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<概要>
 臨界事故核分裂性物質が予期しない原因によって制御不可の状態で臨界に達して核分裂を起こすことにより生じ、その核分裂に伴って、ごく短時間に大量の中性子線γ線が発生する。例えば、原子炉臨界集合体の燃料装荷や調整作業において燃料体が誤って臨界近接を生じたり、あるいは、核燃料物質取扱施設等において溶液中の核分裂性物質の濃度が上がって臨界に達するというようなことにより発生する。1999年に茨城県東海村で発生したJCOウラン燃料加工施設の臨界事故を含めて、世界でこれまでに60件の臨界事故が報告されている。なお、1986年に起こったチェルノブイル原子力発電所の事故は反応度事故(臨界事故の1種)が原因である。
<更新年月>
2001年01月   (本データは原則として更新対象外とします。)

<本文>
1.臨界事故
 臨界事故は、ウランやプルトニウムなどの核分裂性物質が予期しない原因によって制御不可の状態で臨界(臨界量または臨界寸法)に達し核分裂反応が生じることによって起こる。その核分裂反応に伴って、ごく短時間に大量の中性子線やγ線が発生し、そのため施設に大きな損害を与え、また、作業者に重大な健康影響をもたらすことがある。
 例えば、原子炉や臨界集合体の核燃料装荷や点検、実験中の調整作業等において、誤って燃料体が臨界となるような位置や形状に配置されたり(臨界近接)、あるいは、核燃料の製造や加工、保管、再処理またはそれらに係る研究を行う核燃料物質取扱施設等において、予期しない状況で溶液中の核分裂性物質の濃度が上がって、または、その溶液が1か所に集中して、ある限界値(臨界濃度あるいは臨界量)に達することにより臨界事故が発生する。
 一般に、溶液系における臨界事故では、臨界に達した直後に急激なエネルギー放出(バースト)があり、その放出は瞬時に終了するが、その後小さなバーストを繰り返しながら臨界状態が続き、最終的には未臨界状態となって反応は停止する。実際の事故例では37時間臨界状態が継続したものもある。
 また、原子炉事故では、制御棒の炉心からの引抜き等によって起きた反応度異常上昇の事故を反応度事故と呼んでいる。
2.臨界事故例
(1)概況
 過去において、1945年頃から1999年までの間に、世界で60件の臨界事故が発生しており、その内訳は原子炉や臨界実験装置において38件、核燃料物質取扱施設において22件であった。そして21名(14件)がこれらの臨界事故に関連して死亡している。この内、SL-1における臨界事故での3名(爆発による負傷)は、爆発による負傷が直接の死亡原因になりえなかったとしても放射線被ばくのために死亡していたであろうといわれている。表1−1表1−2および表2に過去に発生した臨界事故の概要を、また、主な臨界事故における被ばくの状況を表3−1および表3−2に示す。
 以下に臨界事故例として、原子炉であるSL-1とRA-2における臨界事故およびチェルノブイル原子力発電所事故の概要を示す。また、核燃料施設の臨界事故例として、わが国で発生したJCO加工施設の臨界事故について概要を示す。
(2)SL−1(Stationary Low Power Reactor No.1)における臨界事故
 SL−1は米国アイダホ州に設置された沸騰水型軽水減速冷却型の研究用原子炉で、熱出力が3000kWである。原子炉は定期保守、測定器の校正・取付けおよび施設の軽微な改修のため停止していた。運転再開のための準備を行っていたと思われる1961年1月3日の午後9時1分に事故が発生した。事故により3名の作業者が全員死亡したため事故原因の詳細は判っていないが、推測では、当時作業者は制御棒駆動機構を炉心の元の位置に戻す作業に従事していたと思われる。SL−1原子炉は中央の制御棒だけを引き抜くことによって臨界にすることができた。そのため、急速な引き抜きを行ったため反応度の急激な増加および炉出力の増加が起こり、それにより炉内に蒸気が発生して圧力が高まり、これがさらに制御棒を引き抜く方向に働き蒸気爆発に至ったと考えられている。つまり、この事故の原因は、原子炉の構造上の問題と作業手順の誤りが原因であると思われる。
(3)RA−2施設における臨界事故
 RA−2は、アルゼンチンのブエノスアイレスに設置された軽水減速黒鉛反射体型の臨界集合体である。事故は、炉心構成の変更を行っていた1983年9月23日に発生した。直接の原因は、規定された手順を守らず、減速材を完全に除去せずに炉心構成を変更したためであり、さらにこれに操業上のミスが加わり、炉心への燃料体の挿入作業中に臨界となった。このため、単独で作業中の技術者が事故後2日目に死亡した。経験豊富な技術者が手順を守らなかった理由は、当日が金曜日で、帰宅を急いでいたためであろうといわれている。
(4)チェルノブイル原子力発電所の反応度事故
 1986年4月26日に、ウクライナ(当時、ソ連)のチェルノブイル原子力発電所4号機で、電源喪失時発電機のタービン回転慣性で得られる非常用電力の試験中、原子炉を停止しようとして大規模な原子炉破壊事故を起こした。運転員の手順書違反が事故の引き金ではあったが、この炉(黒鉛減速軽水沸騰型炉:RBMK)の炉心特性(正のボイド係数)に起因して反応度事故が起こり出力が暴走した。その結果、爆発が起こり燃料は溶融飛散し、高温の黒鉛(減速材)が飛散し火災が発生し、さらにこの炉に格納容器がないことから放射能が他国にまで放散した。この他この炉は制御棒の炉停止能力余裕が少ないこと、かつポジティブ・スクラム(挿入時正の反応度)の特性を有すること等幾つかの安全設計上の欠陥が指摘されている。
(5)JCOウラン燃料加工施設の臨界事故
 濃縮Uの精製を行い、UO2や硝酸ウラニル溶液を製造する施設において、精製した18.8%濃縮のU3O8を溶解し、硝酸ウラニル溶液の製造を行っていた。当該濃縮度の質量制限は、1バッチ当り2.4kgUであったが、6-7バッチ分の溶液を均質化する必要があった。また以前より、安全形状の貯塔(170mm径)を使用していた(未許可)。事故前日(1999年9月29日)に、作業員(3名)は作業の効率化のため、貯塔に代えて非安全形状の沈殿槽(450mm径)の使用を決定、4バッチ分の溶液を上部の監視口から手作業で投入した。翌日(9月30日)、残り3バッチを投入したところ、臨界となった(10:35)。作業者は閃光を見た。同時に、放射線警報作動し、全員が退避した。15:00に施設から350m以内の住民に避難要請、22:30に10km圏内の住民に屋内退避勧告がなされた。沈殿槽外周にある冷却用水ジャケット(約2.5cm厚)の水を抜くことにより、臨界は終息した(10月1日 6:15)。その後、ホウ酸水を注入した(同 8:50)。この事故により、作業者3名が大量の被ばくをし、うち2名が死亡した。また、一般住民約200名を含む400名以上が被ばくした。機器の損傷は無く、環境への放射性物質の放出はごく僅かであった。
3.臨界事故の防止対策
 臨界事故の原因を検討すると、臨界事故の対策としては、主に設備の面から臨界となることを防ぐ臨界安全管理と実際の取扱の面からの運転管理が必要であることが判る。
 また、原子力施設の設置に際しては、臨界安全性という点を含めて、国の管轄当局(原子力安全委員会)の安全審査が十分に行われ、さらに各施設において運転管理方法を含んだ保安規定を作成し、認可を受けることが義務づけられている。
 臨界安全管理に伴って、重要となる運転管理上の事項には、核分裂性物質を取り扱うすべての平常操作および一時的操作に対して十分な運転規定・安全規定を遵守すること、操作条件の変更があっても安全であるように操作条件を定期的に再点検すること、核分裂性物質の量と所在を確実に同定できるよう計量管理すること、万一の臨界事故に備えて緊急退避の方法を検討し、かつ警報装置を設けておくことなどがある。また、これらの事項を作業者に周知徹底するために、定期的に教育訓練を実施することが重要である。
<図/表>
表1−1 過去に発生した臨界事故の概要(原子炉または臨界実験装置)(1/2)
表1−1  過去に発生した臨界事故の概要(原子炉または臨界実験装置)(1/2)
表1−2 過去に発生した臨界事故の概要(原子炉または臨界実験装置)(2/2)
表1−2  過去に発生した臨界事故の概要(原子炉または臨界実験装置)(2/2)
表2 過去に発生した臨界事故の概要(核燃料物質取扱施設)
表2  過去に発生した臨界事故の概要(核燃料物質取扱施設)
表3−1 過去に発生した主な臨界事故における被ばくの状況(1/2)
表3−1  過去に発生した主な臨界事故における被ばくの状況(1/2)
表3−2 過去に発生した主な臨界事故における被ばくの状況(2/2)
表3−2  過去に発生した主な臨界事故における被ばくの状況(2/2)

