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<概要>
 環境放射能安全研究年次計画(以下「本年次計画」という)では、核燃料サイクルの本格的稼動、核融合開発研究の進展に伴い、これらに関連する内部被ばくに特徴的な核種に注目し、研究を進めることとした。本計画では、(1)超ウラン元素による内部被ばく研究、(2)トリチウムによる内部被ばく研究、(3)ラドンとその壌変生成物による内部被ばく研究、(4)その他の主要核種による内部被ばく研究の4項目について、研究を実施することとなっている。
<更新年月>
1997年03月   (本データは原則として更新対象外とします。)

<本文>
 内部被ばく研究は、生物個体による放射性核種の摂取に伴う被ばく線量と影響の両者を同時に正しく評価する必要があり、また摂取した放射性核種の化学形等の環境因子及び年齢等の生埋学的因子がそれぞれに関与するという特徴を持つ。さらに、それらを明らかにするための研究手法においても、外部被ばくでの手法とは異なったものが必要である。本年次計画の策定に当たっては、核燃料サイクルの本格的稼動、核融合開発研究の進展に伴い、これらに関連し内部被ばくに特徴的な核種に注目し研究を進める。特定核種として、超ウラン元素、トリチウム、ラドンとその壊変生成物、その他の主要核種(放射性ヨウ素放射性セシウム及び放射性ストロンチウム)を対象としている。
 本安全研究では、放射線医学総合研究所、農業環境技術研究所、日本原子力研究所(現日本原子力研究開発機構)、動力炉・核燃料開発事業団(現日本原子力研究開発機構)、(財)環境科学技術研究所等が分担・実施し、推進する( 表1 参照)。
1.超ウラン元素による内部被ばく研究
 超ウラン元素による内部被ばく研究は、核燃料サイクルとの関連で重要であり、吸入摂取並びに経口摂取の二つの経路に着目する。国内外で蓄積されている知見を充分に活用し、呼吸気道沈着、生体内挙動、線量評価、生物影響、モニタリング技術に関する研究を進め、放射線防護への反映を期する。
 超ウラン元素による人体への影響に関しては、実際に人体に有意の量の超ウラン元素を摂取した例も少なく、因果関係の明らかな障害事例の発生は世界中でも存在しない。したがって、動物実験等によるデータをヒトヘ外挿し、人体への影響を推定することになる。このため、動物実験を中心に研究を進める必要がある。
 超ウラン元素のうち特にプルトニウムの生物影響については、人体でのリスク評価に適用し得るデータを得るため、吸入摂取を中心に、エアロゾル特性、気道内沈着、種々の臓器への移行と分布、バイオドシメトリも含めての線量評価、発がんを中心とする晩発影響とその発現のメカニズム、特に、低線量域での線量効果関係を明らかにするための研究を進める。さらに、種々の段階でのモニタリング法とキレート剤処理など線量あるいはリスク低減のための方策について研究を進めて行くことが必要である。
 具体的には、(1)「呼吸気道への放射性微粒子沈着のモデル化に関する研究」、(2)「超ウラン元素の体内動態に関する研究」、(3)「人体内プルトニウム等の核種の精密測定評価」、(4)「アルファ線放出核種による内部被ばくのバイオドシメトリに関する研究」、(5)「超ウラン元素の内部被ばくによる発がんとその線量効果に関する研究」、(6)「キレート剤等による放射性物質の体内からの除去に関する研究」、(7)「エアロゾル学的手法による吸入被ばく低減化に関する研究」、(8)「内部被ばく線量評価と生体影響に係わるデータベースの構築に関する研究」についての研究を実施することとなっている。
2.トリチウムによる内部被ばく研究
 トリチウムは、核融合開発とも関連する重要研究対象核種である。環境に放出されたトリチウムは環境中で種々の化学形で存在する。特に有機形でのトリチウムの体内動態と生物影響等従来不足していた事項を中心により詳細な情報の蓄積を図ることが重要である。 トリチウム内部被ばく研究においては、トリチウムガスが生態系内でトリチウム水あるいは有機形トリチウムに変換され、飲料水、食物、水蒸気として人体に取り込まれるまでの移行経路や移行率をトリチウムの化学形に着目しながら明らかにする。また、トリチウムの環境中存在形態を明らかにし、特に有機形トリチウムの生体内代謝の特性を明らかにし、さらに、体内動態の年齢依存性あるいは胚や胎児への移行率等についての研究を進め、公衆被ばくにおける線量評価に資する。生物影響に関しては、トリチウムの細胞内存在形態との関連で、発生分化への影響及び晩発影響等を合めて実験研究を進める。
