<大項目> 放射線影響と放射線防護
<中項目> 放射線による生物影響
<小項目> 健康リスク評価
<タイトル>
国連科学委員会(UNSCEAR)によるリスク評価 (09-02-08-02)

<概要>
 高線量放射線被曝の60日間の半数致死線量(LD50/60)は、医学治療の有無によりそれぞれ約4−5Gy、および3Gyである。
 遺伝障害発生のリスクは、生殖可能年齢の年齢群については、0.01Gy当り自然発生率の0.3%(全年齢群では0.1%)である。発癌の生涯リスクは全年齢群の場合、1Gy、1000人当り相乗モデルで71人、相加モデルで45人の癌死亡が予測される。
<更新年月>
1998年12月   (本データは原則として更新対象外とします。)

<本文>
1.原子放射線による影響に関する国連科学委員会(UNSCEAR)は、1988年に「電離放射線の線源、影響及びそのリスク」と題する報告書を公刊した(UNSCEAR'88)。この報告書は、自然と人工の放射線のレベルおよび放射線による人体への影響とリスクについて、最新の情報を集め1988年時点で集大成したものである。特に放射線による人の発癌について詳しい解析を行っている。またこの報告書には、1986年のソ連チェルノブイリ原子炉事故による全世界的影響についての評価も記載された。
2.早期影響および非確率的影響
 高線量放射線被曝による早期効果については、明確なリスク評価値は与えられていない。全身の高線量被曝で最も初期に現れるおう吐症状については、半数の人に発現する線量は約2Gy、発現までの時間はほぼ3時間である。
 10Gy以上の被曝では、ほぼ全ての被曝者が死亡する。10−50Gyでは、おもに胃腸管の障害により、被曝後7−14日で死亡する。50Gy以上では中枢神経系の障害で2日以内に死に至る。1−10Gyの被曝の早期影響は、主として骨髄障害による。対症療法により死亡の確率は多少低下する。60日以内に50%の人が死に至る線量LD50/60は、医学的な治療が行われない場合には約3Gy、対症療法が可能の場合で約4−5Gyと推定されている。
 高線量の放射線被曝は、生殖能力の減退や不妊をもたらすが、4Gy程度までの線量では男女とも一時的な不妊にとどまり、永久的な生殖能力停止は男では約6Gy、女で約4−10Gyに達するであろう。
3.遺伝的影響
  表1 にUNSCEARによる遺伝的障害のリスク推定値を示す。全体としてみると、UNSCEAR 1988年報告書で示されたリスクは以前の評価と大きな違いはない。先天性異常(奇形など)や多因子性疾患(高血圧症など)については、遺伝的因子の寄与の程度が確かではないので、放射線による発症リスクの推定は行われていない。
 遺伝的障害のリスクをまとめると、次のように言える。子供を産める年齢群の男女計100万人が、生殖腺にそれぞれ0.01Svの被曝を受けた場合、生まれた子供100万人につき、確率的に約20人の遺伝病患者が発生すると予想される。第2世代即ち孫の代では100万人につき、約15人の遺伝病発現となろう(表 1 参照)。しかし、優性、伴性の遺伝疾患、劣性遺伝、染色体構造異常などの自然発生率の合計は、100万人当り約13,000人である。全人口(老人、子供を含めた)当りで考えると、生殖腺吸収線量0.01Sv当り、自然発生率の0.1%(Sv当り10%)増加することになる( 表2 参照)。
4.身体的影響−発癌
 (1)リスク推定の方法
 UNSCEAR 1988年報告書の発癌リスク推定は、主に広島、長崎の原爆被曝者の新しいリスク推定値、放射線治療を受けた強直性脊椎炎患者のデータ、放射線治療を受けた子宮癌患者のデータ、診断のためヨウ素131の投与を受けた患者の甲状腺癌発生に関するデータなどを基に行われている。
 線量−癌発生率との関係(線量反応関係)は、直線(Linear Model)として扱われている。また、このモデルの係数、即ちリスク係数を求める方法として(1)放射線による癌発生率が自然発生率に依存せず一定である絶対リスク(Absolute Risk)および (2)発生率が自然発生率に比例する相対リスク(Relative Risk)の2つについて評価している。
