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<概要>
 日本原子力産業会議(2006年4月以降、日本原子力産業協会)は、わが国における原子力産業の実態を把握し、各分野における関係者の参考となるような基礎資料を提供することを目的として、原子力産業実態調査を実施している。2004年度の電気事業における原子力関係支出高は前年度から14.1%増加、1兆7,742億円となり、過去13年間で最低の額となった前年度から増加に転じた。支出の中で最も大きな割合を占める費目の原子力発電所「運転維持費」(53%)は、前年度実績比5.2%増の9,390億円となった。鉱工業全体の原子力関係売上高は、前年度比9.1%減の1兆3,172億円となり、1996年度以降の減少傾向が続いた。92年度実績の2兆2,410億円と比べると約41%減少した。原子力関係の業務に携わった鉱工業および電気事業の従事者数(事務系を含む)は、前年度から2,701人減少(−5.6%)し、45,833人となった。本調査を開始して以来、最高を記録した1982年度(67,468人)と比べると約32%減少した。「再処理、廃棄物、処理処分部門」の従事者数は、鉱工業、電力事業合わせて、対前年度比約4%減の1,275人となった。
<更新年月>
2006年06月   (本データは原則として更新対象外とします。)

<本文>
1.2004(平成16)年度の原子力産業実体調査(第46回)の内容
・目的:わが国における原子力産業の実体を把握し、各分野における関係者の参考となるような基礎資料を提供する。
・調査対象:株式会社、有限会社等、営利を目的とする企業で、原子力機材の研究・生産・利用支出、売上、従事者を有すると思われる企業のすべてを対象としている。
・調査事項:電気事業は主に支出高、従事者数、支出見込み、鉱工業は主に売上高、受注残高、支出高、従事者数、支出見込み、商社は主に取扱高よりなる。なお実態調査を補足するため、鉱工業に対してアンケート調査も併せて行った。
・調査時点:支出高、売上高、取扱高については平成2004(平成16)年度(2004年4月1日〜2005年3月31日)の1年間の実績であり、受注残高、従事者および各種見込みについては2005年3月31日現在の数字をまとめたものである。決算期が異なる場合は各社の2004会計年度を対象とした。
2.一般概況
 2004年度のわが国の実質経済成長率は、1991〜2004年度の平均成長率1.2%より大きく、2003年度の2.0%とほぼ等しい1.9%となり、2002年度初頭から続く穏やかな景気回復基調を維持した。このような経済状況の下、最終エネルギー消費量は2003年度実績で15,912×1015J(ジュール)となり、前年度実績比0.8%減、1991年度消費量と較べて約17%増となった。
 電気事業用総発電電力量は2004年度、9,468億kW時となり、前年度比2.9%増、2000年度以降ほぼ横ばいとなっている。この間、原子力発電所設備利用率、発電シェアは8月に発生した、美浜原子力発電所の蒸気配管事故に伴う点検停止の影響で68.9%(発電シェア29.8%)にとどまったが、2003年度、自主点検記録改ざん問題の影響で59.7%(発電シェア28%)と低下していたため、前年度比9.2ポイントの増加となった。
 政府関係の動きでは、原子力委員会が「新計画策定会議」を設置(6月)、11月には使用済燃料の再処理を行う方針が再確認された。8月には「バックエンド事業に対する制度・措置のあり方」(総合資源エネルギー調査会・電気事業分科会)がまとめられ、これを受けて、2005年2月に再処理のための積立金積み立ておよび管理に関する法律案が閣議決定された。2005年度の税制改正で準備金制度への改組が行われ、原子力事業に関する制度の整備が進んだ。また、11月には「独立行政法人 日本原子力研究開発機構法」が成立し、同機構は2005年10月に発足した。
 2004年度に運転を開始した原子力発電所は浜岡5号機(2005年1月)、初臨界を達成した発電所は東通1号機(2005年1月)であった。(なお、志賀2号機は2005年5月初臨界、2006年3月営業運転開始。)
 主な原子力関連指標の動向を表1に原子力産業の財・サービス・フローチャートを図1に示す。
3.2004年度原子力産業実態調査の主な特徴
(1)電気事業の原子力関係支出動向
