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<概要>
 放射性核種濃度が測定されている食品は、ほとんど調理前の状態であり、我々が摂取する量を計算する際には、調理などによりどの程度除染されるかを考慮しなければならない。例えば、スパゲッティ中の137Csは、茹でることにより約25%に減少し、緑茶中の137Csは、約10%程度しか水溶液中に浸出してこないことが報告されている。この除染率は、放射性核種の摂取量をより正確に推定するための重要なパラメータである。
<更新年月>
2004年08月   (本データは原則として更新対象外とします。)

<本文>
1.はじめに
 幾つかの研究機関により、食品中の放射性核種濃度が測定されている。しかし、それらのデータから我々が摂取する放射性核種の量を求めるためには、調理加工による放射性核種濃度の変化を考える必要がある。ここでは、主として野菜を対象に、洗浄・調理によりどの程度の除染効果があるかについて述べる。
2.人工放射性核種の除染率
 表1−1および表1-2は、野菜類について、フォールアウト90Srの洗浄による除染率を調べた結果である。野菜の種類により、10〜75%の変動が認められる。これは野菜の表面の汚染除去を検討したものである。一方、コマツナに85Srおよび137Csを経根吸収させ、「おひたし」にした時の除染率については、85Srではおよそ50%、137Csではおよそ80%以上という報告がある。表2(A)および表2(B)は、輸入食品のスパゲッティおよび国内産の緑茶の調理前後における放射性セシウム134および137Cs)の濃度変化を調べたものである。調理(指定の方法により茹でる)によりスパゲッティ中の放射性セシウムの濃度は、約25%に減少することがわかる。一方、茶葉については、緑茶100グラムに対し約70度の脱イオン水2リットルでよく浸出させ、放射性セシウムの浸出率を求めた。浸出率は10%以下である。
 牛乳をバターに加工する場合、牛乳に含まれている93%から99%以上の90Sr、137Cs、131Iはバターに移行せず除去されてしまう。チーズを作る場合は酵素熟成型チーズ(チェダーチーズなど)か酸凝集型のチーズ(カッテージチーズなど)かによって90Srの除去率は変わる。酵素熟成型のチーズの場合90Srは30%から50%ぐらいしか除去されないが、酸凝集型のチーズの場合は、90%近く除去される。137Csはいずれのチーズでも76%から90%以上の除去率を示す(参考文献6)。
3.移行経路および化学形による違い
 表2(C)は、安定セシウムの調理前後の濃度変化を示す。安定セシウムの調理後の残存率と放射性セシウムの残存率との間に相関は認められない。これは、安定セシウムと放射性セシウムの移行経路が異なるためである。すなわち、チェルノブイリ事故による放射性セシウムは、主に大気から植物へ直接移行したのに対し、安定セシウムは土壌から植物に移行している。このように、移行経路が異なると除染効果も異なることは、注意する必要がある。また、ホウレンソウを用いて、ヨウ素を分子状および有機形として葉面吸収させた場合とヨウ素酸イオンの形で経根吸収させた場合とでの調理(おひたし)による除染率の違いを検討した結果、分子状ヨウ素の場合は、30%程度しか除去されないが、ヨウ素酸イオンとして根から吸収させた場合および有機形ヨウ素として葉面吸収させた場合は、約60%が除去されることが報告されている。この事実は、同一元素でも化学形によって除染効果が異なることを示している。
4.天然放射性核種の除染率
 調理・加工により食品中の放射性核種濃度が減少することは、天然放射性核種についても同じである。表3は、玄米および精白米を調理・加工した場合の40Kの濃度変化を示したものである。玄米を精米することにより、40Kの含量は約半分に減少する。そして、湿重量で記載してあるため正確な比較はできないが、精白米を調理することにより40Kの濃度はさらにその数分の一に減少することがわかる。
5.おわりに
 洗浄・調理により除去される放射性核種の量、すなわち除染率は、我々が摂取する放射性核種の量を正しく知るための重要なパラメータである。また、チェルノブイリ事故のような場合に、よけいな被ばくをしないための貴重な情報ともなる。しかし、これまでこのパラメータにそれほど多くの関心が払われなかったことも事実である。その理由の1つは、食品の種類、放射性核種の種類、さらに調理方法や移行経路など、多くの要因により異なるため、平均的な値を求めるのは困難であることがあげられる。被曝線量をより正確に推定するためには、このパラメータの整備が不可欠である。
<図/表>
表1-1 野菜表面の汚染除去による
表1-1  野菜表面の汚染除去による
表1-2 野菜表面の汚染除去による
表1-2  野菜表面の汚染除去による
表2 食品中の放射性および安定セシウムの調理による濃度変化
表2  食品中の放射性および安定セシウムの調理による濃度変化
表3 調理による米中の
表3  調理による米中の

<関連タイトル>
輸入食品中の放射能の濃度限度 (09-01-04-07)
放射性物質の人体までの移行経路 (09-01-03-01)
食品中の放射能 (09-01-04-03)
内部被ばく (09-01-05-02)
チェルノブイル事故による健康影響 (09-03-01-06)
年摂取限度(ALI) (09-04-02-14)

<参考文献>
(1)佐々木 理喜子:第8回環境放射能調査研究成果論文抄録集,p.62-63(1966)
(2)佐伯 誠道(編):「環境放射能」,ソフトサイエンス(東京)(1984)
(3)住谷 みさ子:調理操作による食品中のヨウ素の除去効果について,第12回放医研環境セミナー報文集,p.141-144(1986)
(4)安斎 育郎:「家族で語る食卓の放射能汚染」,同時代社(東京)(1988)
(5)飯島 育代,高城 裕之ほか:食品中の134137Cs, 第30回環境放射能調査研究成果論文抄録集 p.107(1988)
(6)原子力環境整備センター:環境パラメータシリーズ4 食品の調理加工による放射性核種の除去率(1994)
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