<大項目> 放射線利用
<中項目> 放射線利用の基礎
<小項目> 放射線利用の概要
<タイトル>
放射線利用の経済的規模 (08-01-04-06)

<概要>
 放射線利用は広く社会に普及し、生活に深く浸透しているにもかかわらず、その実態に関する社会的認知度は非常に低い。そこで、経済的な視点に立って放射線利用の実態を明らかにすることを目的として、平成11年度に放射線利用の経済的規模の調査・推計が行われ、平成9年度(1997年度)における放射線の工業利用、農業利用、医学・医療利用の合計額は約3兆7,300億円と評価された。その後、平成17年度の統計データなどに基づいて再び調査・推計が実施され、工業、農業及び医学・医療分野における放射線利用の経済規模は、工業利用が約2兆3,000億円、農業利用が約2,800億円、医学・医療利用が約1兆5,400億円であり、合計で約4兆1,100億円となった。他方、原子力エネルギー利用の経済規模も試算され、平成17年度における原子力発電の経済規模は約4兆7,000億円と評価された。
<更新年月>
2013年03月   (本データは原則として更新対象外とします。)

<本文>
 放射線利用は広く社会に普及し、国民生活に深く浸透しているにもかかわらず、原子力平和利用の両輪のもう一方であるエネルギー利用に比べると、その具体的な方法、規模、便益等が国民に分かりやすく示されておらず、その社会的認知度は非常に低い。そこで、放射線利用の実態を経済的な視点から明らかにすることを目的とし、企業アンケートや各種公開されている統計資料を活用して放射線利用の経済規模を推計する試みが平成11年度に実施された。その結果、平成9年度(1997年度)における放射線利用の規模は工業利用が約2兆1,800億円、農業利用が約3,100億円、医学・医療利用が約1兆2,500億円で、合計額は約3兆7,300億円と評価された。なお、国内企業物価指数をデフレータとして2000年度基準で表示した場合(以下、2000年度基準値表示)には約3兆6,300億円の規模となった。
 その後、平成11年度の評価結果を踏まえつつ、平成17年度の統計データを用いた再評価が平成19年度に実施された。その結果、平成17年度の放射線利用の経済規模は、合計額で約4兆1,100億円(2000年度基準値表示で約4兆2,100億円)、このうち工業利用分野が約2兆3,000億円(56%)、農業利用分野が2,800億円(7%)、医学・医療分野が1兆5,400億円(37%)と推計された。この再評価の方法と結果の概要を以下にまとめる。
1.工業利用の経済規模
 工業分野では以下の設備・機器を調査対象とした。(1)照射設備(電子加速器、診断用エックス線装置など)。(2)放射線計測機器(放射線測定器や放射線防護機器など)。(3)非破壊検査。(4)放射線滅菌(電子線やγ線による使い捨て医療用具の滅菌)。(5)高分子加工(ラジアルタイヤ、電線・ケーブル、発泡体など)。(6)半導体加工。
 調査にあたっては、国の統計データ、アンケート、インタビューなどを通じて放射線利用に係る製品の出荷額を調べた。放射線利用に直接的に関係する機器、製品についてはそれらの出荷額自体を経済規模に算入できると考えられるが、製造工程の一部に放射線が利用された工業製品については出荷額をそのまま経済規模とするのは不適切であり、放射線の寄与率を考慮する必要がある。この寄与率を適切に決定することは困難であるが、今回の調査では以下のように想定して経済規模を算定した。
・半導体加工:半導体製品の多数を占める集積回路の製造ではフォトマスク(下注参照)が製造工程の中心的役割を担っているため、集積度を高めるために使用されている電子線描画のコストが全体に占める割合を放射線寄与率と見なすことによって、経済規模を算定した。(注)フォトマスクとはシリコン基板上に転写される電子回路のパターンが描かれた半導体の原版をいう。
・ラジアルタイヤ加工(図1参照):ラジアルタイヤは幾つかのゴム製の部材で構成され、それらを組み合わせる過程で電子線照射による予備架橋が不可欠である。そこで、照射対象のゴム部材がラジアルタイヤ全量に占める重量比を放射線寄与率と見なすことにより、ラジアルタイヤの経済規模を算定した。
 以上の算定により、半導体加工に対しては25%、ラジアルタイヤに対しては4%の放射線寄与率を適用し、また、他の放射線加工品については出荷額をそのまま経済規模とした。この試算による平成17年度の放射線工業利用の経済規模は全体で約2兆3,000億円(2000年度基準値は2兆3,500億円)であり、内訳は半導体加工が約1兆3,500億円(工業利用全体の約60%に相当)、高分子加工が約1,000億円、ディスポーザブル医療用具(注射器、メス、カテーテル他)などの放射線滅菌が約1,700億円、非破壊検査が約1,100億円、放射線設備が4,650億円、放射線計測機器などが約1,010億円である。
2.農業利用の経済規模
 農業分野における放射線利用の経済規模は工業分野の10分の1程度と小さいが、突然変異育種、食品照射、害虫駆除など我々の生活に欠かせない手法として定着している。ここでは調査対象年度を17年度とし、直接ヒアリング及び統計資料に基づいて検討した。評価の対象が農産物製品そのものであるため、放射線寄与率の概念を適用せず、出荷額を合計して経済規模とした。平成17年度の農業利用分野における放射線利用経済規模は、総額約2,790億円(2000年度基準値は2,850億円)であり。その内訳は、照射利用が約100億円、突然変異育種(大部分がイネ)が約2,540億円、アイソトープ・放射能分析が約150億円であった。
