<大項目> 基礎基盤研究および先端的研究
<中項目> 原子力利用分野拡大に関する研究開発
<小項目> 新概念の原子力システム
<タイトル>
完全自動運転の月面用リチウム冷却高速炉RAPID-Lおよび地上用ナトリウム冷却高速炉RAPID (07-02-01-14)

<概要>
 完全自動運転の可能な世界初の月面用超安全高速炉RAPID−L、およびこの特徴を受け継いだ地上用高速炉RAPIDの概要を示す。これらの原子炉は従来型の燃料集合体を使用せず、カートリッジ式の一体型炉心を一括して燃料交換する方式で、Refueling by All Pins Integrated DesignにちなんでRAPIDと呼ぶ。RAPID−L はその月面基地(Lunar base)用の派生型である。これにより迅速で容易な燃料交換と原子炉構造の小型化が可能となる。さらに制御棒を備えず、液体のリチウム−6を使った自己作動型の反応度制御装置LEM、原子炉停止装置LIMおよび原子炉起動装置LRMにより無人運転が可能である。またマニュアル運転により出力を変えることもできるが、ヒューマンエラーを完全に排除でき、故意または過失に対しても安全な特性を持つ。
<更新年月>
2005年06月   

<本文>
1.リチウム冷却の月面用高速炉RAPID−L
 RAPID−L は電気出力200 kWのLi冷却の高速炉である。原子炉構造を図1に示す。プラントの構成を図2に示す。原子炉で加熱された冷却材はエネルギー変換室に導かれ、熱電変換システム(図3)により発電する。
 この出力は10人程度が居住する比較的初期の月面基地活動に適した規模である。宇宙には水がないため、地上のように原子炉の廃熱を水で冷却する方式は使えない。廃熱はラジエーターパネルからの放射によって逃がす。ラジエーターパネルの放熱能力はその絶対温度の4乗に比例する。宇宙用原子炉では重量の制約が厳しく、ラジエーターパネルの面積が限定されるため、その温度を550℃程度とする必要がある。そのため1次冷却材の温度は炉心出口で1100℃になる。従って軽水炉は使えず、高速炉でも「もんじゅ」などで使われているナトリウムでは沸騰してしまうため、沸点がより高いリチウムを使う。リチウムは融点181℃、沸点1330℃、室温での比重0.53であり、ナトリウム(融点98℃、沸点892℃、室温での比重0.97)とならんで高速炉の冷却材として優れた特性がある。特に比重が小さく(鉛の約1/20)、宇宙用として最適である。
 1次冷却材の温度が1100℃となると、従来の高速炉で使われているステンレス鋼(SUS 316など)は使えない。耐熱性およびリチウムとの共存性に優れた材料としてモリブデン・レニウム(MoRe)などを使う。
 また、この温度では、金属燃料は融点が低く(約1100℃)使えない。そこで融点が高く長寿命燃料に適したウラン窒化物燃料(融点2757℃)を採用する。RAPID−Lの炉心は10年間連続運転が可能である。ウラン窒化物燃料は燃料密度および熱伝導率が高く、リチウム(冷却材)およびレニウム(構造材、燃料被覆管材)との共存性がある。またスウェリング量およびFPガス生成量が少ないなどの特徴がある。炉心は均質2領域で、ウラン濃縮度は内側40%、外側50%である。このような高濃縮ウランに関する核不拡散上の制約は、ケーススタディであるのでここでは考慮していない。
 従来の高速炉では所定の本数の燃料ピンを束ねて、ラッパー管に収納する。このような燃料集合体をたくさん束ねて炉心を構成している。この燃料集合体を取り扱うために従来型の燃料交換機や回転プラグを採用すると、原子炉構造の物量が大きくなる。また燃料集合体の曲がりや隙間でのナトリウムの癒着のため、燃料集合体が抜けにくい事態に遭遇する場合がある。このような欠点を克服するために考案したのがRAPID燃料交換方式 (図4)が考案された。
 RAPID−Lの場合、約2,700本の燃料ピンをカートリッジに収めた一体型燃料集合体を一括して燃料交換する。RAPID−Lの炉心は10年間連続運転が可能なため、10年後に燃料交換を行えばさらに10年間の運転が可能になる。燃料カートリッジを原子炉から引き抜く際には、燃料カートリッジ内には冷却材リチウムが満たされているため、燃料交換直後の崩壊熱の高い状態でも燃料交換が可能である。取り出した使用済み燃料はサイト貯蔵キャスクに収容し、ヒートパイプ式ラジエーターを付けて崩壊熱の減衰を待つ。1年後にはキャスク内のリチウムが凝固するため、キャスクごと深宇宙に廃棄する。なお地上用のRAPIDの場合は、キャスクごと再処理工場に運搬する。
 RAPID−Lの原子炉構造は自由液面を有する型式である。原子炉容器は上端のフランジで支持する上吊り方式、燃料カートリッジも同じく上端のフランジで支持する上吊り方式である。従って原子炉構造には炉心支持構造物が不要で、炉心の重量は燃料カートリッジが保持する。本方式では原子炉構造(永久構造物)を極めて単純化できる。一方、中性子照射を受ける燃料カートリッジは燃料とともに10年ごとに交換が可能である。このようにRAPID燃料交換方式は、原子炉構造の長期的健全性の向上と、供用期間中検査の削除または簡素化を可能にし、宇宙炉および地上の小型炉に適した方式である。
