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<概要>
 京都大学原子炉実験所は、大学独自の原子炉を用いた研究を行う全国共同利用研究所として、1963年4月に設置されたが、1995年からは、施設を整備し、原子力基礎科学において萌芽的・先駆的研究に対応できる学術研究拠点としての活動を行っている。実験所には、ラインとしての組織のほか、運営や研究のための各種委員会などが設けられている。国立大学法人化に伴い新たな研究教育活動への転換に向けて、「地域に根ざし、世界に拡がる科学の郷『くまとりサイエンスパーク』」に進化させようとしている。主な研究施設は、研究用原子炉(KUR)、ホットラボラトリ、臨界集合体実験装置(KUCA)、熱特性実験装置、電子線型加速器、トレーサ・ラボラトリおよびコバルト60γ線照射装置である。原子炉安全管理の研究、中性子科学の研究、エネルギーの基礎研究、バックエンド工学の研究、応用原子核科学の研究、放射線生命科学の研究、原子炉応用研究および粒子線腫瘍学の研究が進められている。また加速器駆動未臨界炉(ADSR)実験等を行うため、固定磁場集束型陽子シンクロトン加速器の建設を進めている。
<更新年月>
2006年08月   

<本文>
1.沿革と運営体制
 京都大学原子炉実験所は、大学独自の原子炉による「実験およびこれに関連する研究」を行うため、1963年4月、全国共同利用研究所として設置されたが、研究分野を拡大するために施設を整備し、1995年からは、「卓越した中核的研究機関」、すなわち原子力基礎科学において萌芽的、先駆的研究に対応できる学術研究拠点としての活動を行っている。国立大学法人化に伴い新たな研究教育活動への転換に向けて、「地域に根ざし、世界に拡がる科学の郷『くまとりサイエンスパーク』」に進化させようとしている。加速器駆動未臨界炉(ADSR)を始めとする基礎研究を開始するため、固定磁場集束型(FFAG)陽子シンクロトン加速器(エネルギー20〜150MeV、平均ビーム強度1μA、繰り返し120Hz)の建設を進め、2006年にADSR実験を行う予定である。
 実験所は、ラインとしての組織のほか、図1に示す実験所の運営と研究のための組織、実験所の重要事項を審議する協議員会、所長の諮問機関である運営委員会および各種の委員会などで運営されている。
 研究計画の検討や施設の共同利用の調整を行う委員会は4つある。すなわち、研究計画委員会は、実験所の将来計画の調査立案、研究計画の検討を行う。共同利用研究委員会は、共同利用研究の方針等の立案および実施に関する調整を行う。臨界集合体実験装置共同利用研究委員会は、臨界集合体実験装置の共同利用研究の実施に関する事項を審議する。原子炉医療委員会は、原子炉医療および付属原子炉医療基礎研究施設に関する重要事項の検討を行う。
 研究を実施する部署は、原子炉安全管理研究、中性子科学研究、核エネルギー基礎研究、バックエンド工学研究、応用原子核科学研究および放射線生命科学研究の6つの部門と、付属の原子炉応用センターおよび原子炉医療基礎研究施設である。なお、2005年4月に6研究部門を原子炉基礎工学研究部門、粒子線基礎物性研究部門、放射線生命科学研究部門の3研究部門に改組し、2附属施設を合わせて、3研究本部体制となっている(図2)。技術室は、研究炉と臨界実験装置の運転・保守・管理、放射線管理放射性廃棄物処理などの技術管理の業務を担当している。
2.主な研究施設
(1)京都大学研究用原子炉(KUR:Kyoto University Reactor)
 KURは、熱出力5000kWのスイミングプール・タンク型の原子炉で、重水熱中性子設備、冷中性子設備、冷中性子源と長波長中性子設備、KUR中性子導管、低温照射設備、オンライン同位体分離装置および準単色中性子実験設備を備えている。高濃縮ウラン燃料による運転を2006年2月に終了し、今後、低濃縮ウラン燃料に係る諸手続きが完了した後運転再開となる予定である。
(2)ホットラボラトリ
 KURの原子炉室に接続して設置されており、原子炉で照射した物質の各種試験、化学処理、放射能測定などを安全に取り扱うための施設である。
(3)京都大学臨界集合体実験装置(KUCA:Kyoto University Critical Assembly)
 KUCAは、固体減速架台2基と軽水減速架台1基の3つの集合体からなる複数架台式の臨界集合体実験装置である。KUCAには、パルス中性子発生装置が設けられている。A架台と加速器を組み合わせて加速器駆動未臨界炉の実験が行われる。KUCA棟に隣接して加速器を収容するイノベーションリサーチラボが建設されている。イノベーションリサーチラボは、将来FFAG加速器からの陽子ビームを使った物理実験や化学実験、生物実験のほか医療目的にも使われる計画である。
