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<概要>
 ドイツでは、原子力発電所、再処理工場等の廃止措置を進める一方で、民間の核燃料施設においても廃止措置が精力的に行われている。シーメンス社は、ハナウに建設されたウラン燃料およびMOX燃料製造施設およびカールシュタインにあるウラン燃料製造施設およびホットセルを含めての廃止措置を行っている。
 ハナウMOX燃料製造施設(旧ALKEM GmbH)は、世界第2位の生産量を誇る燃料加工プラントとして1965年から1991年まで運転され、ここでは8.5トンのプルトニウムからMOX燃料棒26,000本が製造された。ハナウMOX燃料製造施設の廃止措置プロジェクトでは、2001年初めまでに残留核物質の処理を行った後、グローブボックス240基の解体処理作業等が行われた。施設解体によって発生する放射性廃棄物は、セメント固化後コンラート処分場の処分条件に合致したコンテナに収納された。現在廃止措置は完了し、サイトは2006年9月に規制解除を受けている。
<更新年月>
2009年01月   

<本文>
 ドイツのシーメンス(ジーメンス:Siemens)社が所有する4つの燃料サイクル施設の閉鎖は、1980年代後半から1990年代半ばにかけて、政治的および経済的な理由によって決定された。まず、1967年以降使用済燃料と放射能汚染された工業材料の検査に利用されてきたカールシュタイン(Karlstein)のホットセルが1989年に閉鎖され、1994年〜1995年には同サイトのウラン燃料製造施設が運転停止となった。ハナウ(Hanau)のウラン燃料製造施設では、1969年に運転が開始されて以来UO2粉末13,000トン、燃料棒500万本および燃料集合体43,000体が製造されたが、1995年3月に操業を停止した。MOX燃料製造施設では、1965年〜1991年までの間に8.5トンのプルトニウムから、MOX燃料棒26,000本が製造されたが、1991年6月に発生した汚染事故を理由に、州規制当局は運転の停止命令を発令し、その後も運転再開はなかった。図1にハナウ原子力施設の全景を示す。
 これらの施設の廃止措置は(1)プロセス中に残った核物質の処理加工(施設の加工ラインの運転)、(2)プロセス設備の解体、(3)補助設備の解体、(4)建屋の除染・解体、(5)サイトの除染のステップを踏んで実施される。最終ステップであるサイト除染が完了した時点で原子力法上の廃止措置は完了し、規制は解除される。
 以下、MOX燃料製造施設(旧ALKEM GmbH)の廃止措置の概要を示す(図1参照)。なお、廃止措置は2006年9月に完了し、サイト規制解除を受けている。
1.ハナウMOX燃料製造施設の廃止措置
1.1 残留核物質の処理プロセス
 ハナウMOX燃料製造施設(旧ALKEM GmbH)では、カールスルーエにおいて1965年から累計8.5トンのプルトニウムから26,000本の燃料要素を製造してきた。しかし施設は1991年6月に発生した事故を機に製造運転を突然停止したため、2.25トンのプルトニムを含むMOX燃料集合体1.09トン、MOX燃料棒0.11トン、MOX燃料物質0.53トン、PuO2粉末0.45トン、硝酸プルトニウム0.07トンが施設に残された。図2に施設レイアウトを示す。
 PuO2粉末とMOX燃料粉末はプラスチック・フィルムが2重に溶接された金属容器に保存されているが、貯蔵が長期にわたると放射線や発熱によってプラスチック・フィルムが劣化する。このため、約3,800個の金属容器に詰替える作業が発生した。また、硝酸プルトニウム溶液に関しても、貯蔵が長期化したことで、貯蔵容器39個のうち8個のポリエチレン製の内部容器とプラスチック・フィルムが硝酸、放射線および発熱作用で劣化した。
 シーメンス社は長期貯蔵および輸送に安全性を確保し、また仏核燃料公社(COGEMA、現Areva NC)や英核燃料公社(BNFL、現NDA/BNFL)などの受入れ基準にあった形態に残留核物質を処置するための運転プログラム実施を地元ヘッセン州の環境省に申請、公開討論後、1997年9月末〜1998年1月末にかけて実施許可が発給された。これにより1997年10月末から約500リットルの硝酸プルトニウム溶液とウラン・プルトニウム洗浄溶液の作業が開始され、1998年12月末に終了した。この作業により67kgのプルトニウムがPuO2粉末の形で分離され、MOX粉末に混入された。また、COGEMAとの合意に基づき、残留物質13トンにウラン3トンを加え貯蔵用の集合体27体が作られた。MOX粉末はペレットに加工され、貯蔵用ロッドとして2,900本製造され、2001年に完了した。貯蔵用ロッドと集合体、およびPuO2やMOXの形態での550kgのプルトニウムは全て英仏へ輸送された。
1.2 プロセス設備の解体
 設備解体では、グローブボックスの洗浄および内容物の除去作業が行われ、その際ボックス内の残留プルトニウムは、BNFLが開発したin−situプルトニウムインベントリーモニター(DISPIM)で測定された(図3参照)。これは列状に並べた中性子カウンターとガンマ線を検出するGe検出器との同時測定によって決定した同位体比をもとに、内部のプルトニウム量とホットスポット量およびその位置を決め、結果は3次元で表示される。グローブボックスのせん断作業は、厚さ3mmの鋼板で囲まれたケーソン(作業室)内の補助設備を解体した後に行われ、グローブボックスの解体が終了すると、ケーソンの壁の内側に鋼板が設置される。その後、作業はケーソンのせん断、製造施設内の補助設備の解体に移行する。最後に汚染計測が実施され、建屋の規制解除と取壊しが行われた。
 グローブボックス解体には、汚染拡大防止という観点からせん断用グローブボックスが用いられた(図3参照)。せん断廃棄物は、内部解体設備とともに200Lドラム缶に収納され、放射性廃棄物処理施設でセメント固化された。ちなみに、核分裂性物質の制限量は200Lドラム缶あたり50g、グローブボックス100Lあたり50g、最終廃棄用5.4立方m容器あたり300gである。また、グローブボックス内の汚染を固定する技術としてプラスチック泡を吹付けて固定する方法や、グローブボックスを発泡ポリウレタンで覆い、研削ワイヤ方式でせん断処分する方法も取入れ、コンラート処分場の処分条件に基づいて、施設運転時から使用されていたコンラート・コンテナに収納された(図3参照)。廃止措置で発生した放射性廃棄物は、最終処分場が決定する2030年ごろまで、ハナウ中間貯蔵サイトで管理される。
 なお、ハナウ・プラントの廃止措置プロジェクトでは、除染目標と放出の許容限界を決めることが難しく、許認可手続きの段階で公開討論が行われた(図4参照)。また、MOX燃料製造施設の残留物質処理の運転プログラム許認可手続きにおいてもシーメンス社と規制当局(ヘッセン州環境省)および専門機関の間で安全性に関する議論が活発に繰り広げられた。運転プログラムの実施許可が発給されるまでに16か月を要した。なお、ドイツの除染目標と放出限界などクリアランスレベルに関してはATOMICA<05−01−04−06>表6−1参照。
1.3 その他のシーメンス社燃料製造施設の廃止措置(図5参照)
 カールシュタインのウラン燃料製造施設では1999年3月末に原子力法の適用が解除され、敷地は非原子力利用建物として開放されているほか、ハナウのウラン燃料製造施設では廃止措置を完了し、ウランに汚染された土壌は撤去され、2006年6月にサイトの規制を解除している。また、カールシュタインのホットセル廃止措置は、他の燃料製造施設とは異なり高線量のため遠隔操作で行う必要がある。したがって、マニプレータまたはマニプレータが使用できない場所はロボットを開発した後に解体された。
(前回更新:2001年3月)
<図/表>
図1 ハナウ核燃料製造施設解体跡地
図1  ハナウ核燃料製造施設解体跡地
図2 MOX燃料製造施設のレイアウト
図2  MOX燃料製造施設のレイアウト
図3 グローブボックス解体時のデコミッショニング技術
図3  グローブボックス解体時のデコミッショニング技術
図4 ハナウ燃料製造施設廃止措置プロジェクトの許認可手続きスケジュール
図4  ハナウ燃料製造施設廃止措置プロジェクトの許認可手続きスケジュール
図5 シーメンス社4施設の廃止措置スケジュール
図5  シーメンス社4施設の廃止措置スケジュール