 RAPID−Lは通常のロケットで2回に分けて打ち上げが可能な設計とした。原子炉構造は直径2 m、高さ6.5m、総重量7.6 tonで、ロケットにより打ち上げが可能な寸法および重量である。細長い形状は、ロケットに積載しやすいことと、月面上の1/6重力場で自然循環による炉心の除熱能力を高めるためである。冷却系、熱電変換システムおよびラジエーターパネル等は合計8.2 tonとなり、これもロケットで打ち上げる。
2.ナトリウム冷却の地上用高速炉RAPID
 月面用高速炉RAPID−Lを地上用に設計し直したのが、ナトリウム冷却高速炉RAPID(電気出力1,000 kW)で、いわばバッテリーのような原子炉である。地上では冷却水が使えるので、炉心出口温度は530oCとし、1次冷却材はナトリウムを使う。構造材はオーステナイト・ステンレス鋼 (SUS316) を使う。燃料寿命はRAPID−Lと同様10年とするため、長寿命に適した金属燃料を採用する。
 RAPIDの原子炉構造を図5に示す。使用済み燃料輸送容器を小型化するため、RAPID−Lとは異なる構造とした。すなわち径方向反射体は燃料カートリッジの外側に設置する。燃料カートリッジは原子炉容器底部で支える下置き方式とし、炉心上部機構とは独立とする。燃料カートリッジに差し込まれた41本のLEMは、燃料交換の際に一括して燃料カートリッジから引き抜き・分離できる構造とする。
3.制御棒を削除し自然の原理で完全自動運転
 RAPID−LおよびRAPIDの超安全炉としての特徴を以下に示す。表1はこれらの炉の主要仕様である。
 ・過去の原子力上の大事故は人為ミスが主原因である。そこでRAPID−LおよびRAPIDではヒューマンエラーを完全に排除する観点で、無人による完全自動運転方式を採用した。
 ・ただしユーザーの希望に柔軟に対処する観点で、RAPID−LおよびRAPIDでは中央制御室に人が立ち入り、出力や炉心出口温度の調節および任意炉停止ができる。しかし安全な範囲内での出力の変更と原子炉停止のみ可能で、熟練した運転員を必要としない。また故意または過失に対しても原子炉は安全である。
 従来の原子炉ではボロン製の制御棒を動かすことで、中性子を吸収する度合いを調節して原子炉を制御しているが、RAPID−LおよびRAPIDでは制御棒を削除した。代わりに電力中央研究所がこれまでに開発してきた新概念の原子炉制御装置LEM、原子炉停止装置LIM、および原子炉起動装置LRMを備える。
 これらの装置はいずれも原子炉内に設置した密閉管の内部に、中性子を吸収する物質として液体のリチウム−6 を封入したものである。このリチウム−6がいろいろな動きをすることで、原子炉の無人運転が可能になる。このリチウム−6はこのリチウム−7の同位体で天然リチウム中に約7%存在するが、ここでは95%濃縮のこのリチウム−6を使用する。これが現在入手可能な最高の濃縮度である。
 ・LEMは水銀温度計の原理で作動する“液体制御棒”
 LEM (Lithium Expansion Module)(図6)はこのリチウム−6自体の体積膨張を利用して、体温計の水銀柱のような動きで原子炉の出力を自動的に一定に保つ。また燃焼欠損による炉心出口温度の低下を感知して正の反応度を添加し、原子炉出力を寿命期間中にわたってほぼ一定に保持する機能もある。また1次冷却材の流量変化にともなう炉心出口温度の変化を感知して、原子炉出力をほぼ流量に比例したレベルに保持することができる。従って出力を変更したい場合は1次冷却材流量を調節すればよい。図7はLEM内部のリチウムの動きを示す中性子ラジオグラフィーの映像である。設計通りに温度上昇とともに気液界面が低下し、温度が下がると上昇する状況を確認している。RAPID−Lでは28本、RAPIDでは41本のLEMを備える。
 ・LIMは重力加速度に依存しない緊急炉停止装置
 LIM (Lithium Injection Module)(図8)は炉心に挿入した管の内部をフリーズシールで仕切り、上部にこのリチウム−6と加圧したアルゴン・ガスを封入し、下部を真空としたものである。万一の事故時にはフリーズシールが溶けて、このリチウム−6を炉心領域に急速に移動して原子炉を緊急停止する。LIMは従来型制御棒の自然落下に比べて極めて迅速に作動する。図9はLIM作動時の中性子ラジオグラフィーのビデオ映像(毎秒30こま)を並べたもので、作動開始0.17秒後に注入を完了している。このデータをLIM実機のリチウム−6容量を考慮して補正すると、LIMの注入に要する時間は、RAPID−L(炉心高さ0.6 m)では0.24秒、RAPID(炉心高さ1 m)では0.4秒となり、B4C制御棒の自然落下(地球の重力場で約2秒)よりも極めて迅速である。さらに液体ポイズンのため、地震時の制御棒挿入性の問題もない。
 ・LRMとLEMの組み合わせで、ベテラン運転員なみの起動
