<大項目> 放射線影響と放射線防護
<中項目> 環境中の放射能
<小項目> 環境放射線による被ばくおよびその評価
<タイトル>
環境放射線の測定法 (09-01-05-03)

<概要>
 環境放射線及びその測定法には様々なものがある。環境中に存在する代表的な放射線はγ線で、γ線用測定器として、GM管電離箱NaI(Tl)シンチレーション検出器ゲルマニウム半導体検出器、及び熱蛍光線量計TLD)が広く用いられている。測定の目的、放射線の種類によって適した測定器、測定法は異なる。
<更新年月>
2004年08月   

<本文>
1.各種放射線の測定法、測定器の種類
 環境放射線にはα線、β線、γ線、宇宙線など色々な種類があり、測定する物理量にも、空気吸収線量(率)、フルエンス(率)、電離量など様々なものがある。また、放射線の種類によって、ある測定器では測れるが別の測定器では測れないという場合もある。そのため、測定目的や対象とする放射線の種類に応じて適切な測定器・測定法を選択しなければならない。ガイガーカウンター(GM管、またはGM計数管)1つで全ての放射線をうまく測定するというようなことはできない。
 ここでは、環境放射線の中で外部被ばく線量の評価上最も重要なγ線(ガンマ線)の測定と、γ線測定に密接な関係のある宇宙線測定の概要について述べ、環境中α線(アルファ線)及びβ線(ベータ線)測定の一般的な考え方について簡単に触れる。なお、GM管などで放射線を測定する時、「ピーピー」という音を出すことがあるが、これは放射線を検出した時に計数の増減を音で感知できる仕組みになっているためで、放射線自身は音を発するのではない。
2.環境γ線の測定
 環境γ線用測定器には、GM管、電離箱、NaI(Tl)シンチレーション検出器(以下「NaI(Tl)検出器」)、ゲルマニウム半導体検出器、プラスチックシンチレーション検出器、比例計数管、熱蛍光線量計(TLD、熱ルミネセンス線量計)、ガラス線量計など様々なものがある。測定原理は測定器毎に異なり、直接測定した量(計数率など)を線量率などに換算する方法も異なる。測定する量は線量率、積算線量、フルエンス(率)など種々あるが、TLDを除き、その場の線量率表示であることが多い。GM管、電離箱、NaI(Tl)検出器、ゲルマニウム半導体検出器、及びTLDの代表的な形状、寸法等を表1に示す。
(1)GM管による測定
 GM管は最も簡便でかつ広く用いられている放射線測定器の1つである。測定原理は 図1に示すように、管内には気体(アルゴンmmHg+エチルアルコール10mmHgの混合気体等)が封入されており、中心電極と管壁との間に高圧(普通数100ボルト以上)が印加されている。管内を放射線が通過すると放射線の電離作用により気体中にイオン対(主に陽イオンと電子)が発生し、このイオン対は管内の電場により、加速され、増幅されて中心電極に電気パルスを発生する。このパルスを計数することにより放射線の量を測定する。このように単純な原理、回路のため、測定器自身も比較的安価で広く普及しており、原子力施設周辺の環境放射線モニタリングにも利用されているが、放射線エネルギーに関する情報が得られないことなどの理由で、計数率から線量率に正しく換算できない。放射線検出体として気体を用いるため放射線との相互作用が低く、感度は高いとは言えないが、放射線強度に応じて感度(寸法)の異なるものを選べる。なお、端窓式と呼ばれるもので、管の端に薄い窓と蓋を設け、蓋を外すとβ線を測定できるようにしたGM管もある。
(2)電離箱による測定
 電離箱は最も古くから用いられている放射線測定器の1つであるが、測定可能な物理量である空気中でのイオン対発生数(電離量)を測定するという測定器であるため、現在でも標準的な測定器として広く使用されいる。測定原理は図2に示すように、γ線が電離箱を通過すると、γ線と気体との相互作用によりイオン対(主に陽イオンと電子)が発生する。このイオン対が電圧を印加された電極に集めて電離電流を測定する。γ線の線量率は空気中に発生したイオン対数から求められるので、イオン対数そのものを測定する電離箱はγ線の照射線量率を直接測定していると言える。内圧は1気圧から、感度を高めるために数10気圧にまで加圧したものがある。
(3)NaI(Tl)検出器による測定
 NaI(Tl)検出器は、ヨウ化ナトリウム(NaI)の結晶と入射γ線との相互作用によって生じる光(シンチレーション)を利用してγ線を測定する。NaI(Tl)検出器の測定原理を図3に示す。γ線がNaI(Tl)結晶中に入射すると、両者の相互作用(光電効果、コンプトン散乱、電子対生成)によって2次電子が発生する。この2次電子がNaI(TI)結晶物質を励起し、この励起から定常状態に戻る際、分子がシンチレーションと呼ばれる光を発生する。この光の強さは、結晶内で2次電子が失ったエネルギーに比例するため入射放射線のエネルギーに関する情報が得られ、γ線エネルギースペクトル測定やγ線量率測定に利用できる。シンチレーションは微弱であるため、光電子増倍管を用いて、光電面で光を電子に変換し、この電子をダイオートで加圧し電子を増倍して、光の強さに比例したパルスを得る。NaI(Tl)結晶の比重は3.67と気体に比べて高いため、感度が高い。このような優れた機能をもつので、日本でγ線線量率測定器というと先ずNaI(Tl)検出器があげられる程、多くの原子力施設で環境γ線モニタリング用として普及している。
 モニタリンクポストのような環境放射線の連続したモニタリングにもNaI(Tl)検出器のほか電離箱が用いられている。
(4)ゲルマニウム半導体検出器による測定
