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<概要>
 原子炉に使用するウラン燃料は、二酸化ウランと金属ウランの2つに大別される。発電炉には種々の型式があるが、主として二酸化ウランをペレットに成型し、被覆管に収納した燃料を用いている。ウラン金属(合金)の燃料を使用する原子炉は、ほとんどが研究炉及び材料試験炉であり、発電炉ではわが国が最初にイギリスより輸入したコールダホール改良型の東海発電所がある。このほか、二酸化ウランの燃料核に二重(BISO)または三重(TRISO)の被覆をした被覆粒子燃料が、高温ガス炉に使用されている。炉型別に使用されている燃料の仕様や特徴などについて概括する。
<更新年月>
2009年11月   

<本文>
 原子炉型別に使用されているウラン燃料(プルトニウムを含む)について、一覧表にまとめて 表1 に示す。酸化物燃料と金属(合金)燃料に分けて以下に述べる。
1.二酸化ウラン燃料
 二酸化ウランは、水との両立性に優れ融点が高く(約2800℃)、かつ融点まで相変態がないため高い出力密度で使用でき、多くの発電炉の燃料に採用されている。薄肉のジルコニウム合金またはステンレス鋼の被覆管の中に二酸化ウラン焼結ペレットを多数個詰めて、その両端を溶接・密閉して燃料棒燃料ピン燃料要素と呼ぶこともある)とし、この燃料棒を格子状(正方格子状、六角格子状、クラスタ−状など)に組んで燃料集合体としている。
1.1 発電炉用燃料
1.1.1 軽水炉の燃料
 軽水炉の中で代表的なBWR沸騰水型炉)及びPWR(加圧水型炉)のいずれも二酸化ウラン燃料を用いており、多くは正方格子状燃料集合体であるが、旧ソビエト連邦のPWR(VVER)は六角格子状燃料集合体である。1986年4月、これまでの最大の原子炉事故を起こしたチェルノブイル原子力発電所4号機(RBMK型、黒鉛減速沸騰水冷却圧力管型)にも、この燃料が使用されていた。
  図1にBWRとPWRの燃料集合体を比較して示す。また、RBMKの燃料集合体を図2に、VVERの燃料集合体を図3に示す。
(a)BWR(沸騰水型炉)
 燃料棒は、U-235濃縮度2−4%程度の二酸化ウラン焼結ペレットをジルカロイ−2合金で被覆したものである。この燃料棒が正方格子状(7×7、8×8など)に配列し燃料集合体を構成している。
(b)RBMK(黒鉛減速沸騰水冷却圧力管型原子炉)
 この型式の炉では、積み重ねられた多数の黒鉛のブロックの中に、約1700本の圧力管(燃料チャンネルと呼ばれる)が貫通しており、その圧力管の中に燃料棒を入れ、原子炉冷却材(軽水)を流すことにより熱を取る方式となっている。このため、圧力管型炉あるいはチャンネル型炉とも呼ばれる。1体の圧力管には、1体の燃料集合体が装荷されており、1体の燃料集合体は18本の燃料棒で構成され、3.5m長の燃料棒が2本縦方向に連結している。燃料としては、1000MWe級で濃縮度2%の二酸化ウランを、被覆材にはZr-1%Nb合金を用いている。
 なお、1986年のチェルノブリ原発(RBMK型)4号機の原子炉事故後、残り3基の原発は計画に従い順次停止が進められ、2000年末に3号機の停止により完全閉鎖された。
(c)PWR(加圧水冷却型炉)
 燃料棒は、BWRと同様の低濃縮ウランで、二酸化ウラン焼結ペレットをジルカロイ−4合金で被覆したものである。この燃料棒を正方格子状(14×14、17×17など)に配列し、燃料集合体を構成している。燃料棒はBWRより若干細い。
(d)VVER(ロシア型加圧水冷却型原子炉)
 この炉型は、欧米のPWRのロシア版で、被覆材がZr-1%Nb合金であること、燃料棒の配列が六方格子状であることなどが異なる。
1.1.2 重水炉の燃料
(a)CANDU(CANDU-PHW)(重水減速重水冷却圧力管型)
 CANDUとは、CANada Deuterium Uranium の略で、カナダが独自に開発した重水減速重水冷却圧力管型原子炉を意味する。 図4にCANDUの燃料集合体を示す。燃料集合体は短尺燃料棒(長さ約50cm)を多層同心円状に配列し(初期は28本、後に37本)、その両端をエンド・サポート・プレートに溶接した簡単な構造である。燃料棒は天然ウラン酸化物ペレットを薄肉のジルカロイ−4被覆管に封入したものである。
 天然ウランが使用できること、燃料集合体を収納した圧力管が横置きであること、原子炉運転中に燃料交換ができることなどが特徴としてあげられる。また、原子炉の設備を変えることなく、0.9〜1.3%程度の微濃縮ウランまたはウラン・プルトニウム混合酸化物燃料(MOX燃料)を燃やすことができる。
(b)SGHWR(蒸気発生重水炉)
