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<小項目> 診断
<タイトル>
核磁気共鳴イメージング(MRI)の原理と応用 (08-02-01-05)

<概要>
 核磁気共鳴イメージング(MRI)は1946年に発見された比較的新しい原理であるNMR現象を応用し、特に生体に含まれる水や脂肪の分布を断層画像として観察するための診断技術である。この画像診断法にはX線等の生体に障害を与える、いわゆる放射線を使っていないので、超音波診断の用に比較的手軽に利用出来、しかもCTのようにきれいな断層画像を得る事ができる。従って、今日では日常診療に幅広い分野でその利用が定着するようになっている。
 ここでは、MRI画像の成り立ちについてNMR現象から始め、画像のコントラストに影響を与える因子を紹介し、さらに臨床診断に使用されている画像の例を示してMRIの利用のされ方と有効性について、解説を行った。
<更新年月>
2006年06月   

<本文>
1.NMRとMRI
 核磁気共鳴イメージング(MRI)はNMR(nuclear magnetic resonance、核磁気共鳴)現象を利用したイメージング法である。NMRは、ある種の原子核(NMR核種)を均一な静磁場中に置いた場合に、特定の周波数(ラーモア周波数)の電波エネルギーを選択的に吸収する現象と定義されている。
 NMR現象は1946年 Harvard大学のE.M.PurcellとStanford大のF.Blochにより発見された。1952年に両者はノーベル賞を受賞した。1973年、P.Lauterburは傾斜磁場によるNMRの映像化に成功し、EPIといわれる超高速MRI撮像法を開発したSir Peter Mansfieldとともに2003年にノーベル賞を受賞した。NMRイメージング法は、非電離電磁放射線(電波)と静磁場、傾斜磁場の組み合わせによるもので、当時はZeugmatographyと称した(Zeugmaはギリシャ語で結合という意味)。
1.1 NMR現象
 NMRは原子核の電波に対する共鳴現象として捉えられる。共鳴現象は、波動特有の物理現象で、特定の周波数の波動エネルギーが同じ共鳴周波数で振動する物体に吸収される現象である。この様な共鳴現象は日常しばしば経験される、たとえば音叉の共鳴現象、振り子の共鳴現象等々である。NMRも基本的に同様の現象である。共鳴周波数のことをラーモア周波数(Larmor frequency)ν0といい、以下の式で与えられる
      γ
 ν0 = ─── × B0
     2π
B0は静磁場強度、γはGyromagnetic ratio(回転磁比)を示す。
 また、共鳴周波数は核種とその原子核が存在している場の磁場強度によって決定されるという特徴がある、さらに、共鳴の強度は磁場強度と原子核数が増加するにしたがって強くなる。
 一般に共鳴した物質は、波動エネルギーを吸収して励起状態になる。このことは通常の熱エネルギーと同様であるが、違いは非常に弱いエネルギーであるにも関わらず、共鳴振動をする特定の物体にのみエネルギーの選択的受け渡しが生じる点である。エネルギー授受は波動エネルギーが照射されているあいだ継続し、照射が止まると吸収したエネルギーを同じ周波数の電磁エネルギーとして放出し、基底状態(冷めた状態)へ戻ることになる。NMRは、電波と原子核の間で生じる共鳴現象であるといえる。
1.2 励起と緩和
 励起現象では、静磁場中に置かれたNMR核種(表1)に共鳴周波数の電波が照射された場合を考えると、概念的に以下のような状況が生じている。
 電波が照射された瞬間に次の2つの現象が同時に生じる;
(1)原子核スピンの位相がそろう。
(2)原子核スピンが電波のエネルギーを吸収する。
この様な状況がNMRでいう励起現象である。
(スピン:spinとは、原子核が回転しているために生じる磁化のことで、この回転周波数がラーモア周波数である)
 励起された状態で電波の照射を止めると、上記の2つの現象の逆現象(緩和現象)が起こる。即ち;
(1)原子核スピンの位相の不均一化。
(2)原子核スピンのエネルギー放出。
この過程で、励起された原子核は基底の安定な状態に冷めることになる。この現象を緩和現象という。従って、緩和現象には位相の緩和とエネルギーの緩和があり、それぞれの緩和の時定数をT2、T1と呼んでいる。また、T1のことを縦緩和時間あるいはスピン−格子緩和時間といい、T2のことを横緩和時間あるいはスピン−スピン緩和時間といっている。
1.3 NMR画像の成り立ち
