<大項目> 放射線影響と放射線防護
<中項目> 環境中の放射能
<小項目> 環境放射能の種類
<タイトル>
人体中の放射能 (09-01-01-07)

<概要>
地球誕生時、地球上には数多くの放射性物質が存在していたが、ほとんどは壊変して放射能を失い、安定な元素になっている。しかし、ウラン(U)、トリウム(Th)、ラジウム(Ra)などの重い元素やカリウム40(40K)、炭素14(14C)などの核種は長い半減期を持ち、現在でも放射線を出し続けている。したがって飲食物や呼吸を通して人体にもこれらの元素や放射性核種が含まれている。また、核実験や原子力施設の事故などによりセシウム137(137Cs)、ストロンチウム90(90Sr)のような人工の放射性核種が摂取されることもある。
<更新年月>
2005年09月   (本データは原則として更新対象外とします。)

<本文>
1.天然の放射性核種の濃度
 人体を構成している成分を元素組成からみると表1に示すように酸素、炭素、水素、窒素が96%以上を占め、ついでカルシウム、リン、カリウム、硫黄、ナトリウム、塩素の順である。このほか、マグネシウムや鉄などが含まれている。しかし、放射能という観点からみると最も多く含まれている放射性核種はカリウムの中に約0.01%含まれている40Kである。40Kは表2に示すように食品中に含まれている天然の放射性核種の中でも最も多い。食物を通して人体に摂取されたカリウムは生理的に調整されていて、つねに一定の濃度に保たれているので40Kの体内量も一定である。体重60kgの成人男子の体内には40Kが約4000Bq存在している。この40Kは年齢とともに少なくなり、通常は女性は男性より少ない。その他の放射性核種では14Cが多く、ついでルビジウム87(87Rb)、ポロニウム210(210Po)、鉛210(210Pb)の順である(表3)。
 土壌中に存在する天然の放射性元素、U、Th、Raもごく微量ではあるが人体中に含まれている。肺の中には呼吸によって取り込まれた気体中のラドン(Rn)から生まれるいくつかの放射性核種があり、これらの中には次第に人体内に蓄積されるものもある。
 天然の放射性核種は、主として飲食物や呼吸によって人体に取り込まれるので、住んでいる地域の地質や生活習慣が取り込みに大きく影響する。たとえば、西オーストラリアのウラン(U)含有量の多い地域に住んでいる人々のうち、羊やカンガルーの肉を食用としている人の体内には通常の75倍ものUが存在している。これは土壌中のUが牧草に取り込まれ、それを食べた動物の肉やミルクを人が食する、という、いわゆる食物連鎖のためである。同様に210Poを蓄積しやすい地衣類をトナカイが食べるため、トナカイの肉を常食としている北半球の極地に住む人々は一般の人にくらべて210Poの量が約35倍も高かったという報告もある。
2.人工の放射性核種
 人工の放射性核種が人体内に取り込まれるのは、核実験や原子炉事故で生じた放射性降下物(フォールアウト)や原子力施設から放出される低レベルの気体あるいは液体の放射性廃棄物によって環境が汚染された場合である。人体への取り込みの道すじとしては天然の放射性核種の場合と同様に飲食物や呼吸によるものである。
 日本人の人体内に含まれる放射性ストロンチウムやセシウムが測られているが、これらは核実験のフォールアウトに由来するものと考えられている。
 1960年代の成人骨の90Srを測定した例では36mBq/g(Ca)という値が得られている。通常、成人の骨1kgあたりCaが約160g含まれており、ICRP標準人(体重70kg)の骨の量が5kgなので、骨中のストロンチウム量は28.8Bq、と推定される。
 1990年に測定した臓器中のセシウム137は、肺で1.5mBq/g−乾重量、肝臓で1.4mBq/g(乾重量)、腎臓で1.4mBq/g(乾重量)、脾臓で1.4mBq/g(乾重量)であった。
 また、1981年から1984年の日本人の人体に含まれるプルトニウムとアメリシウムに関しては239Pu、240Puの中央値として肺で3.6mBq/g−湿重量、肝臓で27mBq/g−湿重量、腎臓で0.75mBq/g−湿重量、脾臓で3.2mBq/g(湿重量)、胸骨で3.8mBq/g(湿重量)、筋肉で0.4mBq/g(湿重量)、241Amの中央値として肺で0.8mBq/g(湿重量)、肝臓で3.4mBq/g(湿重量)、腎臓で0.52mBq/g(湿重量)、脾臓で0.49mBq/g(湿重量)、胸骨で1.4mBq/g(湿重量)、筋肉で0.12mBq/g(湿重量)という値が報告されている。
