<大項目> 核燃料リサイクル施設
<中項目> 核燃料サイクル施設の事故・故障
<小項目> 海外における事故・故障・トラブル
<タイトル>
核燃料物質等の輸送および貯蔵中の事故 (04-10-03-06)

<概要>
 原子力施設の事故では放射能は非居住地域という緩衝地帯を経て公衆に届くが、輸送事故では公衆が放射能と直に接触する可能性がある。それだけに公衆の事故に対する不安や危惧は、原子炉事故に対するものより場合によっては大きいといえる。さらに、核燃料物質等輸送の特殊性として、事故の現場が原子力施設と直接関連のない一般公衆の生活の場所でありうることから、事故処理に最初にあたる当事者が放射能に関して経験のない人達である可能性も高い。したがって、核燃料物質等の輸送の安全規制安全評価等は極めて重要である。米国において起った主要な輸送事故例および1998年4月に発覚して話題になったドイツからフランスのラアーグ再処理工場への輸送時の汚染事故などについて解説する。
 また、過去に日本の原子力発電所おいて使用済燃料の取扱いの際に生じた事故についても付記する。
<更新年月>
2000年03月   (本データは原則として更新対象外とします。)

<本文>
1.核燃料物質輸送の安全性評価の重要性と特殊性
 核燃料物質等輸送の安全性は、原子力施設の核燃料物質に関連する事故にくらべて規模は小さいが、直接公衆に関連するという点で他の原子力施設の事故とは質的に異なる。通常の原子力施設の事故の場合は、放射能は非居住地域という緩衝地帯を経て公衆に届くが、輸送事故の場合は、公衆が放射能と直に接触する可能性がある。それだけに関連する公衆の事故に対する不安や危惧は、原子炉事故に対するものより場合によっては大きいといえる。また、接触する可能性のある放射性物質も通常の原子力施設で問題となる核分裂生成物のみならず、ウランプルトニウム239Pu)などのα放射体が問題になってくる。さらに、核燃料輸送の特殊性として事故の現場が原子力施設と直接関連のない一般公衆の生活の場所でありうることから、事故処理に最初にあたる当事者が放射能に関して経験のない人達である可能性が高いということが問題になってくる。つまり、原子力施設の設置県では国の原子力防災計画のもとで訓練された専門職員が処理にあたるのに対して、当事者能力をもたない非設置県の訓練されていない消防や警察の職員が処理にあたらざるをえない場合が考えられる。
 これらのことから核燃料物質等の輸送の安全規制、安全評価が如何に重要であるか理解できる。
2.世界における主な輸送事故
 米国において1971年から1985年まで起きた事故・故障をまとめた資料を 表1 に示す。また英国の放射線防護庁(NRPB)がまとめた1958年から1994年までの37年間の英国における核燃料物質および放射性物質の輸送に関連する507事例についての総括を 表2 に示す。
 つぎに、米国およびフランスにおいて起った主要な輸送事故例( 表3 参照)および1998年4月に発覚して話題になったドイツからフランスのラアーグ再処理工場への輸送時に起きた汚染事故などについて簡単に解説する。
(1) 1977年3月31日
 米国ノースカロライナ州ロッキングハムで、六フッ化化ウラン(UF6)を詰めたシリンダー2基を列車で運搬中に脱線、貨物が散乱した。シリンダー1基の付近で火災が発生した。最初の報告では汚染があったとされたが、最終的な調査では汚染はなく、シリンダーは破損していないことが分かったという。
(2) 1977年9月27日
 米国コロラド州南東部のスプリングフィールドの高速道路で、イエローケーキ(天然ウラン精鉱石:U3O8粉末)を積載したトラックトレーラが、道路を横切っていた野生の馬3頭に衝突し、横転した。イエローケーキは、55ガロン(208リットル)の鋼製ドラム缶50本に収納されていたが、この事故によってドラム缶32本が放り出され、そのうち17本のドラム缶の蓋の部分が損傷し、外れた。車上に残った18本のうち12本も蓋が損傷した。この結果、5.5トンのイエローケーキがドラム缶の外に漏れ出した(文献2のp.961)。
 運送者と州関係当局によって、2週間にわたってグリーンハウスを建て、真空掃除機を使用して除染および土地浄化作業が行われた。14日目に最終的サーベイを行い、立入制限を解除した。この作業に従事した警察官や作業者27人を検査した結果、公衆や除染作業員が吸入したU3O8の量は、許容線量に比べてはるかに少なかったと報告されている。
(3) 1979年3月22日
 米国カンザス州ウイチタの高速道路で、20トンのイエローケーキの入った55ガロン(208リットル)の鋼製ドラム缶54本を積載した貨物トレーラの横転事故があった。51本のドラム缶が放り出され、このうち22本のドラム缶の蓋の部分が損傷し、約800kgのイエローケーキが漏れ出した(文献2のp.962)。州関係当局の指導の下に、広範囲にわたっての除染作業が実施され、除染作業に数週間かかったという。その間道路は閉鎖された。
(4) 1984年8月25日
 ベルギーのオステンデ沖で、六フッ化ウラン(UF6、濃縮度最高0.9%)を充填した輸送容器48Y型シリンダー( 図1 参照)30基と濃縮ウランを引き取って持って帰るための空容器30B型シリンダー( 図2 参照)22基を積んだ貨物混載船モンルイ号がフランスからソ連へ向けて航行中、後方右舷に西独のカーフェリーが激しく衝突した。モンルイ号は約15mの海底に沈没したが、船倉前方部の積み荷の48Y型シリンダーなどに直接の損傷はなかった。
