<大項目> 原子力安全研究
<中項目> 原子力施設などの安全研究
<小項目> 核燃料リサイクル施設の安全研究
<タイトル>
臨界安全性に関する研究 (06-01-05-02)

<概要>
 核燃料施設では、取り扱われるウランプルトニウムのような核燃料物質の組成が工程ごとに変化することを始め、工程機器の形状や寸法、中性子を反射する周囲の構造材の配置や材質など、燃料物質の臨界量に影響を与える要因が多様である。このため、核燃料施設の臨界安全性の評価(臨界にはならないこと、つまり、核分裂連鎖反応が持続しないことの評価)では、核燃料物質を実際に臨界にする臨界実験のデータを用いて検証された計算コードを用いて解析を行っているが、実験条件と実施設における核燃料物質組成などの条件が必ずしも一致しないこと、実験データ特に再処理施設で取り扱われる低濃縮ウラン硝酸水溶液の臨界実験データが少ないことなどから、いかなる場合でも臨界にならないようにするために解析結果に大きな安全裕度をつけ加えて設計が行われている。
 臨界安全設計および臨界安全管理技術の一層の信頼性向上と合理化を図るために、日本原子力研究開発機構の燃料サイクル安全工学研究施設(NUCEF)等を用いて、実際の施設と似た条件で臨界実験データを取得するとともに、それをもとに核燃料施設の臨界安全性に関する研究が行われている。
<更新年月>
2006年10月   

<本文>
1.はじめに
 毎年全世界で、数千トンに及ぶ核燃料物質が原子炉以外の核燃料サイクル施設で処理、貯蔵、輸送されている。これらの作業の全てに共通する安全上の重要な要求は、臨界事故の防止、つまり、意図しない核分裂連鎖反応を避けることである。核燃料物質が臨界となり核分裂連鎖反応が持続する条件は、核燃料物質の種類、状態および周囲の環境によって変化する。
 特に、再処理施設で取り扱われる溶液燃料は各工程で燃料組成が変化する。また、溶液の入った機器の形状、寸法や周囲の機器配置等の条件も様々である。ここでの臨界安全設計では、燃料の取り扱われる条件に適した臨界管理方式(形状管理、濃度管理等)を選択し、各機器が単独にある場合のみならず、複数配列された場合でも臨界に達することがないようにする必要がある。
 核燃料施設の臨界安全設計は、2段階に分けて行われる。第1段階を「単一ユニットの臨界安全」といい、例えばひとつの燃料貯槽は体積を小さくする等により臨界にならないように設計される。ひとつのユニットでは臨界にならない貯槽でも複数を並べて配置すると臨界になる可能性がある。そこで貯槽の間の距離を大きくしたり、中間に中性子吸収材を設置して中性子相互作用を小さくし、臨界にならないようにする。これを、第2段階の「複数ユニットの臨界安全」という。
 日本原子力研究開発機構(以下「原子力機構」と略す。)燃料サイクル安全工学研究施設(NUCEF)の定常臨界実験装置STACY)では、1995年度から低濃縮ウラン水溶液の臨界特性に関する系統的な臨界実験を行い、臨界解析コード、核データライブラリーおよび評価手法の改良整備に資するデータを取得している。また、過渡臨界実験装置(TRACY)では、再処理施設における臨界事故を模擬した実験を行い、臨界事故時の核・熱特性および放射性物質の移行挙動に関する実験、線量評価手法の検討を行って来ている。
2.溶液燃料体系の臨界実験
 軽水炉使用済燃料を再処理する施設(再処理施設)では、低濃縮ウランやプルトニウムの硝酸水溶液が取り扱われる。これを用いた臨界実験例は世界的にも非常に少ない。図1に過去(1995年以前)に行われた臨界実験の内訳を示す。この図から、高濃縮ウラン溶液系およびウラン固体系の実験がほとんどであることが分かる。このためSTACYにおいては、低濃縮ウラン硝酸水溶液を用いた実験研究を進めている。STACYの主要設備を図2に示す。STACYの炉心タンクは、形状および寸法の異なるタンクに容易に交換可能である。炉心タンクの下から溶液燃料を注入して臨界にする仕組みになっている。