 電気事業の2004年度原子力関係支出は、前年度比14.1%増の1兆7,742億円となった(図2)。1998年度から増加傾向で推移し、2001年度には2兆850億円まで達した。その後は2年連続で減少。今年度は増加。項目別支出(図3)の中で伸びが大きく、支出総額を押し上げたのが「核燃料費」で5,185億円(48.1%増)。この項目はウラン精鉱、転換、濃縮、加工費のほかに再処理費、輸送費なども含んでおり、前年度に3,500億円台に低下したのを除けば、概ね5,000億円で推移している。「建設費」は2,628億円(1.5%増)となり、2000年度以降、緩やかに縮小している。ただし、内訳(図4)の中に含まれる原子力設備の機械装置費は前年度から19.4%増加しており(1,318億円)、1999年度以来4年連続の減少傾向に歯止めを打った。
 支出総額の中で最も額の大きいのが「運転維持費」(全体の53%、図5)で、2004年度は前年度比5.2%増の9,390億円を計上。2000年度および2001年度で総額が一時的に1兆円台に跳ね上がっていたのを除けばほぼ例年並みの結果となった。原子力発電所の保修・点検関連費である修繕費は前年度比10.4%増の3,855億円になっており、「運転維持費」の総額を押し上げた主な要因となった。修繕費は2002年度と2003年度に3,100億円〜3,500億円に落ち込んだ以外では、概ね3,700億円〜3,900億円で推移。2002年8月の自主点検データ改ざん問題に端を発した新たな検査制度が2003年の10月から導入され、その導入に伴う諸経費の増大や、2004年8月に美浜3号機で発生した蒸気配管破断事故により関西電力の原子炉11基で二次系冷却配管の減肉調査が実施されたことなどが影響したと推測される。
 保守・点検関係への比重拡大は電気事業の原子力関係従事者数(表2)の実績にも現われている。2004年度は研究者も含めた技術系従事者の総数が前年度に続いて増加し8,646人(1.1%増)になったが、「設計・建設工事部門」の技術者数は735人で2001年度以降、3年連続して減少している。「調査・計画・管理部門」の技術者数は1,172人(2.4%減)と前年度並みとなっている。
 技術系従業員の64.9%を占める「運転・保守部門」の要員数は1.9%増の5,612人となっている。過去5年間だけ見ても同部門の人数は緩やかながら一貫して増加しており、同部門への人員シフトが見て取れる。
(2)鉱工業の動向
 原子力発電所の新設建設については、国内の案件が少なくなっている一方で、海外では中国やベトナムなどアジア地域を中心に新規建設計画が多数明らかになっている。そのため、原子力に関わる鉱工業としては新規案件を海外に模索する動きが強まっている。
 他方、国内では2004年度は新計画策定会議で核燃料サイクルの堅持がうたわれ、同年12月には日本原燃が六ヶ所村で建設を進めている再処理工場でウラン試験が開始された。2005年2月には高速増殖炉もんじゅ」の改造工事着手について地元の了解が得られた。年度末にはまた、日本原燃が六ヶ所村に建設を計画しているMOX燃料加工工場をめぐり、青森県と六ヶ所村が立地のための基本協定締結に向けた検討を開始した(※2005年4月に調印)。さらに、東京電力と日本原子力発電がむつ市に建設を計画している使用済み燃料中間貯蔵施設についても、地元での説明会が頻繁に開催された。(※2005年10月に地元と立地協力に関する協定に調印)。
 鉱工業全体の原子力関係売上高は前年度比9.1%減の1兆3,172億円となり、1996年度以降、減少傾向が続いている。このうち、全体の32.0%を占める「原子炉機材」部門の売上高(図6)は前年度実績より8.3%減の4,209億円だった。ここ7年間は4,000億円台の水準にある。
 発電所の保守・メンテナンスの売上げが大部分を占める「その他製造」部門(核融合機器、各種の試験機器も含む)は、前年度比7.0%減の4,226億円になり、2004年度は売上高全体の32.1%を占めた。過去6年間、4,000億円後半から5,000億円前半の水準で推移している。
 一方、「燃料サイクル」部門は3年連続減少の2,350億円(14.5%減)だったが、2000年度から2002年度までの間、一時的に3,000億円台だった時期を除けば、過去10年間の売上げは「横ばい」で推移している。これは、六ヶ所再処理工場の建設工事が2000〜2001年度でピークを終えたのを反映していると思われる。なお、「RI・放射線機器/照射サービス」部門(9.4%増の908億円)と「発変電機器」部門(8.3%増の701億円)は売上実績を伸ばした。