 回収作業で29番目のシリンダ容器を引き揚げる際、損傷したバルブからごく僅か(数立方センチ)の非放射性ガス(フッ化水素)が漏えいした。充填剤で漏えいを塞ぎ、大きな容器に入れ、ピエールラット(仏)に送られたが、そこでは、もう漏えいは止まっていた。この漏えいは、容器の引き揚げの際生じたものであり、したがって海は汚染されなかった。この事故で、容器は耐えることが証明され、輸送容器に対する規制の信頼性が示されたとの解説記事(フィガロ紙)も掲げられた。10月4日最終の30番目の容器が引き揚げられ、回収作業は終了した。
(5) 1985年8月2日
 米国ノースダコタ州ボードンにおいて、カナダのサスカチワンから米国オクラホマ向けのイエローケーキを充填したドラム缶53本を積載したトラックが貨物列車と衝突し、トラック運転手が死亡するという事故が起き、約10本のドラム缶が破損して内容物が飛散した。事故現場には、連邦環境保護庁からの緊急対策チームと原子力規制委員会からの保健専門グループが、カナダからも緊急対策チームが派遣された。汚染面積は約1,800平方メートルであったという。飛散したイエローケーキを回収するために大型の吸引機械が出動して、数日間除染作業が行われた。このとき、30余人が汚染検査を受けたが、被ばく障害は起らなかったと報じられた。
(6) 1991年12月12日
 米国マサチューセッツ州スプリングフィールドで、ジェネラルエレクトリック(GE)社の工場からバーモントヤンキー原子力発電所へ燃料集合体を運搬していたトラックに、高速道路を誤って逆方向から走ってきた乗用車が正面衝突し、火災が発生した。事故発生後15分に現場へ到着した消防隊は、積み荷がウランであることを知らされ、情報を求めたが得られず、GE社や原子力発電所との連絡の結果、「車両に接近せず、火災を放置し、人を近づけないよう」との指示を受ける。火災は3時間近く燃え続け、輸送容器のいくつかはトレーラから落下していたが、放射能の漏えいはなかった。
(7) フランスにおける使用済燃料輸送時の汚染事故
 1998年4月にフランスの原子力施設安全局(DSIN)からドイツの環境大臣に伝えられた情報によると、1997年にドイツの原子力発電所からラアーグ再処理工場(仏)まで実施された使用済燃料の輸送で、4Bq/平方cmを超える汚染が11件あった。このうち6件は、小さなコインほどの面積に最高値13,400Bqの局所汚染が輸送車両内部の人の立ち入れない箇所で発見され、残り5件は最高値13,000Bqの汚染が車両の床から検出された。1998年に入っても汚染事故はあり、4件中2件において輸送車両の床に最高10,000Bqの局所汚染があったが、車両の外側に許容レベルをを超える汚染は1件もなかった。
 これらの汚染事故は、事故の発覚したことで問題となった。1998年5月13日に公表された使用済燃料輸送容器に関するDSIN(原子力施設安全局)の調査報告では、輸送容器および輸送車両内外の汚染値は、管理基準値の4Bq/平方cmを超えていたものの、輸送に関わった従業員の被ばく線量は、欧州の基準値である20mSv/年をはるかに下回っていた。従業員への健康影響は、無視できる程度のもので大きな問題はないと結論付けられた。
 一方、スイスでもDSINからの通報で過去5年間にスイスからフランスに運ばれた使用済燃料の輸送時に放射能汚染が検出されていたことが明らかになった。9回の輸送のうち、4回は容器の外側で許容値の2〜15倍の汚染が、また5回は車両内で3〜360倍の汚染が発見された。ただし、スイス安全当局も公衆への影響は全くないことを確認している。
(8) 日本の原子力発電所における核燃料物質輸送時の事故
 わが国では、これまでに起った世界における主な輸送事故を教訓として万全の対策がとられている。年間数百回に及ぶ核燃料物質の輸送が行われているが、輸送に関する事故は輸送容器の損傷を伴わない単なる車両追突あるいは接触事故以外、全く起っていない。
3.日本の使用済燃料取扱い時および貯蔵時の事故
 わが国は、原子力発電所における使用済燃料の貯蔵に関しては30年以上にわたる実績と経験を有しており、プールおよび金属キャスクによって安全に貯蔵する技術とノウハウを十分に蓄積している。原子力発電所における使用済燃料に関するトラブルをみても、使用済燃料の取扱いの際に生じたものが、1998年現在20件報告されているが、貯蔵中におけるトラブルについては報告されていない( 表4−1 および 表4−2 参照)。なお、20件中11件は、1998年3月に運転停止した日本原子力発電・東海発電所(ガス炉)において発生している。また、1984年4月以降軽水炉における使用済燃料の取扱いに係るトラブルは報告されていない。
<図/表>
表1 米国における燃料サイクル事故報告の総括(1971〜1982年)
表2 英国のおける過去37年間の核燃料物質および放射性物質輸送関連事故(1958〜1994年)
表3 世界における核燃料物質の主要な輸送事故(1970〜1991年)
表4−1 使用済燃料取扱いに関するトラブル報告の概要(1998年3月末現在)(1/2)
表4−2 使用済燃料取扱いに関するトラブル報告の概要(1998年3月末現在)(2/2)
図1 仏コジェマ社48Y型容器規格図
図2 30B型容器(保護容器付き)

