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<概要>
 プルトニウムには多数の同位体があり、このうち核燃料として利用できる239Puは、放出比が小さく低いエネルギーのLX線を伴ったα放射体である。α線飛程が非常に短いことから、体内に沈着したものを体外から測定することができない。そのため、プルトニウムの日常モニタリングは排泄物中のプルトニウムの測定を行うバイオアッセイ法が用いられ、これにより十分に低いレベルの測定が可能である。ただし、プルトニウムの吸入があったと分かったとき、あるいは吸入が疑われるときには、肺モニタ等の体外計測法が利用できる。
 プルトニウムの取り扱いによって考えられる内部被ばく線量評価のためには、その体内量の評価が必要である。そのための概略を示す。
<更新年月>
2009年02月   

<本文>
1.プルトニウムとそれが放出する放射線
 プルトニウムは原子番号94の超ウラン元素であり、すべての同位体が放射性である。原子炉内で主として238Uの中性子捕獲によって生成される239Puは、核分裂を起こしやすいという性質を持ち、核燃料として使用できる。239Puは半減期約24,100年でα崩壊する核種であり、崩壊の際にエネルギー約5MeVのα線を放出し、同時に娘核種から平均エネルギー17keVのLX線(L殻電子の放出に伴って発生する特性X線)が放出される。プルトニウムの他の同位体もほぼ類似のエネルギーの放射線を放出している。
 プルトニウムの取り扱いはグローブボックスやフードの中で行われ、また作業環境では常に空気汚染モニタが作動しているなど厳重な管理の下で行われており、事故的な状況を除けばプルトニウム作業者でも吸入摂取の機会はほとんどない。
2.プルトニウムの代謝
 プルトニウムは通常には酸化物として存在し、水にはほとんど溶けず、体液にも溶けにくい。プルトニウムの体内侵入経路は経口摂取経路と吸入摂取経路がある。水や体液に溶けにくいことから、経口摂取されたプルトニウムの胃腸管からの吸収はきわめて低い。粒子状のプルトニウムが吸入摂取された場合には、その一部がそのまま呼気として吐き出されるが、多くは呼吸器の種々の部位に沈着する。鼻咽頭部に沈着した粒子はそのまま体外に出され、気管、気管支に沈着した粒子の多くは繊毛運動により咽頭まで運ばれた後に嚥下され消化管に入る。肺胞部などを中心に呼吸器系に残留したプルトニウム粒子は年単位の有効半減期でゆっくりと吸収され、体内に移行する。経口摂取、吸入摂取ともに体内に移行したプルトニウムは最終的に肝臓と骨格に移行する。
3.バイオアッセイによる体内プルトニウムの測定
 嚥下され胃腸管に入ったプルトニウム粉塵の大部分は糞とともに排泄される。肺組織、胃腸管からわずかに吸収され血中に入ったプルトニウムの一部は尿中に排泄される。一日糞あるいは一日尿、正確を期す場合には両者を採取し、それから放射化学分析によりプルトニウムを抽出・分離し、α線源を作成する。この線源からのα線を測定することにより、一日の排泄物中へのプルトニウム排泄量が算定でき、プルトニウムの体内動態モデルを用いて肺沈着量が推定できる。α線測定にはα線測定器を用いるが、α線スペクトロメータであれば核種分析も可能である。注意深い分析によって化学的に純度の高い線源を作成することができ、長時間かけてα線測定ができることから、相当低いレベルのプルトニウムも測定が可能であり、バイオアッセイによる体内量の推定の精度は高い。
 また、バイオアッセイは尿・糞の排泄物だけでなく、必要に応じて、血液や鼻汁を採取して分析も行われる。プルトニウム事故の場合、特に鼻汁による測定(鼻腔スミヤ測定)は、事故直後に吸入の有無を調べるのに極めて効果的な方法であり、現在、事故時には必ず行われている。
 なお、この排泄物試料分析を中心にしたバイオアッセイと呼ばれる分析法は、一般に、α、β崩壊核種でX、γ線をほとんど放出しない核種の場合には、体外計測ができないため、体内量推定に使うことができる唯一の方法であるといえる。
