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<概要>
 高レベル放射性廃液(以下、「HAW」という)のタンク貯蔵は35年以上の実績がある。しかし安全管理上の観点から固化技術が開発されてきた。35年以上にわたる世界各国の各種固化技術開発の経過の中から、固化技術はAVM 法およびLFCM法によるガラス固化法に絞られてきた。両固化処理法の特徴および固化体の特性・仕様、さらには返還固化体の仕様について述べる。
<更新年月>
2020年10月   

<本文>
 我が国では使用済燃料の再処理に伴って発生する高レベル放射性廃液は、安定な形態にガラス固化した後、30年から50年間程度冷却のための貯蔵を行い、その後、地下の深い地層中に処分(地層処分)することとしている。
 HAWは、再処理工程において、第1サイクルの抽出廃液を主体とする廃液を蒸発処理して発生した濃縮液である。発生量は使用済燃料1トン当たり約500リットル、その比放射能は約3.7×1013Bq(1,000Ci)/リットルである。
1.HAWの組成
 HAWは、表1に示されるように、核分裂生成物FP)、超ウラン元素(TRU:Transuranic)以外に再処理工程中で添加された薬品のナトリウムなど、および工程機器、塔槽類、配管からの腐食生成物を含み、使用済み燃料1トン当たり約500リットル程度発生する。FP酸化物の濃度は60〜65g/リットル、アクチニド核種は2〜5g/リットル程度である。
2.HAWの性質
 HAWの全放射能量と熱発生率は本質的にはFP濃度(燃料燃焼度にほぼ比例する)および炉外経過時間に関連する。例えば、燃焼度30GWd/t、150日冷却の燃料を再処理した直後では放射能濃度および熱発生率はそれぞれ3.0×1014Bq(8,000Ci)/リットルおよび40W/リットル程度であるが、4〜5年後で約1/10に、100年後で約1/100に減少し、500〜600年後にはFPの大部分は崩壊して安定元素になる。ただし、長寿命のFP(ヨウ素−129、テクネチウム−99など)とTRU核種はなお長期にわたり微量の放射線と崩壊熱を放出する。図1に各種燃焼度の軽水炉ウラン燃料再処理廃棄物の放射能の時間変化を示す。
3.HAWのタンク貯蔵
 各再処理工程で発生したHAWはほとんどをタンクに受け入れており、35年以上の貯蔵実績を有する。HAWの貯蔵には、現在ステンレス鋼製のタンクが用いられている。廃液の硝酸濃度はステンレス鋼の腐食特性から2〜3モル/リットルを維持する必要がある(腐食速度は0.01mm/年以下である)。崩壊熱による液温度の上昇及び腐食の進行を抑制するための崩壊熱除去機能並びにHAW中の水の放射線分解により発生する水素の滞留を防止するための水素掃気機能などを有している。タンクの大きさは100〜200立方メートルのものが多く用いられ、廃液の万一の漏洩に備えドリップトレイと予備のタンクが設けられている。
4.HAW固化処理法の研究開発
 米国ワシントン州ハンフォードのプルトニウム生産施設において発生した再処理廃液は中和処理された後、炭素鋼性のタンクに貯蔵されていたが、タンクが腐食したため廃液が周辺土壌に漏洩し環境が汚染された。このため、1950年代半ば頃から、米国DOEにおいて、HAWを固形化(固化体)する技術の研究開発が開始された。
 固化体として要求される特性として、放射線に対する安定性、熱的安定性、機械的および化学的安定性に優れていることが必要で、これに適合するものとしてガラス、セラミックスおよびガラス−金属複合体などが開発された。ガラス固化体は、廃液をケイ素酸化物、ホウ素酸化物、酸化ナトリウムおよび酸化カルシウムなどからなるガラス素材とともに溶融する方法(「ガラス固化法」)で製作される。セラミックスは、廃液と上記ガラス素材を混合・加熱・圧縮し安定な焼結体としたものである。ガラス−金属複合体は、上述のガラスをビーズ状に成形し化学的に安定な低融点金属(鉛または鉛合金)母材に埋め込み、熱伝導性と機械的強度の向上を図ったもの(「ビトロメット法」)である。また、FPやTRUを結晶構造内に保持し安定な結晶性固化体とする「人工岩石(シンロック)法」の開発研究が実施された。(日豪共同研究)。
 各種固化体の中で、ホウケイ酸ガラスは物理的安定性、耐浸出性および耐放射線性に優れている。固化体のバリヤ特性を維持するのにステンレス鋼製容器(キャニスター)および炭素鋼製などのオーバーパック材が有効であり、これらから構成されるパッケージとしての製造技術の開発も進んでおり、実用規模で実証されつつあることから、「ガラス固化法」がHAWの第一世代の固化法として定着している。