 英国ではAGRの新型炉を目指して、黒鉛の代りに重水を減速材とし、沸騰軽水冷却型の発電炉の開発に取組んだ。設計的にはほぼCANDUと同じであるが、圧力管が縦置きであるところが異なる。原型炉ウィンフリス(100MWe)は、1967−1990年にかけて稼動したが、1976年、英国の原子力発電計画の変更によりSGHWR商用炉の開発は中止となった。次の項で述べる、高速炉によるプルトニウム利用までの中間的役割を担う原子炉として、日本が開発した新型転換炉原型炉は、同じ構想のものである。
(c)新型転換炉原型炉「ふげん」(重水減速沸騰軽水冷却圧力管型原子炉)
  図5に「ふげん」の燃料集合体を示す。28本の燃料要素より構成された3層同心円状クラスタ状の燃料集合体(内層4本、中間層8本、外層16本)であり、全長約4.4m(燃料有効長3.7m)の一体型燃料である。微濃縮(1.9%)酸化ウランまたは混合酸化物燃料を使用していることが特徴であり、MOX燃料の場合、天然ウランまたは回収ウランに0.8〜1.4%の核分裂性プルトニウムを富化したものを使用する。なお、「ふげん」は、1978年5月に初臨界、約25年運転後2003年3月運転を終了した。この間の1995年には経済性の理由から実証炉建設は中止となり、「ふげん」は2008年に廃止措置段階へ移行した。
1.1.3 黒鉛減速ガス冷却炉の燃料
(a)AGR
 英国が開発した黒鉛減速炉に、炭酸ガス冷却型炉(GCR)と改良ガス冷却型炉(AGR)がある。前者の使用限界(低い燃料温度、低い出力密度)を克服するために、後者では、金属ウランの代りに二酸化ウランを、マグノックスの代りにステンレス鋼を用いている。今でも両者ともに商業運転中のものが多いが、徐々にその数が減っている。GCRの燃料については、つぎの2.金属燃料の章で述べる。
(b)HTGR(高温ガス冷却型原子炉)
 高温ガス炉は、燃料が黒鉛減速材中に分散しすべて耐熱物質で炉心が構成されているので運転温度を高くとれること、及び不活性ガスを原子炉冷却材に使用している点で、ほかのガス冷却炉とは異なる。この炉型では、多重コ−ティングした被覆燃料粒子の中に核分裂生成物(FP)を閉じ込めることができ、固有安全性が高いといわれている。
 軽水炉の燃料集合体に相当する燃料体は、六角柱の黒鉛体に燃料棒を装入したブロック型と、被覆燃料粒子を黒鉛で包み込んで直径6cmの球状燃料体としたペブル・ベッド型の2つのタイプがあるが、英国、ドイツ、米国で建設・運転したがいずれも現在運転終了している。 図6に1998年11月に初臨界、2001年12月に定格運転に達したHTTRの燃料体を示す。
1.1.4 液体金属冷却型高速増殖炉の燃料
 高速増殖炉燃料仕様及び使用条件を軽水炉燃料の代表例と比較して表2に示す。 図7に高速増殖原型炉「もんじゅ」の燃料集合体を示す。二酸化ウラン・プルトニウムペレットを装填した細径燃料棒が六角格子状に配列され、燃料集合体を構成する。プルトニウム富化度の異なる2種類の炉心燃料集合体198体(内側108体、外側90体)が六角形状に配置、その外側を囲むようにブランケット燃料集合体172体が配置される。

2.金属燃料(ウラン金属及び合金燃料)
 ウラン密度が高いので、黒鉛または重水の減速材との組み合せによって高中性子束を必要とする研究炉、材料試験炉及びプルトニウム生産用やRI生産用の原子炉の燃料に最適である。しかし、金属は、熱伝導率は良いとはいえ、融点(1032℃)が低く、かつ665℃で相変態するため、出力密度を高くできない。被覆材に成形加工のしやすいアルミニウム合金を用い、薄い板状燃料に仕上げ、熱伝達性能をあげ、この短所を補っている。
2.1 発電炉用燃料
(a)GCR(炭酸ガス冷却型原子炉)
 わが国が、最初に英国から輸入した発電炉コールダーホ−ル改良型炉(東海発電所)にウラン金属燃料が採用されている。この炉のウラン燃料は、 図8に示すようにマグノックス(Mg合金)のヒレ付きの被覆管の中に外径40mmの中空の金属ウラン丸棒を入れたものである。被覆管の軸方向のヒレ板が、炭酸ガスの流れを案内する働きをする。なお、東海発電所は、1965年5月に初臨界、31年余りの運転後1998年3月に運転を停止し、2001年末から廃止措置段階に入っている。
2.2 研究炉用燃料
(a)軽水減速冷却型原子炉(JRR-3M、JMTR)
 研究炉では、発電炉の燃料集合体に相当するものを燃料要素と呼んでいる。燃料要素は、1体あたり燃料板15枚から20枚で構成される。燃料板は、燃料心材をアルミニウム被覆でサンドウィッチにし、圧延加工したものであり、燃料の熱伝達を良くするため、板の厚さは約1.27〜1.52mmと極めて薄い。燃料心材には、寸法安定性、耐食性、組織安定性及び加工性を考慮して、U-Al、UAlx(ウラン・アルミナイド)、U3Si2(ウラン・シリサイド)、U308などが用いられる。アルミニウムは、熱伝導度、展延性に優れていること及び中性子吸収断面積の小さいことから燃料心材の素地及び被覆材に用いられている。
