<大項目> 放射線影響と放射線防護
<中項目> 原子力施設による健康影響
<小項目> 放射線事故対策
<タイトル>
放射性核種の体外への除去 (09-03-03-08)

<概要>
 放射性核種による体内汚染は、実験室や病院における小規模のものから、原子力施設における事故のように地球規模の環境汚染をひきおこす大規模のものまである。これまでは、緊急時の対策としては放射線関連の作業者たちが対象であったが、チェルノブイリ原発事故が示すように広く一般公衆についても考慮する必要がある。
 ここでは、放射性核種を摂取した場合の除去法について整理し、核種としては人体にとって放射線影響の大きいとされている核分裂生成核種、131I、137Cs、90Srおよび超ウラン元素のPu,Amを中心にのべる。
<更新年月>
2004年09月   

<本文>
 摂取した放射性核種により被ばくが問題になる場合、胃や肺の洗浄、外科的手術、特に薬剤による体外除去が重要な処置方法となる。実際の事故時には、多種の核種を同時に体内に取り込むことも多く、核種の種類、摂取時の化学形、体内における存在状態や挙動を知ることが重要である。複数の除去剤を利用する場合にはそれらの相互作用についても考慮する必要があり、除去のメカニズムを理解した上で方法を選択することが望ましい。以下に記すのは国際的に推奨されている除去剤利用方法であるが、用量については摂取量により異なる(文献参照)
(1)放射性ヨウ素131I)にはヨウ素剤が用いられる。
 ヨウ素は、甲状腺ホルモンの構成成分であり131Iを体内に摂取すると甲状腺に濃縮される。131Iによる甲状腺被ばくを軽減するためにヨウ素剤を投与して131Iの濃度を希釈する。ヨウ素剤は主としてヨウ化カリウム(KI)が用いられる。ヨウ素剤の投与は早ければ早いほど効果がある。チェルノブイリ原発事故の際には旧ソ連や東欧諸国の幼児、青少年に投与された。
(2)放射性セシウム137Cs)にはプルシアンブルー(PB)が用いられる(図1)。
 PBはフェロシアン化鉄のことで137Csに対して顕著な吸着効果を示す。ブラジル・ゴイアニアの137Cs摂取事故の時にはPBが用いられた。
(3)放射性ストロンチウム(90Sr)にはアルギン酸ナトリウムが推奨されている。
 アルギン酸は、褐藻類に含まれている粘質多糖類で90Srと不溶性の塩を生成して体外に排泄する作用がある(図2)。この他、甲殻類の殻に含まれているキチン、キトサンにも効果のあることが認められている。
(4)プルトニウム、アメリシウムなどには合成キレート剤が用いられる。
 人体を対象とする合成キレート剤の中で最も一般的なものはジエチレントリアミン五酢酸DTPA)である。DTPAはdiethyrene diamine tetra acetic acidの略で代表的なキレート試薬であるエチレンジアミン四酢酸(EDTA)を基に開発された。ハンフォード原子力施設従事者のアメリシウム(Am)摂取事故で用いられ、その効果が実証されている。多くの合成キレート剤が検討されているが副作用に注意が必要である(表1表2)。
(5)その他の放射性核種についてもそれぞれ特性的な除去剤が用いられる。
 体内放射能の除去法については古くから多くの研究が行なわれてきた。その多くは動物を用いた実験であり、動物実験の結果がそのまま人間にあてはまらない場合も多い。副作用にも留意しなくてはならない。
 国際放射線防護委員会(ICRP)、国際原子力機関(IAEA)、英国放射線防護局(NRPB)などの国際機関でも、体内放射能の除去法に関する緊急時対策の指針がまとめられている。
<図/表>
表1 除去効果および毒性が検討されている合成キレート剤
表2 プルトニウムおよびアメリシウムなどの除去効果および毒性が検討されているキレート剤
図1 プルシアンブルー(PB)による人体中セシウム137の排泄促進
図2 アルギン酸を投与し20分後に放射性ストロンチウムを投与したときの体内量(ヒト)

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<関連タイトル>
放射性核種の体内移行と代謝 (09-01-04-01)
チェルノブイリをめぐる放射線影響問題 (09-01-04-10)
内部被ばく (09-01-05-02)
米国ハンフォード再処理施設における241Am被ばく事故 (09-03-02-08)
安定ヨウ素剤投与 (09-03-03-05)

<参考文献>
(1)NCRP No.65(1980)
(2)IAEA Safety Series、No47(1978)
(3)青木芳朗、渡利一夫(編):人体内放射能の除去技術、講談社サイエンティフィク(1996)
(4)渡利一夫、稲葉次郎(編):放射能と人体、研成社(2000年4月)
(5)Generic.prosedures for medical responnse during nuclear and radiological emargency,IAEA-TECDOC series
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