 半導体検出器は、NaI(TI)検出器による測定と併用してγ線エネルギー分析及び放射性核種毎の線量率等を測定するために広く使用され、その優れた性能から放射線測定の分野では極めて重要な計測器の一つとなっている。半導体検出器は、電離物質として気体の代わりに固体のゲルマニウムまたはシリコンを用いた一種のダイオードで、これに整流方向と逆極性の直流電圧を印加して電離箱と同様の原理により放射線情報を得るものである。図4は、P−N接合型といわれる検出器の動作原理を示したものである。この検出器はP型とN型半導体を接合したもので、電圧をかけない場合N層には添加不純物によって自由電子が生じ、これが添加不純物の空間電荷と中和を保っている。またP層では正孔を生じ、不純物と中和している。この状態に逆方向の電圧を加えると、これらの自由電荷は両電極の方に引き寄せられ中間には自由電荷のない空乏層が生じる。この空乏層に放射線が入射するとその飛跡に沿って多数の電子と正孔が生じ、これが反対符号の電極に向かって移動しパルス電流が流れる。この信号により入射した放射線のエネルギー及び数についての情報を得ることができる。
 不純物の混入の極めて少ないゲルマニウム単結晶を用いたGe検出器は、γ線のエネルギー測定において放射性核種の同定と定量のほか核種別の線量率を得ることができるなど優れた性能をもっているが、熱雑音を除くため、測定時に液体窒素で冷却(−200℃近く)しておく必要がある。ポータブル型の半導体検出器も開発され、この検出器を野外等に設置し、数十分間以上環境γ線スペクトルを計測することにより放射性核種に関する情報が得られる。近年、電気冷却式のGe半導体検出器も開発され、液体窒素を使わないため、保守がさらに簡単になってきている。
(5)熱蛍光線量計(TLD)による測定
 TLDは、線量率の時々刻々の変化を測定するNaI(Tl)検出器、電離箱、GM管などと異なり、測定場所に一定期間(数日〜数ヶ月)置いておき、その間の積算線量を測定するものである。TLDの原理の模式図を図5に示す。熱蛍光物質が放射線の照射を受けると物質内で電子及び正孔が励起され、励起された電子及び正孔の一部は不純物や格子欠陥による捕獲中心に捕らえられる。これらの捕獲中心が、放射線量に比例する。この熱蛍光物質を200〜400℃の高温に加熱すると、捕らえられた電子が解放され、正孔と再結合し、このとき熱蛍光(熱ルミネセンス)を発する。また、加熱温度と発光強度の関係をグロー曲線といい、加熱温度に対応して1個又は数個のピーク(グローピークという)がみられる。このグローピークにおける発光の総量が線量に比例するので、線量測定は適当な温度まで加熱したときの発光の積算値を測定するか、又は加熱条件を一定にしてグローピークにおける発光強度を測定する。熱蛍光物質は、通常粉末結晶でガラスアンプルなどに封入されており、環境線量の測定では1〜4素子(アンプル)ずつケースに入れられる。原子力施設周辺環境モニタリングにも広く用いられ、1〜3ヶ月の積算線量を測定できる。TLDは比較的安価でかつ取り扱いも容易なため、多地点での測定が可能である。
3.宇宙線の測定
 宇宙線は天体活動に伴い地球外から飛来する放射線の総称で、海面レベルではミュー粒子成分が最も多い。環境γ線用検出器は宇宙線に対しても動作するので、宇宙線によっても信号を発生する。ここでは、環境γ線測定における宇宙線の持つ意味について少し述べる。宇宙線の中には、荷電粒子成分(電子を含む)や崩壊して荷電粒子を発生する成分が含まれており、これが環境γ線用測定器の検出部に入ると、γ線の場合と同様に信号を発生する。これを「γ線成分」に対して「宇宙線成分」と呼ぶ。宇宙線に対する感度は検出器によって異なる。電離箱の場合は、宇宙線自身が電離能力を持っていること(中性子成分を除く)、電離箱は空気中の電離量(発生イオン対数)を測定することから、測定値には宇宙線による電離量が全て含まれる。この量は空気吸収線量率に換算でき、日本の海面レベルの屋外では約30nGy/hである。この他の測定器の測定値にも宇宙線による線量寄与が含まれる。この値は検出器の種類や測定値の線量率換算方法によって異なるが、日本の海面レベルでの代表的な値は3インチ直径の球形NaI(Tl)検出器で約2nGy/h(但し3MeV以下のもの)、TLDで約25nGy/hである。
4.α線及びβ線の測定
 α線の透過力は、非常に弱く、空気中でも数cmしか透過しない。そのため、体外に存在するα線放出核種から放出されるα線による外部被ばく線量は殆ど無視でき、環境放射線としての測定対象とはならない。逆にα線放出核種(例えば空気中Rn娘核種)を肺に吸い込むことによる内部被ばく線量は、自然環境中では最も重要となる。したがって、環境中α線の測定というと、特定の研究目的で測定する場合を除き、空気、水、食物などの環境物質中α線放出核種濃度の測定を意味することが多い。
 β線の透過力は、α線より強く、空気中で数m透過するものもある。とはいえ、γ線に比べると透過力ははるかに弱い。したがって、地殻中や建材中に含まれるβ線放出核種からのβ線は、地殻や建材それ自身の中で大半が吸収されてしまうため外部被ばく線量への寄与は小さい。一方、空気中のβ線放出核種からのβ線は、人体から数m以内で発生した場合に、外部被ばく(とくに皮膚被ばく)を考慮する必要がある。原子力施設周辺モニタリングにおいて、空気中あるいは地面等からのβ線の測定に、壁厚の薄い側窓型β線用GM管を用いることがある。比較的高い感度を有するが、濃度や線量単位への換算は困難である。
<図/表>
表1 環境γ線測定用検出器(GM管、電離箱、NaI(Tl)検出器、GE検出器、TLD)の代表的な仕様
図1 GM管による測定原理
図2 電離箱による測定原理
図3 NaI(Tl)検出器による測定原理
図4 半導体検出器(P−N接合)の動作原理
図5 TLD(熱蛍光線量計)の原理模式図