5.各国におけるHAW固化技術開発
 米国では1953年より「流動床仮焼法」、「スプレー仮焼・ガラス化法」(「VERA法」)をはじめ種々の方法について広範な研究が行われ、現在の流動床仮焼法(中間製品として仮焼体を貯蔵)および「液体供給式直接通電型セラミックメルタガラス固化法」(「LFCM法」)(後述)に絞られた。
 仏国は1956年より「ポットガラス化法」(「PIVER法」)の研究を開始し、1968年マルクールに整備された原型施設PIVERにおいて25 m3の高レベル放射性溶液のガラス固化に成功し、工業規模でのガラス固化技術を世界に先駆け実証した。ついで、PIVERより得た基本原理をベースに、1978年、産業規模のガラス固化施設AVM(Atelier de Vitrification de Marcoule)が再処理施設UP1に付置され、高レベル放射性廃液のガラス固化を行った。その後、AVMでの工業的知見を反映し、さらにスケールを拡大した商業規模のガラス固化施設 (Atelier de Vitrification La Hague)であるR7、T7がラ・アーグの再処理施設UP2、UP3にそれぞれに付置され、ガラス固化体の製造を行った。その後、2005年から処理能力向上や2次廃棄物を削減するため、水冷のメルタを用いた「コールドクルーシブル誘導溶融法」(CCIM;Cold Crucible Induction Melter)の開発(「Vitirification 2010」プロジェクト)を進め、2010年にR7にCCIMを導入している。
 なお、PIVERは1990年前半に廃止された。AVMは、UP1の廃止措置移行後、UP1の廃止措置により発生した工程洗浄液などの高レベル放射性廃液のガラス固化に重要な役割を果たし、2012年に閉鎖されている。
 英国では1956年より「ポットガラス化法」(「FINGAL法」)の研究を開始し、1970年代には規模を大きくした「HARVEST法」計画に発展させ、開発を進めてきたが、1980年、同時期に仏国で開発が進められていたAVMの技術を導入することとなった。1982年には、より処理能力の高い仏国R7/T7方式のプロセスが採用され、1990年に廃棄物固化プラント(WVP:Waste Vitrification Plant)が運転を開始した。1982年には、AVMの技術より処理能力の高い、仏国のR7/D7が採用され、1990年に廃棄物固化プラント(WVP:Waste Vitrification Plant)が運転を開始した。
 ドイツは1970年代に「スプレー仮焼・セラミックメルタガラス化法」の研究に続いて「PAMELA法」(ビトロメットのできるLFCM法)を開発し、ベルギーのモル−デッセル(MOL−Dessel)サイト内のユーロケミック(Eurochemic)再処理施設のHAWを処理した実績をもつ。また、2009年から2010年にかけて、「LFCM法」により、カールスルーエ(Karlsruhe)再処理施設のHAWを処理した。
 日本では1972年より動力炉・核燃料開発事業団(以下「動燃」という)および日本原子力研究所(以下「原研」という)(後に動燃(1998年に核燃料サイクル機構に改組)と原研は2005年に統合され日本原子力研究開発機構(以下「原子力機構」という)に改組)でHAWの仮焼の研究が開始された。
 動燃は1982年から「LFCM法」による実規模のガラス固化装置によって模擬廃液を用いた試験を実施するとともに、実廃液を用いたホット試験を実施した。これらの成果をもとに、東海再処理施設にガラス固化技術開発施設(TVF)を設計し1988年に着工、1994年からのホット試運転を経て1995年2月に我が国初の実規模のガラス固化体を製造、同年から開発運転を行っている。TVFにおける技術開発成果は日本原燃(株)が青森県六ヶ所村に建設中の商業再処理施設に導入され、国産技術による商業ガラス固化施設の操業に反映されている。
6.AVMガラス固化法
