<大項目> 放射線影響と放射線防護
<中項目> 放射線による生物影響
<小項目> 健康リスク評価
<タイトル>
低線量率の放射線が動物の寿命に与える影響(4000匹のマウスを使った終生飼育実験から) (09-02-08-09)

<概要>
 (財)環境科学技術研究所は、4000匹のマウスを用いて、セシウム137137Cs)ガンマ線の低線量率長期照射による晩発障害に関する実験を行った。この実験の結果の中で、寿命短縮に関する知見は以下の通りである。実験に用いた線量率は、0.05、1.1、21mGy/日の3種類で、8週齢から照射を開始した。蓄積線量がそれぞれ20、400、8000mGyに達するまで(約400日間)照射を継続した。用いたマウスの系統は、B6C3F1で、実験はすべてSPF条件下(病原微生物を排除した環境下)で実施された。その結果、雄マウスの21mGy/日群と、雌マススの21mGy/日群と1.1mGy/日群に、統計的に有意な寿命短縮が観察された。その他の群には、統計的に有意な寿命短縮は観察されず、また寿命の延長も認められなかった。
<更新年月>
2006年09月   

<本文>
 (財)環境科学技術研究所は1993年から約8年にわたり、4000匹のマウスを用いて低線量率放射線による晩発障害に関する実験を実施した。その実験結果の中で、寿命短縮に関する結果が、2003年に公表(文献(1))されたので、その内容を以下に紹介する。
1.研究の背景
 ヒトの放射線リスクの評価は、主として広島や長崎の原爆被爆者に関する調査や医療被ばく患者に関する調査などに基づいて行われている。これに対して、動物実験はこうした疫学調査では得られないデ−タを提供するという役割を演じている。動物実験から得られた数字そのものを、直接ヒトに応用することは非常に困難であるが、一般的には疫学デ−タの解釈のための基礎資料として動物実験の結果が用いられている。
 平常時に、もしヒトが被ばくする可能性があるとすれば、職業被ばくの場合も公衆の被ばくの場合も低線量率の長期被ばくとなる。線量も線量率も連続量なので、低線量や低線量率を定義することは、困難な仕事である。しかし低線量・低線量率の領域におけるリスク評価のために、低線量と低線量率が定義されている。原爆被爆者は高線量率の瞬時の被ばくを受けているので、その調査から得られたリスク(単位線量当たり)を、低線量・低線量率の長期被ばくに応用する場合には、国際放射線防護委員会から2で割ることが勧告されている。この2で割る低線量率の範囲は、0.1Gy/時間以下と決められている(文献(2))。(財)環境科学技術研究所は、職業被ばくや公衆の被ばくをシミュレ−トする目的で、マウスに低線量率の連続照射を行い、寿命と疾病の分析を行った。
2.マウスと線量率の選択
 マウスの選択については、発生する腫瘍の種類が多く、細菌感染に抵抗性があり、毒性試験で広範囲に使用されており、大量入手が可能であることを考慮して、B6C3F1という系統を選んだ。長期飼育中に細菌やウイルスの感染で死亡するのを防ぐために、こうした病原微生物のいないSPF(Specific Pathogen Free)マウスを用いた。すべてのマウスをSPF条件下で終生飼育した。線量率としては、0.05、1.1、21mGy/日の3種類を選んだ。これらの線量率は、すべて国際放射線防護委員会が定めた低線量率の範囲内にある。照射は8週齢から約400日を予定したが、実際はそれぞれの蓄積線量が20、400、8000mGyに達した時に、照射を中止した。照射が終了したマウスは、その後終生飼育された。線源としては137Cs ガンマ線源を用い、1日の照射時間は22時間とした。こうした照射群の他に、非照射群も設けた。最初に予定した約400日の照射期間は、照射中にマウスの死亡が予想されない最長期間として、設定された。実験結果は、ほぼこの予想通りであった。0.05mGy/日は、自然放射線による外部被ばくの線量率の約20倍で、これ以下の線量率での実験は、技術的問題があり不可能に近い。21mGy/日群は、確実に放射線影響が認められる群として設定した。
 実験群としては、非照射群、0.05mGy/日群、1.1mGy/日群および21mGy/日群の4群が、雌雄別々に設けられたので、全体で8群となった。1群に500匹のマウスを用いたので、マウスの総数は4000匹となる。1群に500匹を用いることとした主な理由は、統計学上の若干の仮定の下で、例えば非照射群の腫瘍発生率が1%で、照射群の腫瘍発生率が5%の時に、その差が統計的に有意となる最小匹数であると推定されたためである。
3.寿命への影響
 表1に寿命短縮の結果を示した。寿命短縮は、線量率(または蓄積線量)と共に大きくなっているが、統計的に有意な寿命短縮は雌雄の21mGy/日群と雌の1.1mGy/日群に観察された。文献上のデ−タの中には、マウスに低線量率長期照射を行うと、寿命が延長するというデ−タ(文献(3),(4))もあるが、本実験の結果は寿命の延長を示唆していない。職業被ばくや公衆の被ばくをシミュレ−トするために、本実験の照射群の間では線量率と蓄積線量の両方が異なっている。そこで表1の結果は線量率効果と線量効果の両方を表しており、この2つの効果を分離することは出来ない。一般には、線量率効果を求める時は、蓄積線量を一定にして線量率を変えた実験を行う。一方で線量効果を求める時は、線量率を一定にして蓄積線量を変えた実験を行う。本実験では、上記の実験目的に従って、表1のような照射様式を選んだ。
 図1に各実験群の生存曲線を示した。雌雄共に、21mGy/日群の生存曲線は、非照射群の生存曲線の若齢の方への移動に近いことが知られる。図2は各実験群の年齢別死亡率を片対数のグラフにプロットしたものである。このグラフはGompertzプロットと呼ばれ、ヒトの場合にはある年齢以上で直線になることが多い。マウスの場合には、図2のように上に凸の曲線になることが多い。図1図2のグラフは、同一の基礎デ−タの異なる表現である。図2からも雌雄の21mGy/日群の曲線は非照射群の若齢の方への移動に近いことが知られる。なお、この研究は青森県からの受託研究として実施された研究である。
<図/表>
表1 連続照射を受けたマウスの寿命短縮
図1 連続照射を受けたマウスの生存曲線
図2 連続照射を受けたマウスの年齢別死亡率

・図表を一括してダウンロードする場合は ここをクリックして下さい。


<参考文献>
(1) S.Tanaka,I.B.Tanaka,III、S.Sasagawa,K.Ichinohe,T.Takabatake,S.Matsushita,T.Matsumoto, H.Otsu and F.Sato, No lengthening of life span in mice continuously exposed to gamma rays at very low dose rates, Radiat.Res.160,376-379(2003)
(2) 日本アイソト−プ協会編:国際放射線防護委員会の1990年勧告、丸善(1991年11月)p.23, p.132
(3) A.Caratero,M.Courtade,L.Bonnet,H.Planel and C.Caratero, Effect of a continuous gamma irradiation at a very low dose on the life span of mice,Gerontolgy 44,272-276(1998)
(4) N.Courtade,C.Billotet,G.Gasset,A.Caratero,J.P.Charlet,B.Pipy and C.Caratero, Life span,cancer and non-cancer diseases in mouse exposed to a continuous very low dose of γ-irradiation, Int.J.Radiat.Biol.78,845-855(2002)
RIST RISTトップページへ ATOMICA ATOMICAトップページへ