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<概要>
 原子力発電所などで働く放射線業務従事者は、被ばく経歴、健康診断結果、放射線防護教育歴などを記載した放射線管理手帳を所持している。この手帳は、原子力関連施設の管理者や元請事業者が従事者の被ばく前歴を的確に把握することを目的に、放射線管理手帳制度のもとに全国規模で運用されている。その制度は、放射線従事者中央登録センター(中央登録センター)、放射線管理手帳発効機関(手帳発効機関)、原子力事業者等の参加によって、被ばく線量登録管理制度と関連して機能している。
 手帳には登録番号の記載と中央登録センター承認シールが貼ってあり、これを制度上有効な手帳の要件としている。全国に認定されている手帳発効機関はこれを発行時の業務としている。
<更新年月>
2002年08月   (本データは原則として更新対象外とします。)

<本文>
1.放射線管理手帳とその目的
 原子力発電所に代表される原子力関連施設で働く放射線業務従事者は、放射線管理手帳といわれる縦9cm、横14cmの、一見銀行の預金通帳に似た手帳を所持している。その中は、まず見開きに従事者の顔写真が貼ってあり、登録番号や氏名、生年月日などの個人識別項目が記載してある。後続の頁には、手帳の発行歴や従事者の異動経歴、それから被ばく歴、電離放射線健康診断記録、放射線防護教育歴などの記載欄が続いている。手帳の主な記載欄の様式を 図1-1図1-2図1-3図1-4 および 図1-5 に示した。
 この手帳は原子力関連施設で放射線作業をする時のパスポート的な役割を持っていて、管理区域内作業者は適正に管理された手帳を所持することを必要条件としている。従事者に手帳を所持させる目的は、入域するものが従事者本人であることの証明と、入域先の施設管理者に従事者の被ばく前歴などの管理状況を提示することにある。また付随的に、従事者は自己の管理状況を確認することができるし、従事者を雇用する事業者は、管理状況を本人に通知する手段の一部とすることができ、さらに原子力施設によって異なる入域手続きの画一化や簡素化を図ることができる。
2.放射線管理手帳の経緯
 放射線管理手帳のはしりは1955年後半に始まり、当時大手重電機メーカーが放射性同位元素やX線 使用施設で作業する自社従業員に対して、被ばく線量管理と健康管理のために自主的に手帳を作成して使用していた。
 1970年頃から軽水炉の運転が開始されるに伴って、同様の手帳が系列の従業員にも使用されはじめ、そして電力会社と上記メーカーとの間の話し合いで、原子力発電所で働く場合は従事者に手帳を所持させることになっていった。
 その後、原子力発電所の建設が進むに連れて請負作業者も増加し、手帳運用範囲が拡大するに至って、手帳様式の統一や手帳の多重発行を避けるための一元的管理の必要性が関係者に認識されはじめた。このような状況にあった1976年、原子力事業所で働く放射線作業者の被ばく線量を一元管理するため、被ばく線量登録管理制度の検討が国の指導のもとに開始され、これを機に手帳を全国規模で運用するための放射線管理手帳制度の検討も行われた。
 この検討結果に従って、1977年11月、被ばく線量登録管理制度の中心的推進母体として(財)放射線影響協会放射線従事者中央登録センター(以下では「中央登録センター」という)が設置された。その後、中央登録センターは、1978年1月に、原子炉等規制法関係諸規則に基づく放射線管理記録の引渡し機関としての指定を科学技術庁 長官(現・文部科学大臣)より、更に同年12月に通商産業大臣(現・経済産業大臣)より同様の指定を受けた。また、1979年4月、放射線管理手帳制度の全面的運用が開始された。詳細はATOMICA <13-02-01-26> 参照。
 運用開始から10年を経た1989年10月には、放射線防護関係法令が改正されたことに対応すること、そして、それまで手書きに寄らざるを得なかった手帳への記載を手書きにも機械化にも対応可能な様式にすることなど、より合理的で効率的な管理運用をねらいとした大幅な手帳様式の改訂が行われた。更に2001年4月には、原子炉等規制法等関係法令の改正が行われ、これに対応した手帳に改訂し現在の手帳となった。
3.放射線管理手帳制度の構成