 さらに、単位線量の放射線被曝によって一生涯の内、癌により死亡する確率の増分(生涯リスク)を予測する方法として、相加リスク予測モデル(Additive Risk Projection Model)、相乗リスク予測モデル(Multiplicative Risk Projection Model)の2つのモデルを取り扱っている。どちらの方法がより妥当であるかについては明言していない。発癌(死)の潜伏期および発癌効果の持続期間に関しては、白血病でそれぞれ2年、40年、その他の癌でそれぞれ10年、一生としている。この様な方法で、生涯リスク、寿命の損失など、種々の表現のリスク評価を行っている。
 (2)癌死亡の生涯リスク
  表3 に高線量率低LET放射線の被曝による器官別の生涯リスク(増加分)を示す。これによると1Gyの放射線被曝による一生涯の癌死のリスクは、相乗モデルの場合、白血病で0.97%、その他の全ての癌で6.1%、あわせて全年齢平均で7.1%となる。言い換えるなら、1000人がそれぞれ1Gyの被曝を受けると、自然の癌による死亡以上に約70人が何らかの癌で死ぬであろうと推定される(相加モデルでは約45人)。
  表4 に全人口、労働人口(25−64歳)、成人(25歳以上)の各集団、男女各500人について、癌死の生涯リスクを示す。表中の寿命の損失は、癌による死亡増加のために各集団の全寿命年数から失われる年数である。
 若年層の場合、相対リスク係数(Relative risk coefficient)が成人に比べ大きいこと( 表5 )、余命が長いことから特に相乗モデルで予測される生涯リスクはかなり大きい。1Gy被曝の男女平均の生涯リスクは、成人で1000人当り相乗モデル60人、相加モデルで30人であるのに対し、(0−9歳)の年齢群では、相乗モデルでは約10倍、相加モデルで約3倍となる。
 癌死亡の確率が線量に対して線形であるという仮定により、線量が1/10であれば、癌死亡数も1/10となる。
 (3)線量率効果係数
 これらのリスク推定値は、高線量、高線量率の低LET放射線被曝について導かれたものである。低線量、低線量率の放射線被曝の影響については、あまり明確なデータは得られていない。従って、高線量、高線量率のデータからの外挿が必要となる。UNSCEARでのモデルは、線量に関して線形であるため低線量域でも同じリスクを適用することになる。しかし、低線量、低線量率での単位線量当りの影響は、高線量、高線量率での影響に比べ小さいと言うことが、動物実験などで確かめられており、なんらかの補正が必要である。UNSCEARは、線量率効果係数(Dose Rate Effectiveness Factor:DREF)として2から10の値を示し、上記のリスクをDREFにより減少させるのが妥当と述べているが、単一のDREF値を示すまでには至っていない。また、高LET放射線については、DREFは1と見なされる。
5.出生前被曝の身体的影響
 出生前被曝の影響については、UNSCEAR 1986年報告書に記載されている。UNSCEAR 1988年報告書では広島、長崎の原爆線量再評価の結果を踏まえて再吟味が行われたが結論を得るに至っていない。従って、1986年報告に基づき全妊娠期間中の被曝について、発癌、精神遅滞、奇形を含めた全影響のリスクとして、0.01Gy当り0.002(自然発生率は0.06)としている。
<図/表>
表1 UNSCEARによる放射線の遺伝的障害リスク(UNSCEAR'88)
表2 放射線による遺伝的障害リスク係数のまとめ(UNSCEAR'88)
表3 高線量率低LET放射線の被曝による器官別の癌死の生涯リスク(UNSCEAR'88)
表4 高線量率低LET放射線を1Gy被曝した男女それぞれ500人(計1000人)の生涯リスクの予測(UNSCEAR'88)
表5 年齢層別の相対リスクの増分および増加死亡数

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<関連タイトル>
ICRP1990年勧告によるリスク評価 (09-02-08-04)
放射線の晩発性影響 (09-02-03-02)
放射線の遺伝的影響 (09-02-03-04)

<参考文献>
(1) UNSCEAR, 1988. Sources, Effects and Risks of Ionising Radiation.1988 Report to the General Assembly, with annexes. New York, United Nations.
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