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<概要>
 イオン交換法は、化学法あるいは化学交換法とも言われる。6価ウラン、4価ウランが共存する水溶液中では、4価ウラン中のウラン235の比率が6価ウラン中のウラン235の比率よりも僅かに大きくなる。従って、酸化剤を満たしたイオン交換塔に、6価・4価ウランを含む溶液を注入してウランを酸化させながら吸着層を形成し、これに還元剤を注入してウラン吸着層を移動させると、ウラン吸着層で酸化還元が繰り返され、吸着層後端部ではウランが濃縮され、前端部ではウランが劣化する。
<更新年月>
1998年05月   (本データは原則として更新対象外とします。)

<本文>
 イオン交換法は化学法または化学交換法とも言われ、ガス拡散法、遠心法に次いで、レーザー法と共に実用化が期待されるウラン濃縮法の1 つである。ガス拡散法、遠心法が同位体の分子運動の差を利用するのに対し、現在実用的に着目されるイオン交換法は、同位体の電子受容ポテンシャルの差、すなわち酸化( 還元) されやすさの差を利用する方法である。また、本法は、湿式のため臨界安全上高濃縮ウランをつくれず、核拡散防止に適合するという特徴もある。
 ウランは3、4、5、6の四つの原子価に相当する化学形態がある。大きい原子価状態ほど酸化が進んだ状態で、原子に電子が1個結合すると原子価は1つ減少する。つまり還元されたことになる。逆に電子1個を分離すると原子価は1つ増加する、つまり酸化されたことになる。4価および6価のウラン化合物は水溶液中でも安定度が高い。水溶液中で、普通6価のウランはウラニルイオン、4価のウランはウラナスイオンの形となっている。一方天然ウランにはウラン235とウラン238の2つの同位体があり、4価、6価のウランイオンを共存させた水溶液中では、ウラン238、ウラン235のウラニルイオンとウラン238、ウラン235のウラナスイオンの4種のイオンが存在することになる。これらのイオンの間で電子のやりとりが行われており、それぞれが一定の割合で存在する平衡状態に達する。
 ウラナスイオン( ウラン235 )+ウラニルイオン( ウラン238 )=ウラナスイオン( ウラン238 )+ウラニルイオン( ウラン235 )
 ウラン235はウラン238よりも少し酸化されやすいため、酸化状態の進んでいる6価のウラン中のウラン235の比率は、そうでない4価のウラン中のウラン235の比率よりも僅かに大きい( 上記反応式の平衡定数は約1.001)。従って、イオン交換樹脂や有機溶媒などで6価のウランを分離しては残りの溶液を酸化する操作を繰り返すと、溶液中のウラン235の比率は段々小さくなる、すなわちウランが劣化されていく、また、分離した6価のウランを還元して4価のウランを水溶液中に戻す操作を繰り返せば、残部のウラン235の比率は段々大きくなる、すなわちウランが濃縮されいく( 図1 参照 )。
 旭化成(株)で開発されたイオン交換法はウラニルイオンのみを吸着するイオン交換樹脂を利用して、上記の操作を多数回繰り返して、ウランを濃縮する方法である。イオン交換樹脂塔に酸化剤液を満たしておき、これにウラニルイオンとウラナスイオンが共存するウラン溶液を流し込むと塔内の酸化剤によりウラナスイオン(4価)はウラニルイオン(6価)に酸化されながら樹脂に吸着され、塔内にウランの吸着帯が形成される。適当な長さの吸着帯が形成された後に還元剤液を流し込むと吸着帯のウランは後端から還元されてウラナスイオン(4価)となって樹脂から離脱し下方に流れ、酸化剤に接触して再び酸化されまた樹脂に吸着される。吸着帯後端で還元離脱、前端で酸化吸着が繰り返されてウラン吸着帯は長さを変えずに下方へ移動し行き、還元側の吸着帯後端にウラン235が濃縮される。酸化側の吸着帯前端のウランは劣化される。
 所要の濃縮度になったら吸着帯の前端、後端部をそれぞれテールとプロダクトとして抜き出す。4本のイオン交換塔を使用して常に前方に酸化剤、次いでウラン濃縮帯が在るように酸化剤、ウランを補給して、後方から還元剤を流し込んで循環を繰り返す( 図2 参照) 。
 1988年3%濃縮ウランを2カ月間で17kg回収する実験運転に成功している。イオン交換樹脂を改良してイオン交換速度を大幅に高めたこと、酸化剤、還元剤の経済的な再生( 自己賦活法 )に成功したことによる。
 フランスでも同様なプロセス、CHEMEX法が開発されている。
<図/表>
図1 イオン交換法濃縮原理
図1  イオン交換法濃縮原理
図2 イオン交換法によるプロセス概念図
図2  イオン交換法によるプロセス概念図

<参考文献>
(1)旭化成ウラン濃縮研究所:化学法ウラン濃縮技術
(2)ウラン濃縮、原子力工業、第34巻、P.63
(3)火力原子力発電技術協会(編):原子燃料サイクルと廃棄物処理、火力原子力発電技術協会(昭和61年)
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