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<概要>
 工業における生産工程では、品質の揃った製品を歩留り良く製造し、品質の向上を図り、かつ工程の自動化、高速化などにより生産性を向上することが重要である。このため、工程途上の原料や半製品の状態、あるいは工程の状態を自動的に検知する計測機器(センサ)が多く用いられる。これらの計測の原理には、光や電磁気など種々の物理現象が用いられるが、ラジオアイソトープからの放射線を利用する方法(放射線応用計測)は、その独自の特徴のために、他の方法では不可能か、あるいは著しく性能の劣る様々なところに広く用いられ普及定着している。
<更新年月>
2004年10月   (本データは原則として更新対象外とします。)

<本文>
 放射線としては、密封された放射性同位体(RI,ラジオアイソトープ、以下「密封線源」と略す)からのβ線(ベータ線)、γ線ガンマ線)、および中性子、ならびにX線(エックス線)発生装置からのX線が用いられる。これらの放射線は、電離放射線とも言われ、直接または間接的に物質を電離する性質を有するほか、物質中を透過することにより減弱を受けながらそれを透過する性質、散乱する性質、さらにまた2次放射線を発生させる性質があるので、これらの性質が計測に利用される。しかもそれらの性質は、物質の元素が同じならば(場合によっては元素の種類が異なっても)、原子・電子の密度・個数にのみ依存し、一般に温度、振動、速度、その他の物理的化学的状態の影響を受けない。密封線源からの放射線を利用しての計測、すなわち放射線応用計測の利点としては、さらに、計測対象物に対して非破壊および非接触によって計測できること、あるいは閉じた系の中の物体の計測を外部から行うことも可能である。
1.利用状況
 どのような種類の放射線応用計測機器等がどのような分野(使用事業者)にどのくらい普及し使用されているかを表1から知ることができる。ここでの記述では、「放射線障害防止法」の規制を受けるRIに関してのみ集計された「放射線利用統計」(日本アイソトープ協会(発行))に記載されているもので、規制対象外の3.7MBq(100μCi)以下の微小密封線源およびX線発生管を用いたものは含まれていない。また、民間企業の定義は民間の工場および作業場であって、これらの附属研究所は除かれている。放射線応用計測機器では、非破壊検査装置は含まない。
 全分野での使用事業者の総数は1999年から年々減少し、2003年3月には4,704となった。民間企業(産業界)での使用が最も多く(約40%)、医療機関(約17%)、研究機関(約14%)、教育機関(約10%)と続く。
 表2に示すように、全分野で利用されている放射線応用計測機器の総数は12,251であり、ガスクロマトグラフに最も多く使用され(5,059)、厚さ計(2,739)、レベル(液位)計(1,429)、密度計(662)、硫黄分析計(176)と続く。このガスクロマトグラフを最も多く使用しているのが民間企業(1,887)である。厚さ計、レベル(液位)計、密度計、硫黄分析計、および水分計は民間企業で最も多く使用されている。骨塩定量分析装置はX線による装置に代わったため、RIを用いる装置はわずか4台のみである。
 表3に民間企業における業種別および機器の種類別に対する非破壊検査装置および放射線応用計測機器の使用事業所数および保有台数を示す。厚さ計は、パルプ・紙の業界で最も多く使用され(154)、化学(86)、鉄鋼(40)、繊維(38)、その他製造(29)、石油・石炭製品(21)、電気機器(20)の業界が続く。
 レベル(液位)計は、化学とパルプ・紙の業界で最も多く使用され(40)、石油・石炭製品(28)、鉄鋼(25)、繊維(15)の業界が続く。密度計は、パルプ・紙の業界で最も多く使用され(26)、化学(11)、石油・石炭製品(9)鉄鋼(6)、その他の製造(5)、電気機器(3)、繊維(3)の業界が続く。また、たばこ量目制御装置はその他の製造(23)でも使用されている。
