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<概要>
 溶媒抽出工程は、使用済燃料の硝酸溶解液中のウランおよび(または)プルトニウムを溶媒に抽出し、分離・精製する工程である。溶媒は水と分離しやすく、ウランおよびプルトニウムに対する選択的親和性および化学薬品と放射線に対する安定性に優れたTBP+炭化水素系の有機溶媒が主として用いられている。溶媒抽出装置にはミキサセトラ、パルスカラムまたは遠心式抽出器などがある。
<更新年月>
2003年03月   

<本文>
1.ピューレックス法
 ウランとプルトニウムの回収のために各種の溶媒抽出法が開発された。そのうちの主要な溶媒は、
 (a)Methyl iso−butyl keton(Hexon)   レドックス法   (Redox法)
 (b)Di−butyl carbitol(DBC)       ブテックス法   (Butex法)
 (c)Tri−butyl phosphate (TBP)    ピューレックス法 (Purex法)
であった。このうち最も安定性に富み、放射性廃棄物発生量の低減などにおいて取扱いやすいTBPを用いるピューレックス法が優位を占めるようになった。粘度、比重について抽出・分離操作に都合のよい範囲とするためTBPを炭素数12程度の炭化水素で希釈して用いる。
2.溶媒抽出・分離の原理
 TBPによるウランおよびプルトニウムの抽出反応とは、水溶液中の硝酸ウラニルおよび硝酸プルトニウムが、水溶液と溶媒が互いに接している界面において希釈剤(炭化水素)に溶け込んでいるTBPと錯化合物を作り、溶媒側に移ることである。
 抽出すべき成分(ウラン、プルトニウム)を含む水溶液と溶媒を同一容器に入れ、十分に攪拌したのち静置すると、互いに溶け合わない性質(水と油)によって2つの相に分かれ、このとき成分(溶質)は、2つの相に一定の割合で(平衡状態で)分配される。これを抽出単位操作(1段)という。この割合は、分配係数:kd=溶媒相中の成分の濃度/水溶液中の成分の濃度として定義される。kdの値は、成分元素の種類および原子価、水溶液の酸濃度、温度、溶媒組成などに支配されて定まる(図1参照)。
 1例として、kd=4の場合を考えよう。溶媒(有機相)と水溶液(水相)が等量とすると、抽出単位操作(1段)では溶質(例えばウラン)の80%が有機相に、20%が水相に分配される。抽出単位操作(1段)では平衡関係であるからこれ以上の抽出は行われない。
 次に、20%の溶質を含む水相を取り分け、等量の新しい溶媒と抽出単位操作を行うと、溶質の16%が有機相に、4%が水相に分配される。即ち2段の抽出単位操作では96%の溶質が有機相に分離できたことになる。3段では、99.2%、4段では99.84%、5段では99.97%が分離できる理屈である。
 目的の物質のほぼ全量を抽出したい場合、抽出単位操作を繰り返す(多段抽出操作)のが通例である。多段化にあたり各段に新しい溶媒を加えると全体の溶媒量が増えてしまうので、新しい溶媒ではなく次段目の溶質をより少なく含んでいる溶媒を回すことにする。このようにすると各段の単位操作間で有機相と水相が反対方向に受渡しされることになる。これを多段向流方式といい、実用装置はこれを実現するものである。
 工学的に多段抽出操作を実用化する装置については、4.に解説する。
 図1から分かるように水相の硝酸濃度が低くなるとウランの有機相への分配係数は減少する。これを利用してウランを含む有機相を水又は希薄硝酸と攪拌、静置するとウランの大部分は水相中に移る。これを逆抽出(逆抽出単位操作1段)という。また、抽出部の酸濃度に近い硝酸濃度において、溶媒のウラン濃度が分配係数に及ぼす影響が図2から分かる。
 特定の溶媒における各物質の間の分配係数の差(抽出反応では関与する分子、イオン、又は錯イオンの電気化学的性質が関係しているので同じ物質でも原子価によって分配係数が異なる)を利用し、抽出、逆抽出を組み合わせて、目的物質の溶媒抽出による分離・精製工程が設計される。