 売上高を納入先別に見ると、2004年度は例年通り、電気事業向けの割合が7割を超えており、そのうち4割弱が「原子炉機材」部門の納入。多くを電気事業に依存する傾向に変わりはないが、今回、6年ぶりに1兆円を下回る9,585億円となった。二番目に割合の大きい納入先は鉱工業向け(14.4%)で2004年度は前年度比7.2%減の1,893億円。このうち核燃料サイクル機器関係の売上高である276億円を差し引いた1,618億円が鉱工業同士の中間取引高と考えられる。
 海外への輸出総額は前年度より97億円(41.2%)増の331億円を記録した。主に欧米などでの取替え用圧力容器上蓋や蒸気発生器など主要コンポーネントの需要を反映している。2004年度以降の売上高を予測する上で重要な受注残高(図7)は、2004年度末現在で1兆8,132億円(前年度比8.0%減)となった。過去の約10年間の傾向を見ると残高実績はゆるやかに減少している。この傾向は全体の4割を占める「原子炉機材」部門の残高推移を反映している。
 「燃料サイクル」部門では5,207億円(前年度比2.7%減)となったが、概ね5,000億円レベルで推移している。同部門は受注残高中の割合が「原子炉機材」部門に次いで大きいが、2004年度は10年前の割合と比較して大きな変化がなかった(27.0%→28.7%)。そのほか、「発変電機器」は2,176億円(12.0%)、「その他製造」は1,993億円(11.0%)であった。売上高を業種別で見ると、原子力関係では「電気機器製造業」の売上高が最も多く、2004年度は3,472億円(全体の約26%)だった。続いて、「建設業」の3,283億円(24.9%)、「原子力専業」の2,199億円(16.7%)、「造船造機業」2,126億円(16.1%)となっており、これら4業種で総売上高の約8割を占めている。
 鉱工業による原子力関係の支出高は2004年度は1兆2,239億円(前年度比13.4%減)となった。特に、支出全体の31.9%(3,901億円)を占める「原子炉機材」部門と25.2%(3,088億円)を占める「燃料サイクル」部門の減少が著しく(図8)、どちらも3〜4年ほど前から支出高の削減ペースが速まっている。全体の28.1%を占める「その他製造」部門は今回調査で3,440億円(13.0%減)になったが、10年単位の傾向を見てみると概ね3,000億円〜4,000億円の間で推移している。
 原子力機関への出資金や海外技術導入費を除いた鉱工業全体の研究支出高は7年ぶりに増加に転じ、前年度比15%増の345億7,300万円となった(図9)。ピーク時の1997年度実績(852億円)と比較すると研究投資は半分以下だが、同年度以降2003年度まで6年続いた減少傾向が増加に転じた。
 研究開発活動の状況指標となる「研究投資率」(研究用の総支出高を売上高で除して算出)についても前年度実績から2.32ポイント上がって4.48%となった。部門別では「その他製造」部門以外の全部門で数値が増加しており、最も伸びの大きい「RI・放射線機器/照射サービス」部門では6.89%(2.68ポイント増)。「燃料サイクル」部門でも1.15ポイント増の2.97%、「原子炉機材」部門でも0.67ポイント増の3.09%となっている。
 鉱工業の2004年度の生産設備投資高(図10)は1,125億円(前年度実績比11.5%減)、2001年度の約3,000億円以来、3年連続して減少している。この間、2003年度は1,271億円(前年度比51.6%減)になっていたが、今回調査で下げ幅は落ち着きを見せ始めた。この変動は全体の78.1%を占める「燃料サイクル」部門の減少をそのまま反映したもので、ピークとなった2003年度から3年連続の減少。878億円(前年度比11.8%減)となった。これは六ヶ所村における再処理工場向け設備投資が一段落したためと推測される。
 一方、「RI・放射線機器/照射サービス」部門では86.9%の大幅増の約40億円となったほか、「その他製造」部門でも15.7%増の86億円となった。また、プラントメーカーが原子力製品を生産するための設備投資が中心となる「原子炉機材」部門の投資総額は前年度比13.0%減の42億円にとどまった。これは、近年続いている原子炉の受注減を反映したものと思われる。
