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<概要>
 群分離とは、使用済核燃料の再処理に伴って発生する高レベル放射性廃液中の元素や放射性核種半減期、元素の化学的性質、利用目的等に応じていくつかの群に分離回収することである。分離対象としては、半減期の長い超ウラン元素やテクネチウム、高レベル廃棄物中の主な熱および放射線の源となっているストロンチウムおよびセシウム、資源として貴重な白金族元素等が挙げられる。これらの元素の分離により、高レベル廃棄物処理処分の負担軽減および資源の有効利用が図られる。
<更新年月>
2006年09月   

<本文>
1.群分離の意義
 使用済核燃料の再処理に伴って発生する高レベル放射性廃液には、ウランプルトニウムの様々な核反応によって生成した超ウラン元素や、核分裂生成物として長寿命の放射性核種が含まれている。図1に、高レベル放射性廃液に含まれる元素についての重量、放射能および発熱量の比率を示す。長寿命放射性核種が含まれることから高レベル廃棄物の管理に当っては、長寿命核種が崩壊して十分減衰するまで非常に長期間にわたって人間環境から隔離する必要がある。現在、わが国では、これらの超ウラン元素や核分裂生成物は、ホウケイ酸ガラスにより安定に固化し、30年間から50年間の冷却のため貯蔵(中間貯蔵)した後、数百メートルより深い地層に処分することを基本方針としている。
 一方、高レベル放射性廃液中に含まれている元素や放射性核種を分離回収することによって、即ち群分離することによって、それぞれの性質に応じた処理(長寿命核種の核変換による短寿命化、安定化固化)や有用元素の利用が可能になれば、高レベル廃棄物処理処分の負担軽減、処分に伴う環境への負荷の低減および資源の有効利用を図ることができる。このような観点から高レベル廃棄物中の元素および放射性核種を区分けし、その特性を見ると以下のようになる。図2にこれらをまとめた群分離の概念を示す。
 なお、最近では、将来の再処理技術として、再処理本来の目的であるウラン、プルトニウムの分離に加えて群分離を一体的にとらえ、総合したプロセスを開発する傾向にある。
(a)超ウラン元素(TRU):高レベル廃棄物に含まれる超ウラン元素は、マイナーアクチノイド(MA)とも呼ばれるネプツニウム、アメリシウム、キュリウムの3元素と再処理で回収漏れのプルトニウムの計4元素であり、いずれも長寿命核種或いは長寿命核種の親核種である。放射能の強さはさほどではなく、量も極めてわずかであるが、ほとんどがアルファ放射性であり、高レベル廃棄物において長期間継続する放射能の主成分となる。これらの核種を、分離した後に、中性子等の照射により短寿命核種或いは安定核種に変換する技術の研究開発が進められている(これが核変換技術であり、以前は消滅処理という用語が用いられた。群分離と合わせて分離変換技術という)。長寿命核種の核変換処理により、処分される長寿命核種の量を低減でき、さらには廃棄物の持つ潜在的な危険性を低減できる。
(b)発熱性核種:ストロンチウム90、セシウム137の2核種がこれに該当する。半減期がほぼ30年であり、それぞれの娘核種であるイットリウム90およびバリウム137mと共に、高レベル廃棄物の初期の高い放射能および発熱量の主たる原因となっている。高レベル廃棄物を地層処分するまでの数十年間地上で中間貯蔵するのは主にこれらの核種の減衰を待つためである。ストロンチウムおよびセシウムを分離することができれば、残りの廃棄物の熱的負担を大幅に緩和でき、廃棄物の減容、中間貯蔵期間の短縮、さらには処分法合理化による処理処分に要する負担の軽減が期待できる。分離したストロンチウムおよびセシウムについては、元素の性質に応じて、熱的にも化学的にもより安定で浸出率の低い固化体とすることができ、これも処分に要する負担の軽減につながる可能性がある。
(c) 長寿命核分裂生成物:高レベル廃棄物に含まれる主な長寿命核分裂生成物は、半減期がいずれも十万年以上の、テクネチウム99、ジルコニウム93、スズ126、セレン79、セシウム135、パラジウム107の6核種である。このうち、テクネチウム99は、同位体組成がほぼ単一であり、分離変換技術の研究対象として検討されている。高レベル廃棄物地層処分の安全評価上はセシウム135が重要であるが、セシウムは安定同位体であるセシウム133をも含むため、同位体分離を行わないとセシウム135の核変換処理が効率的に行えないという難点がある。