 1次冷却材が原子炉の起動に適した温度(温態待機温度)まで達すると、LRM (Lithium Release Module)(図10)の内部のフリーズシールが溶けてリチウム−6が管の内部をゆっくりと移動し、制御棒を少しずつ引き抜くのと同じ作用をする。LRMのオリフィスは非常に狭くしてあり、リチウム−6が完全に移動するのに12時間かかる。すなわち12時間で原子炉の起動が完了する。起動時にはLRMとともにLEMが重要な役割を果たす。すなわちLRMによる正の反応度添加で炉心出口温度が規定値をオーバーしそうになるとLEMがこれを感知して負の反応度を挿入する。両者の連携によりベテラン運転員なみの起動ができる。
 これらの装置は重力加速度の大きさや方向に無関係に確実に作動する。従って重力が地球上の1/6の月面はもとより、無重力の軌道上でも使える。また地球上で使う場合でも、地震時の制御棒挿入性の問題がないなど、優れた特徴がある。
 制御棒を備える従来型原子炉とRAPID−LおよびRAPIDの完全自動運転方式との相違を図11に示す。従来型原子炉は各種の計装を多重に備え、これらの信号を常時監視している。そして必要が有れば制御棒を駆動して、出力低減や緊急炉停止を行う。これに対して完全自動運転方式は、制御のための計装が不要で、LEM、LIMおよびLRMが温度を感知して自ら作動する。
<図/表>
表1 RAPID−LおよびRAPIDの主な仕様
図1 RAPID−L原子炉構造
図2 RAPID−Lプラント構成
図3 RAPID−L熱電変換システム
図4 RAPID燃料交換方式
図5 RAPID原子炉構造
図6 LEMの原理
図7 LEMの中性子ラジオグラフィー
図8 LIMの原理
図9 LIMの中性子ラジオグラフィー
図10 LRMの原理
図11 完全自動運転の原子炉RAPID−Lの特徴

・図表を一括してダウンロードする場合は ここをクリックして下さい。


<参考文献>
(1)M. Kambe et al., “RAPID−L Operator−Free Fast Reactor Concept Without Any Control Rods,” Nucl. Technology., Vol. 143, pp. 11−21, July 2003.
(2)M. Kambe et al., “Coming Down to Earth,” Nuclear Engineering International, Vol. 47, No. 579, pp. 26−31, October 2002.
(3)M. Kambe et al., “RAPID−L: an Operator−Free Reactor for the Moon,” Nuclear Engineering International, Vol. 49, No. 596, pp. 24−25, March 2004.
(4)神戸満他, ”完全自動運転の超安全高速炉RAPID”, 原子力eye, [1], 23−28 (2002).
(5)神戸満:完全自動運転の月面用リチウム冷却高速炉RAPID−Lおよび地上用ナトリウム冷却高速炉RAPID 」、日本原子力学会誌 , Vol.46, No.6(2004.6)
(6)M. Kambe, H. Tsunoda, K. Nakajima and T. Iwamura, “RAPID−L and RAPID Operator−Free Fast Reactors Combined with Thermoelectric Power Conversion System,” Journal of Power and Energy (Professional Engineering Publishing), pp. 335−343, August 2004.
(7)M. Kambe, H. Tsunoda, K. Mishima and T. Iwamura, “RAPID Operator−Free Fast Reactor Concept Without Any Control Rods−Reactor Concept and Plant Dynamics Analyses−,” Journal of Nuclear Science and Technology (Atomic Energy Society of Japan), Vol.42, No.6, pp. 525−536, June 2005.
(8)M. Kambe and M. Uotani, “Design and Development of Fast Breeder Reactor Passive Reactivity Control Systems: LEM and LIM”, Nuclear Technology, Vol. 122, pp. 179−195, May 1998.
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