(4)熱特性実験装置
 高圧水ループと大気圧水ループの2つの加熱ループ、非加熱二相流ループおよび付属設備で構成する実験装置である。加熱ループは、大電流を供給できる直流安定化電源(最大20V、5000A)が設けられている。
(5)電子線型加速器(LINAC:Linear Accelerator)
 電子線型加速器は、最高電子エネルギーは46MeV、ビーム電流約5A(短パルス)および0.5A(長パルス)、パルス繰り返し数約400Hzの加速器である。
(6)トレーサ・ラボラトリ
 比較的弱い放射性同位元素を使用して研究を行うための諸設備を設けた施設である。
(7)コバルト60γ線照射装置
 60Coγ線を用いて最高19kGy/hの照射が可能な照射設備および各種測定器を備えた施設である。
(8)高機能中性子鏡製造装置
 スーパーミラー、モノクロメータ、ポーラライザ、アナライザといった多様な高機能多層膜中性子鏡の開発を、イオンビームスパッタ装置及び大面積蒸着装置を用いて行っている。2003年6月時点で世界最高性能であるニッケルの5倍の前反射臨界角を持つスーパーミラーが開発されている。
3.研究活動
(1)原子炉安全管理研究部門では、原子炉施設の安全性の向上のため、あるいは、KURの安全で円滑な運転のために必要な原子炉自身の安全管理、放射性廃棄物管理や放射線管理などの課題をシステム工学的に研究する。研究分野は、研究炉管理、核物質管理、放射性廃棄物管理、放射線管理および同位体製造管理などである。
(2)中性子科学研究部門では、中性子の基本的な特性を利用した磁性材などの物性研究、中性子の量子工学的精密制御機器の開発、中性子光学や超冷中性子源の開発およびそれらを用いた基礎物理の研究を行うこよにより、新研究領域への発展に資する。中性子物性、冷中性子理工学、中性子制御の3分野で研究が進められている。
(3)核エネルギー基礎研究部門では、核エネルギーの開発・有効利用を目的として、核・熱・材料の各分野の有機的な連携のもとに、原子力基礎研究の分野での多様なニーズに応えるために、次期線源の開発を目指す。核変換システム、極限熱輸送、材料照射効果、量子ビームシステムの4分野で研究が進められている。
(4)バックエンド工学研究部門は、核燃料サイクルのバックエンド技術の確立のために、核燃料のリサイクル、超ウラン元素の管理に関する化学的研究および放射性廃棄物処理処分などに関する環境安全研究を行う。放射能環境動態および核プロセス化学分野の研究が進められている。
(5)応用原子核科学研究部門では、原子炉で生成される短寿命RIやライナック電子線などを高度利用し、独創的な新しい手法を駆使して原子核をプローブとする物質の基本性質の解明やそれらの有用な応用に関する研究を幅広く行なう。特に、RIビームを用いる研究は原子炉利用研究の柱の一つとなっている。核放射線計測、原子核物性および粒子線物性の3分野で研究が進められている。
(6)放射線生命科学研究部門では、原子炉の中性子をはじめとする粒子線や放射線を利用し、生命現象の解明と高度医療を目的とした生物・医学的研究を行う。研究分野は、粒子線生物学、同位体利用および放射線医療物理の3つである。
(7)附属原子炉応用センターでは、研究炉およびその関連実験装置のより安全な運転と利用の一層の高度化に向けて必要となる基礎的な諸課題に関して、特に実験所で取り組む大学院教育や研究成果の社会への還元活動に関連させつつ研究する。
(8)原子炉医療基礎研究施設では、原子炉の熱中性子および放射線を用いて癌の治療と診断を行うための基礎的研究として、粒子線腫瘍学の研究が行われている。
4.所在地など
  所在地:590-0494 大阪府泉南郡熊取町野田
  電 話:0724-51-2300
  FAX  :0724-51-2600
  URL  :
<図/表>
図1 京大原子炉実験所の運営と研究のための組織
図1  京大原子炉実験所の運営と研究のための組織
図2 京大原子炉実験所の部門別組織図(平成18年4月1日現在)
図2  京大原子炉実験所の部門別組織図(平成18年4月1日現在)

<関連タイトル>
京都大炉(KUR) (03-04-03-05)
京都大学原子炉実験所 (10-04-05-03)
日本の主な原子力関連機関一覧 (13-02-02-01)

<参考文献>
(1) 京都大学原子炉実験所:
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