(d) 有用元素:ルテニウム、ロジウム、パラジウムの白金族元素、テクネチウム、セレン、テルル等が高レベル廃棄物に含まれる有用元素と位置付けられる。白金族元素は、数百年後には資源が枯渇するとの指摘もあり、貴重な元素である。テクネチウムは、天然には存在せず高レベル廃棄物からしか得ることのできない元素である。利用法としては触媒や耐蝕試薬・材料等が考えられるが、放射性であることから、放射能の減衰を待つための貯蔵、利用先の限定等が必要である。
 また、放射性核種の有効利用としては、セシウム137のガンマ線源としての利用、ストロンチウムおよびセシウムの熱源としての利用、ネプツニウム、キュリウム等のアイソトープとしての利用等が考えられる。
2.群分離技術の研究開発
 群分離技術は、再処理の場合と同様に、湿式法と乾式法に大別される。湿式法は水溶液を用いる化学分離法であり、群分離では主として硝酸溶液と抽出剤を含む有機溶媒を用いる。常温での連続操作が可能であり、元素の高い回収率と分離度が期待できる、再処理ピューレックスプロセス等で蓄積した多くの知見を利用できて、実用化の見通しを得やすいという特徴がある。しかし、放射線による試薬や溶媒の劣化および二次廃棄物の処理について考慮しなければならない。一方、乾式法は水溶液を用いない分離法の総称であり、様々な方法があるが、群分離の分野では主に溶融塩と液体金属を溶媒として用いる方法が研究されている。使用する溶媒が耐放射線性に優れリサイクルが可能、装置をコンパクトにできるといった特徴がある。しかし、耐食性材料の開発、溶融塩移送などのプラント化のための技術開発等が課題となっている。
 わが国では、1988年に策定された「群分離・消滅処理技術研究開発長期計画」(通称オメガ計画)に基づき、日本原子力研究開発機構(原子力機構)に統合される前の日本原子力研究所(旧原研)と核燃料サイクル開発機構(旧サイクル機構)、および電力中央研究所(電中研)等で群分離プロセスの開発が進められてきた。旧原研および旧サイクル機構では湿式分離プロセスを、電中研では乾式分離プロセスをそれぞれ研究開発の対象とした。1999年度に実施された原子力委員会原子力バックエンド対策専門部会によるオメガ計画に対するチェックアンドレビューの報告書では、「今後も引き続き研究開発を着実に進めることが適当である」とされ、また、2005年に策定された原子力政策大綱では、分離変換技術の研究開発は基礎的・基盤的な研究開発活動の一つに位置づけられている。
 旧原研では、高レベル放射性廃液中の元素を、超ウラン元素群、テクネチウム−白金族元素群、ストロンチウム−セシウム群およびその他の元素群に分離する4群群分離プロセス(図3参照)が開発され、実際の高レベル廃液を用いた試験でこのプロセスの元素分離性能が確認された。このプロセスでは、超ウラン元素の分離にDIDPA(ジイソデシルリン酸)による抽出法が、テクネチウム−白金族元素の分離に沈殿法が、ストロンチウム−セシウムの分離に吸着法が適用されている。一方、より効率的な分離を目指した新規抽出剤の開発も進められ、アメリシウム、キュリウムの抽出に適用できるTODGA(テトラオクチルジグリコールアミド)の開発に成功した。
 旧サイクル機構では、高度化再処理技術開発の一環として、米国で開発された抽出剤としてCMPO(octyl[phenyl]−N,N−diisobutylcarbamoylmethyl phosphine oxide)を用いるTRUEX法の改良によるアクチノイド分離プロセスが研究され、実用高レベル廃液による試験が実施された。また、定電流電解操作に基づく電解採取法による高レベル放射性廃液からの長寿命核種を含む稀少元素核分裂生成物(Ru, Rh, Pd, Tc, Te, Se)の分離について研究開発が行われた。一方、「高速増殖炉サイクルの実用化戦略調査研究」では、マイナーアクチノイド(MA)の回収と高速増殖炉での燃焼が、高速増殖炉の重要な目的の一つとされ、MAの分離工程を含む先進湿式法(NEXT法、図4参照)の研究開発が行われた。原子力機構となった後の2006年に公開されたフェーズII報告書では、アメリシウム、キュリウムの分離法として抽出クロマトグラフィー法が選択されている。抽出クロマトグラフィー法の研究は(財)産業創造研究所でも盛んに行われている。
 電中研では、乾式法による高レベル放射性廃液からのアクチノイド分離プロセス(図5参照)の研究が実施された。このプロセスでは、溶融塩として塩化リチウム−塩化カリウムを用い、液体金属として還元抽出工程ではカドミウムを、多段抽出工程ではビスマスを用いている点が特徴的である。
