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<概要>
 原子炉にはいろいろな型式のものがあるが、小規模な研究用のもの(研究炉)と大規模な商業用のもの(発電炉)に大別することができる。原子炉施設から放出される放射線放射能)は、気体、液体及び固体廃棄物中に含まれる放射能とそれらに起因する放射線及び施設からの直接放射線に分けることができる。それらの放出に対して、周辺監視区域外において公衆の線量限度を超えないように、法令で規制がされており、さらに、軽水型の発電炉では線量目標値に基づく放出管理目標値を設定し、気体及び液体廃棄物の放出管理を行っている。
<更新年月>
2010年12月   

<本文>
1.原子炉の種類
 原子炉は、小規模な研究用のもの(研究炉)と大規模な商業用のもの(発電炉)に大別できる。前者は主に大学や研究所において、ガンマ線中性子線の放射線源として利用されており、その炉型は利用目的によってさまざまである。一方、後者は、電力供給用として利用されており、炉型は、主に沸騰水型(BWR)または加圧水型(PWR)である。
2.発電炉で発生する廃棄物
 原子炉では、核燃料物質を燃料として使用し、エネルギー、放射線の利用のため核分裂反応を起させているので、それに由来する放射線及び放射能が微量ではあるが環境中に放出される。原子炉施設から放出される放射線(放射能)は、気体、液体及び固体廃棄物中に含まれる放射能とそれらに起因する放射線に分けることができる。なお、原子炉施設からの直接放射線の影響も考えられるが、通常は、原子炉格納容器等の建屋により十分に遮へいされているため、問題とはならない。原子力発電所から発生する放射性廃棄物の一覧を表1に、処理方法の概略を図1に示す。
2.1 気体廃棄物
 気体廃棄物は、BWRでは、冷却材中の放射性物質が主蒸気とともにタービンに移行し、タービン復水器において蒸気と分離され、主復水器空気抽出器系排ガス、タービン軸封蒸気系排ガス、主復水器真空ポンプ系排ガスとして放出される。PWRでは、原子炉運転制御設備等において1次冷却材から分離された気体中に放射性物質が含まれ、ガス減衰タンク系排ガスとして放出される。また、BWR、PWRとも、ポンプ、弁の機器等から漏洩した冷却材中(漏水廃液:ドレン水)に含まれる放射性物質の一部が、建屋内雰囲気に移行し、換気系を通じて放出される。
 気体廃棄物中に含まれて環境に放出される可能性のある放射性物質としては、核分裂生成物及び冷却材中の不純物の放射化によって生じるもので、主に、3H、131I、133I、放射性希ガス85Kr、133Xe、135Xe、135mXe等)がある。
2.2 液体廃棄物
 液体廃棄物として、建屋の床にたまる床ドレン、機器配管の水抜きの際の機器ドレン、原子炉冷却材浄化用イオン交換樹脂の再生廃液、洗濯廃液等が挙げられ、これらには冷却材中に含まれる放射性物質が混入する可能性がある。
 液体廃棄物中に含まれて環境に放出される可能性のある放射性物質としては、核分裂生成物や冷却材中の不純物の放射化によって生じるもので、主に、3H、51Cr、54Mn、59Fe、58Co、60Co、89Sr、90Sr、131I、134Cs、137Csがある。
2.3 固体廃棄物
 固体廃棄物として、フィルタスラッジを脱水減容したもの、使用済みイオン交換樹脂、廃液濃縮後の固形物、放射能に汚染された雑固体(ビニール、紙、器具・材料等)等が挙げられる。
2.4 廃棄物の低減対策
 原子炉施設で発生する放射性廃棄物に対して次のような低減対策が実施されている。
 気体廃棄物については、粒子状のものは高性能フィルタでろ過することによって除去し、希ガスヨウ素は減衰タンクや活性炭式希ガスホールドアップ装置によりその放射能を減衰させ、ともに放射能濃度が基準値以下であることを確認して排気筒から大気中へ放出される。
 液体廃棄物については、各廃液とも処理施設に集められ、機器ドレンは、ろ過装置及び脱塩装置で処理後回収される。床ドレンは、濃縮装置及び脱塩装置で処理後回収され、原則として再使用されるが、放射能濃度の確認後、排水溝から海へ放出される場合もある。再生廃液は、濃縮装置及び脱塩装置で処理後回収され再使用される。この際発生した濃縮液は、固体廃棄物として処理される。洗濯廃液等は、通常放射能濃度が低いので、ろ過処理後、放射能濃度の確認をして排水溝から海へ放出される。
 固体廃棄物については、圧縮、焼却等の減容処理や固化処理を行った後、ドラム缶に封入し、敷地内の固体廃棄物貯蔵庫に保管するので、環境へ放出されることはない。
3.研究炉で発生する廃棄物
 研究用の炉は、一般に、原子力発電所に比べて規模が小さく、環境中に放出される放射性物質の量も少ないが、放射性廃棄物については原子力発電所と同様の管理が行われている。
4.排出放射性物質の管理
4.1 排気及び排水中放射性物質濃度による管理
 環境中へ放出される放射性物質の管理においては、通常、原子炉施設の敷地内に設定される周辺監視区域の外における排気及び排水中の放射性物質の濃度が法令に定められている濃度限度を超えないようにすることが原則である。つまり、濃度限度を超えなければ一般公衆がそれらの廃棄物から受ける線量が、公衆に対する線量限度(国際放射線防護委員会(ICRP)の勧告に沿って定められた法令値:実効線量で年間1ミリシーベルト)を超えることはない。
4.2 線量目標値による管理
 さらに、軽水型原子力発電所では、通常運転時の環境への放射性物質の放出に伴う周辺公衆の受ける線量を低く保つために、施設周辺の公衆の受ける線量についての目標値(一般に線量目標値と呼ばれ国の原子力安全委員会が「合理的に限りなく低くする」と定めた線量目標値:実効線量で年間50マイクロシーベルト(法令値の20分の1))が個々の発電所ごとに定められている。この線量目標値は周辺監視区域外の線量限度や放射性物質の濃度限度の規制値に代わるものではなく、ALARA(As Low As Reasonably Achievable:合理的に達成できる限り低くする)の考え方に基づく努力目標である。
 この線量目標値は、原子力発電所の設計時に適用され、また、通常の運転時においては、この線量目標値から年間の放出放射性物質の放出量または平均放出率を放出管理の目標値(一般に管理目標値と呼ばれる)として定め、この値を超えることのないように放出放射性物質の管理が行われている。
 この放出管理目標値は、希ガス、ヨウ素(いずれも放射性気体廃棄物で原子炉内の蓄積量も多く、さらにガス状のため、大気中に放出されやすい)及び放射性液体廃棄物ごとに分けて管理が行われる。
 平成21年度の原子力発電所(実用発電用原子炉施設)における放射性廃棄物の管理の状況を表2に示す。
 実際に、各原子力発電所の年間放出管理目標値は、気体廃棄物のうちの希ガスについて数ペタベクレル程度(1ペタベクレル=1.0E15ベクレル)、ヨウ素について100ギガベクレル程度(1ギガベクレル=1.0E9ベクレル)、また、液体廃棄物(トリチウムを除く)について100ギガベクレル程度であるが、放出実績ではその10,000分の1程度の放射能しか放出されていないということから、廃棄物の管理が適切に行われているということがわかる。つまり、原子炉施設においては、周辺住民に対する放射線的影響が極めて小さくなるように放出放射性物質の管理が行われている。
 なお、トリチウム(ベータ線放出)は他の放射性廃棄物に比べて、同じベクレル(放射能の強さ)であっても人体への影響が小さく、発電所周辺に住んでいる人々に与える影響が非常に小さいことから、放出管理目標値は定めていない。ただし、液体廃棄物中のトリチウムについては運用上の目安として放出管理の基準値を定め管理している。
(前回更新:2001年3月)
<図/表>
表1 原子力発電所から発生する放射性廃棄物一覧
表1  原子力発電所から発生する放射性廃棄物一覧
表2 原子力発電所における放射性廃棄物管理の状況(2009年度)
表2  原子力発電所における放射性廃棄物管理の状況(2009年度)
図1 原子力発電所の廃棄物処理方法
図1  原子力発電所の廃棄物処理方法