 臨界となる条件は、核燃料物質の種類、組成、濃度および周囲の環境に大きく依存する。図3は、直径60cmの円筒タンクを用い、ウラン硝酸水溶液(U−235濃縮度10%)のウラン濃度を変化させた場合の臨界液位の測定結果を示している。このように、核燃料物質の濃度や中性子を反射する効果を持つ水の有無によって臨界になる核燃料物質の量が大きく変化することが分かる。
 再処理施設では、溶液燃料を取り扱う機器の周囲にはコンクリートやポリエチレンなどが主要な構造材として配置されている。これらの物質は、水と同様に中性子を反射する効果を持ち臨界量に影響を与える。その効果は、材質や厚さによって変わるため、設計において系統的な実験値に基づき詳細に評価する必要がある。このため、低濃縮ウラン硝酸水溶液に対するコンクリートやポリエチレンが中性子を反射する効果について実験を行った。図4に示す結果から明らかなように、コンクリートやポリエチレンが中性子を反射する効果は、ある厚さ以上で一定となるが、その厚さはポリエチレンの方がコンクリートより小さい。また、効果の飽和した値は、コンクリートの方が1.5倍大きい。
 STACYでは、単一の炉心タンクを用いた実験に加えて、同一形状、同一寸法の炉心タンク2基を用いた相互干渉炉心による臨界実験も行った。前章で述べたように、核燃料施設の臨界管理は「単一ユニット」と「複数ユニット」の2段階で行われる。複数ユニットの臨界安全管理を確実にするために、再処理施設では貯槽などの複数の機器の間にコンクリートなどの壁を設けて機器間の中性子相互作用を小さくする。この効果を実験的に詳細に評価するために、図5に示すように、2基の炉心タンクの間に様々な厚さのコンクリートやポリエチレン隔離材を配置し、また、炉心タンクの間隔を変化させ、ウラン硝酸水溶液の臨界量の測定を行った。
 また、使用済燃料を硝酸水溶液に溶解する再処理施設の溶解槽を模擬して、図6に示すような非均質炉による臨界実験も行っている。ウラン酸化物ペレット(U−235濃縮度5%)を収めた燃料棒を炉心タンク内にあらかじめ配置し、ウラン硝酸水溶液(U−235濃縮度6%)を満たして実験を行っている。溶解槽において燃料が徐々に溶けていく過程を模擬して、燃料棒の配置間隔や、ウラン硝酸水溶液のウラン濃度を変化させ、系統的に臨界量の測定を行っているほか、水溶液に核分裂生成物を模擬した物質を溶解して臨界量に与える影響を測定している。
 これらの相互干渉炉心や非均質炉心による臨界実験の結果は、複雑な計算モデルが必要な場合においてもコンピュータ解析によって適切な臨界安全設計が行えることを検証するために用いられている。
3.過渡臨界事象に関する実験
 核燃料施設は臨界にならないように設計されているが、万一臨界事故が発生した場合に備えて、施設従事者および公衆に放射線被ばくによって与える影響を適切に評価しておく必要もある。このためには、臨界事故の核分裂数(臨界事故規模)や放射性物質の放出率をいくらに想定するかが重要であり、臨界事故事象を理解しておかなければならない。また、この理解は、臨界事故が実際に発生した場合に、事故終息や事故調査のような事故対応を適切に行うためにも重要である。
 これまで、臨界事故を模擬した実験は、フランスの臨界事故実験装置CRACおよびSILENEで高濃縮ウランを用いて行われている。しかし、再処理工場では、主として低濃縮ウランが取扱われている。低濃縮ウランを用いると、高濃縮ウランを用いた場合に比べて臨界量が大きくなり、反応の時定数が長くなり、また中性子の漏れが少なくなるのでフィードバックが弱くなると想定されている。この結果、同一反応度が添加された場合、高濃縮ウランを用いた場合に比べて出力変化が緩慢で放出エネルギーが大きくなると予想されている。このように、高濃縮ウランを用いた場合と低濃縮ウランを用いた場合で特性が異なると予想されるので、現実に取り扱われる濃縮度に近い低濃縮度の燃料を用いた実験データの取得が切望されていた。このため原子力機構は、臨界事故時の核・熱流体挙動(特にフィードバック機構)の解明、放射性物質の放出、移行、沈着挙動の解明および放射線強度と線量当量等の測定を研究目的とした過渡臨界実験装置(TRACY)で実験を行っている。
