<解説記事ダウンロード>PDFダウンロード

<概要>
 運転を終了した原子力発電所の機器や構造物には放射能が存在する。廃止措置工事を実施するに当たり、放射能の残存量(放射能インベントリ)を評価することは、解体方式の決定、解体作業に伴う被ばく量の推定、解体計画の策定、放射性廃棄物の処理処分に係る検討などにとって重要である。一般に、廃止措置される原子力発電所の放射能はその起因に基づいて、放射化放射能と汚染放射能に分類される。放射化放射能は原子炉の運転で発生した中性子と構造物中の核種が反応して放射性同位体となることに起因し、汚染放射能は前述した放射性核種(放射性同位体)や核分裂生成物などが移行して冷却系の配管などに沈着することに起因する。これらの量や分布は原子炉の出力、型、構造、運転履歴などにより異なる。このうち、放射化放射能の量や分布は、運転中における中性子のエネルギー分布及び空間分布を求め、その結果から、中性子と構造物の反応による放射性同位元素の生成・崩壊(壊変)の計算によって求めることが出来る。汚染放射能の量や分布は、基本的には測定により評価されるものであるが、冷却系機器における汚染核種の生成・崩壊、沈着・移行などを考慮して評価する計算プログラムが開発されている。
<更新年月>
2012年01月   

<本文>
1.施設の放射能特性
 原子炉の運転を終了し、核燃料を撤去した後も施設内には放射能が存在する。放射能の残存量(放射能インベントリ)を評価することは、解体方式の決定、解体作業に伴う被ばく量の推定、解体計画の策定、放射性廃棄物の処理処分に係る検討などにとって重要である。
 一般に、廃止措置される原子力発電所の放射能はその起因に基づいて、放射化放射能と汚染放射能に分類される。放射化放射能は原子炉の運転で発生した中性子と構造物中の核種が反応して放射性同位体となることに起因し、汚染放射能は前述した放射性核種(放射性同位体)や核分裂生成物などが移行して冷却系の配管などに沈着することに起因する。これらの量や分布は原子炉の出力、型、構造、運転履歴などにより異なる。
 原子力発電所(110万kWe級PWR及びBWR)の残存放射能は、平均稼働率75%、40年運転、停止1年程度で、1.8〜2.4×1017Bqと計算され、その大部分は原子炉圧力容器内の炉内構造物等で占められ、放射性腐食生成物及び生体遮へい体などに含まれる放射能は全体の1%未満である(表1表2参照)。
2.放射能の計算による評価
2.1 放射化放射能
 放射化放射能を計算により評価する場合、原子炉の運転履歴、機器・構造物の幾何学的な配置と材料組成を入力データとし、中性子束とそのエネルギースペクトルを求め、その結果を用いて放射化量の計算を行う。これにより、機器毎、核種毎に放射能濃度分布及び放射能総量を算出する。これらは、一般的に、図1に示すような手順で実施される。計算は大別して以下の2段階で行われることになる。
 イ.運転中の炉心及び周辺位置での中性子束とエネルギースペクトルの計算
 ロ.原子炉運転履歴(冷却期間を含む)に基づく放射性核種の生成・崩壊の計算
 中性子束とエネルギースペクトルの計算手法には、決定論的手法(離散座標Sn法)と確率論的手法(モンテカルロ法)がある。離散座標Sn法では1次元又は2次元の計算が主流であり、モンテカルロ法では3次元の計算が行われる。中性子束分布の計算では、様々な核種について、吸収・散乱などに係る中性子断面積などのデータが用いられるが、このデータライブラリ(汎用核データライブラリ)の代表的なものとして、ENDF、JENDLが挙げられる。
 放射化量の計算では、前者の計算で得られた中性子束とエネルギースペクトルデータが用いられる。計算対象部位の運転中における照射履歴、中性子束及び構成材料の物質組成を入力データとし、放射性核種の生成・崩壊を計算する。放射化量の計算に用いられる代表的な計算プログラムにはORIGEN(米国オークリッジ国立研究所が開発)がある。ORIGENは、主に、燃料中の放射性同位元素の生成・崩壊を追跡し、放射性核種の量を評価するために開発された計算プログラムである。
2.2 汚染放射能
 配管等に付着する放射性核種は、原子炉構造材の腐食生成物の放射化により生成された核種、核燃料内で生成した核分裂生成物や超ウラン元素からなる核種によるものである。その種類や付着量及びその分布などは、プラントの型、大きさ、構造材材質、運転履歴、燃料の状態などに依存する。腐食生成物の物理化学的挙動に基づいて一次系配管に付着するなどの核種の移行挙動をモデル化して、汚染放射能のインベントリを評価する試みがなされている(参考文献(7),(8))。この計算の概要は以下の通りである。
 イ.水化学、運転温度に基づく塩基度(pH)、熱化学法則に基づいてイオンの溶解度を計算
 ロ. 溶解度、濃度勾配に基づく素材からの溶出率、沈着物の溶解度、溶解物の沈着率を計算
 ハ. 粒子径、ブラウン運動、乱流拡散に従う粒子沈着のモデルの計算
 なお、原子炉圧力容器に接続する各種系統の機器を考慮して、様々な核種の移行挙動を精度良くモデル化することは困難であるため、測定や予め評価したデータなどを適切に組み合わせる、半経験的な方法で評価が一般に行われている。
 a.スラッジ等の試料測定により、配管・機器等の内面に付着する核種の組成を評価する。
 b.得られた核種組成を有する強度の分かった線源を用いて代表的な配管、機器の表面での線量率を計算し、放射能−線量率の関係を求める。
c.施設各所の線量率を測定などから求め、放射能−線量率の関係から汚染核種の放射能濃度を評価する。
3.放射能の評価例
 米国のトロージャン原子力発電所(PWR、109万kWe)は1976年から運転を開始し、1992年に運転を停止した施設である。廃止措置にあたり、放射能特性が詳細に評価されている。評価された放射能インベントリを表3に示す。
 トロージャンの放射能インベントリは、定格負荷相当年数(EFPY)9年で、停止直後1.37×1017Bqあり、EFPY30年でも1.59×1017Bqである。汚染量は、全体の0.1%以下であり、生体遮へいは、0.03%程度であることがわかる。
 我が国の動力試験炉(JPDR:Japan Power Demonstration Reactor、BWR、1.25万kWe)は1963年8月に運転を開始し、1976年3月まで運転された。施設の廃止措置に当たり、放射能特性の詳細な調査、放射能インベントリ評価に必要な技術開発が行われた。また、計算結果は測定結果と比較され、計算の妥当性も評価されている。1992年3月末における炉内構造物の放射能量は8.5×1013Bqと評価されている。図2は生体遮蔽体の半径方向における主要な核種の濃度を評価した結果である。中性子束の計算において、コンクリート材中の水の存在量が影響している点などが指摘された。
 韓国のウォルソン原子力発電所1号機(Wolsong unit 1)は、1982年から運転を継続している出力59.7万kWeのCANDU炉である。本原子炉の圧力管の放射能量をモンテカルロ法とORIGENNの組合せ(MCNP/ORIGEN)による計算コードを用いて計算が行われた。また、施設の改修時に試料を採取して測定を行い、94Nbについて測定値と計算値を評価した結果、相違は−22.2%から20.53%であり計算の信頼性が実証されている。
(前回更新:2004年3月)
<図/表>
表1 原子炉解体における長半減期の残存放射能核種
表1  原子炉解体における長半減期の残存放射能核種
表2 110万kWe級軽水型原子炉の残存放射能
表2  110万kWe級軽水型原子炉の残存放射能
表3 トロージャン原子炉の放射能インベントリ評価
表3  トロージャン原子炉の放射能インベントリ評価
図1 放射能インベントリ計算フロー
図1  放射能インベントリ計算フロー
図2 JPDR生体遮蔽体の半径方向における放射能濃度の評価結果
図2  JPDR生体遮蔽体の半径方向における放射能濃度の評価結果