・図表を一括してダウンロードする場合は ここをクリックして下さい。


<関連タイトル>
六フッ化ウランおよび二酸化ウランの輸送 (11-02-06-03)
使用済燃料の輸送 (11-02-06-04)
核燃料輸送容器の臨界安全性と遮蔽安全性 (11-02-06-12)

<参考文献>
(1)青木 成文:放射性物質の輸送のすべて、日刊工業新聞社(1990年6月),p.216-223
(2)A.W.Grella: A Review of Selected Nuclear Transport Event Case Histories,Proc. Inter. Symp. on Packaging and Transportation of Radioactive Materials,PATRAM 1983,p.958-963
(3)吉村 佐一郎:モンルイ号の沈没、原子力工業、30(12),p.47-51(1984)
(4)原子力産業新聞、1998.5.21および6.4日付き
(5)Nucleonics Week 日本語版、39(20),p.7および39(22),p.12-13(1998)
(6)原子力産業会議:原産マンスリー、No.32,p.10-11(1998年7月)
(7)電力中央研究所バックエンド研究会(編):核燃料輸送工学、日刊工業新聞社(1998年3月)
(8)松岡 理:核燃料輸送の安全性評価、日刊工業新聞社(1996年11月),p.1およびp.99−105
(9)原子力産業会議:原産マンスリー、No.33,p.40-41(1998年8月)
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