 TRACYの概略を図7に示す。TRACYはウラン硝酸水溶液(U−235濃縮度10%)を用い、1実験当たりの最大積算出力は32MWs(9kWh)である。これは10の18乗個の核分裂数に相当する。臨界事故の発生を模擬する方法として、ウラン硝酸水溶液を連続的に給液する方法(ランプ給液)のほか、一定液位まで給液したのちに調整トランジェント棒(制御棒)を瞬間的に引き抜く方法(パルス引抜き)と一定速度で引き抜く(ランプ引抜き)方法がある。
 これらの臨界を超える方法の違いによる臨界事故時の出力の変化の違いを図8に示す。同じ反応度(臨界を超える度合い)を加えても、ピーク出力は、瞬時に臨界を超えるパルス引抜きの場合に比べて、徐々に臨界を超える場合(反応度添加率87セント/秒)の方がはるかに小さくなっている。このように同じ反応度添加量、つまり係わる核燃料物質の量が同じであっても、反応度の添加のされ方(臨界を超える様子)の違いで出力特性に大きな違いが現れることが分かる。図9には、ウラン硝酸水溶液を連続的に給液し臨界になってもさらに給液を続けて2.6ドルの反応度を添加した場合の出力振動の様子を示す。出力が一度減少したのち、再び増加している現象は、高出力時の強い放射線によって、溶液が分解してガスが発生したために生じているものである。分解ガスは負の反応度フィードバック効果(臨界を阻害する効果)を持つため出力が減少するが、ガスは浮力により上昇し、やがて溶液の外へ消失してしまう。このため元の状態に戻り再び出力が上昇する。このような出力の上昇と下降を繰り返す振動現象は溶液状燃料に特有の現象である。
 このようにTRACYを用いた臨界事故を模擬した実験により、低濃縮ウラン硝酸溶液系のデータが蓄積されており、得られた知見は、1999年に茨城県東海村のJCO核燃料加工施設で発生した臨界事故の際にも、事故終息や事故調査において活用された。
<図/表>
図1 過去に行われた臨界実験
図2 STACYの主要設備
図3 円筒炉心における臨界液位の実測値
図4 普通コンクリートおよびポリエチレンの反射体効果の反応度
図5 相互干渉炉心による臨界実験
図6 非均質炉心による臨界実験
図7 TRACYの主要系統図
図8 反応度添加方法の違いによる出力変化の比較
図9 溶液燃料炉心の反応度添加時における出力の時間変化

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<関連タイトル>
NUCEF (03-04-02-06)
世界の核燃料施設における臨界事故 (04-10-03-02)
世界の原子力施設における臨界事故 (04-10-03-05)
原子力施設等安全研究年次計画(平成8年度〜平成12年度)核燃料施設の安全性に関する研究 (10-03-01-07)
原子力施設等安全研究年次計画(平成8年度〜平成12年度)放射性物質輸送の安全性に関する研究 (10-03-01-08)
核燃料輸送容器の臨界安全性と遮蔽安全性 (11-02-06-12)

<参考文献>
(1) 日本原子力研究所:原子力安全性研究の現状、(1997年)
(2) 三好慶典、大野秋男、岡崎修二:特集NUCEF計画−燃料サイクル安全工学研究の現状と今後の展開、2.STACYによる実験、その研究成果、原子力工業、43(9)、p.5−13(1997)
(3) 中島 健、大野秋男、岡崎修二:特集NUCEF計画−燃料サイクル安全工学研究の現状と今後の展開、3.TRACYによる実験、その研究成果、原子力工業、43(9)、p.14−25(1997)
(4) 原子力安全性研究セミナー及び原子炉安全性ワークショップ資料、日本原子力研究所(2000年)
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