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<概要>
 再処理施設における核燃料物質の計量管理は、経理、運転管理、安全管理、法規制等に対応するため、ウランプルトニウムの存在を施設の境界での出入り、施設内での所在について数量的、連続的に把握することである。核物質は核兵器へ転用される可能性をもっているので国際的な規制が行われており、それに対応しなければ取り扱うことができない。再処理実施者は国内法により計量管理規定を定めて、国の査察と国際機関(IAEA)の査察に対応できるよう計量管理の質を維持しなければならない。
<更新年月>
1999年07月   (本データは原則として更新対象外とします。)

<本文>
1.計量管理の必要性
 再処理施設における核物質計量管理では、以下に記するような観点から核物質の移動、特に施設の境界での出入り、施設内での所在、取扱設備内の分布等を数量的及び連続的に把握する必要がある。
 再処理施設における計量管理は、次の4つの目的で実施される。(a)再処理事業は核物質を使用済燃料の形で受け取り、それからウラン、プルトニウム等の製品を生産することによって対価を受ける仕事である。したがってそれらの数量を経理上、確認しなければならない。(b)施設の運転管理上から主要な取扱物質である核物質の流れを把握することが必要である。(c)核燃料物質は、臨界安全性の観点から、中性子による核分裂連鎖反応を起こさないように安全管理が要請される。このためには核物質の数量、化学的形態、物理的形状等の把握が必要なこと。および(d)保障措置上、すなわち核物質の核兵器への転用を防止するために行う国際原子力機関(IAEA)が行う査察に対応する必要があるための、4点である。
 (a)(b)(c)のための計量管理は、それぞれの目的に合わせて適切な方法と精度で関係者が実施していくが、(d)の趣旨での計量管理は再処理の実施に当たって必須条件であり、一般に再処理施設の計量管理といえばこれを指すと考えてよい。
2.国際規制物資の管理
 国は上記(d)の趣旨で「核原料物質、核燃料物質及び原子炉の規制に関する法律」(以下規制法と略記する)に国際規制物資の使用について規定し、それを受けて国際規制物資の使用に関する規則(総理府令、以下府令と略記する)が定められ、また規制法の規定に基づき総理府告示で国際規制物資の定義を与えている。
 府令には計量管理に必要な諸概念、用語の定義と国際規制物資(以下、規制物資と略記する)の使用に伴う諸手続き、使用にあたって実施者が作成して認可を受ける「計量管理規定」、「記録」及び「報告」すべき項目等が定めてある。
 これらの基礎となり国際間でも共通化している計量管理の考え方について、次に説明する。表1に主な計量管理に関する術語を和文と英文で示す。
3.計量管理の方法
(a)物質収支区域(計量管理区域、MBA
 先ず、計量管理の実施にあたっては、その対象とする区域を限って確定することが必要で、これを物質収支区域の設定という(改正後の府令では計量管理区域を核燃料物質とその他の国際規制物資に分けて定義している)。
 物質収支区域は、保障措置の円滑な適用のため核燃料物質の受払量及び在庫量の計量を適切に行えるように設定する。
 一般に、物質収支区域を大きく取れば在庫量が大きくなって、後述の在庫差(MUF:不明物質量)を大きくする恐れがあり、小さく取って区域の数が増えれば受払量を計量する場所主要測定点(KMP)が増え、計量の手間、記録や報告の量が大きくなる。主要測定点には適切な計量が行なえる設備が必要(例えば均一化設備、液位又は重量測定設備、分析試料採取装置等の備わった計量槽等)である。
(b)在庫(INVENTORY)
 物質収支区域内の規制物資の存在量で、その増加、減少を在庫変動といい、一定の時点で一定の手続きに従い計量された在庫量を実在庫量(PI)という。最近の実在庫量に在庫変動を加減したものをその時点の帳簿在庫量(BI)という。
(c)在庫差(不明物質量、MUF)
 在庫差は、帳簿上の在庫量と実在庫量の差であって、次の式で表現できる。
    MUF=PB+X−Y−PE  (1)
