設定することが可能で、定期検査が終了した日以降、13ヶ月を超えない時期、18ヶ月を超えない時期、24ヶ月を超えない時期の3つの間隔について選択される。定期事業者検査は、運転中も含め定期検査開始から次の定期検査開始日の前日までの期間に行われる。
(2)定期安全管理審査(電気事業法第55条第4項)
 電気事業者が実施する定期事業者検査(電気事業法第55条第1項、第3項)の実施体制を独立行政法人原子力安全基盤機構(JNES)が審査し、原子力安全・保安院(NISA)がその審査結果に基づいて総合的な評定を行っていた。審査は、実施に係る組織、検査の方法、検査に係る工程管理、検査に協力する事業者の管理、検査の記録の管理、検査に係る教育訓練について行っている。審査の結果は、NISAに通知され、NISAはその審査結果に基づき評定を行う。このとき、評定の段階に応じて、次回の定期安全管理審査の実施項目を増減させるなどの工夫(インセンティブ規制)を行い、定期事業者検査の信頼性・透明性を確保するとともに、電気事業者の安全確保の取り組みを促すこととなっている。
(注:NISAは原子力安全委員会とともに2012年9月18日に廃止され、原子力規制委員会の事務局として2012年9月19日に発足した原子力規制庁がその役割を継承している。また、JNESは2014年3月に原子力規制庁に統合された。)
(前回更新:2007年10月)
<図/表>
図1 原子力発電所の地点選定段階から運転段階までの手続等
図1  原子力発電所の地点選定段階から運転段階までの手続等
図2 原子力発電所の立地から運転までの法律上の手続
図2  原子力発電所の立地から運転までの法律上の手続
図3 実用発電用原子炉に対する規制の流れ
図3  実用発電用原子炉に対する規制の流れ
図4 発電所建設までの環境アセスメント制度
図4  発電所建設までの環境アセスメント制度
図5 定期検査の目的
図5  定期検査の目的
図6 検査制度
図6  検査制度
図7 定期検査制度の概要
図7  定期検査制度の概要

<関連タイトル>
原子力発電所の定期検査 (02-02-03-07)
原子炉等規制法(平成24年改正)の概要 (10-07-01-05)
発電用原子炉の安全規制の概要(原子力規制委員会発足まで) (11-02-01-01)
商業用原子力発電炉に係る新規制基準(平成25年7月決定) (11-02-01-03)

<参考文献>
(1)経済産業省原子力安全・保安院原子力保安管理課(編):安全規制行政の概要、平成13年度(平成12年度実績)原子力施設運転管理年報、(社)火力原子力発電技術協会(2001年11月)、p.779−792
(2)経済産業省資源エネルギー庁電力・ガス事業部原子力政策課(編):第6章国による安全規制、原子力2001、(財)日本原子力文化振興財団地域協力部(2001年7月)、p.68−74
(3)経済産業省HP:資源エネルギー庁、原子力のページ、原子力発電所の安全確保対策、原子力発電所に対する国の規制(商業用原子力発電所の場合)(2002年2月)
(4)経済産業省HP:原子力安全・保安、原子力安全・保安院、原子力施設の検査制度の枠組み(2002年2月)
(5)福井原子力センターHP:「あっとほうむ」原子力情報・資料編(2002年2月)
(6)(社)日本原子力産業会議:実用発電用原子炉の許認可手順、原子力ポケットブック2001年版(2001年8月7日)、p.61
(7)原子力安全・保安院(編集):原子炉等規制法、電気事業法、電気事業法施行令、電気事業法施行規則、発電用原子力設備の技術基準を定める省令、2001年版原子力実務六法(2001年10月25日)、p.57−136、p.868−1223
(8)資源エネルギー庁(編):国による規制、原子力発電所の地点選定段階から運転段階までの手続等(図)、「考えよう、日本のエネルギー」(パンフレット)、(財)原子力発電技術機構(2002年3月)、p.25
(9)原子力安全・保安院HP:定期安全管理審査制度と定期事業者検査制度
(10)電気事業連合会:「原子力・エネルギー図面集」第5章「原子力発電の安全性」
(11)「電気事業法施行規則」(平成七年十月十八日通商産業省令第七十七号)最終改正:平成二三年三月三一日経済産業省令第一四号
(12)「電気事業法」(昭和三十九年七月十一日法律第百七十号)最終改正:平成二三年四月二七日法律第二七号
(13)電気事業連合会ホームページ:電気の情報広場、原子力発電所の定期検査
(14)原子力規制委員会:発電用原子炉施設に対する安全規制の原子炉等規制法への一元化について(資料7)
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