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<概要>
 原子力の利用に伴って発生する放射性廃棄物は、種々の「形態」(気体(状)、液体(状)、固体(状)廃棄物)がある。また、固体(状)廃棄物は処理の面から、可燃性、難燃性、不燃性等に区分され、液体(状)廃棄物は無機および有機廃液に細分される。「放射能レベル」による区分では、極低レベル、低レベル、高レベル等に分類される。ここでは、発生源と処分方法に着目し、原子炉等規制法及び原子力委員会バックエンド対策専門部会等での検討を参考に、わが国の放射性廃棄物の種類と区分を解説し、各廃棄物の特徴および処分の基本的考え方を述べる。
<更新年月>
2009年01月   

<本文>
 原子力利用に伴い発生する各種の放射性廃棄物は、一般に発生源および放射性物質の濃度により高レベル放射性廃棄物と低レベル放射性廃棄物とに区分される。放射性廃棄物の種類と発生源を図1に、放射性廃棄物の濃度区分および処分方法を図2に示す。
 高レベル放射性廃棄物は、使用済燃料再処理により分離された核分裂生成物を含む濃縮廃液およびこれをガラス固化処理したものである。
 低レベル放射性廃棄物は、原子力発電所ウラン燃料の成型加工(転換、濃縮を含む)施設、再処理施設、研究施設および放射性同位元素(Radioisotope:以下「RI」という)使用施設等から発生する。
1.高レベル放射性廃棄物
 再処理施設で使用済燃料からウランとプルトニウムを分離・回収する工程で種々の放射性廃棄物が発生する。再処理施設から発生する主な超ウラン核種を含む放射性廃棄物を図3に示す。使用済燃料溶解液から溶媒によりウランとプルトニウムを抽出した残液(一次抽出廃液)には核分裂物質を中心に元の使用済燃料中に含まれていた放射性物質の大部分が残されており、これが「高レベル廃液」と呼ばれる。高レベル廃液は安定な固化体とするためガラス固化される。その固化体を「高レベル放射性廃棄物」と呼んでいる。高レベル放射性廃棄物のほかにも、種々の低レベル放射性廃棄物が発生する。再処理施設から発生する放射性廃棄物の発生量の一例として、仏国COGEMA社(現AREVA NC社)のラアーグ再処理工場から発生する放射性廃棄物の例を表1に示す。
 日本では、これまで原子力発電の使用済燃料の再処理をイギリス及びフランスに委託してきた。この再処理から発生したガラス固化体は、1995年から海上輸送により返還され、青森県六ヶ所村の日本原燃(株)高レベル放射性廃棄物貯蔵センターに保管されている。
 日本原燃(株)が六ヶ所村に建設中の再処理施設で使用済燃料の再処理を本格的に開始(年間800トン・ウラン再処理)されると、高レベル放射性廃棄物の発生量は、ガラス固化体に換算して年間約1,000本程度の発生が見込まれている。
 なお、米国等では再処理を行わないで使用済燃料そのものを高レベル放射性廃棄物として処分する計画である。
2.低レベル放射性廃棄物
 低レベル放射性廃棄物は、原子力発電所等の運転および解体等に伴って発生し、含まれる放射性物質は半減期が比較的短いベータ・ガンマ核種が主要なものである。
 このうち、商業用発電所から発生した低レベル放射性廃棄物は、六ヶ所村の日本原燃(株)六ヶ所低レベル放射性廃棄物埋設センターにおいて、均質固化体(1号埋設施設対象廃棄体)および雑固体等非均質固化体(2号埋設施設対象廃棄体)を浅地中処分している。
 原子炉施設の廃止措置により発生する低レベル放射性廃棄物(「解体廃棄物」という)は、放射能レベルが比較的高いものから低いものまで幅広く分布している。解体廃棄物の放射能レベル区分別発生量を表2に示す。解体廃棄物は、放射能濃度に応じて余裕深度、コンクリートピットおよびトレンチ処分施設に区分して埋設される。これらの処分施設の受け入れ条件である濃度上限値については、政令等で定められている(ATOMICA解体廃棄物の放射能レベル区分(05−02−01−04)を参照)。
 この他に「放射性廃棄物として扱う必要のない廃棄物」(クリアランスレベル以下のもの)が存在する。このクリアランス対象物は、放射能測定後にクリアランスレベル以下であることが確認されれば再利用等が可能になった。クリアランスレベルは、政令で定められている(ATOMICA日本のクリアランス制度(11−03−04−10)を参照)。
3.TRU核種を含む放射性廃棄物
 再処理施設の操業では、1.で述べた高レベル放射性廃棄物のほかにも、種々の低レベル放射性廃棄物が発生する。これらの廃棄物中には、TRU核種(原子炉運転中に主にU−238が中性子を吸収しβ崩壊を繰り返してウランより高い原子番号の元素になった種々の核種で、すべての核種が放射性であり、α核種が多いのが特徴)が含まれている。MOX燃料加工施設からも同様の廃棄物が発生する。これらの廃棄物の一部は、含まれる放射性核種の濃度が低いことから低レベル放射性廃棄物として浅地中処分することが考えられる。さらに一定以上の放射能濃度を有する放射性廃棄物の処分方策としては、主に含まれるアルファ核種の濃度によって、高βγ廃棄物と同様な余裕深度処分あるいは高レベル放射性廃棄物と同様な地層処分が適切と考えられている。
4.ウラン廃棄物
 ウラン廃棄物は主にウランの再転換・成型加工に伴って発生する。今後は濃縮に伴って発生する廃遠心分離器等も対象となる。半減期が極めて長いウランおよびその娘核種を含んでいること、放射能レベルが極めて低い廃棄物が大部分を占めること等の特徴を有している。燃料加工1tU当たり約1.8本(200リットルドラム換算)程度の発生量である。
 ウランは半減期が極めて長いため、放射能の減衰に応じて保安の為の措置を段階的に変更する管理方法により処分することは現実的ではない。ウラン濃度が比較的低い大部分の廃棄物については、段階管理を伴わない簡易な方法による浅地中処分を行うことが可能と考えられ、再利用による資源の有効利用の可能性も含めた研究開発が進められている。ウラン廃棄物は、含まれるU核種の濃度に応じて、トレンチ処分、コンクリートピット処分、余裕深度処分および地層処分を想定し、各処分方式の濃度区分及びクリアランスレベルについて、現在、原子力安全委員会で検討中である。
5.RI・研究所等廃棄物
 RIは原子力分野のみならず多くの分野で利用されており、国民の日常生活を支えるものの一つとなっている。例えば、医療分野では種々の検査や治療にRIからの放射線が用いられ、理工学や医薬品の研究開発分野ではトレーサーとしてRIが用いられている。また、放射線を照射することによる滅菌処理や非破壊検査等にもRIが多く利用されている。現在、RIを利用(加速器の利用を含む)している事業所数は5,000を超えている。これらの利用に伴い、RIで汚染されたペーパータオル、注射器、試験管や使用済みの密封線源等が廃棄物(「RI廃棄物」)として発生している。
 また、日本原子力研究開発機構等の研究機関、大学、民間企業等の約180事業所では、原子力の利用に関する研究開発やその他の事業の目的のために、試験研究炉や核燃料使用施設等を設置し、原子力の安全研究や核燃料物質を用いた研究等が行われている。これらの研究開発等に伴い、実験で使用した手袋やペーパータオル、廃液等が廃棄物(「研究所等廃棄物」)として発生している。
 これらのRI・研究所等廃棄物(研究施設等廃棄物)は低レベル放射性廃棄物であり、トレンチ処分、コンクリートピット処分等の浅地中処分対象廃棄物である。この浅地中処分について、日本原子力研究開発機構が、処分施設の開設目標を平成30年として検討を進めている。
(前回更新:2002年10月)
<図/表>
表1 COGEMA社(現AREVA NC社)ラ・アーグ再処理施設から発生する放射性廃棄物
表1  COGEMA社(現AREVA NC社)ラ・アーグ再処理施設から発生する放射性廃棄物
表2 解体廃棄物の放射能レベル区分別発生量
表2  解体廃棄物の放射能レベル区分別発生量
図1 放射性廃棄物の種類とその主な発生源
図1  放射性廃棄物の種類とその主な発生源
図2 放射性廃棄物の濃度区分及び処分方法
図2  放射性廃棄物の濃度区分及び処分方法
図3 再処理施設から発生する主な超ウラン核種を含む放射性廃棄物
図3  再処理施設から発生する主な超ウラン核種を含む放射性廃棄物