    PB:当計量期間の期首実在庫
    PE:当計量期間の期末実在庫(次の計量期間の期首実在庫)
     X:当計量期間の在庫の増加分(主として当期の受入量、使用済燃料中の核燃料物質等)
     Y:当計量期間の在庫の減少分(主として当期の払出量、ウラン、プルトニウム製品、廃棄物中の測定済規制物資等)
 特定の計量期間を閉じることで得られる在庫差は、通常、各項の計量に伴ういろいろな誤差、定量化されなかった工程設備中の内蔵量(ホールドアップ)、未計量の損失等のため0にはならない。
 観測された在庫差は、府令では記録、報告の対象になっている。
(d)受払間差異(SRD)
 払出し物質収支区域から通報された量と受入れ物質収支区域で測定された量との差を受払間差異という。例えば、原子炉側で計量(燃焼計算による推計を含む)した使用済燃料中の核物質量と再処理工場で計量(溶解槽溶液の計量槽での容量測定と試料の分析値から算出)した値との差である。
(e)計量の精度
 転用の防止という保障措置上の要求からは、計量管理の確からしさは最も関心の深いところであって、そのレベルを適切なものとするため、計量管理システム及び測定方法、分析方法等の計量方法に対して類似の施設、方法について統計的なデータをもとに各種の評価を国際的な場で検討したりして、共通の目安を設定する努力が行われている。
 計量の精度については、容量測定誤差、サンプリング誤差、分析誤差等の発生、伝播、評価などについて関係者間で詳細な検討がなされており、計量管理の質の向上の努力が図られている。
(f)物質収支の評価
 物質収支の健全性の判定と保障措置上の意味、それに基づく関係者の対応等については別項目の保障措置を参照されたい。
4.計量管理の保障措置上の意義
 1957年 IAEA憲章が発効したが、更に核兵器保有国の増加を防ぐため、1970年核拡散防止条約(NPT)が採択され、これに基づく保障措置(Safeguards)もIAEAを実施機関として行われることになった。NPTの下では、保障措置の手段として適切な質の計量管理が根幹となるという合意があり約束ごとになっている。
 しかし施設の大型化や複雑化に際して、計量管理すなわち物質収支の定量的把握のみでは核物質の転用の推測さらに不転用の確認には不充分であろうと言うのが、現在の保障措置システムの構築に当たっての定説になって来ている。特に施設が大型になり核燃料物質の取扱量が増すと在庫差の数値が大きくなる可能性があるので、対応手段として計量期間を短縮していけば在庫差が小さくなり、在庫差の異常の発見も早くなり得るという考え方がある。この考え方に沿いながら、プラントの操業を止めて実施する在庫調査を必要としないことを目指した近実時間計量管理(NRTA)という手法が研究されている。
 更に施設(物質収支区域)の境界に於ける物、人(物を携帯している可能性)の出入りを直接、間接に取り締まる封じ込め・監視方式(C/S)を計量管理方式に重ねることなどが検討されている。
5.計量管理制度の運用
 国は、核不拡散条約に基づく国際保障措置に対応して国内保障措置制度を確立、維持するため、規制法に基づき(財)核物質管理センターを指定情報処理機関に指定して、核燃料計量情報の処理業務及び国内査察業務として施設側データの検認のため,国が収去(採採)した試料の分析、査察用機器の較正調整等を委託して実施している。
<図/表>
表1 計量管理に関する術語
表1  計量管理に関する術語

<関連タイトル>
使用済燃料の受入、貯蔵 (04-07-02-01)
再処理技術の現状 (04-07-01-06)
溶媒抽出工程 (04-07-02-03)
再処理施設の工程設計 (04-07-03-02)
転換工程 (04-07-02-04)

<参考文献>
(1)科学技術庁原子力安全局保障措置課(監修):原子力規制関係法令集1994年版、大成出版社。
(2)(財)核物質管理センター(監修):IAEA保障措置用語集(IAEA SAFEGUARDS GLOSSARY)増補改定版。
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