<関連タイトル>
放射性廃棄物処理(BWRの場合) (02-02-03-03)
放射性廃棄物処理(PWRの場合) (02-02-03-06)
BWRの放射線遮へい (02-03-02-02)
PWRの放射線遮へい (02-04-02-02)
原子力発電所における放射性廃棄物管理の動向(2005年度まで) (02-05-03-01)
原子力発電所からの放射性廃棄物の処理 (05-01-02-02)
線量限度 (09-04-02-13)
空気中濃度限度 (09-04-02-15)
放射性排出物の放出前モニタリング (09-04-06-05)
環境放射能安全規制の概要 (11-02-08-01)

<参考文献>
(1)(独)原子力安全基盤機構:平成22年版(平成21年度実績)原子力施設運転管理年報(平成22年11月)
(2)電気事業連合会:「原子力・エネルギー図面集2010」第8章 [放射性廃棄物] 8-3(2010年3月23日)、

(3)資源エネルギー庁 公益事業部 原子力発電課(編):原子力発電便覧、1999年版(1999年10月)
(4)原子力安全委員会事務局:「線量目標値、線量拘束値について」放防WG第8-5号、平成22年2月24日、

(5)原子力安全委員会:「発電用軽水型原子炉施設周辺の線量目標値に関する指針」(昭和50年5月13日 原子力委員会決定、一部改定 平成13年3月29日原子力安全委員会)、

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