 放射線管理手帳制度は、手帳様式、記載方法及び運用要領を統一し、手帳を全国規模で一元的に管理するシステムである。このシステムは、後の項で述べるように、手帳に登録番号を記載したり、手帳の発行歴を中央登録センターに登録したりする必要があるので、被ばく線量登録管理制度と関連している。ところが、被ばく線量登録管理制度には、原子炉等規制法関連の制度と放射線障害防止法関連の制度があって、手帳制度と関連して運用されているのは前者だけである。後者が手帳の運用を行っていない理由として、放射線障害防止法関連事業所の従事者には、原子力関連施設の元請、下請従業員にみられるような施設を移動することの多い従事者、いわゆるTransient Workerが少なく、そうした者の被ばく前歴把握を主目的とする手帳は、必ずしも必要としないとすることにある。従って、手帳制度は現在、原子炉等規制法の適用を受ける原子力事業者(日本原子力研究所(現日本原子力研究開発機構)、核燃料サイクル開発機構(現日本原子力研究開発機構)、電力会社、日本原燃、燃料加工メーカー)や、建設・保守事業者(三菱、日立、東芝などの元請事業者と関連事業者)が参加して、中央登録センターを中心に運用されている。
  図2 に手帳制度の構成を、原子炉等規制法関連の被ばく線量登録管理制度と合わせて示した。
4.手帳制度に参加する事業者等の役割
 手帳制度に参加する事業者等は、中央登録センター、手帳発効機関、原子力事業者及び従事者を雇用している事業者である。制度上特に重要な役割を果たす手帳発効機関は、制度上有効な手帳を作成するために、中央登録センターの認定を受けて手帳発行業務を行う事業所である。2002年8月現在、全国に70法人、174事業所が手帳発効機関として認定されている。参加事業者の役割について、図2中の番号に沿って述べる。
(1)従事者を雇用する事業者は、予め手帳発効機関などから手帳を購入し、それに従事者の顔写真の貼付、被ばく歴等の記載を行って、手帳発効機関に手帳発行を申請する。
(2)申請を受けた手帳発効機関は、従事者の氏名、生年月日などの個人識別データや手帳の記載内容を確認し、個人識別データと手帳発行を中央登録センターに登録申請する。
(3)中央登録センターでは、申請された個人識別データや手帳発行申請が多重登録でないことを確認して、登録番号を付番し手帳発効機関に通知する。
(4)登録番号を受けた手帳発効機関は、手帳に登録番号を記載し、中央登録センター承認シールの貼付などを行って、事業者に手帳を発行する。
(5)手帳を受け取った事業者は、原子力施設に入域させる従事者に手帳を所持させる。
(6)原子力事業者は、提示された手帳により従事者本人であることを確認し、法令に規定された被ばく経歴などの確認を行う。
(7)従事者を雇用している事業者は、その後発生する従事者の被ばく歴や健康診断、教育訓練などの記録を記載するなど、手帳の管理を行う。
5.放射線管理手帳の要件
 手帳制度のもとに使用する手帳は、2つの要件を満たすことによって有効になるとしている。要件の1つは、中央登録センターが付番した登録番号が記載してあること、2つには、従事者の顔写真に中央登録センターの承認シールが貼ってあることである。この要件を満たすための業務は手帳発効機関が行う。
 2002年3月末現在までの手帳発行件数は、約31万件に及んでいる。
<図/表>
図1-1 放射線管理手帳の個人識別項目欄
図1-1  放射線管理手帳の個人識別項目欄
図1-2 放射線管理手帳の被ばく前歴欄
図1-2  放射線管理手帳の被ばく前歴欄
図1-3 放射線管理手帳の健康診断および事業者による従事者指定・解除欄
図1-3  放射線管理手帳の健康診断および事業者による従事者指定・解除欄
図1-4 放射線管理手帳の被ばく歴および原子力等施設での従事者指定・解除欄
図1-4  放射線管理手帳の被ばく歴および原子力等施設での従事者指定・解除欄
図1-5 放射線管理手帳の放射線防護教育歴欄
図1-5  放射線管理手帳の放射線防護教育歴欄
図2 放射線管理手帳制度と被ばく線量登録管理制度
図2  放射線管理手帳制度と被ばく線量登録管理制度

<関連タイトル>
個人線量データの管理 (09-04-07-04)
放射線影響協会・放射線従事者中央登録センター (13-02-01-26)

<参考文献>
(1) (財)放射線影響協会:放射線従事者中央登録センター「放射線管理手帳運用要領・記入要領(事業者用)」(2001年)
(2) (財)放射線影響協会:放射線従事者中央登録センター「放影協ニュース」(2002年)
(3) 放射線影響協会:RI被ばく線量登録管理制度、http://www.rea.or.jp/chutou/ri-seido.htm
(4) 日本原子力産業会議(編):原子力ポケットブック2001年版(2001年7月)
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