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<概要>
 核燃料サイクル開発機構(現日本原子力研究開発機構)では、将来のエネルギー安定供給のために安全で経済性に優れた核燃料サイクル技術の開発が総合的に進められてきた。この核燃料サイクル技術の要の一つである高速炉燃料再処理技術についてもこれまでに種々の開発が実施されてきた。
 これらの成果を踏まえて、湿式法(PUREX法)に基づく高速炉燃料再処理技術の確立を目指し、実際の使用済高速炉燃料を使ってプロセス設備の性能を試験する施設として、リサイクル機器試験施設が計画され、設計、建設が進められてきた。しかし、経済性や環境問題などの社会のニーズの変化に対応するため、1999年から高速炉燃料サイクルの最適化を行うために、実用化戦略調査研究が開始され、経済性向上や環境負荷低減などの観点から核燃料サイクル技術の開発について計画の見直しが始められた。その一環として高速炉燃料再処理技術開発の計画も見直され、乾式再処理を含めた最適な先進再処理技術の開発を目指し、工学規模で実燃料を使用する試験フィールドとしてのリサイクル機器試験施設の利用計画を再検討しているところである。
<更新年月>
2000年07月   

<本文>
1.高速炉燃料再処理の特色
 高速炉燃料は、軽水炉燃料に比べ以下のような特徴があるため、再処理においてはこれらの特徴に対応した研究開発が進められてきた。
(1) 燃料集合体燃料ピン束が六角管状のステンレス鋼製ラッパ管で覆われている( 図1 参照)。このため、燃料ピンをせん断する前にラッパ管を除去する解体工程が必要となる。
(2) 使用済燃料中のプルトニウムの濃度が、軽水炉燃料の数%に対して20−30%と高いため、施設の臨界安全管理形状、寸法制限が厳しくなり、小型で処理能力の高い機器類が必要となる。
(3) 使用済燃料の燃焼度は、当面100GWd/t、将来的には150−200GWd/t程度が目標とされており、軽水炉燃料の30−50GWd/tに比べてはるかに高い。その結果、使用済燃料中の核分裂生成物の割合が高くなると共に、不溶解残さの増大、比放射能の上昇等が生じる。そのためこれに対応して湿式法(PUREX法)の場合であれば溶解、清澄、抽出工程の高性能化が必要となる。
2.高速炉燃料再処理技術の研究開発経緯とリサイクル機器試験施設の目的
 高速炉燃料再処理技術開発は1975年頃から始まり、ビーカースケールの基礎試験を経て高レベル放射性物質研究施設(CPF:Chemical Processing Facility)で1982年より高速実験炉「常陽」の使用済燃料ピンを用いて溶解プロセス、抽出プロセスに関する基礎データを蓄積した。一方、解体、せん断、溶解、抽出の各工程機器の開発にも着手した。さらに、日米高速炉協定のもと、米国オークリッジ国立研究所(ORNL)との間で1987年から1994年にかけて「高速炉燃料再処理技術開発に関する日米共同研究」を実施し、連続前処理技術、先進溶媒抽出技術、先進遠隔技術および施設設計最適化について共同で研究を行った。
 これらの技術開発を経て、実燃料を用いて工学規模で高速炉燃料再処理関連のプロセスや機器の性能試験、確証試験等を行うとともに、将来の高速炉燃料再処理プラントの設計、建設、運転などに関するプロセス・エンジニアリング技術を確立するために、リサイクル機器試験施設(RETF: Recycle Equipment Test Facility)の建設が計画された。なお、これまで新型機器、プロセスの開発およびRETFの設計、建設を通じて、解体、溶解、清澄、抽出、ソルトフリーなどの高速炉燃料再処理技術に関する基礎、基盤技術が整備され、種々の情報、知識、経験が蓄積されてきた。
3.リサイクル機器試験施設(RETF)の概要
 1987年度からRETFの概念設計を行い、その後順次詳細設計(1988年)、補正設計(1993年)を実施し、1995年着工にふみきった。以下に設計の概要を示す。