 鉱工業で原子力関係業務に携わっている技術系従事者の数は、約29,000人だった2000年度以降、漸減傾向で推移してきており、2004年度は前年度比4.9%減の25,845人にとどまった。このうち、増加が見られるのは「サービス部門」で、2004年度は8,844人(前年実績比0.8%増)で、同部門では2001年度以降一貫して上昇傾向にあり、同年度より12.1%の増員となっている。人員の見通しの結果でも2005年度以降もこの傾向に変化はないと思われ、2009年度には2.0%増の9,021人になることが予想されている。
 他方、緩やかながらも減少基調にあるのが「設計部門」で2004年度は4,563人(0.4%減)、将来見込みでは、2009年度に1.4%の増加が見通されるものの、ほぼ横ばいで推移するものと思われる。また、「建設土木・工事部門」でも、5年前頃から約3割の減少が見られており、2004年度も前年度比1.8%減の1,075人となっている。
 これらの傾向については、鉱工業の売上の章でも述べたように、原子力発電所の定常的な保全業務で国内新規案件の端境期を切り抜ける戦略が反映されたものと考えられ、技術力や人的資源の維持・確保という点では一層厳しさが増している現状が伺える。
 電気事業と鉱工業を合わせた民間企業の原子力関係従事者数は、45,833人(前年度実績比5.6%減)となった(図11)。このうち、全体の約23%を占める電気事業の従業員数が過去10年間でほとんど変わらず約10,000人(前年度比1.2%増の10,448人)。鉱工業の従業員数は前年度比7.4%減の35,385人で、10年前と比較して約3割の減少となっている。
(3)商社の取り扱い動向について
 商社による原子力関係の取り扱い高は、2004年度は3,590億円(前年度比13.9%減)となった。年毎に増減が大きいという特徴はあるものの、数値的には過去20年間で見ても最低となっている。内訳としては、全体の62%を占める「国内取り扱い高」が5.9%減の2,224億円となったほか、「輸入取り扱い高」は24.6%減少して1,325億円に。「輸出取り扱い高」は16.5%減の40億円であった。
<図/表>
表1 主な原子力関連指標の動向
表1  主な原子力関連指標の動向
表2 電気事業の原子力関係従事者の実績と見込み
表2  電気事業の原子力関係従事者の実績と見込み
図1 原子力産業の財・サービス・フローチャート
図1  原子力産業の財・サービス・フローチャート
図2 電気事業の2004年度原子力関係支出内訳
図2  電気事業の2004年度原子力関係支出内訳
図3 電気事業の費目別原子力関係支出高の推移
図3  電気事業の費目別原子力関係支出高の推移
図4 電気事業:建設費の内訳
図4  電気事業:建設費の内訳
図5 電気事業:運転維持費の内訳
図5  電気事業:運転維持費の内訳
図6 鉱工業の部門別売上高の推移
図6  鉱工業の部門別売上高の推移
図7 鉱工業の部門別原子力関係受注残高の推移
図7  鉱工業の部門別原子力関係受注残高の推移
図8 鉱工業の部門別支出高の推移
図8  鉱工業の部門別支出高の推移
図9 鉱工業の研究支出高の推移
図9  鉱工業の研究支出高の推移
図10 鉱工業の生産設備投資高の推移
図10  鉱工業の生産設備投資高の推移
図11 民間企業の原子力関係従事者数の実績と見込み
図11  民間企業の原子力関係従事者数の実績と見込み

<関連タイトル>
平成16年度電力供給計画 (01-09-05-21)
原子力産業実態調査報告(平成8年度) (10-05-03-01)
原子力産業実態調査報告(平成9年度) (10-05-03-02)
原子力産業実態調査報告(平成10年度) (10-05-03-03)
原子力産業実態調査報告(平成11年度) (10-05-03-04)
原子力産業実態調査報告(平成12年度) (10-05-03-05)
原子力産業実態調査報告(平成13年度) (10-05-03-06)
原子力産業実態調査報告(平成14年度) (10-05-03-07)
原子力産業実態調査報告(平成15年度) (10-05-03-08)

<参考文献>
(1)(社)日本原子力産業会議:2004年度 第46回原子力産業実態調査報告(2006年3月)
(2)(社)日本原子力産業協会(旧:(社)日本原子力産業会議):http://www.jaif.or.jp/
(3)(社)日本原子力産業会議(現:(社)日本原子力産業協会):原子力eye、Vol.52、No.6、64-69(2006年6月)
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