<本文>
1.プルトニウム燃料の歴史的変遷
プルトニウムは、原子力開発の初期においては、金属プルトニウムとアルミニウムの合金の形で米国のMTR(材料試験炉)用燃料に使用され、また、高速炉用としてもクレメンタイン(1946年運転開始)、及び1951年に世界最初の実験的発電に成功したEBR-1の燃料に用いられた。
その後、プルトニウムはウランと混ぜて用いられるようになったが、初期にはやはり合金燃料が主流でU-13.5 Mo-10 Pu合金がEBR-2に高速炉用燃料として用いられた。しかし、その後、フランスのラプソディ等を始めとして高速炉においても混合酸化物燃料いわゆる
MOX燃料 が用いられるようになった。MOX燃料は、二酸化プルトニウムと二酸化ウランの混合焼結ペレットをジルカロイまたはステンレス鋼の被覆管の中に挿入して端部を栓で溶接密封して
燃料要素 (または
燃料棒 と呼ぶ)とし、これを組み立てて
燃料集合体 として利用するものである。現在、日本の高速炉開発においてもMOX燃料、ナトリウム冷却型の高速増殖炉の実用化を目指している。また、欧州諸国と日本は軽水炉でのプルトニウム・リサイクルを行っているが、ここでも炉心燃料の一定割合でMOX燃料が用いられている。
他方、酸化物は軽水炉用には冷却材との両立性に優れた利点を有しているが、プルトニウムの炉物理的特徴を効率的に生かす必要のある高速炉では、中性子をあまり減速させない
金属燃料 や他の化合物形態の燃料を利用する方がより高性能(大きな増殖性)が期待できるので、将来を目指して研究開発が行われている。また、高温ガス炉のような黒鉛を被覆材及び構造材として用いる
原子炉 では
炭化物燃料 の利用も検討されている。
2.
核燃料 に適したウラン・プルトニウム化合物の条件
核燃料としての適合条件は以下のとおりである。第一に、熱的条件としては、十分に高い融点を持つとともに、
核分裂 による熱で燃料が高温になる際に変態を起こすことなく安定な形態を維持し、また、燃料内で発生する熱を周囲の冷却材に効率的に伝えるよう熱伝導度が高い物質であることが要求される。第二に、炉物理的な条件としては、中性子の吸収(捕獲)が少なく、密度が高いことが要求される。第三に、材料科学的な条件として、環境安定性、すなわち被覆管及び冷却材との両立性が良いこと、及び燃料製造が容易かつ安価で、また
再処理 も容易なものであること等があげられる。これらのすべての条件において秀でた燃料形態はなく、どのような形態も長所と短所とを併せ持つが、現実の原子炉燃料としては安全性(熱的条件の満足)、工学的成立性、経済性等の観点から選択が行われ、これまでのところ酸化物が燃料形態の主流となっている。
純粋なプルトニウム金属は最も密度が高くまた熱伝導度も高いが、
表1 に示すように、融解までにα、β、γ、δ、δ’、εの6種類の変態があるため用いられない。したがって、金属燃料としては合金が用いられ、現在も高速炉用としてより加工費の安くなる可能性があるとしてU-Pu-Zr合金や、従来からのMo合金のような合金燃料の利用が検討され、これらの燃料に適した簡易な再処理法である
乾式再処理 と併せた研究が行われている。
現在最も普通に用いられている酸化物燃料は二酸化物である。融点が高く、また融点まで変態がなく単一相で最も安定であり、且つ冷却水との両立性が良いという観点から選択されている。プルトニウムの酸化物はそれ以外に
表2 に示すPu
2 O
3 が知られているが、密度も融点も低いため、この化合物はMOX燃料には用いられていない。PuO
2 はUO
2 と同じ蛍石型面心立方(FCC)の結晶を作る。両者は高温まで全率固溶するが、Pu濃度が高くなると比較的低温でも二相分離しやすくなる。したがって、Puの濃度に関しては、二相分離しない組成を限度として混合酸化物を調製するようにしている。(注:ここでの二相分離とは、混合酸化物内での酸素の拡散によって酸素Oと重金属Mの比(O/M比)の異なる二つの相(低O/M相と高O/M相)が発生し、その二相の格子定数の違いによって結晶粒内で起こる相分離をいう。この相分離が進むとクラックが発生する原因となり得る。)
プルトニウムの炭化物はPuC、PuC
2 、Pu
2 C
3 の3種類が知られている。燃料として用いられるのは前2者が同型のウランの炭化物と固溶した混合炭化物として用いられる。その中でNaCl型面心立方(FCC)の(U,Pu)Cが高速炉用のペレットとして、また、正方晶の(U,Pu)C
