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<概要>
 高温ガス炉の燃料は、被覆燃料粒子、燃料要素及び燃料体から構成される。被覆燃料粒子は燃料核に熱分解炭素、炭化ケイ素で多重に被覆した微小粒子である。この燃料粒子の事故時のFP(核分裂生成物)閉じ込め機能は、FPに対する障壁としての機能を有する被覆層の健全性にある。これまでの多くの実験は、事故が生じて燃料温度が上昇したと想定しても、長時間にわたって燃料粒子の被覆層の健全性が保たれ、FPが被覆層の中に閉じ込められることを示している。
<更新年月>
2006年01月   

<本文>
 高温ガス炉の燃料は、原子炉の設計によって異なるが、基本的には500〜1000ミクロ ン直径の被覆燃料粒子、これらの集団である燃料要素(燃料コンパクト等)及び燃料体から構成される。被覆燃料粒子は200〜600ミクロン直径の燃料核(ウラントリウムの酸化物、炭化物)に熱分解炭素、炭化ケイ素(又は炭化ジルコニウム)で多重に被覆した微小粒子である。燃料核中で発生した核分裂生成物(Fission product:FP)は主に燃料粒子の被覆層で保持される。 燃料要素はこれらの被覆燃料粒子集団を黒鉛粉末およびバインダ−により固めたものである。ドイツの球状燃料では、燃料要素そのものが燃料体としての機能を持っている。
 図1に日本原子力研究所(現在、日本原子力研究開発機構)において建設された高温工学試験研究炉(High Temperature Engineering Test Reactor:HTTR)の燃料を示す。HTTRの燃料では、内側から数えて第1層の低密度熱分解炭素層は核分裂片による被覆層の破損の防止および燃料核のスウェリングの吸収という機能を有する。第2層及び第4層の高密度熱分解炭素層は気体状のFPを閉じ込める機能を有している。第3層の炭化ケイ素層は、被覆燃料粒子の機械的な強度を保持するとともに、気体状および金属状FPを閉じ込める機能を有している。
 このように、高温ガス炉の燃料は、セラミックス燃料核、熱分解炭素、炭化ケイ素、黒鉛等の耐熱材で構成されているので、事故が発生しても被覆層は健全で、いわゆる燃料溶融は生じない。したがって、FPに対する障壁としての機能を有する被覆層の健全性が事故時においても維持できるので、燃料被覆は事故時の被ばく評価上重要な希ガス、ヨウ素、セシウム等のFP閉じ込め機能を果たしている。
 高温ガス炉の燃料のもう一つの特徴は、炉心内に装荷される被覆燃料粒FPの量が非常に少ない。そのため、事故によって局部的に温度が上昇しても、放出されるFPの量は、軽水炉等に比べて非常に少ない。
 高温ガス炉の炉心は大量の黒鉛から構成されているので、出力密度に対してその熱容量が非常に大きい。このため事故時の燃料温度の時間的変化が非常に緩慢である。最近では、この特徴を生かした高い固有安全性を有する高温ガス炉(モジュール型炉など)が設計されている。HTTRでは、非常に厳しい事故である減圧事故(軽水炉の冷却材喪失事故に相当する)が生じた場合でも、燃料最高温度は通常運転時の値(約1500℃)を超えることはなく、その時間的変化も数十時間にわたるゆっくりとしたものである(図2参照)。
 このように、事故時の高温ガス炉燃料のFP閉じ込め機能は、事故時の被覆層の健全性に強く依存するので、異常高温時の燃料の健全性を調べるための研究、実験が行われている。図3に日本原子力研究所(現在、日本原子力研究開発機構)で実施した、HTTR用被覆燃料粒子の、事故時の温度変化状態の試験結果を示す。この昇温試験は、照射を行わない粒子(丸で示した)と、照射を行った粒子(四角で示した)の両方について炉外試験で行った。横軸は縦軸の温度で保持した時間を表しており、黒印が破損した場合を、白印が破損していない場合を示している。図からわかるように、約 2,000℃以下の温度では少なくとも 500時間の加熱を行っても燃料の破損は生じない。
 以上のことから、高温ガス炉の燃料は、事故が生じて燃料温度が上昇したとしても非常に長時間にわたって被覆層の健全性が保たれ、その結果、FPを被覆層の中に閉じ込めることができる。
 なお、HTTRは、2004年4月定格出力で原子炉出口冷却材温度950℃運転を達成した。図4にHTTRの炉心、図5に軸方向出力分布測定結果、図6に運転中のFP放出割合の測定データを示す。被覆粒子燃料の良好なFP保持性能が実証されている。また、モジュール型炉の代表であるGT−MHRでは、燃料最高温度を通常運転時1250℃、事故時1550℃とし、被覆層の健全性を担保している(図7参照)。
<図/表>
図1 原研の高温工学試験研究炉(HTTR)の標準燃料体の構成
図1  原研の高温工学試験研究炉(HTTR)の標準燃料体の構成
図2 減圧事故(一次冷却設備二重管破断事故)時の燃料最高温度の時間変化
図2  減圧事故(一次冷却設備二重管破断事故)時の燃料最高温度の時間変化
図3 事故時の温度上昇を模擬した被覆燃料粒子健全性確認試験結果
図3  事故時の温度上昇を模擬した被覆燃料粒子健全性確認試験結果
図4 HTTRの炉心
図4  HTTRの炉心
図5 HTTR炉心の軸方向ガンマ線分布測定結果
図5  HTTR炉心の軸方向ガンマ線分布測定結果
図6 被覆粒子燃料の構造とHTTR運転中の核分裂生成物放出割合のデータ
図6  被覆粒子燃料の構造とHTTR運転中の核分裂生成物放出割合のデータ
図7 GT−MHRの燃料温度と破損割合
図7  GT−MHRの燃料温度と破損割合

<関連タイトル>
高温ガス炉燃料の安全性 (03-03-03-01)
高温工学試験研究炉(HTTR) (03-04-02-07)

<参考文献>
(1)佐野川好母、斎藤伸三:原子力誌、29(7)、1987
(2)日本原子力研究所:高温工学試験研究炉の現状1993年、平成5年11月
(3)日本原子力研究所:たゆまざる探求の軌跡 研究活動と成果2003
(4)日本原子力研究所:たゆまざる探求の軌跡 研究活動と成果2004
(5)The Gas Turbine−Modular Helium Reactor: 
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