<関連タイトル>
放射性廃棄物 (05-01-01-01)
日本における放射性廃棄物の発生の現状と将来の見通し (05-01-01-05)
六ヶ所低レベル放射性廃棄物埋設センターの現状 (05-01-03-21)
解体廃棄物の放射能レベル区分 (05-02-01-04)
放射性廃棄物 (09-01-02-01)
日本のクリアランス制度 (11-03-04-10)

<参考文献>
(1)原子力委員会 バックエンド対策専門部会:第12回配付資料(1997年)
(2)田代晋吾:再処理廃棄物の処理・貯蔵・処分技術の現状、原環センタートピックス、No.25、p.1(1993年)
(3)原子力規制関係法令研究会:2008年原子力規制関係法令集、大成出版社(2008年9月)
(4)(財)原子力環境整備促進・資金管理センター、放射性廃棄物の処分について、http://www.rwmc.or.jp/disposal/radioactive-waste/
(5)原子力委員会バックエンド対策専門部会:「超ウラン核種を含む放射性廃棄物の処理処分の基本的考え方について」(平成12年3月)、http://www.aec.go.jp/jicst/NC/iinkai/teirei/siryo2000/siryo20/siryo11.htm
(6)原子力委員会 バックエンド対策専門部会:「超ウラン核種を含む放射性廃棄物の処理処分の基本的考え方について」参考資料−1「再処理施設から発生する主な超ウラン核種を含む放射性廃棄物」(平成12年3月)、http://www.aec.go.jp/jicst/NC/iinkai/teirei/siryo2000/siryo20/11sanko1.htm
(7)原子力委員会 バックエンド対策専門部会:「ウラン廃棄物処理処分の基本的考え方について」(平成12年12月)、http://www.aec.go.jp/jicst/NC/iinkai/teirei/siryo2000/siryo78/siryo1_1.htm
(8)原子力安全委員会、原子力安全総合専門部会:「放射性同位元素使用施設等から発生する放射性固体廃棄物の浅地中処分の安全規制に関する基本的考え方について」(平成16年1月)
(9)原子力安全委員会:「研究所等から発生する放射性固体廃棄物の浅地中処分の安全規制に関する基本的考え方」(平成18年4月20日)
(10)日本原子力発電(株):廃止措置計画認可申請書(平成18年3月)
(11)総合エネルギー調査会原子力部会:配布資料「原子力発電所の解体廃棄物」(平成10年8月28日付け)
(12)総合資源エネルギー調査会原子力安全・保安部会 廃棄物安全小委員会報告書:「低レベル放射性廃棄物の余裕深度処分に係る安全規制について(中間報告)」(平成19年3月20日
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