 多数の元素を含む溶液中から特定の元素のみを効率よく抽出できる溶媒を選択性のよい溶媒という。優れた抽出プロセスの条件はほぼ次のようである。
(a)使用する溶媒が適切であること。
(b)抽出操作に先立って水溶液を調整(抽出しようとする元素の原子価、酸濃度、温度などを調整する)して、目的とする元素のkdの値を大きくすること(相対的に他の元素のkdを小さくすること)。
(c)目的とする元素の溶媒中濃度を多くし、できるだけ飽和値に近づけること。このためには水溶液と溶媒の流量比率などを適切に定めることも重要である。
3.溶媒抽出・分離工程
 再処理の抽出分離工程は使用済燃料溶解液中のウランおよびプルトニウムを核分裂生成物から分離し、精製することが目的である。このため、溶解液の硝酸濃度を約3モルに調整し、溶媒と接触させるとウランとプルトニウム(原子価4価に調整しておく)が溶媒に抽出され、大部分の核分裂生成物は水溶液に残る。次にウランおよびプルトニウムを含む溶媒を水または希薄硝酸と接触させるとウランとプルトニウムは逆抽出されて水溶液に戻る。この工程を第1サイクルまたは共除染サイクルと呼んでいる。核分裂生成物を含む抽出廃液は濃縮処理され、逆抽出の済んだ溶媒は硝酸およびアルカリ溶液で洗浄され、再使用される。ウランおよびプルトニウムを含む水溶液(逆抽出液)は、酸度を調整した後、再び溶媒と接触させ、ウランとプルトニウムを抽出し、残存する核分裂生成物を更に分離する。溶媒中のウランとプルトニウムを還元剤(硝酸酸性のウラナス溶液または硝酸ヒドロキシルアミンおよびヒドラジン溶液)と接触させるとプルトニウムのみが原子価3に還元されて溶媒から離脱し、水溶液中に移る。この後、ウランを含む溶媒を希薄硝酸と接触させるとウランのみを含む水溶液が得られる。この工程は第2サイクルまたは分配サイクルと呼ばれている。なお、第1サイクルでウランとプルトニウムを抽出した溶媒に還元剤を加えてプルトニウムのみを水相側に移し、溶媒中に残るウランと分離してしまう方法もある。すなわち第1サイクルと第2サイクルで行われている核分裂性生物の分離を1サイクル分省略したことになる。新しい再処理工場は主としてこの方式が採用されている。
 分離されたウランおよびプルトニウムを精製するために、これらを含む水溶液はそれぞれ第1サイクルと同様に抽出および逆抽出を繰り返す。この工程を第3サイクル(共除染サイクルを省略した場合は第2サイクル)または精製サイクルと呼んでいる。精製サイクルの逆抽出液は蒸発濃縮後、プルトニウムは硝酸塩溶液として、ウランは硝酸ウラニル塩溶液として抽出工程の製品となる。なお、核兵器に利用しやすいとして核不拡散政策の観点から注目されるプルトニウムのみを含む製品を工程外へ出きるだけ出さないようにウランとはっきり分離しない工程設計も考えられている。
4.溶媒抽出装置
 核燃料物質を処理する溶媒抽出装置は臨界安全管理上から形状寸法の制限を受けるため小型で高性能、高信頼性のものが要求される。また、溶媒は多量の放射性物質と接触するので、放射線による損傷を受けやすい。これを防ぐために、燃料溶解液との接触時間を可能な限り短くする必要がある。現在のところ、再処理工場で使われている溶媒抽出装置は、ミキサセトラ、パルスカラム、遠心抽出器およびそれらを組合せたものである。
4.1 ミキサセトラ
 再処理工場で豊富な使用実績があり、技術的に高い信頼性がある。しかし抽出器内の滞留時間が長いので溶媒が放射線損傷を受けやすい欠点がある。図3にミキサセトラの概要を示す。ミキサセトラは抽出攪拌槽(ミキサ)と2相分離槽(セトラ)で構成される。ミキサ部で攪拌機により混合された水溶液(水相)と溶媒(有機相)はセトラ部で分離され、比重差により水相は下部に設けられた堰をもつ出口から次の段のミキサ部に流入し、溶媒はセトラ上部の出口から前段のミキサ部へ流入する。ポンプミックス型ミキサセトラとは回転式攪拌機のポンプ作用を利用して落差なく並べられた複数のミキサセトラユニット内の流体を動かすように設計された装置である。
