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<概要>
 人間は、宇宙線天然放射性核種からの放射線など、人間の活動に関わりなく自然界にもともと存在する「自然放射線」によって、内部被ばく及び外部被ばくを受ける。被ばくの程度は、大地、構築物や食物中・空気中などの放射性核種濃度等、多くのパラメータに依存し、環境条件に応じた地域的、時間的変動がある。自然放射線による年間実効線量の世界的平均値は、国連科学委員会報告書「放射線の線源と影響」において、1977年以降今日までに数回(1982、1988、1993、2000、2008年)にわたって報告されている。2008年の報告書では、公衆被ばくについては自然放射線源からの被ばくの世界平均値は2.4mSv/年であり2000年報告書から変更がないが、作業者の被ばく線量は2000年報告書の2.4倍となり、これは中国の炭鉱労働者の被ばく線量データが主な要因であることなどが報告されている。
<更新年月>
2012年02月   

<本文>
1.自然放射線源と被ばくの形態
 人間活動と関係なく自然界に本来存在する放射線を「自然放射線」と呼ぶ。これは起源別に宇宙線と天然放射性核種からの放射線に分けられる。
 宇宙線は、地球外空間から地球大気中へ侵入する陽子などの高エネルギー放射線と、これらが地球大気(窒素、酸素)と相互作用を起こしてできた中性子、陽子、中間子などの二次粒子の総称で、人体外部からの被ばく(外部被ばく)源となる。
 天然放射性核種の主なものは、地球の誕生時から地殻中に存在してきたカリウム40、ウラン系列核種(ウラン238、ラジウム226、ラドン222等)及びトリウム系列核種(トリウム232、ラジウム228、ラドン220等)である。これらは原始放射性核種と呼ばれる。その他、微量ではあるが、宇宙線と大気との相互作用によって生じた宇宙線生成核種(トリチウム、ベリリウム7、炭素14、ナトリウム22等)など、種々の天然放射性核種があり、岩石・土壌、建材、空気、食物等、地球上のほとんど全ての物質中には多かれ少なかれ天然放射性核種が含まれている。天然放射性核種からは、α線、β線、γ線が放出される。そのため、これらの放射線(「大地放射線」と呼ぶ)を体外から受けた場合には外部被ばくとなり、また、呼吸(ラドンとその崩壊生成物)や飲食(土壌から吸収した農作物や水)によって体内に天然放射性核種を摂り込んだ場合には内部被ばくを受けることになる。
2.自然放射線による被ばく線量
2.1 世界平均の自然放射線による被ばく線量
 宇宙線や天然放射性核種からの放射線など自然放射線により、人間は内部被ばく及び外部被ばくを受ける。被ばくの程度は、大地、構築物や食物中・空気中などの放射性核種濃度等、多くのパラメータに依存し、地域的、時間的変動がある。原子放射線の影響に関する国連科学委員会(the United Nations Scientific Committee on the Effects of Atomic Radiation;UNSCEAR)では、1977年以降今日までに数回(1982、1988、1993、2000、2008年)にわたり、世界における自然放射線による年間実効線量を定期的に推定し、報告してきた。
 2008年の第56回国連科学委員会における「種々の線源からの公衆と作業者の被ばく」作業部会の検討結果によると、自然放射線による年間実効線量の世界平均値は以下のとおりである(表1参照)。
 宇宙線から約0.38mSv(外部被ばくのみ)、宇宙線によって生成された放射性核種から約0.01mSv、地球起源の放射線(大地放射線)のうち、外部被ばくにより0.48mSv、ウラン及びトリウム系列の吸入により0.006mSv、ラドン(222Rn)の吸入により1.15mSv、トロン(220Rn)の吸入により0.1mSv、食品中のカリウム(40K)により0.17mSv、食品中のウラン及びトリウム系列により0.12mSv、総計で約2.4mSvである。この公衆被ばくの平均値については、2000年報告書から変更はない。自然放射線源からの線量分布は対数正規分布に従い、平均線量の幅は1〜13mSv/年(2000年報告書では1〜10mSv/年)である。
 他方、作業者の被ばくについては、自然放射線源からの全世界の集団被ばく線量(1995年〜2002年)は27,500人・Sv/年と2000年報告書の2.4倍となり、これは中国の炭鉱労働者の被ばく線量データが主な要因であることなどが報告されている。
2.2 わが国における自然放射線被ばく線量
 都道府県別に測定されたわが国の自然放射線による1年間の実効線量を図1に示す。ただし、ラドンとその崩壊生成物の吸入による線量は含まれていない。全国平均は0.99mSv(=990μSv)で、そのうち宇宙線及び大地放射線による外部被ばく線量は0.64mSv(=640μSv)とされている。大地放射線の線源となるウラン、トリウム、カリウムは概して花崗岩に多く含まれるので、花崗岩質地域では線量が高めであり、堆積岩(火山灰を含む)地域では低めになる。日本全体をみると、大雑把に言って東日本よりも西日本の方が多少高めの地域が多いが、全国いずれの地域も世界平均(1.2mSv)より低い線量である。
3.被ばく線量率の環境条件による変動
 自然放射線に対する被ばく線量率は、人間側の要因(年齢、性、体格、空気摂取率、食物摂取率等)と環境側の要因とにより変動する。環境側の要因(環境条件)は、人間側の要因に比べて場所的、時間的変動が大きい。例えば、降雨の初期にγ線の線量率が上昇すること(空気中のラドン娘核種が地表面に落下するため)、地質により線量率が異なること(関東ローム層地域では花崗岩質地域よりγ線の線量率が低い)、緯度や高度によって宇宙線の線量率が変化すること(緯度、高度が高いほど宇宙線の線量率は高い)はよく知られている。さらに、地質、降雨などの自然環境条件だけでなく、家屋、道路などの人工的構造物の存在によっても大きな変動を示すことがある。
 日常の生活環境中における自然放射線の変動の要因を表2に、また、環境条件によるγ線の線量率の変動例として、東京・大阪間を新幹線に乗っている間に周囲の環境条件によって環境放射線がどのように変化するかについて実測された例を図2に示す。大地からの放射線が多くなるトンネル通過中は高めの線量率となり、大地からの放射線が遮られる川を通過中は低めの線量率となっている。
(前回更新:2004年8月)
<図/表>
表1 自然放射線源による公衆被ばく
表1  自然放射線源による公衆被ばく
表2 日常の生活環境中における自然放射線の変動の要因
表2  日常の生活環境中における自然放射線の変動の要因
図1 全国の自然界からの放射線量
図1  全国の自然界からの放射線量
図2 「はかるくん」による新幹線内での自然放射線量率の測定例
図2  「はかるくん」による新幹線内での自然放射線量率の測定例