<関連タイトル>
ウラン燃料とプルトニウム燃料の相違 (04-09-01-04)
海外のプルトニウム燃料製造施設 (04-09-01-06)
混合酸化物(MOX)燃料の製造加工工程 (04-09-01-07)
ドイツの核燃料サイクル (14-05-03-06)
原子力施設の廃止によって発生する大量の放射性廃棄物の処理処分対策 (05-01-04-06)

<参考文献>
(1)(財)原子力研究バックエンド推進センター(RANDEC):デコミニュース ドイツにおけるデコミッショニングの近況(民間核燃料4施設の廃止措置)vol.13、2000年9月
(2)(株)アイ・イー・エー・ジャパン:欧州原子力情報サービス 00−02、2000年2月、p.37−46
(3)(財)原子力環境整備センター:放射性廃棄物データブック 1998年11月
(4)シーメンス(Siemens)社ホームページ:
(5)Gerd KINDLEBEN and Roland BAUMANN:Decommissioning of a MOX Fuel Fabrication Facility: Criticality Safety Aspects,臨界安全国際会議2003(ICNC2003),
(6)日本電気協会新聞部:原子力ポケットブック2008年版(2008年7月)、p.277
(7)(財)原子力研究バックエンド推進センター(RANDEC):海外諸国における核燃料使用施設の廃止措置等において発生するウラン廃棄物等の安全基準の調査、2008年10月2日
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