・図表を一括してダウンロードする場合は ここをクリックして下さい。


<関連タイトル>
自然放射線(能) (09-01-01-01)
人工放射線(能) (09-01-01-03)
環境放射線モニタリング (09-04-08-02)

<参考文献>
(1)国連科学委員会(報告書):「放射線とその人間への影響」1977,1982,1988年版
(2)原子放射線の影響に関する国連科学委員会(編)、放射線医学総合研究所(監訳):放射線の線源と影響、原子放射線の影響に関する国連科学委員会の総会に対する2000年報告書、上下巻、実業公報社(2002年3月)
(3)G.F.Knoll(木村、阪井訳):放射線計測ハンドブック、第3版、日刊工業新聞社(2000年)
(4)日本アイソトープ協会(編):ラジオアイソトープ 講義と実習、丸善(1980年)
(5)科学技術庁:放射能測定法シリーズ20「空間γ線スペクトル測定法」(1990年)
(6)三島 良績:わかりやすい原子力、日本原子力文化振興財団(1991年)
(7)日本原子力文化振興財団:原子力の基礎講座1「原子力の基礎」(1996年)
(8)日本原子力研究所 国際原子力総合技術センター:原子力基礎用語集(1997年)
(9)江藤 秀雄ほか:放射線の防護(三版)、丸善(1978年)
(10)永原 照明:基礎原子力講座6「保健物理」、コロナ社(1975年)
(11)松下電器産業株式会社:技術資料パンフレット(放射線熱蛍光線量計)(1982年)(12)米原 英典:環境放射線、菅原 努(監修):放射線基礎医学 第9版、金芳堂(2000年)
RIST RISTトップページへ ATOMICA ATOMICAトップページへ