<関連タイトル>
チェルノブイリ原子力発電所事故の原因 (02-07-04-13)
海外における研究炉の主な事故 (03-04-10-01)
JCOウラン加工工場臨界被ばく事故の概要 (04-10-02-03)
世界の核燃料施設における臨界事故 (04-10-03-02)
臨界安全性に関する研究 (06-01-05-02)
臨界実験装置 (08-01-03-06)
臨界事故による放射線被ばく (09-03-02-05)
原子力安全委員会 (10-04-03-01)

<参考文献>
(1)日本原子力研究所:原子力施設の事故〔調査報告〕JAERI 4052(1970)
(2)館盛 勝一ほか:核燃料取扱い施設における臨界事故例の解析 JAERI-M 84-155(1984)
(3)(財)原子力安全研究協会:核燃料の臨界安全(1983)
(4)T.P.McLaughlin et al.:A Review of Criticality Accidents,2000 Revision, LA-13638(2000)
(5)住田 健二ほか:特集 ウラン燃料加工施設における臨界事故、日本原子力学会誌、42[8]、p.691(2000)
(6)E.O.Adamov,Yu.M.Cherkashov:The RBMK Reactor Improvement and Its Safety Increase,Proc Inter,Conf.Nuclear Accidents and the Future of Energy-Lessons Learned From Chernobyl,Apr.15-17,1991,Paris(France)
(7)IAEA:INSAG-7 The Chernobyl Accident-Updating of INSAG-1,Safety Series No.75-INSAG-7(1992)
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