 水分計は、鉄鋼の業界で最も多く使用され(17)、ガラス・土石製品(2)、化学(2)、金属製品(2)などの業界でも使用されている。
 ガスクロマトグラフは、化学の業界で最も多く使用され(178)、計測サービス(279)、食料品(72)、電気機器(59)、その他の製造(39)、機械(25)、鉄鋼(18)などの業界で多く使用されている。
 表4に民間企業における業種別および利用形態別に対する使用事業者数を示す。密封されていない放射性同位体は、化学の業界で最も多く使用され(39)、精密機器(5)、電気機器(5)の業界が続く。密封線源は、化学の業界で最も多く使用され(281)、計測サービス(287)、パルプ・紙(165)、電気機器(101)、鉄鋼(77)などの業界も多い。放射線発生装置を用いている使用事業者数は、電気機器(5)、機械(4)、非鉄金属(5)、化学(4)などの業界が多い。
 表5に民間企業における機器の種類別および核種別に対する非破壊検査装置および放射線応用計測機器の使用台数を示す。非破壊検査装置では、192Ir,60Co,および137Csが多く使用される。厚さ計では、85Kr,241Am,147Pm,90Sr,137Csなどが多く使用されている。レベル(液位)計では、137Csと60Coが最も多く、最近では241Amも使用されている。密度計では、241Amと137Csが最も多く、60Co,90Sr,85Krなども使用されている。水分計では、241Am/Beが多く使用されている。ガスクロマトグラフでは、63Niが多く使用され、3Hも使用されている。たばこ量目制御装置では、専ら90Srが使用されている。
 以上に述べてきた放射線応用計測機器等の使用はよく普及が行き届き、最近では、全体的に飽和から減少の傾向にあり、図1に示すように、1999年から毎年2〜3%ずつ減少している。
2.各種の放射線応用計測機器
(1)厚さ計
 厚さ計は工業における最も代表的な放射線応用計測器であり、なかでも、β線(ベータ線、電子線)の透過を利用した紙またはプラスチックフィルムの厚さ計、およびγ線(ガンマ線)の透過を利用した鋼板厚さ計は典型的なものと言えよう。紙厚さ計は、製紙工程において水を含んで高速走行する紙の乾燥重量厚さ(坪量)を高精度で計測する(水分量はふつう赤外線透過率で測定し補正する)。β放射体を使い分けることによって、およそ10〜5000g/平方メートルの重量厚さの計測ができる。密封線源は、重量厚さの薄いものから85Kr,147Pm,90Srが用いられる。
 鋼板厚さ計の例では、赤熱した圧延中の厚板(4.5〜100mm厚さ)に対し、1.11TBq(30Ci)の137Csγ線の透過を利用して、±0.05%(または10μm)の高精度(10msの応答)の計測ができる。8mm厚さ以下の冷延工程の鋼板等に対しては、241Amのγ線およびX線(エックス線)発生装置のX線の透過が利用されている。
 以上の透過型の厚さ計のほかに、β線、γ線の後方散乱を利用する散乱型厚さ計、および2次的に発生する特性X線を測定する蛍光X線厚さ計がある。後者は特にメッキ工程でのメッキした厚さのオンライン計測等に使用されている。密封線源は、241Amが用いられる。
(2)密度計
 測定対象の厚さが一定のとき、厚さ計と同じ原理すなわち放射線の透過又は散乱を利用して見かけ密度の測定ができる。厚さが大きくなるほど、透過力の大きい高エネルギーのγ線が用いられる。工業分野では、パイプ中を流れる流体(スラリー等を含む)の密度をパイプを通して透過型で測定するものが多い。たばこ量目制御装置は、90Srのβ線の透過を利用して、紙巻たばこの詰まり具合を計測制御するもので、一種の密度計と考えられる。資源探査、地質検査および土木分野での地盤調査などでしばしば用いられる地下検層においては、γ線のコンプトン散乱が多く利用されている。密封線源は、137Cs,60Coが用いられる。241Am装備の密度計は、航空機のオイルゲージに利用されている。
(3)レベル(液位)計