 国外に目を向けると米国では、AFCI(Advanced Fuel Cycle Initiatives)計画およびこれを引き継ぐG−NEP(Global Nuclear Energy Partnership)計画における先進的核燃料サイクルシステム開発計画において、処分すべき高レベル廃棄物の減容を目的に使用済燃料よりウランを分離すると共に、プルトニウム、MAおよび発熱性のストロンチウム、セシウムをも分離するプロセス(UREX+プロセス)が検討されている。フランスでは、1991年12月に策定された廃棄物法に基づき、分離変換技術に関する研究開発が実施され、再処理ピューレックスプロセスにおけるネプツニウムの回収、溶媒抽出法によるアメリシウム、キュリウムおよびセシウムの分離プロセスの開発が進められた。
 また欧州内での研究協力が活発である。中国でも、いくつかの分離工程により、超ウラン元素、ストロンチウムおよびセシウムを分離する群分離プロセスが開発が実施された。3.群分離研究の今後の展開
 将来の核燃料サイクルシステムでは、主に高レベル廃棄物の減容、処分の合理化の観点から、マイナーアクチノイドの分離、さらには発熱性核種の分離が重要な位置を占める情勢になりつつある。しかし、この「群分離」が実用化されるにはまだまだ多くのハードルを越えなければならない。
 これまでに開発されたいくつかの群分離プロセスは、いずれも主たるプロセスの成立性実証の段階にあり、実用化には分離後の処理、二次廃棄物処理、スケールアップ・工学的検討等の様々な課題が残されている。これらの課題の解決を図ることが肝要であり、また、経済性向上と二次廃棄物発生量低減をさらに追求していくことが重要であると考えられる。次世代の再処理技術として着実に研究開発を推進することが必要である。
(前回更新:2001年11月)
<図/表>
図1 高レベル放射性廃液に含まれる元素についての重量、放射能および発熱量の比率
図1  高レベル放射性廃液に含まれる元素についての重量、放射能および発熱量の比率
図2 群分離の概念−分離対象元素群の例とその分離目的−
図2  群分離の概念−分離対象元素群の例とその分離目的−
図3 日本原子力研究所で開発された4群群分離プロセス
図3  日本原子力研究所で開発された4群群分離プロセス
図4 高速増殖炉サイクルの実用化戦略調査研究で開発された先進湿式法(NEXT法)のブロックフロー
図4  高速増殖炉サイクルの実用化戦略調査研究で開発された先進湿式法(NEXT法)のブロックフロー
図5 電力中央研究所で開発された乾式法による高レベル放射性廃液からのアクチノイド分離プロセス
図5  電力中央研究所で開発された乾式法による高レベル放射性廃液からのアクチノイド分離プロセス

<関連タイトル>
消滅処理 (05-01-04-02)
高レベル廃棄物の群分離と資源化 (07-02-01-01)
オメガ計画 (07-02-01-07)

<参考文献>
(1)原子力委員会 原子力バックエンド対策専門部会:「長寿命核種の分離変換技術に関する研究開発の現状と今後の進め方」及び「参考資料」、平成12年3月31日
(2)森田泰治、久保田益充:「原研における群分離に関する研究開発 −4群群分離プロセス開発までのレビュー−」、JAERI−Review 2005−041(2005)
(3)館盛勝一:「アクチノイド新抽出剤の開発」、日本原子力学会誌、42(11),1124 (2000)
(4)山下清信、小澤正基、池上哲雄、原田秀郎、逢坂正彦、大木繁夫、舘 義昭:「高速増殖炉サイクルにおける長寿命核種の分離変換技術の研究開発(基礎・基盤)成果 (2001から2004年度まで)」、JNC TN9420 2004−001 (2005)
(5)FBR燃料サイクルユニット、FBRサイクル統括ユニット:「高速増殖炉サイクルの実用化戦略調査研究 フェーズII技術検討書 −(2)燃料サイクルシステム−」、JAEA−Research 2006−043 (2006)
(6)A. Zhang, Y.−Z. Wei, M. Kumagai, Y. Koma:“A New Partitioning Process for High−level Liquid Waste by Extraction Chromatography Using Silica−substrate Chelating Agent Impregnated Adsorbents”, J. Alloy Comp., 390, 275 (2005)
(7)木下賢介、倉田正輝:「乾式リサイクル技術・金属燃料FBRの実現に向けて」、電中研レビュー(井上 正 編), No.20, p.47, 第6章「高レベル廃液からの超ウラン元素の分離技術」(2000)
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