<大項目> 放射線利用
<中項目> 放射線利用の基礎
<小項目> 放射線と物質の相互作用
<タイトル>
放射線の吸収エネルギー (08-01-02-01)

<概要>
 「吸収エネルギー」とは、放射線を受けた物質(人体もその1つ)が放射線から与えられたエネルギーのことで、放射線による影響の程度を決める最も基本的な物理量の1つである。また、言いかえれば、放射線と物質との相互作用に関するもので、放射線影響の他に放射線測定、放射線利用においても基礎的な重要事項である。
<更新年月>
2005年04月   (本データは原則として更新対象外とします。)

<本文>
1.吸収エネルギーとは?
 放射線の実体は、エネルギーを有する粒子または電磁波である。人体が「放射線をあびる」ということは、人体が放射線を受けて、人体を構成する原子と放射線とが相互作用(電離など)を起こした結果、放射線の有するエネルギーの一部または全部を身体の一部に与えられるということである。これは、ストーブの火(熱線を放射している)を受けて身体が暖まったり、キャッチボールのときにボールを受けて手にショックを感じるといったことと似ていて、放射線、熱線、ボールという媒体を介してエネルギーの受け渡しをしているのである。
 放射線が人体や物質に様々な影響を与える過程は複雑で、未解明な部分もあるが、放射線によって生じた現象を定量的に評価し、その影響の程度を決める最も基本的な物理量の1つが「吸収エネルギー(absorbed dose)」である。即ち、放射線を受けた物質(人体もその1つである)が放射線から与えられた(あるいは吸収する)エネルギーである。これを放射線の側から見ると、物質に放射線のエネルギーを移し与える(「エネルギー付与」という)ことになる。
 放射線にも物質にも多くの種類があり、それぞれ異なった性質をもつので、放射線と物質との組み合わせで生ずる両者の相互作用は多様である。放射線の有する全てのエネルギーが物質に付与される(吸収される)ことも、放射線のエネルギーの一部だけが付与されることもある。すなわち放射線が物質中に侵入するとか、通過したりすると、一部は透過・散乱するが、残りは物質構成原子や分子と相互作用を起こし、それらを次々と電離・励起しながら、そのエネルギーを失っていく。物質が吸収したエネルギーとは、このようにして失われた放射線エネルギーにほかならない。例えばα(アルファ)線は、物質中で容易に全てのエネルギーを失う。その結果として、α線は透過力が弱く、飛程(物質中での放射線の通過距離)当りに物質へ付与するエネルギー(物質が吸収するエネルギー)は大きい。一方γ(ガンマ)線は、α線よりもそのエネルギーを失いにくく、その結果として透過力が強く、飛程当りに物質へ与えるエネルギーは小さい。
2.吸収エネルギーと吸収線量との関係
 放射線量の1つとして用いられる「吸収線量」とは、放射線場に置かれた物質が単位質量あたりに吸収した放射線エネルギーのことで、従来はrad(ラド:1rad =100 エルグ(erg)/グラム=0.01グレイ)という単位が使われ、現在ではGy(グレイ:1Gy =J/kg=107erg/103g=100 rad)という単位が使われている。すなわち、吸収された放射線のエネルギーが1kg当たり1Jであれば、吸収線量は1J/kgとなるが、これを1Gyという。
 吸収線量は、放射線場の強さを表わすときにも用いられる。通常は、注目する場所での空気の吸収線量率で表わし、単位はnGy/h(10億分の1Gy/h)を用いる。一般の生活環境中における自然放射線レベルは数10nGy/h程度である。吸収線量率は放射線の強さが強いほど高いが、吸収物質の種類と密度にも依存する。極端な場合、真空中では放射線の強さがどんなに強くても吸収線量率は0である。
 ある一定の強さの放射線場に異なる物質AとBを置いたとき、Aの吸収線量とBの吸収線量とは一般に異なる。それは、物質によって放射線のエネルギーを吸収する特性が異なるからである。このような特性は、質量エネルギー吸収係数という量で表わされる。ある場所に置かれた物質の吸収線量(吸収エネルギー)は、その場所における空気の吸収線量に質量エネルギー吸収係数の比(注目している物質の質量エネルギー吸収係数/空気の質量エネルギー吸収係数)を乗じて得られる。
3.(参考)実効線量と吸収線量との関係
 放射線の人体への影響の程度を表わすのに、Sv(シーベルト)やrem(レム)という単位で表わされる「実効線量」という量がある。これは、各臓器毎の吸収線量に、放射線によるリスクの程度を考慮した荷重係数を乗じ、それを全ての臓器について積算したものである。実効線量は放射線の人体への影響の程度を表わすための量であるが、純粋な物理量ではなく、純粋な物理量である吸収線量(これは人体への影響の程度を直接表わしてはいない)をベースにした放射線防護を目的とした指標である。表1確率的影響についてのリスク係数と荷重係数を示す。
<図/表>
表1 確率的影響についてのリスク係数と荷重係数

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<関連タイトル>
放射線の分類とその成因 (08-01-01-02)
放射線と物質の相互作用 (08-01-02-03)
放射線のリスク評価 (09-02-03-06)
放射線被曝によるリスクとその他のリスクとの比較 (09-04-01-03)
実効線量 (09-04-02-03)
線量に関する単位 (18-04-02-02)

<参考文献>
(1)大塚徳勝:Q&A放射線物理、共立出版 (1995.3)
(2)大野新一:Gy(グレイ)とSv(シーベルト)の理解、放射線と産業 No.93(2002)
(3)伊澤正實:改訂三版 放射線の防護、丸善(株)(1982年12月)、p.191
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