 NMRのイメージング法には、励起電波パルスの照射直後に原子核が放出する電磁誘導(FID:free induction decay、自由誘導減衰信号)を測定する方法や、90°パルスと180°パルスの組み合わせによるエコー信号を利用する方法等がある。(パルスとは、瞬間的な発光(電波発生)のことで、持続時間(パルス幅)の短い変調された電波NMRで使うパルス幅は特殊な場合を除いてμsecのオーダーである)
 2次元の画像(MRI)に再構成する方法は、波動の3要素、即ち周波数(波長)、位相、振幅を利用する。デジタル画像にするには、x、y座標とその座標における階調(信号強度)が全てのマトリックスにおいて決定されることが必要である。MRIでは、信号強度に振幅を、xおよびy座標に周波数(波長)、位相を使用している。周波数、位相およびスライス選択(後述する断層面のこと)のいずれも傾斜(勾配)磁場を静磁場中に発生させることで、位置情報を持った信号強度が決められる。
 周波数情報を数学的に計算する手法として、フーリエ変換法(Fourier transform、時空間データを周波数空間データに変換する計算法)が使用されている。投影再構成は特殊な場合以外は使用しない。
 周波数方向の読み出し方は、x軸方向にaT/m(1T(テスラ)=10kG(キロガウス)、1メートル単位長あたりの磁場変化≡傾斜磁場)の傾斜磁場を静磁場B0の空間に発生させると、x軸方向の有効静磁界によるx座標上の周波数νxは以下の式で与えられる;
      γ
 νx = ──── × (B0 + aX)
      2π
 B0:静磁場強度、γ:回転磁比、a:傾斜磁場
 x軸方向の情報は一度に得ることができるので、情報を得る方向という意味で、読み出し(read out)方向という。
 位相方向も同様にy軸方向に傾斜磁場をかけるが、この磁場は読み出し方向の磁場強度よりはるかに小さく、位相空間360°をマトリックスサイズに応じて分割し、信号を取る度に分割回数だけ変化させなければならない。このため、NMR信号を得るためのパルスの組み合わせを分割回数だけ繰り返す必要がある。このRFパルスの一連の繰り返しをMRIのパルス系列(pulse sequence)と呼んでいる。
 断層画像を作るためには、断層面(スライス)の厚さを選択する必要があり、スライス選択は、スライス断面に垂直な軸に沿って、傾斜磁場を発生させることで可能となる。この傾斜磁場が最も強力な傾斜磁場であり、スライス厚を薄くするためには磁場強度を強くしなければならない。
 実際に使用されている、臨床用の1.5Tesla(15,000ガウス)の磁場強度のMRI装置の概観を図1に示した。現在では、研究分野では7Teslaを超えるMRI装置が使用されるようになってきており、より高感度、高解像度の生体画像が取得できるものとして期待されている。
2.MRIを用いた診断
 MRI画像のコントラストに影響を与える要素は、先に述べたエネルギーの緩和時間T1と位相の緩和時間T2であり、そのもとは原子核(MRIでは1H)の総量、いい換えればプロトン密度ということになる。また、血流など動きのある物体の場合には流速(f)の影響が加わることになる。
2.1 T1およびT2強調画像
 T1強調画像は、MRI診断において最も一般的に使用されている画像で、画像のコントラストはT1の大きさによって主に決定される。T1の大きさは、自由水の含まれる割合が大きい程大きくなり、画像上では逆に信号強度が弱くなるような(黒くなる)パターンとなる。また、T2強調画像は、画像のコントラストが主にT2の大きさによって決定され、T2も自由水の割合が大きい程大きくなるが、T1には加味されないファクタもT2に影響し、その変化はT1よりやや複雑なものとなっている。画像上ではT1強調画像の場合とは異なり、T2の大きさが大きい程信号強度が強くなる(白くなる)パターンとなる。この他にも周囲の磁性体の存在などでもT1,T2は大きく変化するため、これらを総合して画像評価を行わなければならない。
 図2にヒト頭部のMRIを示した。図2(a)のT1強調画像では、水分を多く含んだ側脳室(矢印)は黒く抜けたようになっている。一方、図2(b)のT2強調画像では、同部位は白くなっていることがわかる。
 実際の診断には、常にT1強調画像とT2強調画像が併用して用いられるが、これは一方だけの画像では判定が難しく、組織性状の診断を正確におこなうためである、
2.2 MRI画像化の信号を得る方法
 MRIのパルス系列(またはシークエンス)の最も基本的、代表的なものはSE(spin echo)法である。SE法は、90°パルスと180°パルスの組み合わせによるシークエンスである。このシークエンスで測定者は、図3に示す2つのパラメータTE(echo time)とTR(repetition time)の時間を決める。