<関連タイトル>
放射線の分類とその成因 (08-01-01-02)
放射能 (08-01-01-03)
自然放射線(能) (09-01-01-01)
天然の放射性核種 (09-01-01-02)
世界における自然放射線による放射線被ばく (09-01-05-05)
人工放射線による被ばく (09-01-05-06)
実効線量 (09-04-02-03)
宇宙線の発見 (16-02-01-02)
自然放射能の発見 (16-02-01-04)

<参考文献>
(1)放射線医学総合研究所(監訳):国連科学委員会報告書「放射線の線源と影響」、1993年報告書、実業公報社(1995年10月)
(2)原子放射線の影響に関する国連科学委員会(編)、放射線医学総合研究所(監訳):放射線の線源と影響、原子放射線の影響に関する国連科学委員会の総会に対する2000年報告書、上下巻、実業公報社(2002年3月)
(3)電気事業連合会:原子力・エネルギー図面集(2011)、

(4)科学技術庁/(財)放射線計測協会:「はかるくん」による放射線測定実習テキスト、(2000年5月)
(5)United Nations Scientific Committee on the Effects of Atomic Radiation (UNSCEAR): UNSCEAR 2008, Report Vol. 1 SOURCES OF IONIZING RADIATION, Annex B: Exposures of the public and workers from various sources of radiation、Table 12 Public exposure to natural radiation
http://www.unscear.org/unscear/en/publications/2008_1.html
(6)丹羽太貫:第56回国連科学委員会報告、放射線科学、Vol.51(2008),No.9,4-17
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