 容器内にある内容物(流体、物体、塊状物など)のレベル(液位)を外部から知るため、容器を通してγ線を透過させその透過度を測定する透過型レベル計が広く用いられている。最も簡単なものは、容器側面の同じ高さに線源と検出器を置き、内容物のレベルがその高さより上にあるか下にあるかを知るオン・オフ型レベル計であり、一種のγ線リレーと言うことができる。線源と検出器とを異なる高さに置き斜めにγ線を透過させる方式では、γ線の通過する物体の厚さがレベルによって変るので、ある範囲のレベル(液位)を連続的に計測することができる。
 高温、高圧、あるいは腐食性等の内容物であっても問題なく外から計測ができるので、化学工場の反応タンク内の液面計測、鉄鋼業の連続鋳造工程の溶融鋼のレベル(液位)制御、製紙業等のタンク内レベル(液位)の計測などに多く使用されている。密封線源は、60Co,137Csが用いられている。また、最近ではビールなどの瓶の内容物のレベルを241Amを用いて制御している。
(4)水分計
 中性子の散乱による減速および透過減弱の度合は、水素の場合他の元素に比し著しく大きい(単位質量当り)ので、減速されて生じる熱中性子の数の測定あるいは高速中性子の透過率の測定によって、物質中の水素または水分量を知ることができる。水分計の大多数は、製鉄所において溶鉱炉へ装入するコークスおよび焼ホッパーの壁面あるいは挿入孔で計測するものである。密封線源は、241Am/Be,252Cfの中性子源が用いられている。
 この他に、3.7MBq以下の微小線源(252Cf中性子源と60Coγ線源)を用い、土木建設分野で盛土の締め固め度を現場計測するために水分・密度を同時測定するものがあり、数百台普及している。
(5)硫黄分析計
 大気汚染問題に対処するため、重油などの燃料油中の硫黄分の濃度を、パイプ中を流れる油に対してオンラインで測定するタイプのものが多く用いられている。原理的には、低エネルギーX線やガンマ線の透過を利用するものが多く、硫黄の特性X線(2.3keV)から硫黄分を求めるRI線源による蛍光X線分析方式のものもある。密封線源は、241Am,55Feが用いられている。
(6)ガスクロマトグラフ
 エレクトロン・キャプチャ検出器付きガスクロマトグラフ装置の中で、β線によるイオン化電流がガス化した試料成分により変化することを利用したもので、環境試料中の微量の有害成分(塩素系農薬、トリハロメタン、有機水銀、PCB等)や薬品中の不純物の分析に、とくに感度が高いため広く用いられている。密封線源は、63Ni,3Hを装備したディテクタが用いられる。
<図/表>
表1 使用許可・届出事業所数の推移(機関別、年度別)
表1  使用許可・届出事業所数の推移(機関別、年度別)
表2 おもな装備機器の使用許可・届出台数(機器の種類別、機関別)
表2  おもな装備機器の使用許可・届出台数(機器の種類別、機関別)
表3 民間企業における非破壊検査装置および装備機器の使用許可・届出事業所数(業種別、機器の種類別)
表3  民間企業における非破壊検査装置および装備機器の使用許可・届出事業所数(業種別、機器の種類別)
表4 民間企業における使用許可・届出事業所数(業種別、利用形態別)
表4  民間企業における使用許可・届出事業所数(業種別、利用形態別)
表5 民間企業における非破壊検査装置および装備機器の使用許可・届出台数(機器の種類別、核種別)
表5  民間企業における非破壊検査装置および装備機器の使用許可・届出台数(機器の種類別、核種別)
図1 使用許可・届出事業所数の年度推移
図1  使用許可・届出事業所数の年度推移

<関連タイトル>
工業用ラジオグラフィ(放射線透過試験) (08-04-02-03)
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<参考文献>
(1)文部科学省科学技術・学術政策局(監修):放射線利用統計2003、日本アイソトープ協会(2003年12月)
(2)石榑顕吉ほか(編):放射線応用ハンドブック、朝倉書店(1990年11月)
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