3.1 施設
 RETFは、試験を実施するリサイクル機器試験棟、非常用発電設備等を設置する非常用発電機棟および管理棟の3つの建物から構成される( 図2 参照)。試験棟の中央には長さ約48m、幅約15m、高さ約22mの大型セル(試験セル)が配置されている( 図3 参照)。その中には高速炉燃料再処理関連の試験設備として解体試験機、せん断試験機、溶解試験機、清澄試験機、抽出試験器、溶媒洗浄試験器等が設置されると共に、付帯設備として燃料受入設備、オフガス処理設備等が設置される。試験セルは保守時の従業員の被ばく低減化および試験フィールドとして将来の設備変更を可能とするために、遠隔保守を前提とした機器、架台の構造や配置を採用している。遠隔保守のためのツールとしてクレーン、両腕型マニプレータおよびITV(Industrial Television)カメラ等の遠隔保守設備が試験セル内に設置される。また、試験セルは大型セルのために通常の換気方式では膨大な換気風量が必要となり、換気設備も巨大なものとなる。これを避けるために試験セル換気設備は入気量および排気量を調整、制御すると共にインセルクーラーによりセル内温度を一定に制御することで試験セル排気量を低く制限できる低風量換気システムを採用している。万一、何らかの異常により試験セルの圧力が急激に高くなる場合には圧力調整系より排気筒にセル内空気を排出して試験セル内の負圧を維持することができる。
3.2 試験能力
 RETFの試験機器の能力は最大10kgHM/hで、年間の取扱量は以下の通りである(HM(Heavy Metal)換算)。
(1) 「もんじゅ」使用済炉心燃料を用いて試験する場合、年間最大1.3トン(金属U/Pu換算)
(2) 「もんじゅ」または「常陽」使用済ブランケット燃料を用いて試験する場合、年間最大5トン(金属U換算)
(3) 「もんじゅ」使用済炉心燃料および使用済ブランケット燃料を合わせて用いて試験する場合、年間最大6トン(炉心燃料:1トン(金属U/Pu換算)、ブランケット燃料:5トン(金属U換算))
3.3 試験設備
 RETFは、「もんじゅ」および「常陽」の使用済燃料を施設に受け入れる受入設備から始まり、燃料の解体、せん断、溶解、清澄、抽出、溶媒洗浄試験設備およびこれらの付帯設備が設置される( 図4 参照)。以下に、RETFで行う試験のための設備を説明する。
(1) 解体試験設備
 解体試験設備は、レーザー切断方式の解体試験機を中心とした設備である。レーザビーム焦点調整装置は燃料集合体反転装置、燃料集合体回転装置および燃料移送テーブル装置等から構成されており、最大出力10kWの炭酸ガスレーザー光で使用済燃料集合体からラッパ管、エントランスノズル等を切断、除去して燃料ピン束に解体する試験を行う( 図5 参照)。
(2) せん断試験設備
 せん断試験設備は、集合体せん断方式のせん断試験機を中心とした設備である。せん断試験機はマガジン、せん断刃、ギャグ等から構成されており、解体試験機から送られてくる燃料ピン束を長さ数cmにせん断する試験を行う( 図6 参照)。
(3) 溶解試験設備
 溶解試験設備は、回転ドラム型連続式の溶解試験機を中心に気液分離槽、溶解液受槽、ハル取り出し装置およびハル洗浄器等からなる設備である。溶解試験機は燃料を溶解する内部がらせん構造のドラムと、ドラムを覆うシュラウドおよびドラムを回転させる駆動装置等から構成されている。せん断試験機から送られる燃料せん断片を硝酸と向流接触させて連続的に溶解する試験を行う( 図7 参照)。
(4) 清澄試験設備
 清澄試験設備は、遠心清澄式の清澄試験機を中心に清澄液受槽、スラリー受槽等からなる設備である。清澄試験機は3000rpmで回転するボウル、ボウルを覆うケーシング、ボウルを回転させる高速および低速モータ等から構成されており、溶解試験設備から供給される溶解液を清澄試験機のボウル内面に供給して、溶解液中の不溶解残さ等の固体粒子を遠心力によりボウル内面に捕集する固体粒子類の除去試験を行う( 図8 参照)。
