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<概要>
 地層処分の研究開発については、1980年12月の「高レベル放射性廃棄物処理処分に関する研究開発の推進について」において、研究開発のあり方が示され、1984年8月の「放射性廃棄物処理処分方策について(中間報告)」においては、「有効な地層の選定」についての成果が示された。
 その後も原子力開発利用の最重要課題の1つとして地層処分の研究開発が進められているが、その推進に当たっては国民的理解を得つつ進めることの重要性が認識されて、このような観点から、地層処分による安全確保の基本的考え方、地層処分の技術的見通し、さらに国民的理解のために地層処分技術の一層の信頼性向上に向けて、当面の期間において特に重点的に進めるべき研究開発項目とその進め方がとりまとめられ、1989年12月19日、原子力委員会において了承された。その後の研究開発の基本的考え方となっており、本文にその要約を示す。
<更新年月>
2007年07月   (本データは原則として更新対象外とします。)

<本文>
 高レベル放射性廃棄物処分に関する研究開発は、1976年の原子力委員会決定を受けて核燃料サイクル開発機構(現、日本原子力研究開発機構)を中核として進められ、1992年9月、わが国における地層処分の安全確保の技術的可能性を示す「高レベル放射性廃棄物地層処分研究開発の技術報告書−平成3年度−」(いわゆる第1次取りまとめ)、さらに1999年10月に、処分予定地の選定と安全基準の策定や地層処分の事業化に向けての技術的拠り所となる技術報告「わが国における高レベル放射性廃棄物地層処分の技術的信頼性−地層処分研究開発第2次取りまとめ−」を取りまとめた。さらに、2005年9月に、第2次取りまとめ以降の地層処分に関する研究開発をまとめた報告書「高レベル放射性廃棄物の地層処分技術に関する知識基盤の構築−平成17年度取りまとめ−」(平成17年取りまとめ)を公表し、引き続き、地層処分技術の信頼性向上や安全評価手法の高度化に向けた研究開発を実施している。高レベル放射性廃棄物処分の実施主体である原子力発電環境整備機構(NUMO)は、処分事業の安全な実施や経済性・効率性の向上などを目的とした技術開発を行うこととなっている。原子力安全委員会は、国内外の研究開発の状況や国際的な安全規制の動向などを踏まえ、安全基準・指針等を策定する上で基本となる安全規制の考え方、処分地選定に必要な環境要件について検討している。。(注:原子力安全委員会は原子力安全・保安院とともに2012年9月18日に廃止され、原子力安全規制に係る行政を一元的に担う新たな組織として原子力規制委員会が2012年9月19日に発足した。)
 高レベル放射性廃棄物は安定な形態に固化した後、30年から50年間程度冷却のための貯蔵を行い、その後、地下深い地層中に処分するという地層処分について、1989年にとりまとめられた研究開発の重点項目とその進め方について、その要約を以下に示す。
(1)高レベル放射性廃棄物の地層処分による安全確保の基本的考え方については、次のようにまとめられる。地層処分の基本概念を図1に示す。
(イ)高レベル放射性廃棄物は発生時点では放射能のレベルが高いものであるが、その放射能のほとんどが発生後数百年の間に急速に減少する。この放射能レベルの高い期間においては、安全確保のために、放射性核種を廃棄物中に閉じ込めておき廃棄物中の放射能を確実に減衰させることが重要である。このためには、廃棄物が地下水と接触する可能性を十分低く抑えて、廃棄物中の放射性核種が地下水中に溶出しにくく、かつ埋設場所から移動しにくいようにする。
(ロ)高レベルの放射能が減衰してからも長期にわたって残留する放射能がある。この長期間においては、安全確保のために、放射性核種を埋設場所とその近傍に留めておくことが重要である。このためには、廃棄物が地下水と接触したとしても、廃棄物中の放射性核種が溶け出しにくくし、かつ埋設場所から移動しにくいようにしておく。
(ハ)更に一層の安全確保のためには、たとえ、放射性核種が埋設場所から移動したとしても、それが非常に長い時間をかけて地層を通って人間の生活圏に到達して有意な環境影響を及ぼすことのないことを確認する。
(2)地層処分のこのような安全確保のためには、人工的に設けられる多層の安全防護系(「人工バリア」という)と地層(「天然バリア」という)を組み合わせた多重バリアシステムを採用することが適切であると考えられる。
(3)現在までの地層処分の研究開発成果をみれば、基本的な部分は次第に明らかになりつつあり、地層処分の技術的可能性の見通しが得られつつある。
(4)今後の地層処分研究開発は、多重バリアシステムの全体としての長期的な安全確保上の性能評価に重点をおいて推進していくべきである。多重バリアシステムの構成とその機能を図2に示す。
(5)研究開発は次の諸点に留意して進めることが必要である。
(イ)地層処分の研究開発は長期的、総合的なものであり、計画性と柔軟性をもって着実に進める。
(ロ)地層処分研究開発の対象となる地質環境条件は多岐にわたるので、これに対応する多重バリアシステムを幅広く考えて研究開発を進める。
(ハ)地層処分の安全性を決定づける重要な要素は人工バリアとその近傍の地層(「ニアフィールド」という。)における安全性能であり、その外の広い地層(「ファーフィールド」という。)における性能はその安全性をさらに確かなものとするという役割を担う。このため、今後は、ファーフィールドの地層に関する研究を着実に推進しつつ、ニアフィールドの人工バリアとその近傍の地層の研究に重点的に取り組んでいく。
(6)地層処分の研究開発を進めていくに当たっては、地層処分についての国民の理解を得ることが重要である。このため、今後の研究開発は研究開発の中核的推進機関である動力炉・核燃料開発事業団(当時(現日本原子力研究開発機構))が、研究開発成果を適切な時期に報告書として取りまとめ、情報提供を積極的に行うとともに、さらにこれを国が評価することなどを通じて、地層処分についての国民的理解を得つつ進め、地層処分の円滑な実施を目指していく。
(前回更新:1996年3月)
<図/表>
図1 地層処分の基本概念
図1  地層処分の基本概念
図2 多重バリアシステムの構成とその機能
図2  多重バリアシステムの構成とその機能

<関連タイトル>
放射性廃棄物の処理処分についての総括的シナリオ (05-01-01-02)
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放射性廃棄物安全研究年次計画(平成8年度〜平成12年度) (10-03-01-11)
放射性廃棄物安全研究年次計画(平成13年度〜平成17年度) (10-03-01-18)

<参考文献>
(1)原子力委員会:原子力白書 平成2年版
(2)日本原子力産業会議:原子力ポケットブック 1991年版
(3)原子力委員会:原子力委員会月報(通巻第400号)、Vol.34、No.12(1989)
(4)資源エネルギー庁ホームページ:高レベル放射性廃棄物、研究開発、

(5)原子力安全委員会ホームページ:高レベル廃棄物の処分、

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