 AVM(Atelier de Vitrification de Marcoule)は、ロータリーキルン仮焼炉による仮焼と誘導加熱溶融炉を用いたガラス固化の2ステップをもつガラス固化施設(図2参照)である。ロータリーキルンは僅かに傾斜を保ち約30rpmで回転し、4つの外部加熱器により区分加熱される。HAWは上部より供給して円筒の前半部で乾燥、後半下部において300〜400℃で仮焼し最後部下端からガラス原料とともに重力により溶融炉内に落下する。円筒内でのケーキングを防ぐため予め薬品が加えられ、また、円筒内に自由に転がる鉄ロットが内蔵され、粉末状仮焼体が得られる。溶融炉はインコネル製坩堝で5分割された誘導加熱器により約1,100℃に維持される。溶融時間は8時間で溶けたガラスは下部フリージングバルブを通してキャニスター(容器)に注入されてガラス固化体になり、空冷貯蔵所に収納される。
 オフガス系はサイクロン、スクラバ、コンデンサー、NOX吸収塔、Ru吸収塔およびHEPAフィルタなどにより構成されている。仮焼炉および溶融炉は遠隔保守ができるように設計されており、インコネル坩堝の寿命は約2,000時間と言われている。
7.LFCMガラス固化法
 LFCM(Liquid Fed Ceramic Melter)法(図3参照)は、ガラス溶融炉に耐熱性、耐食性に富んだセラミック(耐火レンガ)を用いており、HAWを液体のままガラス原料とともに連続的に供給し溶融する。ガラスは高温状態では電気伝導体であることから、まず外部から炭化ケイ素ヒーターまたはマイクロ波加熱により溶融点近くまで加熱し、その後溶融炉内の電極を介してガラスに直接電流を通し、そのときに発生する熱(ジュール熱)によりガラスを加熱溶融する。このときの炉内温度は1,100〜1,200℃に制御される。溶融ガラスはノズル(フリーズバルブ方式)を通しキャニスターに注入してガラス固化体にする。電極材およびノズルには耐食性に優れたインコネルが用いられている。この方法は以前からガラス製造の分野で用いられており、使用実績が豊富である。
 LFCM法は大容量化、長寿命化(炉の設計寿命は5年)、プロセス簡単化などの面でAVM法に比べて有利であり、また、HAWを直接供給するために溶融ガラスの表面が低温に維持されるので、オフガスへのRu、Csなどの揮発性核種の移行を抑制できる利点がある。オフガスにはエアロゾルや粉塵などが含まれており、これらを処理するためのオフガス系はダストスクラバ、ベンチュリスクラバ、吸収塔、Ru吸着塔、HEPAフィルタなどから成る。ガラス固化施設では放射能レベルが高く直接作業員がアクセスできないために遠隔操作による運転、保守ができるようにしている。
 ホウケイ酸ガラスの基本特性と動燃のガラス固化体の組成および仕様を表2図4に示す。また、図5に我が国(動燃および日本原燃)とフランスのガラス固化体の仕様を比較して示す。
8.ガラス固化技術開発施設(TVF)
 TVF(Tokai Vitrification Facility)は動燃において開発され、HAWを安定で取扱いが容易な形態であるガラス固化体にするためのパイロット施設であり、受入・前処理工程、ガラス溶融工程、ガラス固化体取扱工程、オフガス処理工程、二次廃液処理工程からなっている(図6参照)。溶融炉の廃液処理能力は1日当たり0.35立方メートル、ガラス固化体の保管能力は420本である。なお、TVFにおいて製造されるガラス固化体の仕様および標準化学組成は図4に示すとおりである。
 TVFの主な特徴を列挙すると、
 (1)ガラス溶融炉の長寿命化とガラス固化プロセスの簡素化をはかる観点からLFCM法を採用、また、ガラス溶融炉からの粉塵発生を抑制しオフガス処理工程の負担を軽減する観点から、ガラスファイバーカートリッジ方式を採用している。
 (2)作業者の被ばく量低減と施設運転稼働率の向上の観点から、全遠隔保守方式を採用、また、遠隔操作・保守を容易にするためにセル内機器をモジュール化しラック単位に組み込むとともに遠隔継ぎ手を採用している。
 (3)固化セル内の換気は低風量換気方式を採用し、風量の低減化による換気設備の合理化を図っている。
 TVFは1988年に着工、1994年からホット試運転を実施し、1995年2月に我が国初の実規模のガラス固化体を製造、2020年3月までに累積で316本のガラス固化体を製造した。
 これまでの経験、実績をみて、プラント規模でのガラス固化技術の成立性は実証されたものと考えられる。TVFでは固化プラントの初期の能力の維持、特に溶融炉の性能に影響する白金族元素の堆積などの課題の解決とそのための技術開発が進められている。
9.六ヶ所再処理工場の現状
 六ヶ所再処理工場のHAWガラス固化施設では、2007年8月から、2013年5月にかけて、HAWを用いたアクティブ試験においてガラス固化体製作の確認試験が実施された。
 試験の目的は、(1)機器の動作および性能の確認、(2)機器等の不具合、故障発見および手直し、(3)運転要員等の技術的能力の向上、などである。