 現在では放射能レベルが下がっていることや人体試料を得ることが難しくなっていることもあって、これらは貴重なデータとなっている。
3.人体内での放射性核種の挙動
 環境中の人工放射性核種の中で重要ものは131I、137Cs、90Srなどである。これらはそれぞれの化学的性質によって甲状腺、血液や筋肉、骨などに集まるため、人体への放射線影響を考える上で重要だからである。よって、これらを中心に述べる。
 原子炉事故で環境を汚染する放射性核種の中で、放出量が大きいこと、健康に与える影響が大きいことから事故直後に最も重要視されるのは131Iである。飲食物や呼吸によって体内に入った131Iは甲状腺に集まる。甲状腺に集まるのはヨウ素甲状腺ホルモンの構成成分であるためである。甲状腺ホルモンは全身のエネルギー代謝を調節するホルモンで代謝の盛んな乳幼児や青少年にはとくに重要である。
 また、137Csは半減期も長く(30年)飲食物を通して人体中に入ると、ほぼ100%が胃腸管から吸収されて血液に入り全身に分布する。最初は速やかに代謝されるが、時間が経つにつれて図1に示すように筋肉部分に集まってくる。ICRP(国際放射線防護委員会)が線量計算のために用いている代謝モデルでは生物半減期を110日としているが、乳幼児ではこれよりも短くなることが知られている。137Csと同じ核分裂生成物であるルテニウム106(106Ru)の場合は人体にほとんど吸収されないため137Csとは全く異なる体内挙動を示す。
 90Srの場合は化学的性質がカルシウム(Ca)に似ていることから体内に摂取されると骨に集まる。いったん骨に取り込まれるとなかなか排出されないので成長過程にあって骨形成の盛んな乳幼児や青少年の場合に問題となる。
 人体中の人工放射能の量が多かったのは、1950年代末から1960年代前半にかけてである。この時期、アメリカ、旧ソ連をはじめ超大国による大気圏核実験がしばしば行われて地球規模で環境が汚染されたためである。137Csの日本人成人男性の体内量の推移は1960年初めをピークとして次第に減少したが、チェルノブイル事故で一時的に増大した(図2)。しかし、1990年以降、ヒューマンカウンタでは検出できないレベルにまで低下している。
<図/表>
表1 人体を構成している元素組成
表2 食物中の放射性核種
表3 人体中の放射性核種
図1 137Csの体内分布
図2 137Csの体内の経年変化

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<参考文献>
(1)H.Kawamura,et al. :Determination of Th and U in Bone Ash by ICP-Ion Sorce Mass Spectrometry, J.Radioanal.Nucl.Chem.Articles,
138,103(1990)
(2)H.Kawamura,et al.:Naturally Occuring 226Ra Concentrations in Bone at Various Ages and α Doses in Adults, Health phys. 61, 615(1991)
(3)青木芳朗,渡利一夫(編):人体内放射能の除去技術,講談社サイエンティフィク(1996)
(4)渡利一夫、稲葉次郎(編):放射能と人体、研成社(1999)
(5)市川龍資:環境放射線と人間シリーズ11(日本人の放射能)、エネルギーレビュー、(1995年3月号)
(6)Aoki,T.,et al.,Cesium-137 and Potassium-40 contents in tissues of Japanese bodies. (KURAA)Annu. Rcp. Res. React. Inst. Kyoto Univ.,23,154-157(1990)
(7)Hisamatsu,S. et al.,Validation of ICRP metabolic models for the transuranic in a Japanese population,Health Phys. 85, 701( 2003)
(8)ICRP, Limits for intake of radionuclides by workers, Publication 30(1980)
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