 燃料心材としては、かつては高濃縮度(濃縮度20%以上;45%、93%など)のウラン・アルミニウム合金が主流であったが、米国の低濃縮化政策の強い要請により、米国、欧州にある一部の高性能研究炉を除いて、濃縮度20%のウランアルミナイド−アルミニウムまたはウランシリサイド−アルミニウム分散型燃料に切り替えられた。
 燃料要素の形状には、長方型、円環型、インボリュート型(渦巻状)などがあるが、JRR-3M及びJMTRには、平板長方型の分散型板状燃料要素(MTR型)が使用されている。
(b)TRIGA炉(NSRRなど)
 GA社(米)が1950年代に開発した教育訓練、研究、RI生産用の原子炉である。この炉は、燃料温度が上昇すると負のフィードバック効果が働き、炉は自己停止し暴走しないような設計となっている。燃料に水素化ウラン・ジルコニウム合金が用いられ、この水素元素が燃料温度の上昇とともに中性子核分裂反応を抑えるという仕組みである。
 ウラン濃縮度20%の水素化U-Zr合金の中空の燃料棒を3本連結し、被覆材には薄肉のアルミニウムまたはステンレス鋼を用い、上下に黒鉛反射体を組み合せて燃料要素を構成する。
(前回更新:1998年3月)
<図/表>
表1 原子炉型式と使用されるウラン燃料
表1  原子炉型式と使用されるウラン燃料
表2 高速増殖炉燃料と軽水炉燃料の比較
表2  高速増殖炉燃料と軽水炉燃料の比較
図1 BWRとPWRの燃料集合体
図1  BWRとPWRの燃料集合体
図2 RBMK−1000の燃料集合体
図2  RBMK−1000の燃料集合体
図3 VVER(ロシア型加圧水型炉)の燃料集合体
図3  VVER(ロシア型加圧水型炉)の燃料集合体
図4 CANDU(重水減速圧力管型炉)の燃料集合体
図4  CANDU(重水減速圧力管型炉)の燃料集合体
図5 新型転換炉原型炉「ふげん」の燃料集合体
図5  新型転換炉原型炉「ふげん」の燃料集合体
図6 HTTR(黒鉛減速ヘリウムガス冷却型炉)の燃料体
図6  HTTR(黒鉛減速ヘリウムガス冷却型炉)の燃料体
図7 高速増殖炉原型炉「もんじゅ」の燃料集合体
図7  高速増殖炉原型炉「もんじゅ」の燃料集合体
図8 GCR(炭酸ガス冷却型炉)の燃料体の構造
図8  GCR(炭酸ガス冷却型炉)の燃料体の構造

<関連タイトル>
黒鉛減速沸騰軽水圧力管型原子炉(RBMK) (02-01-01-04)
カナダ型重水炉(CANDU炉) (02-01-01-05)
原子力発電技術の開発経緯(BWR) (02-03-01-01)
原子力発電技術の開発経緯(PWR) (02-04-01-01)
試験研究炉用ウラン燃料 (04-06-01-04)
発電炉用ウラン燃料 (04-06-01-05)
高速増殖炉燃料の実例(原型炉「もんじゅ」用燃料) (04-09-02-05)
重水炉(新型転換炉)燃料の実例(原型炉「ふげん」用燃料) (04-09-02-06)

<参考文献>
(1)動力炉・核燃料事業団:パンフレット「核燃料サイクルと動燃」、p.9(1994年12月)
(2)Fuel Designs(PWR, BWR, VVER, VCNEA, RBMK and PNC), Nucl. Eng. Inter., Vol.40, No.494, p.26-36(1995)
(3)IAEA:Directory of Nuclear Power Reactors, Vol.4, 7, 9, 10 (1962)
(4)動力炉・核燃料事業団:動燃技報、No.59、p.19(1986)
(5)日本原子力研究所高温工学試験研究炉開発部:高温工学試験研究の現状−1996年、p.12(1996年10月)
(6)動力炉・核燃料事業団:高速増殖炉「もんじゅ」設計・建設、試運転の軌跡(1994年4月)
(7)鈴木庸文:原子炉燃料開発の歩み、核燃料工学−現状と展望−、日本原子力学会(1993年11月)、p.17-20
(8)安部勝洋ほか:軽水炉燃料の照射実績と研究開発の現状、核燃料工学−現状と展望−、日本原子力学会(1993年11月)、p.95-194
(9)福田幸朔:高温ガス燃料の研究開発状況、核燃料工学−現状と展望−日本原子力学会(1993年11月)、p.257-284
(10)桜井文雄ほか:研究炉燃料の研究開発状況、核燃料工学−現状と展望−日本原子力学会(1993年11月)、p.285-304
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