(5) 抽出試験設備
 抽出試験設備は、処理速度が速く機器のコンパクト化が可能な遠心抽出式を採用した抽出試験器および希釈剤洗浄試験器を中心に電解試験槽および試験済溶液の各貯槽からなる設備である。抽出試験器を使って溶解液からウランおよびプルトニウムを抽出して、核分裂生成物を分離する共除染試験、ウランおよびプルトニウムの混合された溶媒から、プルトニウムを分離する分配試験、溶媒中のウランを硝酸中に戻す逆抽出試験などを行う( 図9 参照)。また、希釈剤洗浄試験器を使って各抽出試験後の水相中に含まれる微量の溶媒を希釈剤と接触させて洗浄する試験などを行う。なお、分配試験では、プルトニウムの還元のために硝酸ヒドロキシルアミン、ヒドラジン等を使用するが、これらを製品中から除去するための試薬の電気分解試験を電解試験槽を用いて行う。
(6) 溶媒洗浄試験設備
 溶媒洗浄試験設備は、溶媒洗浄試験器を中心に洗浄廃液電解試験槽、溶媒および廃液の受槽等からなる設備である。溶媒洗浄試験器は前述の遠心抽出式の抽出試験器を用い、逆抽出試験で発生する使用済溶媒を炭酸ヒドラジン、シュウ酸ヒドラジン等の試薬で洗浄して、溶媒劣化生成物の除去性能等の試験を行う。更に洗浄廃液電解試験槽では、洗浄廃液中に残存する上記試薬を電気分解する試験を行う。
4.今後のリサイクル機器試験施設(RETF)の役割
 前述のように湿式法(PUREX法)に基づく高速炉燃料再処理技術の早期確立を目指して、プロセス設備の性能を実際の使用済高速炉燃料を使って試験するRETFが計画され、1995年1月には1998年竣工を目指して着工された。しかし、もんじゅ事故などによりサイクル機構(現日本原子力研究開発機構)として安全対策に重点を置いた事業展開を進めている。2000年6月現在、リサイクル機器試験棟の建物工事(電気、換気設備を含む)はほぼ完成し、内装設備工事については建物完成後搬入できない地下階設置の設備などについて据え付けが終了した。その他の試験セル内に設置予定であった試験機器などの枢要機器については、ほとんど製作未着手の状態である。
 一方、経済性や環境問題などの社会のニーズの変化に対応すべく1999年から実用化戦略調査研究が開始され、経済性向上や環境負荷低減などの観点から核燃料サイクル技術の開発について見直しを始めた。その一環として高速炉燃料再処理技術開発についても計画を見直し、乾式再処理を含めた最適な先進再処理技術の開発を目指している。その中で、成立性の見通しをつけたこれら先進再処理技術の工学規模での実燃料を使用する開発試験フィールドとしてRETFを利用すべく現在利用計画を見直しているところである。
<図/表>
図1 燃料集合体の比較
図1  燃料集合体の比較
図2 リサイクル機器試験施設建家予想図
図2  リサイクル機器試験施設建家予想図
図3 試験セル
図3  試験セル
図4 リサイクル機器試験施設設備構成(RETF)
図4  リサイクル機器試験施設設備構成(RETF)
図5 解体試験機
図5  解体試験機
図6 せん断試験機
図6  せん断試験機
図7 溶解試験機
図7  溶解試験機
図8 清澄試験機
図8  清澄試験機
図9 遠心抽出式の抽出試験器
図9  遠心抽出式の抽出試験器

<関連タイトル>
核燃料リサイクルの概要 (04-01-01-01)
東海再処理工場 (04-07-03-06)
先進的核燃料リサイクルと湿式分離技術開発 (04-07-01-13)

<参考文献>
(1) 中村 博文:リサイクル機器試験施設(RETF)計画について、動燃技報、No. 100, p.199−204(1996年12月)
(2)(社)日本原子力学会:日本原子力学会誌 特集「高速増殖炉サイクルの実用化戦略調査研究の取組み状況」、2000 vol.42、2000年7月、p.13−p.27
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