2 が高温ガス炉用として黒鉛で被覆した微小球状粒子として用いられるが、何れも未だ本格的な実用段階には至っていない。
プルトニウムの窒化物はPuNだけが知られている。ウランとの混合窒化物(U,Pu)Nは炭化物と同一結晶形であり、将来の高速炉用燃料として期待されているものの一つである。炭化物との固溶体である炭窒化物、(U,Pu)(C,N)も炭化物と窒化物の両方の長所を生かせる可能性があるため、検討が行われている。
その他の
表2 に示したPuAs、PuS、PuSiのような化合物は核燃料の候補として検討は行われたが、いずれも上記の酸化物、炭化物、窒化物や金属合金に比べると欠点が多く、採用には至っていない。
3.今後のプルトニウム燃料の方向
核分裂
連鎖反応 により原子炉の臨界状態が維持され、さらに核分裂性物質の増殖が可能となるためには、中性子1個が吸収された時に新たに発生する中性子数(これをηと呼んでいる)が約2.2以上必要である。代表的な核分裂性物質のηを見ると、酸化物燃料を用いた場合の高速炉の中性子エネルギーでのηは、
235 Uが約1.9であるのに対し、
239 Puは約2.5である。中性子エネルギーがもっと高い領域においては
239 Puのη値はさらに大きくなり、例えば1MeVでは3に近い値になる。
241 Puもほぼ
239 Puと同様な傾向を示しており、プルトニウムは高速炉(高速中性子の割合が多い炉)に最も適した
核種 であることが明らかである。
さらに、この性質を生かすためには中性子エネルギーがより下がりにくい化合物を用いることが有利になってくるので、高速増殖炉燃料としては減速性の少ない金属、炭化物、窒化物を選ぶと増殖性を大きくすることができる。
プルトニウム燃料の再処理はウラン燃料とやや異なるところがあるので、十分な考慮が払われなければならない。特に、ペレット中にスポット的に100%PuO
2 またはそれに近い濃度の部分が散在すると、不溶解残渣として溶け残り易いので、燃料製造に際してはこのようなプルトニウムスポットができないように十分な注意が払われる。
なお、酸化物燃料の場合には、ウラン燃料とMOX燃料との間に本質的な差はないことから湿式再処理法がMOX燃料の再処理に利用されているが、他の形態の燃料を再処理する場合には、さらに研究開発が必要である。例えば、金属燃料の場合には工程が単純で高速炉サイクルに適した方法として乾式再処理法があり、実用化に向けた研究開発が進められている。
(前回更新:1998年3月)
<図/表>
表1 金属プルトニウムの変態
表2 プルトニウム化合物の物性
<関連タイトル>
日本におけるプルトニウムの軽水炉での利用状況 (02-08-04-03)
プルトニウム核種の生成 (04-09-01-01)
ウラン燃料とプルトニウム燃料の相違 (04-09-01-04)
混合酸化物(MOX)燃料の製造加工工程 (04-09-01-07)
プルトニウム燃料の特徴 (04-09-01-09)
<参考文献>
(1)O. J. Wick(編):Plutonium Handbook, A Guide to the Technology, Amer. Nucl. Society(1980)
(2)武藤正、笹尾信之:高速炉燃料開発シリーズ1、開発現状と問題点、原子力工業15巻1号、p.73-77(1969)
(3)M. Benedict, T. H. Pigford, H.W. Levi:Nuclear Chemical Engineering, 2nd ed., McGraw-Hill(1981)
(4)火力原子力発電技術協会(編):原子燃料サイクルと廃棄物処理、火力原子力発電技術協会(昭和61年)
(5)武藤正:プルトニウム施設とその管理、原子力工業、21巻2号、p.20-29(1975)
(6)J. J. Kalz, G. T. Seaborg, L. R. Morss(編):The Chemistry of the Actinide Elements, 2nd ed., Chapman and Hall(1986)
(7)木村雅彦ほか:FBR用MOX燃料の製造技術開発、動燃技報、No.95,18-26(1995.9)(8)河田東海夫、岸本洋一郎:プルトニウム燃料の開発、動燃技報、No.100,159−182(1996.12)
(9)紙谷正仁ほか:先進的湿式再処理/MOX製造の概念について、動燃技報、No.100,207-214(1996.12)