 SE法のコントラストはTEがTRに比べて十分に小さいときは次の式でシミュレート出来る;
 I(TR,TE) = I(0) {1−exp(−TR/T1)} exp(−TE/T2)
 TR、TEともに時間を長くとった場合、T2のコントラストとなり、T2強調画像(long SE)と呼ばれている。この場合は緩和時間の長い(水分が多い)組織ほど明るい画像となる(図2(b))。
 TR、TEともに時間を短くとった場合、T1のコントラストとなり、T1強調画像(short SE)と呼ばれている。この場合は緩和時間の短い(水分が少ない)組織が明るい画像となる(図2(a))。
2.3 その他の撮像法
 その他の画像化の信号を得る代表的シークエンスとして、SE法のシークエンスを走らせる前に、対象となる原子核のスピンをひっくり返し、より緩和効果を強調するために180°反転パルスを追加したシークエンスにするIR(inversion recovery)法、および高速撮影の基本になるパルス系列で傾斜磁場による信号獲得を利用したGE(gradient echo)法などがある。
 GE法は、エコー信号を得るために180°反転パルスの代わりに、傾斜磁場による磁場の変動を利用した手法であり、傾斜磁場の方向と強度を反対に変化させることによって磁化の分散と再集束を強制的に行うものである。この方法の有用性は、エコー信号を得るための操作に励起電波パルスを用いないので、横磁化を発生させるために最初に照射するRFパルス(たとえば90°パルス)に続いて、SE法におけるTEの時間的制約よりも早い時間でTEを設定し、エコー信号を得ることができるという利点である。GE法を用いれば、測定に時間を要するSE法でのT2強調画像の代わりに、比較的短い時間でT2強調に近い画像(T2*(T2スター)強調画像)を撮像することができる。
3. MRIのコントラストに影響を与える要素
 画像診断において最も重要なことは、画像のコントラストを決定している要素すなわちパラメータが何であるかを正確に把握することであり、画像のコントラストを決定するパラメータが理解できれば、そのようなパラメータの生体内での変化が生じる可能性としてどのような状況が考えられるかということが臨床医学的に判断できることになる。
 今日臨床医学で利用されている形態画像診断技術は、利用しているエネルギーの違いから大きく3種類に分類される。先ずX線を用いたX線画像、次いで超音波を用いた超音波エコー画像であり、3つ目が電波を用いたMRIである。X線写真のコントラストは、組織によるX線の吸収率の違いであり、これはX線が透過した組織の密度にのみ依存するものである。超音波エコー画像は、超音波の組織内での反射を捉えているので、そのコントラストは超音波の反射境界での組織間の密度の違いを反映したものとなっている。これに対してMRIでは、吸収した電波のエネルギーを信号として画像化しているので、計測時に組織から放散される電磁誘導の強さによってコントラストが決定される。このときの電波強度を決定する主要なパラメータとしては、測定領域(pixel、絵素あるいは画素)に含まれる水素原子核の総量(プロトン密度、ρ)、水素原子核のT1、T2、水素原子核の流れ等に伴う動き(f)、測定パルス系列のTR、TE、フリップ角(θ)などがある。その他にも温度、拍動、拡散など細かい因子がMRIのコントラストに影響を与える。
<図/表>
表1 B0=1Tの場合の代表的なNMR核種の特性
図1 臨床用MRI装置の概観
図2 脳の横断画像
図3 スピンエコー法のパルス系列

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<関連タイトル>
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PETの原理と応用 (08-02-01-04)

<参考文献>
(1)C.L.Partain et al.: Nuclear Magnetic Resonance Imaging, W.B.Saunders Co. Philadelphia (1983)
(2)佐々木康人:MRIでなにがわかるか。産業開発機構(1995)
(3)永井 輝夫:MRI診断学、朝倉書店(1988)
(4)池平 博夫:特集「MRIの新技術と臨床応用」、MRスペクトロスコピーの現況、日獨医報、日本シェーリング(株)、Vol.39,No.4,p.98-114(1994)
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