<関連タイトル>
日本の評価済核データベースJENDLの開発 (02-08-01-07)
原子力発電所の廃止措置費用評価 (05-02-01-02)
廃止方法 (05-02-01-03)
放射能の遠隔測定技術 (05-02-02-07)

<参考文献>
(1)H.D.Oak, et al.:Technology, Safety and Costs of Decommissioning a Reference Boiling Water Reactor Power Station, NUREG/CR-0672, 1980
(2)R.I.Smith, et al.:Technology, Safety and Costs of Decommissioning a Reference Pressurized Water Reactor Power Station, NUREG/CR-0130, 1978
(3)星 蔦雄、田中 貢:JPDRの解体計画、日本原子力学会誌、p.584-592、Vol.29,No.7(1987)
(4)S.Yanagihara, T.Sukegawa, K.Shiraishi:Development of Computer Systems for Planning and Management of Reactor Decommissioning, Journal of Nuclear Science and Technology, Vol.38, No.3, p.193-202(March 2001).
(5)D.Garber, C.Dunford and S.Pearlstein:Data Formts and Procedures for the Nuclear Data File, ENDF, BNFL-NCS-50496(ENDF102), 1972
(6)K.Shibata, et al.:Japanese Evaluated Nuclear Data Library, Version-3, JAERI 1319, 1990
(7)M.J.Bell:ORIGEN - The ORNL Isotope Generation and Deplletion Code, ORNl-4628(1773)
(8)IAEA:Radiological Characterization of Shut Down Nuclear Reactors for Decommissioning Purposes, Technical Reports Series No.389(1998)
(9)稲垣博光 他:BWRにおける放射性腐食生成物移行挙動評価ツールの開発、火力原子力発電、Vol.54、No.4、2003年4月
(10)T.Sukegawa, et al.:Evaluation of Methodology on Radioactive inventory Estimation in the Japan Power Demionstration reactor, J. Nucl. Sci. Tech, Supplemet 1, p.367-371(March 2000)
(11)助川武則 他:原子炉の廃止措置における残存放射能評価方法の検討、JAERI-Tech 2001-058, 2001年9月
(12)Dong-Keun Cho, et al.:Verification of Source Term Analysis System for Decommissioning Waste from a Candu Reactor, Proceedings of the ASME 13th International Conference on Environmental Remediation and Radioactive Waste Management ICEM2010, October 3-7, 2010, Tsukuba, Japan
JAEA JAEAトップページへ ATOMICA ATOMICAトップページへ