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<概要>
 放射能とは不安定な原子核が安定な原子核に変わる(壊変と呼ぶ)とき放射線を放出する能力をいう。放射線を放出するような不安定な元素(原子核)を含む物質もまた、放射能を有するといい、放射性物質と呼ぶ。放射性核種の壊変現象に伴う放射能の強さは毎秒壊変する割合を示す壊変定数λあるいは半減期Tで表わされる。これらはそれぞれの原子核に固有の量である。放射能には、自然放射能と人工放射能がある。人工放射能は色々なところで利用されている。
<更新年月>
2005年04月   (本データは原則として更新対象外とします。)

<本文>
1.放射能の定義
 放射能とは、不安定な原子核が安定な原子核に変わる壊変現象において放射線を放出する能力またはその強さをいう。このような元素(同種の安定な元素と比較するときに、放射性同位元素または放射性同位体と呼ぶ)を含む物質もまた、放射能を有するといい、放射性物質と呼ぶことがある。
 「壊変」とは、不安定な原子核(放射性原子核)が壊れてなくなることと、元素が他の元素に変わること(変換)をいい。この二つが同時に起こることを表している。
 「放射能」は1896年2月、フランスのベクレル(H.Becquerel)によって発見された。ベクレルはこの放射線を「ウラン線」と名付けた。それから2年後、マリー・キュリー(Marie Curie)はピエール・キュリー(Pierre Curie)の作った、微弱電流測定に用いる水晶板ピエゾ電気計を用いてウラン線の研究を行い、ウラン線の強さはウラン化合物中に含まれるウランの量に比例すること、ウラン線はウラン化合物の温度や圧力等の状態に左右されず、絶えず自発的に放射されていることを確認した。また、ウラン以外の化合物についても調べ、トリウム化合物もウラン化合物と同様の放射線を出すことを発見し、この様な放射線を出す性質を「放射能」と名付けた。1898年7月にBi(ビスマス)に性質が似ている新しい元素を発見した。この新元素はマリーの祖国ポーランドに因んで「ポロニウム」と命名された。2人はその後もピッチブレンド(れきせいウラン鉱)の分析を進めた。ピッチブレンドの中には、その中に含まれているウランやポロニウムよりも放射能の強い物質があると考えた2人は、同じく1898年12月Ba(バリウム)に性質が似た放射性物質があると発表した。この新元素は[放射するもの]という意味の、「Ra:ラジウム」と命名された。原子力百科事典ATOMICA、構成番号<16-02-01-04>「自然放射能の発見」参照。
2.半減期
 放射性核種の壊変は、核種に固有の確率で起こる。核種一個づつをとれば、必ずしも壊変にいたる時間は一定していないが、多数の同じ核種の集まりについては、壊変の割合は核種に固有である。ある時刻から壊変によって放射性核種の数が半分に減少するまでに要する時間Tを半減期と云う。これも核種に固有である。
 また1秒間に壊変する割合を壊変定数という。λとTには次の関係がある。
  λ=0.693/T
3.自然放射能と人工放射能
 放射能には、人間の活動に関係なく存在する自然放射能と、人間の活動に起因する人工放射能がある。
 自然放射能には、地球が誕生した時からあった天然放射能(原始放射能)と地球に降りそそぐ宇宙線を起源とする放射能がある。人工放射能は、人工的に作り出されたものであるが、使用する目的に応じていろいろの種類がある。
4.自然放射能
4-1.天然放射能
 地殻内には、地球の誕生時にできた多数の放射性核種が広く分布している。これらは天然放射能と呼ばれ、土中、水中、植物、木材、建材等の生活環境中のいろいろの物質に含まれている。
 放射能は、人体内にも存在する。代表的なものは天然のカリウム中に含まれる放射性同位元素(40K)に基づくものである。原子力百科事典ATOMICA、構成番号<09-01-01-02>「天然の放射性核種」参照。
4-2.宇宙線起源の放射能
 宇宙線が地球及びその大気に突入するときに、種々の放射性物質が生成する。その代表的なものに3H、14Cがある。
 これらの放射能は、一方では生成され、一方では壊変し安定な元素に変わるので、全体としては増えることも減ることもなく、地球上にはそれぞれほぼ一定量の放射能が存在することになる14Cの同位体比を測定し、14Cの放射能の減衰を手掛かりに、歴史考古学上の遺物の年代を推定する方法が良く知られている。
5.人工放射能(線)
 人工放射能は、放射線のエネルギーを有効に利用するために、作り出されるものである。
5-1.原子力発電に関係する放射能
 放射線のもつエネルギーは、原子力発電として大規模に利用されている。原子力発電に伴う大量の放射能は、十分安全に管理されている。原子力発電の発展とともに、これまで以上に原子力の安全が益々重要になってきている。
5-2.核実験に起因する放射能
 核実験によって大気中に放出された放射能に起因する放射性降下物はフォールアウトと呼ばれている。米ソが大気圏中核実験を打ち切った1962年の翌年1963年を最高として年間降下量が減少し、その大部分がすでに降下しきっていると推定されている。
5-3.医療用放射能(線)
 これまで100年以上にわたって電離放射線はますます医療の中で利用されており、今では診断、治療および殺菌などに欠くことができない道具としてすっかり定着している。原子力百科事典ATOMICAの中項目分類「放射線の医学利用」の小項目分類「診断」、「治療」、「殺菌・滅菌」、「医薬品・医療装置・機器」などにいろいろな利用例が紹介されている。
5-4.理工学用放射能(線)
 計測、原理解明、物質の構造解析、新素材の開発、エネルギー源などでの利用は、原子力百科事典ATOMICAの中項目分類「放射線の理工学利用」の小項目分類「理化学利用」、「工業利用」、「RIの利用」に紹介されている。
5-5.農業用放射能(線)
 品種改良、害虫駆除や食品の保存、環境保全技術などでの利用は、原子力百科事典ATOMICAの中項目分類「放射線の農林水産業利用」の小項目分類「品種改良等」、「食品の保存等」、「放射線による環境保全」に紹介されている。
<関連タイトル>
電離放射線 (08-01-01-01)
放射線の分類とその成因 (08-01-01-02)
自然放射能の発見 (16-02-01-04)
天然の放射性核種 (09-01-01-02)
フォールアウト (09-01-01-05)

<参考文献>
(1) 松浦 辰男ほか(訳):放射線と放射能、学会出版センター、(1996年1月30日)
(2) 日本原子力学会(編):原子力がひらく世紀、日本原子力学会、(2004年3月20日)
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