 肺に沈着した量のごく微量が毎日排泄されるので、その採取に始まり放射化学分析、α線の測定、さらに動態モデルを用いての沈着量計算まで、分析精度は個人の分析技術能力にかなり大きく依存することには留意する必要がある。また、図1に例示するように、毎日のプルトニウム排泄量はバラツキが大きく、排泄物からのプルトニウム肺沈着量の推定にはかなり大きな誤差をともなう。さらに、排泄物収集の煩わしさ、その試料の化学的処理と測定に2〜3日を要するという問題もある。
4.肺モニタによる測定法
 バイオアッセイが間接的に肺沈着量を算定する方法であるのに対し、体外に出てくる放射線を直接的に測定するのが肺モニタによる測定法である。体外測定法あるいはin-vivo測定法とも言われる。前述のように、239Puからはα線とそれに伴って弱いX線(17keVのLX線)され、α線は飛程が短く体外計測には用いられないが、エックス線は測定可能である。ただし、エネルギーが弱いため測定は容易ではなく、専用に開発された肺モニタによる注意深い測定が必要となる。
 肺モニタは、図2に示すように、鉄室内のベット上に被検者を仰臥位で寝かせ、肺モニタの検出器を胸郭上部(必要に応じて背面部位、肝臓部位など)に設置し、肺から胸部軟組織を透過して放出されるプルトニウムLX線を測定して、肺沈着量を算定する方法である。なお、鉄室は、宇宙線など自然放射線を低減させるために必要不可欠であり、遮蔽性能に優れたものが必要で、一般に20cm厚の鉄板に、薄い鉛、銅、プラスチック板などを内張したものが用いられている。
 検出器は、図3に示すように、直径12cm程度の大きさのホスイッチ型検出器(NaI(Tl)結晶とCsI(Tl)結晶を重ねた構造)を、左右両肺上に2個一組とした方法が現在広く採用されている。このホスイッチ型の検出器は、LX線の吸収効率が100%と高く、有害な自然放射線を逆同時計数検出器(CsI(Tl)結晶)によって、1/7から1/10ほどに低減させることができるので、他の検出器と比較して実用性が高く優れている。
 肺モニタによる測定値から、ファントム(等身大の人体模型)の肺の中に既知量のPu線源を分布させたものを肺モニタで測定して得た標準計数効率値(校正定数)を用いて肺の中のプルトニウム量を求める。ただし、プルトニウムLX線の平均エネルギーは17keVと弱いため、肺から体外に透過してくるLX線量は、個人の体格、体形(痩身体と肥満体)および筋肉と脂肪の割合など、個人差に依存して大きく変化し、各個人ごとに実効的な吸収減弱量の正確な補正が必要となる。したがって、体外計測法においても、肺モニタを用いての測定から個人による測定値の補正を含む複雑なデータ解釈まで、十分な知識と経験を積んだ人が必要であるといえる。
 なお、プルトニウムの中の241Puはβ崩壊し、約14年という短い半減期で娘核種241Amになる。241Amも239Puと類似のエネルギーのα線とLX線を放出しているが、さらに59.6keVのγ線も放出している。約17keVに比べると約60keVでは体内透過力が大きく、その分体外計測は容易になる。アメリシウムの体内動態はプルトニウムのそれに類似していることから肺モニタによる肺沈着プルトニウムの定量では、プルトニウムLX線と同時に241Amのγ線の測定も行われている。
<図/表>
図1 尿、糞中のプルトニウム排泄量の日変動の一例
図1  尿、糞中のプルトニウム排泄量の日変動の一例
図2 鉄室内の肺モニタ検出器
図2  鉄室内の肺モニタ検出器
図3 ホスイッチ型検出器の構成
図3  ホスイッチ型検出器の構成

<関連タイトル>
α壊変 (08-01-01-05)
プルトニウムの毒性と取扱い (09-03-01-05)
空気汚染モニタ (09-04-03-09)
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プルトニウムの放射能濃度測定 (09-04-03-23)
プルトニウムの代謝について (09-04-04-10)

<参考文献>
(1) 城谷 孝:JAERI-M 5798 (1974)
(2) 城谷 孝、赤石 準、藤田 稔:原子力誌、18、p.572、1976
(3) 内部被ばくにおける線量当量の測定・評価マニュアル、(財)原子力安全技術センター、1988
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