 具体的には、(1)「トリチウムの環境での挙動と生体内動態解析並びに内部被ばく線量係数設定のための研究」、(2)「トリチウム内部被ばくによる生物影響に関する研究」についての研究を実施することになっている。
3.ラドン及びその壊変生成物による内部被ばく研究
 ラドンとその壊変生成物は、人間集団の被ばく源として最大のもので、近年増加が著しい肺がんの誘因の一つとも考えられている。従来進められてきた環境レベル調査(環境中のラドン濃度)とそれによる線量評価研究のみならず、動物実験を中心とした生物影響研究の重要性が今後ますます大きくなるものと考えられる。
 ラドンとその壊変生成物にかかわる内部被ばく研究においては、それらの物理学的、生物学的半減期と、感受性細胞の呼吸器内分布を考慮に入れた線量評価の研究を進め、線量と生物影響との関係を明らかにする。特に生物影響については、晩発影響誘発におけるラドンとその壊変生成物の実効的生物学的効果比(RBE)を明らかにすることを目的とし、さらに喫煙等の複合因子について着目した研究を進める。
 ここで得られるアルファ線の低線量・低線量率による被ばくの生物影響は、ガンマ線あるいはべ一タ線の低線量・低線量率の被ばくのそれと比較検討することにより、放射線生物学の観点から貴重な知見を提供するものと考えられる.
 なお、ラドンとその壊変生成物による内部被ばくに関する動物実験を行うには、現在、我が国には施設等が存在しないことから、施設及び実験設備の設計等を進めることが必要である。
 具体的には、「ラドン及びその壊変生成物の吸入による発ガン生成物による発ガン効果に関する研究」を実施する。
4.その他の主要核種による内部被ばく研究
 上記の超ウラン元素、トリチウム、ラドンとその壊変生成物のような核種以外にも、内部被ばく研究を進める必要性が高い核種がある。線量及びその影響研究と共にそれらの核種による被ばく低減化のための研究も重要である。本年次計画では、生物個体として放射性核種の摂取に伴う影響を評価するという特殊性を考慮し、原子力施設等から放出される可能性のある核種のうち、放射性ヨウ素、放射性セシウム、放射性ストロンチウム等に新たに着目し、生体内挙動と生物影響を明らかにし、さらには、それらの体内沈着阻止、あるいは排泄促進のための方策について研究を進める。また、それらの核種についても、胎児期を合めた年齢依存の問題、その他環境及び生理学的因子について考慮した研究を進める。
 トロトラストによる被ばく事例はアルファ線放出核種による内部被ばくの理解に有用となる情報であり、今後も体系的かつ継続的に観察研究を進める。
 具体的には、(1)「原子力施設に関連する重要放射性核種の生体内挙動とその影響に関する内部被ばく研究」、(2)「トロトラスト沈着症に関する調査研究」、(3)「薬剤等による放射性物質の体内からの除去に関する研究」を実施する。
<図/表>
表1 環境放射能安全研究年次計画(平成8年度〜平成12年度)3.特定核種の内部被ばく研究
表1  環境放射能安全研究年次計画(平成8年度〜平成12年度)3.特定核種の内部被ばく研究

<関連タイトル>
環境放射能安全研究年次計画(平成3年度〜平成7年度) (10-03-01-04)
環境放射能安全研究年次計画(平成8年度〜平成12年度)生物影響研究 (10-03-01-12)
環境放射能安全研究年次計画(平成8年度〜平成12年度)緊急時被ばく医療対策の研究 (10-03-01-14)
環境放射能安全研究年次計画(平成8年度〜平成12年度)安全評価研究 (10-03-01-15)
環境放射能安全研究年次計画(平成8年度〜平成12年度)環境・線量研究及び被ばく低減化研究 (10-03-01-16)
環境放射能安全研究年次計画(平成13年度〜平成17年度) (10-03-01-19)

<参考文献>
(1) 科学技術庁原子力安全局(編):原子力安全委員会月報 通巻第207号、p.40-44、大蔵省印刷局(1995)
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