(1)照射利用
 照射利用としては、食品照射、害虫駆除(不妊虫放飼法)、滅菌などがある。食品照射は、食品の衛生化、保存、品質向上を目的とする処理技術であり、食品の発芽防止、殺虫、熟度調整、改質、殺菌・滅菌などに用いられている。日本国内で実施されている食品照射の事例としては、士幌農協における馬鈴薯の芽止め(図2)が挙げられる。
 因みに、世界全体の2005年における食品照射処理量は40万5千トンであり、その経済規模は1兆6,100億円と推計されている(表1)。処理量では中国、米国、ウクライナが多く、経済規模では米国が約8,500億円と飛び抜けて大きい。用途別では、量の多い順に香辛料類の殺菌、穀物・果実の殺虫、ニンニクなどの発芽防止、肉・魚介類の殺菌などである。
 不妊虫放飼法の代表的事例としては、沖縄県及び鹿児島県奄美群島におけるウリミバエ(図3)根絶が挙げられる。これによって寄主植物の移動禁止が解禁となり、検査・燻蒸処理費用の軽減などの間接的な経済効果も得られている。
 放射線滅菌としては、実験動物用飼料、食品包装材(液体輸送容器など)の滅菌に使用されている。
(2)突然変異育種
 放射線突然変異の直接利用品種と間接利用品種とについて栽培収入を求めた。イネは、全栽培面積約170万haの12.3%が放射線突然変異品種である。経済規模は、栽培面積に単位面積当たりの粗収益(玄米の販売価格)を乗じて算定した。総粗収入額を求めた結果、経済規模は約2,450億円と算出された。このほか、ダイズ、コムギ、オオムギ等についても同様の算定を行った。
(3)アイソトープ利用・放射能分析
 アイソトープ利用では、農業・生物分野におけるラジオアイソトープの頒布、RI廃棄物の集荷を対象とした。また、放射能分析では、放射線・放射能分析、作業環境測定業務の依頼事業、被ばく測定サービス事業を含む測定事業、RI施設の廃止に伴う廃止工事の請負事業及びRI施設保守点検依頼事業等を対象とした。考古学や地質調査のための放射性炭素による年代測定の分析もこのカテゴリに含まれる。
3.医学・医療利用の経済規模
 医学・医療利用分野における経済規模は、診断または治療目的で放射線を受けた患者(あるいは被験者)がその対価として医療機関側に支払う金額を積算して評価した。保険診療とそれ以外の診療とを区別して算出した後、それらを合計した。保健診療については、厚生労働省が年度ごとに公表する「社会医療診療行為別調査」のデータに基づいて試算した。また、保険外診療については、がん対策基本法の施行により、今後がん診療に関する放射線利用が促進されることが予想されるため、放射線を利用したがん診療と先進医療となった放射線治療を対象とした公開データを調査し、全国規模の経済効果が推定できる項目を評価対象とすることとした。その結果、がん検診分野ではPETがん検診、CT肺がん検診、マンモグラフィ乳がん検診を、放射線治療分野では先進医療として施行された陽子線治療及び重粒子線治療を評価対象とした。
 平成17年度での国民医療費は約33兆1,300億円であり、同年度の放射線による医学・医療行為の経済規模は約1兆5,100億円と推計された。また、国民医療費に占める放射線医療費の割合は4.1%で、最近13年間ほぼ一定である。保健医療における放射線利用の診療項目の中では画像診断が占める額が最も多い。画像診断と放射線治療の診療報酬額はともに増加傾向にあるが、特に放射線治療の増加は著しく、平成9年度と平成17年度の期間に約500億円から約1,000億円へと倍増している。
 重粒子線治療ならびに陽子線治療の一部は、先進医療や高度先進医療に認定された粒子線治療として行われ、患者が費用を負担する。この調査では、静岡県立静岡がんセンター、兵庫県立粒子線医療センター、国立がんセンター東病院、放医研重粒子医科学センター病院、及び筑波大附属病院学陽子線医学利用研究センターを対象にした。経済規模は、平成13年の1.7億円に対して、平成17年は26.8億円と推計され、急速に拡大している。このように、医学・医療における放射線利用は、放射線診断ならびに放射線治療の急速な進歩によって拡大を続けており、その経済規模(括弧内は2000年度基準値表示)は平成9年度の約1兆2,500億円(約1兆2,100億円)から平成17年度には約1兆5,400億円(約1兆5,700億円)に増加した。
4.原子力のエネルギー利用による経済規模
 原子力のエネルギー利用としては、我が国では専ら発電に特化しているので、17年度の発電電力量に基づき原子力発電の経済規模の評価を行った。送配電の費用を含めた需要端で推計を行うこととしたが、参考として発電端についても試算した。
 需要端における原子力発電経済規模の算出にあたっては、一般電気事業者9社の有価証券報告書損益計算書に記載されている経常収益に、電源別発電電力量から求めた原子力発電比率を乗じる方法を採用した。また、原子力関連産業の経済規模は、日本原子力産業協会が毎年まとめている原子力産業実態調査報告を基に算出した。この方法で求めた平成17年度の原子力発電による需要端での経済規模は約4兆7,000億円であり、原子力発電関連機器等の輸出額は371億円で合計約4兆7,400億円となった。
 平成17年度における放射線利用とエネルギー利用を比較すると、放射線利用の経済規模約4兆1,000億円に対してエネルギー利用は4兆7,000億円であり、エネルギー利用がやや上回っている。
(前回更新:2007年8月)
<図/表>
表1 世界における食品照射の処理量と経済規模
図1 自動車ラジアルタイヤ
図2 身近な放射線利用−馬鈴薯の芽止め照射
図3 身近な放射線利用−ウリミバエの根絶