 六ヶ所再処理工場のしゅん工は、2021年度上期に予定している。

 (前回更新:2010年2月)
 
<図/表>
表1 高レベル廃液の量と組成例
表1  高レベル廃液の量と組成例
表2 ホウケイ酸ガラスの基本特性
表2  ホウケイ酸ガラスの基本特性
図1 軽水炉ウラン燃料再処理廃棄物の放射能の時間変化
図1  軽水炉ウラン燃料再処理廃棄物の放射能の時間変化
図2 フランスMarcouleガラス固化工場(AVM)で用いられる連続工程
図2  フランスMarcouleガラス固化工場(AVM)で用いられる連続工程
図3 廃液供給式直接通電型セラミックメルタ鳥瞰図
図3  廃液供給式直接通電型セラミックメルタ鳥瞰図
図4 ガラス固化体の基本特性
図4  ガラス固化体の基本特性
図5 日本とフランスのガラス固化体の仕様の比較
図5  日本とフランスのガラス固化体の仕様の比較
図6 『ガラス固化技術開発施設』の主要工程
図6  『ガラス固化技術開発施設』の主要工程

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<関連タイトル>
軽水炉の使用済燃料 (04-07-01-02)
溶媒抽出工程 (04-07-02-03)
再処理廃棄物の特性 (04-07-02-05)
高レベル廃液ガラス固化処理の研究開発 (05-01-02-04)
ガラス固化技術開発施設(TVF) (06-01-05-09)
高レベル放射性廃棄物の処理対策の概要 (11-02-04-03)
東海再処理施設における放射性液体廃棄物管理状況(1977年度〜2002年度) (12-04-01-02)

<参考文献>
(1)日本原子力産業会議(編):放射性廃棄物管理ガイドブック1994年版、1994年7月
(2)放射性廃棄物の処理 2.高レベル廃棄物対策、動燃技報 No.59(1986)
(3)天沼、阪田(監修):高レベル放射性廃棄物の処理処分
(4)清瀬量平:原子力化学工学(第3分冊)使用済燃料とプルトニウムの化学工学および(第4分冊)燃料再処理と放射性廃棄物管理の化学工学、日刊工業新聞社(1983)
(5)日本原子力産業会議:原子力ポケットブック−1997年度版、1997年5月、p.220
(6)大内 仁 ほか:放射性廃棄物の処理技術開発、動燃技報 No.100、p.219−220(1997)
(7)動燃事業団:ガラス固化体キャニスタの概念図、ガラス固化体の仕様、FACT PNC TN1450 94-003、50-51(1994)
(8)日本原子力産業会議(編):放射性廃棄物管理−日本の技術開発と計画、1997年7月,p155-184
(9)動燃事業団:高レベル放射性廃棄物ガラス固化体のインベントリー評価(研究報告)JNC TN8400 99-085(1999年11月)
(10)日本電気協会新聞部:原子力ポケットブック2009年版(2009年8月)、p271
(11)資源エネルギー庁:放射性廃棄物のホームページ
(12) E. Chauvin, R. Do Quang, F. Drain, F. Pereira Mendes, “French Industrial Vitrification Plant: 30 Years old, Robust and still Innovating”., Global 2009, Paris, France (2009)
(13) Vernaza E., Brueziere J., “History of Nuclear Waste Glass in France”, Procedia Materials Science, 7, p.3 – 9( 2014 )
(14) Mike T. Harrison, “Vitrification of High Level Waste in the UK”, Procedia Materials Science 7, p.10 – 15(2014)
(15)CEAホームページ: “NUCLEAR DISMANTLING, Research and innovation dedicated to dismantling”, http://www.cea.fr/english/Pages/research-areas/nuclear-energy/nuclear-dismantling.aspx?Type=Chapitre&numero=2

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