4.2 パルスカラム
 現在建設中の新鋭再処理工場である六ヵ所再処理工場に広く採用されている。抽出器内の溶媒の滞留時間がミキサセトラに比べて短いので溶媒の放射線損傷が少ない利点がある。図4にパルスカラムの概要を示す。多数の多孔板を塔軸に沿って並べ、塔内の液体にパルスを与えることにより、多孔板の孔を通過するときのノズル効果で水溶液を溶媒相に液滴として効率よく分散させ、抽出を効果的に行わせる。抽出の場合は分散相は水相に、溶媒を連続相にし、逆抽出の場合は分散相を溶媒に、連続相を水溶液にするのが通常採用されている手法である。パルスの与え方は、パルス発生機構が直接液と接触しないエアパルス方式が機器の保守の面で利点があるので多く採用されている。多孔板の孔径はパルス条件に依存し(通常3mm程度)、パルスのサイクル毎に新しい界面が形成されるようになる運転操作が必要である。
 連続相、分散相ともに多孔板の孔を通過し軽い溶媒相は下方より上方に、重い水相は上方より下方に流れ、両相は向流接触する。抽出パルスカラムでは塔底部に、逆抽出パルスカラムでは塔頂部に水相−溶媒相の界面が設定される。
 図5にUP3(フランス)および六ヶ所再処理工場で実用されているパルスカラムを示す。
4.3 遠心抽出器
 ミキサセトラおよびパルスカラムの臨界安全形状制限およびに溶媒劣化に関する課題を解決するために遠心抽出器が開発されてきた。本抽出器の一例は図5(左)に示されるように液を回転させ、遠心力を利用して両相を強制的に相分離し、効率よく抽出・分離を行うことが特徴である。水相と溶媒相は回転板を通って上方へ流れ強制分散がおこなわれ、次いで両相分離部に入る。遠心力により比重の大きい水相は回転筒の外周部に集まり、回転筒に開けられた孔を通って静止外筒と回転筒との間の受液部に流れる。比重の小さい溶媒相は回転軸の近くに集まり、上端仕切り板の孔を通って上方へ流れ受液部に流出する(仏国ロバテル社により開発されたもの)。
 米国では、サバンナリバープラントの第1サイクルに1966年に採用され、現在まで運転が続けられている。これをアルゴンヌ国立研究所で改良した遠心抽出器の概略図を図6(右)に示す。下部の混合部を削除しローターとケーシングの間で混合を行うように改良されたためアニュラー型と呼ばれている。ドイツやスウェーデンおよび日本(核燃料サイクル開発機構(現日本原子力研究開発機構))でも遠心速抽出器の技術開発が進められている。
<図/表>
図1 分配係数に及ぼす硝酸濃度の影響
図1  分配係数に及ぼす硝酸濃度の影響
図2 分配係数に及ぼす溶媒飽和度の影響
図2  分配係数に及ぼす溶媒飽和度の影響
図3 ミキサセトラの概念図
図3  ミキサセトラの概念図
図4 パルスカラムの概念図
図4  パルスカラムの概念図
図5 UP3および六ヶ所再処理工場のパルスカラムの説明図
図5  UP3および六ヶ所再処理工場のパルスカラムの説明図
図6 遠心抽出器の概念図
図6  遠心抽出器の概念図

<関連タイトル>
軽水炉の使用済燃料 (04-07-01-02)
再処理の前処理工程 (04-07-02-02)
再処理廃棄物の特性 (04-07-02-05)

<参考文献>
(1) 清瀬 量平(訳): 原子力化学工学(第3分冊)使用済燃料とプルトニウムの化学工学及び(第4分冊)燃料再処理と放射性廃棄物管理の化学工学 (1983)
(2) 林 正太郎ほか: 遠心抽出器の開発、動燃技報 No.70 (1989)
(3) 動燃技報 No.59「3.湿式回収技術開発」(1986)
(4) 火力原子力発電技術協会(編):やさしい原子力発電、火力原子力発電技術協会(1990年6月)
(5) 火力原子力発電技術協会(編):原子燃料サイクルと廃棄物処理、火力原子力発電技術協会(1986年)
(6) 住谷 寛ほか:再処理工場開発の現状−六ヶ所再処理工場施設の概要と安全性を探る−、原子力工業、38(10)?32(1992)
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