・図表を一括してダウンロードする場合は ここをクリックして下さい。


<関連タイトル>
放射線利用の概要 (08-01-04-01)
放射線利用に関する統計 (08-01-04-02)
RI利用の概論 (08-01-04-03)
生物学における放射線利用 (08-01-04-04)
理工学における放射線利用−計測応用− (08-01-04-05)
放射線利用の経済的規模 (08-01-04-06)
医療分野での放射線利用 (08-02-01-03)
わが国における放射線不妊虫放飼法(SIT)の普及 (08-03-01-02)
原子力産業実態調査報告(平成12年度) (10-05-03-05)

<参考文献>
(1)日本原子力研究所:「平成11年度放射線利用の国民生活に与える影響に関する研究」報告書(科技庁委託事業)(2000)
(2)原子力委員会ウェブサイト:平成16年版原子力白書(平成17年3月)、
http://www.aec.go.jp/jicst/NC/about/hakusho/hakusho2004/25.pdf
(3)原子力委員会ウェブサイト:原子力政策大綱(平成17年10月11日)、
http://www.aec.go.jp/jicst/NC/tyoki/taikou/kettei/siryo1-3.pdf
(4)農産水産省:パンフレット「日本におけるウリミバエの根絶」
(5)(独)日本原子力研究開発機構:平成19年度 放射線利用の経済規模に関する調査報告書 要約版(平成19年12月)
(6)田中隆一:最新調査による放射線利用の経済規模 I.工業利用分野、放射線と産業 No.120(2008) p35〜39
(7)久米民和:最新調査による放射線利用の経済規模 II.農業利用分野、放射線と産業 No.121 (2009), p30〜33
(8)井上登美夫:最新調査による放射線利用の経済規模 III.医学・医療利用分野、放射線と産業 No.122 (2009), p40〜43
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